ゆうしゃのしかく 主の資格
2014/6/29更新です
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第一章 ねがうゆめ と かなうゆめ
ここはレルイット。緑豊かな丘の上にある小さな村。
春になると花が咲き乱れ、村人はその花で家を飾り、今は春の祭りに向けて準備を進めている。
そんなのどかな村の中にエレクの家があった。
エレクの家は先祖代々続く鍛冶屋の家系で、父親は時々国王から剣の注文を受けるくらい名の売れた鍛冶師だ。
エレクは最近やっと父親に剣を鍛える許可を受け、父親の手伝いだけではなく自分の銘の入った剣をいくつか打つようになっていた。
その中でも出来の良い一振りを今日は店に並べてもいいと許されたので、朝から遠足に行く前の子供の用にそわそわとしていた。
「それじゃあ、いってきます。」
といって扉を開けると両親が
「いってらっしゃい」
といつものように優しく声をかけてくれる。
すぐあとに
「期待しないで待っているからな」
と父親が皮肉交じりに付け加えた。
その言葉に多少ムッとして振り返ると両親が優しい顔で手を振っていたので、その顔を見たら怒りも忘れ、手を振って再び歩き始めた。
途中何人かの人と挨拶を交わしたが、そのときのエレクの表情はさぞ緩んでいただろう。
剣を売っている大きな街はエレクの住んでいる村から
一時間程歩いた場所にあった。
その道のりは重たい剣を背負って歩くには少々骨が折れたが、今日に限っては足取りも軽く、空も普段より青く澄んで見えた。
エレクは歩きながら昔のことを思い出していた。
小さい頃は勇者にあこがれ、剣を持ち出しては剣術の真似事をし、泥だらけになって家に帰るたびにひどく叱られた。
そんな日々を過ごしていたが、エレクが13、4歳になるころには、心も体も成長し、自分には勇者になれるような才能は無い事がわかり、せめてその才能のある人の為に剣を打つ事ができればいいと考えるようになっていた。
その想いを両親に伝えたとき、父親は涙ぐみながら何も言わずに無骨な手で頭をやさしくなでてくれた。
もっとも、本人は
「泣いてなんかない!」
と言い張っていたが、その様子を見て母親と二人でお腹をかかえて笑った。
そんな事を思い出しながら歩いていると、あっというまに街の中にある自分の店に到着した。
ここは、ノーブルの城下町。
規模はそれほど大きくないが、人の出入りの激しい活気のある町だ。
到着するなり、エレクは商品を並べ、ひときわ「良い場所」に自分の打った剣をおいて、
客を呼び込み始めた。
程なくして、一人の体格の良い男が商品を見に来た。
「いらっしゃいませ。こちら昨日打ちあがったばかりの剣ですよ。」
と、早速エレクは自分の物を紹介した。
男は剣を手に取りう~ん・・・とうなると、剣を置き
「あの奥のヤツを見せてくれ」
といった。
エレクが肩を落としていると、
「だめなのかい?」
と聞かれ、ハッっと我に返って
「そんなことはないです。どうぞご覧ください」
剣を差し出した。
男は目を細めて満足げな表情を見せると
「この店はやはり良い物を置いてあるな。ではこれを一振り頂こう」
と、剣を買いゆっくりと去っていった。
エレクは
「そんなにすぐに売れるわけないか・・・」
と呟くと、気を取り直して客を再び呼び込み始めた。
それから数時間がたち、陽もすっかり傾いてまわりの商店が店を片付け始めた。
結局一日かけて、数本売れはしたがエレクの打った剣は売れずじまいだった。
「昼に来た人は買ってくれそうだったんだけどなあ」
と空を見上げたとき、今日の成果を笑う父親の顔が浮かんだので、エレクは悔しい顔をしながらさっさと店を片付けた。
帰り道は、荷物が減って軽くなっているはずなのに、朝よりも足が重い感じがした。
あと少しで村が見える所まできたころ、陽はすっかり落ちて辺りは真っ暗になっていた。
「今日は遅くなってしまったな。早く帰って母さんの手料理を食べよう」
と、今日の食事を思い浮かべながら早足で歩き始めた。
しばらく歩くと、エレクは違和感を感じた。
