学校のウザい後輩が義理の叔母になってしまった!?
「蒼翔せーんぱいっ! おはよーございやーっす!」
「ああ、おはよ、岸本」
とある朝。
いつも通り俺が一人で登校していると、後ろから物凄い速さで、文芸部の後輩である岸本が駆けて来た。
「今日も元気だな、岸本は」
「えへへ! 毎日牛乳見てますからね!」
「見てるだけで元気になれるの? コスパいいなお前の身体」
「FOOOOOO!!! 今日も蒼翔先輩のツッコミはキレッキレですねぇ! FOOO、FOOO!!!」
「……お前のウザさも相変わらず天元突破してるよ」
「いやぁん! そんなに褒められたら、興奮して鼻が伸びちゃううう!!!」
「ピノキオの鼻が伸びるのは噓をついた時だよ。何だよそのエロ同人みたいな設定のピノキオは。カルロ・コッローディに謝れ」
「ヒュウ! ピノキオの作者の名前が咄嗟に出てくるあたり、流石は文芸部の部長ですねえ!」
「お前に褒められても嬉しくはねーよ。それに、岸本もピノキオの作者がカルロ・コッローディだって知ってたじゃないか」
「そりゃ、私は文芸部の裏部長ですからね!」
「そんな裏番長みたいな制度は文芸部にはない。……あれ?」
ふと岸本の頭を見ると、いつも付けているヘアピンのデザインが、微妙に変わっていた。
「岸本、ヘアピン変えたか?」
「え!? よ、よくわかりましたね!? デザインほとんど同じなのに!」
「いや、わかるだろ。いつも見てんだから」
「~~~~!!!」
「?」
途端、岸本の顔が真っ赤になった。
んんん???
「――もう! そういうところですよ、蒼翔先輩ッ!」
「は?」
岸本に脇腹をポスポスとパンチされる(全然痛くはないが)。
何なんだよコイツは。
いつもながらよくわからんな。
……それにしても、昨日まで岸本が付けていたヘアピンは、去年ご病気で亡くなられたお母さんに買ってもらった大事な形見だったはず。
岸本がこの春入学してきて間もない頃、そのヘアピンを学校の裏庭で無くしてしまい、たまたまその場にいた俺が一緒にヘアピンを探したというのが、岸本が文芸部に入部するキッカケだったからよく覚えている。
そのヘアピンを変えたということは、岸本の心情に何か変化があったということなのだろうか……。
「えへへ、このヘアピンは、自分で買ったんです」
「……!」
俺の疑問を察したのか、岸本がヘアピンを触りながらそう言った。
「もうそろそろ、私も過去を振り返ってばかりじゃダメだなって思って。きっとお母さんも、それは望んでないでしょうし。だから、ケジメをつけるためにも、ヘアピンを新調したってわけです! もちろんお母さんに買ってもらったあのヘアピンは、大事に仕舞ってありますよ」
「そっか」
やっぱ強いな、岸本は。
俺にも男手一つで俺を育ててくれた父さんがいるが、仮に父さんが今死んでしまったら、俺だったら何年も引きずってしまうかもしれない。
「そのヘアピンも、よく似合ってるよ」
「~~~~!!!」
「?」
またしても岸本の顔が真っ赤になった。
「もう! もう! もう!」
また岸本に脇腹をポスポスとパンチされる(例によって痛くはないが)。
何なんだよ、いったい……。
「あっ、そうだ! 先輩、昨日の『にぶちん!』の最新話、読んでくれました?」
「ああ、読んだよ」
『にぶちん!』は文芸部の活動の一環として、岸本が投稿しているWEB小説のタイトルだ。
平凡な女子高生の主人公、華音が、校内一のイケメンである秋斗という先輩に片想いしているという設定の、王道のラブコメである。
華音の性格が岸本を彷彿とさせてとにかく元気で、秋斗にあの手この手でアプローチをかけるも、タイトルの通り『にぶちん!』の秋斗はまったく華音の気持ちに気付かないという構図が面白く、実際ブックマークもそこそこ多い。
「どうでした!? どうでした!?」
「うん、今回も面白かったよ。まさか華音の口癖の『ニャッポリート』という謎ワードが、秋斗と出会うキッカケになった、思い出のワードだったとはな。見事な伏線回収だったよ」
「えへへへへ―!! 鼻が伸びちゃう伸びちゃう~!!」
「……でもな」
「え?」
一応文芸部の部長として、指摘もしておかないとな。
「流石にそろそろ秋斗が『にぶちん!』だっていう設定に、無理が出てきてないか? あれだけ露骨に華音が好き好きアピールしてるんだから、普通気付くだろ」
「……いえ、そんなことはありません」
「っ!?」
途端、岸本から怒りのオーラが溢れてきた。
あれ??
