fifth/identity
ヒノエは慣れた手つきで銃をホルスターに仕舞い、紫影を拾い上げた。
刀身にべっとりとついた血に顔をしかめる。
「ヒノエさん!大丈夫ですか?」
駆け寄ってきた香織と葉月に、ヒノエは頷いてみせる。
「ええ、大丈夫です」
「腕の一本でも折ってもらえば良かったのに」
「治療費請求しますよ。もの凄く水増しして」
「銃刀法違反でしょっぴくぞ。罪状は山程有るんだからな」
睨み合う二人に、香織は遠慮がちに声をかけた。
「あのぅ……あれは一体……?」
「あれは化け物ですよ」
ヒノエは葉月から目を逸らし、香織を見つめた。
「『闇より出る、人を喰らう闇』……そう呼ばれている化け物です。具体的に何なのかは全く解っていない。それは人間が生まれる前からここに有り、人間の誕生と共に闇へと追いやられた。だから彼らは人を喰うんです。己の領地を取り戻す為に」
「けれど、そんな事聞いた事――」
「『狩る者』が居るんです。『闇』を凌駕する力を持つ人々が」
「じゃあ、ヒノエさんも?」
「ええ。だから、あんなのの『三匹』位、何でもないんですよ」
地に転がっている『二つ』の死体を一瞥して、ヒノエはにっこりと笑う。
ゆっくりと紫影を持ち上げて香織に向け、ヒノエは言った。
「僕をあまりナメない方が良い。罠にはめて、何が目的です?」
香織は一瞬戸惑いの表情を見せたが、すぐにそれは顔から剥がれ落ち、代わりに笑った。
「それを知る必要は無い。あなたは此処で死ぬのだから」
再び、暗闇に赤い穴が開く。
数えきれない程の。
「これだけの数を相手にして……生き残れるかしら?」
挑発する様な香織の言葉を、ヒノエは鼻で笑った。
「生き残るさ。それが僕の罪だから」
「殺セ」
迫り来る、赤い瞳の中。
ヒノエは微笑んだまま、紫影を空に掲げた。
青白い月光が、刄を煌めかせ――
ヒノエは呟く。
オシマイの言葉を。
「"SHADOW OF VIOLET"発動」