普段この時間であれば、この位置からだと村は目を凝らしても見えづらいはずなのに、今日はやけに明るい。
エレクは嫌な予感がして、走り始めた。
だんだん村に近づくにつれて、その明かりが火だということがはっきりわかると重い荷物を背負っている事も忘れて全力で家に向かって走っていった。
村に入ると、目の端に見知っている人が倒れていたり、見たことの無い獣がよこたわっていたのが映ったが、足をとめずに家の前まで走った。
エレクの家は既に火に包まれていた。
「父さんっ!母さんっ!」
と叫ぶと同時に家は大きな音とともに潰れてしまった。
エレクがしばらく呆然としていると、どこからか金属音が聞こえてきた。
考えのまとまらない頭で反射的にそちらの方向に顔を向けると、2つの影が激しく動いていた。どうやら、人が『獣』と戦っているようだ。エレクは何が起きているのかわからない恐怖よりも生き残っている人がいるという事実に突き動かされ自然とそちらにかけだしていった。
少しはなれたところで恐怖心が湧き上がり、足が止まってしまった。次の瞬間2つの影が交差し、大きな咆哮と共に獣が倒れた。
おそるおそるエレクが近寄っていくと肩で息をしながらむこうから声をかけてきた。
「あんたは生き残ったんだね・・・おや?あんたは・・・」
話しかけてきたのはもはや返り血で元の色が判らなくなっている鎧を身にまとった女剣士だった。しかし、エレクには女剣士の知り合いもいなく、村人の知り合いでもなさそうだったので、反応に困っていると、
「まぁ、折角助かった命だ。せいぜい長生きしな。」
とその女剣士はクルリと背を向け歩き出した。
「なん・・・っと・・・早・・・くれなかったんだ」
エレクは唇を震わせながらいった。
「なんかいったかい?」
女剣士はエレクの方に体をむけた。
「何でもっと早く助けてくれなかったんだ!」
主人公は口にしてからしまったと思ったが、感情が昂ぶってもう止めることができなかった。
「あんたみたいに強い人ならこんなに犠牲が出る前に何とかできたはずだろ!そうすれば父さんや母さんだって助かったはずだったんだ!」
女剣士は大きくため息をつくと
「酷い言い様だね。確かに私がもう少し早くここに着いていればその可能性もあったかもしれないが、そこまで言われる筋合いはないよ。」
といいながら再び背をむけた。そして、
「あぁ、そうそう。今の状況に同情はするけど、私はあんたみたいに自分の不幸を他人のせいにするやつが大嫌いなんだよ。」
と言い残すと歩き去ってしまった。
「父さん・・・母さん・・・」
エレクはそう呟くとそのまま倒れこんでしまった。
どのくらい眠っていたんだろうか。
目が覚めるとあたりはうっすらと明るくなっていた。
エレクは体を起こし、生き残りがいないかどうか村の中を歩き始めた。
村の広場に来ると、昨日まではなかったお墓が何基もたっていた。
「これは・・・」
エレクが立ち尽くしていると
「ああ、やっと起きたのか。」
と聞き覚えのある声がした。声のするほうを見ると、昨日戦っていた女剣士だった。
「今やっと終わったところだよ。あのままにしておくわけにもいかないだろう。それに無防備な奴を放って行くほど冷たい人間じゃないしね。」
と、一方的に話した。
エレクは昨日の事を思い出すと、
「ありがとう。それと、ごめんなさい」
と深々と頭を下げながら言った。
「まあ、いいさ。昨日はあんなことがあったんだ。頭に血が上ってもおかしくないさ。それに私も少し言い過ぎたしね。お互い様だよ。」
と、体の埃をおとしながらいった。
「あんたはこれからどうするんだい?村がこの状態じゃここにそのまま暮らすってわけにも行かないだろう」
エレクは間を置いて、
「まだあまり考えられないけど、とりあえず街に行ってみようと思っています。」
と答えた。
「じゃあ、私も一緒に行こう。」
と、女剣士はマントを羽織ながら準備をした。
エレクはあわてて
「ちょっと待ってください。準備をしてきます」
と言い残して家の方に走り出した。
エレクは自分の家まで戻ると、置きっぱなしにしていた荷物を拾い上げると小さな声で