俺、何かしたか??
「ああいう『にぶちん!』な男は、リアルにもいるんですッ!! 現に私の友達が片想いしてる先輩も、友達がこれでもかとアピールしてても、ぜーんぜん気持ちに気付いてくれなくて、友達は毎日ヤキモキしてるんですよッ!?」
「あ、そうなの?」
そっかぁ。
マジでいるのか、そんなバカな男……。
そりゃ、その友達も気の毒だな。
「だから先輩も、女の子の気持ちには、もっと敏感になってあげてくださいね!? 本ばかり読んでるだけではダメですよ、まったく!」
「お前は俺のお母さんかよ」
「あっ! 予鈴鳴ってる! 急ぎましょう、蒼翔先輩!」
「お、おう」
大股で駆けて行く岸本。
俺もその後を追う。
――こんな平凡な毎日がこれからも続くと、この時の俺は思っていた。
「……蒼翔、大事な話があるんだ」
「?」
その日の夜。
父さんと二人で夕飯を食べていると、おもむろに父さんが口を開いた。
大事な……話?
「何、話って?」
「うん。――父さんな、再婚しようと思うんだ」
「――!!」
再……婚……。
……そうか、遂にこの時がきたか。
思えば父さんは俺がまだ子どもの頃に離婚して以来、男手一つでずっと俺を育ててくれたもんな。
最近は休日になるとめかしこんで出掛けることも多かったし、そういう相手がいるんじゃないかという気はしていたが。
「――そっか。よかったじゃん。おめでとう、父さん」
「うん、ありがとう、蒼翔」
「お相手はどんな人なの?」
俺の義理のお母さんになる人なんだから、どんな人かはある程度事前に訊いておきたい。
「ああ、それがな……、実は俺の会社の部下なんだよ。はは……」
「へえ」
まあでも、バツイチの子持ち男が女性と出会う場なんて、会社くらいしかないか。
「お相手の年齢は?」
「うん…………25歳だ」
「……」
オイオイオイ。
39歳のバツイチ子持ち男が、25歳の若い女性と再婚とか、どこのエロ漫画だよ……。
まさか自分の実の父が、いつの間にかエロ漫画主人公になってしまっていたことに、いささかショックを受けているぞ俺は。
い、いや、あまりこんなことを考えるのはよくない。
本人たちにとっては、純愛かもしれないじゃないか。
周りがあれこれ邪推するのは、失礼ってもんだ。
「そ、そうなんだ。うん、よくわかったよ」
「ああ、それでな、もう一つ大事な話があるんだが」
「え?」
これ以上まだ、爆弾が残ってるの!?
流石にそろそろキャパオーバーなんで、一旦休憩がほしいんですけど!?
「相手の女性のお母さんは、随分前に離婚されて母子家庭だったんだが、そのお母さんも、去年ご病気で亡くなられたそうで。今は、女子高生の妹さんと二人暮らしなんだ」
「――!」
え……、てことは――。
「だから、結婚したら、その妹さんとも同居することになる。お前にとっては、叔母さんになるな」
「へ、へえ」
つまり、同じ高校生なのに、叔母と甥の関係になる……ってコト!?
えぇ……。
親の再婚で義理の妹と同居することになるってのはラノベじゃ定番だけど、義理の叔母との同居ってのはあまり聞いたことないよな……。
事実は小説より奇なりとは、よく言ったもんだ。
……ん?
