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永訣の時

作者: 過去形

よくある設定です。初めての投稿です。拙い文章ですが、読んでいただけると嬉しいです。

「兄さん」

「なんだ」

「兄さん。私は貴方を、殺さなければならない-----------」


-------永訣の時-------


満月よりは欠けた月が昇る空の下。

二人の青年が対峙している。若い方は黒いコートを纏い、もう一人に銃口を向けていた。

銃口を向けられているのにもかかわらず、白シャツの青年は親しげに声をかけた。

「偉いぞ。ちゃんと『私』と言えているじゃないか、エルゼ」

その言葉を無視して若者は淡々と続ける。

「兄さん・・・いや、ヴィクトール=バイツェン。貴方は総統暗殺未遂の国家的犯罪者だ」

「そのようだな」

未遂で終わらすつもりなど無かったんだがな、とヴィクトールは呟いた。顔には苦笑を浮かべている。

「どうして----なんで否定しない!?」

今まで淡々と感情を出さないようにしていたエルゼが堪え切れないかのように叫んだ。そんな弟の叫びにもヴィクトールは動じない。

「否定してほしいのか?エルゼ?」

少し笑って、ただいつものように軽口をたたくように告げた。

「俺は、犯罪者、なんだろう?否定したって無意味だ。・・・俺は、嫌になったんだよ。軍の狗としての人生にな」

「・・・・・」

エルゼは俯いて黙り込んだ。

「おいおい。いつまで構えたまま突っ立ってるんだよ?お前は犯罪者に対してそう振舞えとでも教えられたのか?」

俺が上官ならそんな部下は捨ててしまうが、と軽く続ける。その態度は、国家警察に追われた犯罪者の姿とは到底思えない。

「・・・ヴィクトール=バイツェン。国家警察のエルゼラント=バイツェンだ。お前の罪は死罪に値する。おとなしく投降するか、此処で・・・っな」

エルゼが言い終わらぬ内に、ヴィクトールが動いた。

エルゼは咄嗟に引き金を引いた。しかし、どうせ当たらぬ事は分かっている。

打った銃弾はヴィクトールの遥か後方に着弾した。その一瞬後、ヴィクトールはエルゼの鼻の先に顔を近づけて、にやりと笑った。エルゼは動くことができなかった。

「お前、まだまだ甘ちゃんだよな。俺を捕まえるだなんて自惚れるなよ?」

そしてエルゼの頬を親しみを込めてするりと撫でた。幼いころのように。

「今回は兄弟のよしみで何もしない。が、次は手加減しないからな」

せいぜい鍛錬しておけよ、と。これが捨て台詞だった。

瞬きする間に、ヴィクトールは姿を消した。


「・・・・・はぁ・・・」

ヴィクトールを見逃したあと、エルゼは深いため息をついた。

元から無理だとは分かっていた。何せ相手は『超能力者』である。いくらエルゼ自身も『能力者』とはいえ、能力の差は歴然としている。しかも、実の兄を、だ。人情だって勿論ある。

しかし、そこは組織に属する人間の哀しい定め。上層部からの命令は絶対だ。

今回の失敗についても報告しなくてはならないだろう。それを思うと今から気が重い。

「どうでした?上手く・・・いかなかったようですね」

後から幼さの残るソプラノが聞こえた。今回の、というより、これからの任務の相棒だ。マーガレット=スタンシア、17歳。エルゼより6つ年下だ。去年から国家警察で働いている。情報捜査(操作)が専門で、エルゼと同様、『能力者』でもある。今回は『場』の維持にまわっていた。攻撃系の能力にはエルゼは秀でているが、守備系統は得意ではない。その点、マーガレットはかなりの精度で『場』を構築し、また長時間維持できる。上層部が決めた相棒だが、エルゼは気に入っていた。

「兄は・・・ヴィクトールは、かなりの強敵だよ。マーガレット、嫌なら下りても良いよ」

本当はそんなこと思っていない。彼女の力は必要だった。しかし、将来ある彼女に不毛な任務でその能力を無駄にしてほしくなかった。

「何ふざけた事を抜かしているのですか?!先輩、私のこと邪魔に思っていないくせに!かっこつけないでください!先輩なんか、お兄さんにボコボコにされれば良いんです!」

「いや、そこまで言わなくても」

彼女は時々無礼なのか分からない言葉遣いをする。

「言います!先輩、何にも分かってらっしゃらない。私は!キャリアを気にするような馬鹿共とは違うんです!」

マーガレットははっきりと言い切った。その眼は真っ直ぐエルゼを貫いていた。

「そっか。ごめん。・・・・改めて、よろしく。マーガレット」

「宜しくお願いします!」

エルゼとマーガレットは拳を軽くぶつけた。


マーガレットと帰る朝靄の中、考えた。


いつか、兄の血で、この手を染める日が来るのだろうか、と。


その時、自分は、ちゃんと自分で居られるだろうか、と。  


これは続く話なの、か…?

読んでくださりありがとうございました。

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