「それじゃあ、いってきます」
といって広場にむかって走り出した。
答えてくれる声が無いことがとても悲しかった。
エレクが広場に戻ると、女剣士は待ちくたびれたかのように立ち上がり、伸びをすると、
「さあ、行こうか」
といって歩き出した。
歩きながらエレクはふと思い出した。
「そういえば、昨日僕のことを知っているような口ぶりでしたが。」
女剣士は大きくため息をついて、
「あんた、やっぱり覚えてないのかい。こんなに美しい女性を覚えてないなんて見る目がないねえ。昨日の昼間に店に行っただろう。」
と大げさな身振りで話した。
エレクはしばらく考えると、
「あっ、僕の打った剣を買ってくれそうだった人だ。・・・男の人かと思った。」
言った直後に女剣士の拳が顔面に飛んできて、ゴンッという子気味良い音がした。
「まったく・・・、剣を見る目はあるみたいだけど人を見る目はまだまだみたいだねえ。そういえば、自己紹介がまだだったね。私の名前はレイア。レイア=ミクルっていうんだ。今度こそ忘れるんじゃないよエレク君。
今度は軽く頭をぽんぽんと叩かれた。
「レイアさんですね。忘れませんよ。痛かったし・・・。って、あれ僕名前教えましたっけ。」
エレクが不思議そうにしていると、
「まぁ、ちょうど街についたしその辺の話はご飯でも食べながらにしようじゃないか。もちろんあんたのおごりでね。」
レイアはずんずんと歩いていってしまった。
二人は一軒の酒場に入った。そこはなかなか賑わっているようで、空席はほとんどなかった。
レイアは席に着くと同時にどんどんと料理を注文していった。
エレクがあっけにとられて入り口でたっていると、早く座れとばかりにレイアが手招きしていた。
席に座り、一息つくと
「レイアさんそういえば・・・」
エレクが話しだそうとしたとき、
「はい、おまちどうさん。うちのオススメの料理だよ。今日もたくさん食べてきなよ。」
エレクの言葉を遮るように山のような料理が運ばれてきた。
レイアと店員は顔見知りのようで、二言三言話すと店員はカウンターの方へ戻っていった。
エレクは気を取り直して再び話しかけた。
「レイアさん、僕の名前を知っているようですが、それとなぜあの時村にいたんですか。」
それだけ聞くと、
「まぁそんなに慌てなくても。そうそう、このスープはこの店で特にオススメなんだ。」
と、いいながらスープを取り分け、食べ始めた。
確かにおなかが減っていることもあり、おいしそうな香りに負けてエレクも諦めたように食事を取り始めた。
「さっきの質問だけど・・・」
いくつかの皿を空にした時レイアが話し始めた。
「エレクのおやじさんとは、この剣を買ったときに知り合ってね。その時にたまたまエレクの話がでて、名前を知ったわけさ。」
レイアは剣を机の上に置いた。
確かにこの造りと銘はエレクの父親のものだった。
レイアは続けた。
「で、今回新しい剣を買うか、この剣を打ち直してもらおうとこの街にきたらおやじさんがいなかったから、ついでに村まで足を伸ばそうと思ったわけさ。」
ここで、レイアはコップに注がれた酒を2,3口飲んだ。
「村に着いたときには・・・エレクのしった通りさ。何とかしようとは思ったんだけど・・・」
そこまで話すと、レイアは申し訳なさそうに肩をおとした。
「そんな、僕もあの時は感情的になってレイアさんには酷い事をいってしまって。」
エレクも頭を下げてあやまった。
「それはもう気にしなくていいよ。それと、私の事は呼び捨てにしてもらってかまわない。話しづらいだろうし、こっちはとっくに呼び捨てだしね。」
ここまで話したところで、レイアは残った酒を飲み干した。
エレクも一口飲んだところでひとつ気になったことをきいた。
「レイアは・・・いくつなの。」
言い終わったところでレイアが
「それをレディに向かって聞くのかい」
と、いいながらこれみよがしに拳を作って見せたので、エレクはブンブンと首をふって
「なんでもないです」
というのが精一杯だった。
それからしばらくして、食事を終えた二人はレイアが泊まっているという宿へ向かった。
宿に向かう途中、エレクは