待てよ。
去年お母さんが亡くなられた、だと……!?
それに、確か岸本のお姉さんは、父さんと同じ職場で働いてるって言ってたよな……!?
「ちなみにその妹さんは、蒼翔もよく知ってる子だぞ」
「――!」
ま、まさか――!!
「そ、そのお相手さんの名前は、何ていうの?」
「――うん、岸本天音さんというんだ」
「――!!」
……マジかよ。
「やっほー! 蒼翔せーんぱいっ! いやあ、本日はお日柄もよく、絶好の顔合わせ日和ですね!」
「どこがだよ。土砂降りの雨じゃねえか」
そして訪れた、両家顔合わせの日。
本当にこの場に現れた岸本を見て、これが俺の叔母になるのかと思うと、正直ちょっとだけげんなりした。
しかも年下の叔母とはな。
仗助に会った時の承太郎って、こんな気持ちだったのかな?
「うふふ、二人は本当に仲が良いのね。――蒼翔君、私が岸本天音です。どうかこれからよろしくね」
「あ、こちらこそ、よろしくお願いします……」
天音さんは岸本と顔こそ似ているものの、雰囲気はまさに真逆で、実に落ち着いた大人の女性だった。
姉妹なのに、ここまで違うとはな……。
その落ち着きを、1割でいいから、岸本にも分けてあげてくれませんかね?
それにしても、天音さんは女優になれるくらいの美人だし、胸もグラビアアイドル並みに大きく、こう言っては何だが、容姿も完全にエロ漫画のヒロインにしか見えない……。
こんな美人が、何故父さんみたいな平凡なオッサンに惚れたのか、永遠の謎だぜ……。
「えへへ! 蒼翔先輩のことは、今後は蒼翔くんて呼びますね! なんてったって、私は蒼翔くんの叔母ですからね! 私のことも、花倫叔母ちゃんて呼んでくれていいですよ!」
「……!」
マジかよ……。
まあでも、確かに岸本と呼ぶのは、他人行儀すぎるか……?
天音さんの名字は俺たちと同じく佐藤になる。
岸本だけ四人の中で名字が異なるから、疎外感を抱いちゃうかもしれないし……。
とはいえなぁ、流石に花倫叔母ちゃんと呼ぶのはなぁ。
「……当面は、花倫って呼ぶことにするよ。それでいいだろ、花倫?」
「~~~~!!!」
「?」
途端、花倫の顔が真っ赤になった。
んんん???
「どうした? お前が下の名前で呼べって言ったんだろ?」
「そ、そうですけど! きゅ、急に呼ぶからビックリしたじゃないですか、もう!」
花倫に脇腹をポスポスとパンチされる(例によって全然痛くはないが)。
相変わらずよくわからんな、こいつは。
「うふふ、花倫から聞いていた通りの性格なのねぇ、蒼翔君。お父さんにそっくりだわ」
「あはは、我が息子ながら、面目ない」
「え?」
どういうことですか、天音さん?
それに、父さんみたいなニブいオッサンとそっくりと言われるのは、若干心外なのですが……?