「レイアは明日からどうするの」
と聞くと
「私は、具体的にはきまってないが、準備が出来次第この街を出ていくよ。とある奴に返さないといけない借りがあるしね。」
そういいながら、険しい顔を見せると腰に携えている剣の柄を握り締めた。
「そういうエレクはどうするんだい。」
エレクは聞かれたとき正直とまどってしまった。具体的には何も決めていなかったのだ。
少し考えて、
「できれば・・・、レイアに着いて行くというのはだめかな。僕もこの借りは返したいんだ。」
そう話すと、
レイアは真剣な眼差しでエレクを真っ直ぐ見据え、
「言うほど簡単なことじゃないんだ。命を落とすことだってありえる。それにエレクには父親から受け継いだ鍛冶屋としての才能もある。
それを投げ出してもいいという覚悟はあるのかい。」
エレクは真っ直ぐにレイアをみると、力強く
「はい」
とだけこたえた。
「そう。でも条件がある。まずはその大荷物を売ってお金に換えること。そんなに荷物を持っていたら簡単に移動もできないし、旅にはお金が必要だ。」
とレイアが笑顔でいったので、
それを聞いてエレクは黙ってうなずいた。
「それと、もうひとつ・・・昨日見せてもらった剣を譲ってくれ。」
その言葉を聞いてエレクは驚いて、言った。
「この剣は僕が始めて打ったやつで・・・」
その言葉をさえぎるように
「言っただろう。エレクには才能がある。安心しなって。こう見えても私は見る目があるんだ。エレク君とは違ってね。」
といいながらレイアはおどけてみせた。
そこまで話したところでちょうど宿の前まで到着した。
「じゃぁ、明日はまずその荷物をうらないとね。私も手伝うし、秘策もあるから」
と、レイアはニヤリと笑った。
エレクはその表情に不安を覚えながら部屋を取り、レイアと分かれて
部屋に入った。
部屋の中は多少古くはあるが、掃除が行き届いているようで、一晩眠るには申し分ない所だった。
エレクは荷物を部屋の隅に置き、ベッドにもぐりこむと、疲れていたのかすぐに眠ってしまった。
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第一幕 目覚め
エレクたちのいる街からは遠く離れた地にある洞窟。
その奥には巨大な空洞があり、大きな城が建っていた。
その城内に人大きな叫び声が響いた。
「オウル様ー。オウル様ー。主が生まれました。どこにおられるのですか。」
鎧を着た兵士が汗だくになりながら走り回っている。
「騒がしいな。そんなに大声出さずとも聞こえておるわ。」
柱の影からゆっくりと一人の老人が姿を現した。
見た目は60~70歳くらいであろうか。顔には深いシワが刻まれ、立派な白いひげを生やした老人が現れた。
老人とはいっても人間とは決定的に違うモノがあった。背中には大きく立派な翼が生えていたのである。
オウルの姿を確認すると、兵士は聞こえているならすぐに姿を現してくれればいいのにという言葉をギリギリで飲み込み、要件を切り出した。
「主がお産まれになりました。しかし・・・」
兵士が言いあぐねていると、オウルは次の言葉を待たずに主の部屋へ向かって歩き始めた。
部屋の前に到着すると、中から悲鳴と何かが壊れるような音が聞こえてきた。
しかしオウルはその音をまったく気にしない様子で重々しい扉をあけた。
部屋の中は太い柱が何本も立っており、奥には大きく豪奢な玉座が構えていた。
部屋の中央には華奢な少年と、それを取り囲む幾人もの兵士、それとバラバラになってしまった『元』兵士がいた。
周りを囲んでいた兵士の内の一人が少年を抑えようと近づいたが、少年がまるで空中にいる虫でも払うかのような動きをするとその兵士の首から上がなくなり、今まで頭の乗っていた部分から勢いよく血が噴出した。
その様子を見ていたオウルは
「やれやれ、こんな老人をまだ働かせるのか」
とつぶやくと、
「皆、下がれ」
と、低く威厳のある声で命令をした。
そして、ゆっくり少年に向かって歩き始めたかと思うと、まるで瞬間移動でもしたかのように一気に間合いを詰め、少年の両手首をつかみ語りかけた。
「主よ、落ち着いてくだされ。我等は貴方様の僕であり、決して仇なすものではございません」
主と呼ばれた少年は抑えられている手を振り払い澄んだよく通る声で
「では何故私の動きを制限しようとする。」
と少々苛立ったように話すとオウルを睨み付けた。
するとオウルはその眼差しにもひるまずに、
「こちらの手違いが御座いまして申し訳ありません。この部屋は汚れてしまいましたのでこちらへお越し頂けますか。」
と、別の部屋へ主を案内した。
主を案内した部屋には大きなテーブルがあり、その上には様々な料理が所狭しとならんでいた。
「空腹では苛立ちも増すばかりでしょう。こちらをお召し上がりください。」
とオウルはいうと、主を促した。
主は、確かに空腹だった様で、促されるままに机に備え付けてあった椅子に座り、食事を取り始めた。
20分ほどであろうか。一通り食べ終わると、王は椅子にもたれかかるように眠ってしまった。
兵士がおろおろとオウルの顔をみるので、オウルはしかたなく主を抱き上げ、食事をしていた部屋を出ると、長い廊下を歩いていき、とある一室へと主を連れて行った。
そこには飾り立てられたベッドがあり、そこに主を寝かせると部屋をあとにした。
廊下を歩いているとき、後ろについて歩いていた兵士はオウルの手をみてギョッとした。手首の少し上のあたりがふつうではありえない方向へまがっていたのだ。
兵士は思わず声を上げてしまった。
それに気づいたオウルは、自分の手を目の前に出すと、
「ああ、これか。さっき振り払われたときにちょっとな。お生まれになられたばかりだというのにやはり主の力はすばらしいな。」
そういってまるで子供を見ている親のような笑顔を見せると兵士をおいて、ツカツカと歩いていってしまった。
第二章 たび の じゅんび
エレクはカーテンの隙間から漏れる陽の光に起こされた。
何事もない一日であれば申し分のない朝なのだが、村のことがあった為かベッドに腰をかけた状態で
座ったまま、なかなか動けずにいた。
しばらくすると、部屋のドアがドンドンと叩かれる音がした。
エレクは気分が浮かなかったのですぐには返事をできずにいたが、すぐに扉は勢いよくあけられた。
驚いて顔をあげるとそこにはレイアが清々しい顔でたっていた。
「なんだ。まだ何も準備できていないじゃないか。さっさと朝ごはんを食べてでかけるよ。」
それだけ言い残すとレイアはバタンとドアをしめてすぐに部屋をでていった。
あまりの勢いだった為、エレクはしばらくぼーっとしてしまったが、あまりレイアを長く待たせると拳が
飛んでくるようなき気がしたので急いで準備を始めた。
宿屋で朝食を終えると二人は宿の主にお礼を述べ、そこを後にした。
レイアが前を歩き、エレクがその後を追うような形で歩いていたが、まだ肝心の目的地がエレクにはわからなかった。
宿を出たときにレイアに今日はまずどこに向かうのかと聞いたところ、
「まぁ、いいからついてきな。」
と言われてしまったので後ろに着いていくしかなかったのだった。
しばらく歩くと正面にこのノーブル国の主が住む場所・・・つまりノーブル城が目にはいった。
外壁は真っ白でそれほど大きくないながらもしっかりと手入れが行渡ってるのがよくわかる。
そんな城にエルクがみとれていると、レイアが
「エレクはちょっとここで待っていてくれ。」
といって、エレクの持ってきた武器のはいった袋を持つと城門の前に迷いもなく歩いていってしまった。
国の祭りなどで城が公開されている以外では普段一般人は入ることは出来ないので、エレクはひやひやしながらレイアの背中を見ていたが、レイアは城門の前にいる兵士と二言三言会話をしたかと思うと、すぐに中に入っていってしまった。
エレクは驚きながらもどうすることも出来なかったので、近くの木陰に腰掛けてレイアの帰りを待つことにした。
30分くらい時間がたっただろうか。レイアが城から出てきて、兵士の肩をポンポンと叩くとこちらに向かって歩いてきた。
その様子を見ていたエレクは、
「知り合いなの?城内は普段入れないはずだけど。」
と聞くと、レイアはニッと笑い