……ううむ、本当に俺は、この人たちと上手くやっていけるのだろうか。
「じゃあ、いってきます」
「いってきまーす!」
「いってらっしゃい」
「気を付けてね、二人とも」
が、幸いにも俺の懸念は杞憂だったようで、父さんと天音さんが結婚し、四人で同居するようになって数日が経ったが、今のところ特にこれといったトラブルは起きていなかった(俺が気付いていないだけの可能性はあるが)。
「ああ父さん、前も言ったけど、今日4時から三者面談あるから、よろしくね」
「ああ、会社は午後休取ってあるから大丈夫だ。学校に着いたら連絡するよ」
「了解」
三者面談かぁ。
正直気が重いなぁ。
……進路のこととか、訊かれるんだろうし。
「蒼翔くん、どうかしたんですか? 悩みがあるなら、この花倫叔母さんが聞いてあげますよ?」
「……!」
花倫と二人で登校していると、不意に花倫がそんなことを言ってきた。
「俺、悩みがあるように見えたか?」
「ええ、いつもの蒼翔くんは何を考えてるのかわからない、カオナシみたいな顔してますけど、今日はさっきからずっとモロみたいな顔してますから」
「カオナシのあれは、顔じゃなくて仮面だぞ」
「……もしかして、三者面談のことですか?」
「――!」
こいつ……。
「ぬふふ! どうやら図星ですね!」
「……よくわかったな」
「ええ! それはもう! ――何せ私は、蒼翔くんの叔母ですから!」
「……」
叔母さんのドヤ顔がウザい。
「……へーへー、理解のある叔母さんを持って、俺は幸せ者ですよ」
「えへへ! 大丈夫ですよ蒼翔くん! もしも三者面談の途中で不安になったら、少年の心で助けを呼んでくれれば、私が回転ジェットで飛んで行きますから!」
「お前ってガメラだったの?」
まあ、でも、お陰で少し気は楽になったかな。
「ありがとな、花倫叔母ちゃん」
「~~~~!!!」
途端、花倫叔母ちゃんの顔が真っ赤になった。
んんん???
「どうした? お前が花倫叔母ちゃんって呼んでくれって言ってたんじゃないか」
「そ、そうですけど! そうですけど~!! もう! もうッ!」
例によって脇腹をポスポスパンチされる。
何なんだよ、まったく……。
「……遅いな、父さん」
だが、あと少しで三者面談の時間である、4時になろうかという段になっても、一向に父さんから連絡がないので、いい加減ソワソワしてきた。
何かあったのか……?
「――!」
その時だった。
俺のスマホが震えたので画面を見ると、父さんからの電話だった。
ああよかった。
やっと着いたのか。
「もしもし」
『ああ、蒼翔、大変申し訳ないんだが、人身事故で、電車が止まってしまってな』
「あ、そうなの」
そりゃ災難だね。
父さんは昔から、運が悪いからなぁ。
「まだ復旧には、時間掛かりそうな感じ?」
『うん、こりゃ多分、暫くは無理っぽいな』
「そっか。ならしょうがないよ。先生には俺から言っとくよ」
『いや、せっかく先生に時間を作っていただいたのに申し訳ないから――代打を立てておいたよ』
「……は?」
代打?
……でも、天音さんはまだ仕事中だろうし、あと俺の保護者で、残ってるのは――。
「ハッハー! 私が来たッ!!」
「――!?」
オールマイトみたいなポーズをキメながら、俺の叔母さんが颯爽と現れた。
……えぇ。
「え、ええと、君は?」
俺と一緒に教室に入って来た花倫を見て、担任の先生が困惑の色を浮かべた。
さもありなん。
「はい! 私は蒼翔くんの叔母の、岸本花倫です! 蒼翔くんのお父さんは電車遅延で来れなくなってしまいましたので、私が代打で参りました!」
「ああ、君がそうなのか」
俺に同じ学校の生徒の叔母が出来たことは先生も知っていたので、得心が行ったようだ。
「では、叔母さんも、どうぞこちらにお掛けください」
「はい! 失礼いたします!」
瞬時に切り替えて、花倫を叔母として扱う先生。
スゲェ。
いくら先生が教師人生が長くとも、三者面談の場に同じ学校の生徒の叔母が現れたのは初めてだろうに、この落ち着き。
俺が先生の立場だったら、今頃「あ……ありのまま、今起こった事を話すぜ!」と言って困惑していたことだろう。
「えーと、ではまずは佐藤の進路について話していこうと思うのですが」
……早速キタか。
――よし。
「それなんですが、先生」
「ん? 何だ、佐藤?」
「――俺、進学はせず、就職しようと思ってます」
「……! そうなのか」
これは父さんから再婚するという話を聞いた時から、考えていたことだ。
このまま俺が大学に行ったら、向こう数年間、まだまだ俺は父さんと天音さんの世話になる。
まあ、父さんにとっては、俺は実の息子なのだからまだいいが、天音さんからしたら、正直邪魔な存在だろう。
天音さんはそんな空気はおくびにも出さないが、心の中でどう思ってるかはわからないからな。
だからこそ、俺は一日でも早く自立して、あの家を出て行くんだ――。
「――それはダメですよ、蒼翔くん」
「……!」
その時だった。
俺の叔母さんが、真っ直ぐな目で俺を見つめながら、そう言った。
花倫……!?