「まぁ、ちょっとね。なんだ、やきもちでも妬いているのかい。それよりも、ホラ」
というと、ジャラジャラと音の鳴る袋を投げた。
エレクがそれをあわてて受け取るとずっしりとした重量を感じたのであわてて中身を確認した。
「なっ!?こんなにたくさん。まさかお城のひとを脅し・・・」
言い切る前に、ゴンッという音が聞こえると目の前を星がとんでいた。
「エレクは私を何だと思っているだ。ちゃんと売って来たに決まっているだろう」
と、ため息まじりにレイアが答える。
エレクはまだ頭がクラクラしていたが、
「冗談なのに。結構本数があったし、良く全部売れたね。どんな手を使ったの」
と聞くと、
「昨日秘策があるって言っただろう。まぁ、いいものは売れるって事さ。それだけのお金があればしばらくは
困ることはないだろう。必要なものを買ってすぐに出発しよう。」
というと、町の外に向かってあるいていってしまった。
肝心な売った方法についてははぐらかされてしまったと思ったが、エレクはそれ以上聞くことはやめて、あとをついていくことにした。
第二幕 知識
「ここは・・・どこだろう」
少年は柔らかなベッドから身を起こすとまずそのようなことを考えた。
いくら考えても何故ここにいるのかも、自分が何者なのかすらわからない。
大きくため息をつくと、自分のいる部屋の扉が開く音がした。
そちらに目を移すと、一人の老人が恭しく頭を下げ、
「お目覚めになられましたか。主よ。」
と言うとこちらに歩み寄ってきた。
少年は一瞬迷ったが、どうやら『主』とは自分の事だろうと理解すると単純な疑問が頭に浮かんだので、尋ねてみることにした。
「貴方は誰ですか。そして、僕は一体なんなのですか。」
老人はベッドのすぐ近くまでくると、口を開いた。
「これは申し遅れました。私の名はオウルと申し、貴方様のしもべでございます。そして、貴方様は我らが主です。」
この返答で、この老人がどうやらオウルという名前ということだけはわかったが、肝心の自分の事が
ほとんど明らかにされなかったので、次の言葉に困っていると
「色々と混乱されていらっしゃると思うので、話は部屋を移してから説明いたします。まずは着替えていただき、準備ができましたら、いらっしゃってください。案内は兵士の者にさせますので。」
オウルはそういうと、頭を下げて部屋を後にした。
少年」はこれ以上自分で考えても答えが出そうにないので言われたとおりに着替えを済ますと扉の前に控えていた兵士に案内されて部屋を移動した。
一目見ただけでガチガチに緊張をした兵士に案内された部屋には、大理石でできた机と柔らかそうなソファーが置いてあり、机の上には赤い色の液体の入ったコップがおいてあった。
オウルに促されてそのソファーに腰をかけると、オウルは話し始めた。
「まずは、我等と主の関係について簡単に説明をさせていただきます。我々は先代の主のお力により生まれ、命をかけてその命に従う者でございます。」
オウルは軽く咳払いをし、続けた。
「先代が亡くなられ、我々は主を失いましたがこの度、貴方様がお生まれになられたので、命令を頂ければそれがどんなものでも従います。ここまではよろしいですか。」
と、オウルに聞かれ、少年は頷いた。
「結構。では、喉が渇いていると思いますのでそちらをお飲みください。」
と、オウルに机の上にある飲み物を勧められた。
少年は何故このタイミングで飲むのを進められるのかと訝しく思ったが、言われたとおり喉も渇いていたので赤い液体の注がれた白いカップに口を近づけた。
すると鼻腔を甘い香りが充満し、一口だけ飲むつもりだったのに、自然とカップに注がれていた物をすべて飲み干してしまった。
その様子をみて、満足したオウルは説明を続けた。
「では、次に我々の種族がどのように命をつないでいくか。それは今飲んで頂いたものに関係致します。」
そう言われて、少年は先程飲み干したカップをジッとみつめた。
「この世界には我々以外にもいくつかの種族が暮らしていますが、その中のニンゲンとよばれる者がおります。ソレを摂食することにより我々は繁栄することが出来るのです。」