「私は、蒼翔くんにやりたいことがあって就職を望んでいるなら、全力で応援しますよ。――でも、今の蒼翔くんは、お姉ちゃんに迷惑を掛けたくないという理由で、就職を選ぼうとしてますよね?」
「っ!?」
まるで俺の心を読んだみたいに、ズバリ言い当てられたので、思わず動揺した。
「い、いや、そんなことは……」
「でもそれじゃ、以前言っていたことと矛盾してるじゃないですか。私たちがこの学校で出会ったあの日、蒼翔くん言ってましたよね。高校を卒業したら文系の大学に入って、文学を一から学び直したい、って。それくらい文学が大好きだ、って。……そんな蒼翔くんに憧れたから、私も文芸部に入ったんですよ?」
「――!!」
こいつ……。
よくそんなことまで覚えてたな……。
「ご安心ください。こんなこともあろうかと、事前にお姉ちゃんと蒼翔くんのお父さんには意向を確認してありますから」
えっ……!?
「――二人とも、自分たちのことは気にせず、進学の道を選んでほしいとのことでした。叔母である私も、二人に同感です。だから蒼翔くんは、どうか好きな道を進んでください」
「……花倫」
……まったく。
随分なお節介だな、俺の叔母さんは――。
「……答えは出たかな、佐藤?」
「――はい、先生。やっぱり俺、進学したいと思います」
「ふふ、そうか。じゃあ、具体的な進学先の話もしようか」
「はい」
「あ! 私はなるべく家から近い大学がいいと思います!」
「「――!?」」
なんで叔母さんがそこまで口出しするんだよ……。
ハハ、ホントウザい叔母さんだな――。
「……今日はありがとな、花倫」
三者面談が終わり校舎から出たところで、一応花倫にお礼は言っておく。
「んふふ―! いえいえ、いいんですよいいんですよ! なんてったって、私は蒼翔くんの叔母ですからッ!」
「……」
叔母さんのドヤ顔が、あまりにもウザい。
「あ、あれ!?」
「ん? どうした花倫?」
「私、スマホ教室に置いてきちゃったみたいです。取って来るんで、蒼翔くんは先帰ってていいですよ」
「いや、ここで待ってるよ。どうせ同じ家に帰るんだし」
「……! えへへ! じゃあ、地球を16時間で1周する速さで取って来ますね!」
「お前ってカイリューだったの?」
花倫はそれこそ、ギャグ漫画だったら足が渦巻きになってるくらいの速さで、校舎の中に戻って行った。
やれやれ、ホント元気だな、あいつ。
「あれぇ? 佐藤じゃぁん」
「……!」
その時だった。
俺のクラスメイトの、ダウナーギャルの小泉さんから声を掛けられた。
今日も両耳に、拷問でもされてんのかよってくらい、バチボコにピアスを付けている。
それに、インナーカラーと言うのだったか?
ショートカットの黒髪なのに、髪の内側だけ青く染めてるので、まるで漫画のキャラみたいだ。
パンクバンドでベースとか弾いてそう(偏見)。
「何してんの、ここでぇ?」
ううむ、何と答えたもんかな。
俺が花倫と親戚になって、同居してることはまだ小泉さんは知らないから、正直に言うと、ややこしいことになりそうだよなぁ……。
「いや、ええと……」
かといって、噓をつくのもなぁ……。
「フフ、まあいいやぁ。暇ならさぁ、今からあーしと遊び行かない?」
「え?」
俺が小泉さんと……二人で?
「……実はさぁ、前から佐藤のこと、ちょっと興味あったんだよねぇ」
「……!?」
おもむろに小泉さんは俺と手を組んできて、その豊満な胸を俺の腕に押し当ててきた。
ヌッ!?