それを聞いた所で、少年はカップに注がれていた物の正体と、ソレが何故あれ程おいしかったのかを妙に納得してしまった。
オウルは説明を続ける。
「強い種族を残す為に重要なことが御座います。ひとつは、摂食する者自体が強い事。これに関しては主様に置かれましては考える必要はないと思われますがひとつの情報として覚えておいてください。
もうひとつ重要な事ですが、摂食する際に注意点がひとつだけ御座います。それはニンゲンが絶命するその時に出来るだけ強い『感情』を抱かせることです。その感情が強ければ強い程次代の種族は逞しく育ってゆきます。」
ここまで説明を終わると、この部屋に入ってきた時とは別の扉へと少年を促した。
オウルが扉を開けるとそこにはいくつかの卵状の物が並んでいて、少し透けているその中には何かが動いているようにみえた。
少年がその様子を見たのを確認したオウルは、
「もうお察しいただけていると思いますが、この中には主の直系の部下が宿っております。しばらくしたら、力のあるものが生まれ、主の手足となり働いてくれる事でしょう。」
オウルは扉を閉めると、
「今日の説明はこの辺にしておきましょう。何かあればなんなりとお呼びください」
そういい残してオウルは立ち去ってしまった。
少年はその様子を見送った後、城の中を確認する為オウル同様この部屋をあとにした。
第三章 しょくじ と たたかい
エレクとレイアは森の中を歩いていた。
城を後にして数時間、城の北にあるという街に向かって進み、その途中にある森を進むことになっていた。
少々あるきづらいものの、程よく陽の光が差し込んでくるため、順調に歩を進めていた。
「そろそろ一度休憩しよう。」
レイアは川の近くで腰を下ろすのにちょうどいい岩を見つけると、そこに腰を下ろした。
それを見たエレクはきょろきょろとあたりを見回し、こちらも座るのにはちょうど良い岩をみつけ、そこに腰掛けようとした。
しかし、
「何してるんだい?」
とレイアが言ったので、エレクは中腰でとまってしまった。
「なにをしてるって、座ろうと思っただけだけど」
エレクがそう言うと、レイアは大仰に首を振って、
「休憩するのに食料が必要だろう。エレクまですわってどうするんだい。」
と言い放った。
それを聞いたエレクは
「レイアは座ってるけど」
と反論したが、
「食料を調達するのは男の子の役目だろう。もしかしてレディにそんな野蛮なことをさせる気かい」
とレイアが笑顔で言い返した。
目が笑っていないその笑顔を見て、エレクは休憩するのをあきらめて、獲物を探しにいくことにした。
後ろから
「いってらっしゃーい」
という声が聞こえたので振り返るとレイアが大きくてを振っているのが見えた。それを見たエレクは大きくため息をつくと肩を落として獲物探しにでかけた。
エレクは歩いているときに子供のころの事をおもいだしていた。
『あの頃はよく父さんと狩りにでかけていたな。獲物を捕まえて家に帰ると母さんが料理して・・・』
そんなことを思い出しているとき、奥からガサガサという音がしたので、慌てて身を低くしそちらを伺った。
そこには大きな鹿が歩いていた。
それを見たエレクは
『あの大きさならレイアの胃も満たされるだろう』
と、慎重にその距離を詰めていった。
出来るだけ足音を立てないように気をつけ、残り10メートル程の距離に近づいたとき、奥の草むらから鹿と同じくらいの大きさの黒い影が飛び出してきた。
それは鹿の首筋に噛み付くと、あっという間に仕留めてしまった。
その黒い影が何なのかわかったとき、エレクは手のひらにじっとりと汗をかき、鼓動が早くなった。
ソレは村を襲っていた『獣』だった。
エレクは思わず叫びながら剣を構えて草むらから飛び出してしまった。
エレクには実戦経験はなく、やっていたことといえば子供のころに剣を振っていたという事と、父親について狩りをしていたぐらいだった。
その為に、勢いで獣の前に出て剣を構えるまでは良かったがそこから動くことができなくなってしまった。
その様子を見て、獣は牙を剥き腹に響くような低いうなり声をあげながらジリジリと間合いをつめてくる。
『このままではやられる』
エレクはそう考え、一気に獣との間合いを詰めて剣を振り下ろした。
すると意外にもエレクがイメージした通りに剣先は相手の頭に一直線にめがけていった。
『これなら相手を倒せる』
とエレクが気を抜いた瞬間、
「キンッ」
という音と同時に手に握られていたはずの剣は宙を舞っていた。
獣はその強靭な前足で剣を弾き飛ばしたのだった。
エレクは剣を弾き飛ばされたときの衝撃で腕が痺れ、身体は恐怖につつまれていた。
震えながらもゆっくりと後ずさりをし、少し間をあけてから振り返っていっきに逃げ出した。
「うわあああああ」
気がついた時にはエレク自身信じられないような情けない声をあげていた。
しかし今はそんな事はどうでもよかった。どうにかしてここから逃げなければならない。
走りながら後ろを振り返ると獣は間合いを詰めるでも離れるでもなくぴったりと後をつけてくる。
おそらく獲物が走りつかれるのを待っているのだろう。
「クソッ」
エレクは2,3分程走り続け、悪態をつくほどには冷静にはなれたが、足はそろそろ限界に近づいていた。
ただ、足の疲れが限界にくるよりも速く終わりがやってきた。
エレクは木の根に躓いて前のめりに転んでしまったのである。
その瞬間を獣が見逃してくれるはずもなく、背中側に両手足を押さえつけられる形で乗られてしまった。
エレクの首筋に生暖かいものが流れる。
ソレはとても生臭くドロリとしていた。獣は狩りの邪魔をされたもののやっとありついた粋のいい「獲物」を
何処から齧ってやろうかとじっくりと見定めているようだった。
『やめろ・・・ヤメロ・・・ヤメろ・・・やめてくれ』
エレクは必死に祈りながらも半分はすでに諦めていた。
獣はいよいよ噛み砕く場所を決め、口を大きく開いた。
それを背中で感じながらエレクが完全に諦め体の力を抜いた瞬間
「ギャンッ」
という声と共に身体が軽くなった。
その後すぐに、
「また随分と情けない顔をしてるねぇ。どうしたんだい」
という声が聞こえた。
そこには肩で息をするレイアの姿があった。
「私は食料を調達して来いといったのであって、食料になってこいとは言ってないよ」
と、レイアが獣からは目を離さずに、おどけた様子でいったがそれに言い返す元気はエレクには今はなかった。
「さて、うちの貴重な労働力を随分といためつけてくれたようだね。」
レイアは軽口を叩くものの、表情は真剣に真っ直ぐに獣に対して剣を構えていた。
エレクが獣の方に目をやると、刃渡り20センチほどの小刀が脇腹に刺さっている。
獣は傷をつけられているものの、それ以上に2度にもわたり食事を邪魔されたことに腹を立てているようで、
横腹に突き刺さった小刀を口でくわえて抜くと、その小刀を首を振る勢いでレイアに向かって投げ飛ばした。
レイアは飛ばされた刀を自分の持つ剣で弾くと、また真っ直ぐに獣に向かって身構えた。
獣はジワジワとレイアとの距離をつめて歩いてきている。
それの姿をしっかりと捉えながら
「エレク、剣の使い方を良く見ておきな」
とレイアは力強く言った。
獣が10メートルほどの距離に近づいたとき、レイアの頭よりも高く飛び上がり一気に襲い掛かった。
「レイアッ」
とエレクが叫んだのとほぼ同時にレイアは獣に向かって走り出し飛び上がった獣の腹の下に入ると一気に剣を振り上げた。
獣は声をあげることもなくきられ、上半身と下半身がバラバラとレイアの背中側に落ちた。
ふぅっ・・・と一息吐くとレイアは
「わたしってばやっぱりつよーい」
と身体をクネクネとしながらうっとりした表情でいっている。
それを見ていたらエレクは身体から今まで支配していた恐怖が抜けていくのを感じた。
「ありがとう」
エレクがレイアにいうと、レイアは
「いいってことよ」
といいながら、エレクの頭をクシャクシャとなでた。
「さぁ、早く向こうの鹿を運んで頂戴。ご飯にしよう」
と今の戦闘がなかったかのようにさっさと歩いていってしまった。
「強くならないと」
エレクはそうつぶやくとレイアの後ろを小走りで追いかけていった。