興味!?
それはどういう意味ですか、小泉さん!?(敬語)
「コラアアアアアアアアア!!!!」
「「っ!?」」
その時だった。
花倫がガチギレした時のガッシュの清麿みたいな顔で怒鳴りながら、ガニ股でこっちに来た。
花倫……!?
「あぁん? 何だよ、お前ぇ」
「私は蒼翔くんの――叔母です!!!」
「…………は?」
うん、まあ、そりゃそういうリアクションになりますよね。
「あの、小泉さん、こいつは俺の文芸部の後輩の、岸本花倫っていうんだけど。実は最近、俺の父親と花倫のお姉さんが再婚してさ。花倫は俺の、叔母さんになったんだよ」
「そうです! 私が蒼翔くんの叔母さんです!」
「そうです、私が変なおじさんです」みたいな言い方すんな。
「……マジで?」
「大マジ! 元気ピンピンですよ! 私と蒼翔くんは、一つ屋根の下で暮らしてるんですからね! 私がお風呂に入ろうとして、服を脱いでるところをうっかり蒼翔くんに覗かれるというイベントスチルも、既に100回以上こなしてますし!」
「名誉毀損で訴えるぞ。そんなこと、一度もないだろ」
そもそもまだ一緒に暮らし始めて数日しか経ってないんだから、100回も風呂入ってないぞ。
しずちゃん(原作準拠)もビックリのハイペースじゃないか。
「ふぅん、なるほどねぇ。でもぉ、それってただの親戚ってことでしょぉ? ただの叔母さんに、あーしと佐藤の関係をとやかく言う権利はないよねぇ?」
「「――!!」」
小泉さんは上目遣いで俺の目をじっと見つめながら、尚も俺の腕に胸をグイグイ押し当ててくる。
こ、小泉さん……!?
「ぶるああああああああ!!!! ありますあります!!! 私は蒼翔くんの叔母として、アナタのような、男に貢がせた金で脱法ハーブ買ってそうな女から、蒼翔くんを守る義務があるんですッ!」
小泉さんに対する偏見がエグいな(俺も人のことは言えないが)。
「ふぅん、じゃあさぁ、佐藤に決めてもらおうよぉ」
え?
小泉さん……?
「佐藤はどうしたいぃ? これからあーしと遊びに行くかぁ。それとも、このマーモットみたいな子を選ぶかぁ」
「誰がマーモットじゃいッ!!? 蒼翔くん、もちろん蒼翔くんは、私を選んでくれますよね!?」
「……!」
マーモット……もとい花倫が、俺に右手を差し出してくる。
う、ううん、これは、どうしたものか……。
そもそも、なんでこんなややこしい事態になってるんだ……?
俺、そんなに悪いことしたか?
「……あ、蒼翔くん」
「――!」
よく見れば、花倫の手は、少しだけ震えていた――。
――この瞬間、花倫とこの学校で出会ってからの記憶が、唐突に蘇ってきた。
いつも元気に駆けて来る花倫。
何かにつけて、小ボケを挟まずにはいられない花倫。
とにかく常にウザい花倫。
――そして、俺の叔母さんである花倫。
「……小泉さん、ゴメン、俺、花倫と帰るよ」
「「……!!」」
俺はそっと、小泉さんから離れた。
「あ、蒼翔くうううううううん!!!!」
途端、花倫は黒部ダムの放水並みに、ドバっと目から涙を噴射させた。
お前の涙腺どうなってんだ!?
「……ふぅん、ま、いっかぁ。まだまだ時間はあるしぃ」
「「え?」」
小泉さんは、ニヤリと妖しく笑った。
こ、小泉さん……!?
「じゃ、また明日クラスでねぇ、佐藤ぉ」
「あ、うん」
小泉さんはプラプラ手を振りながら、去って行った。
結局何だったんだ、あの人は……。
やっぱギャルという人種は、よくわからんな。
「蒼翔くん、あの女には、く・れ・ぐ・れ・も、気を付けてくださいねッ! じゃないと、いずれ闇バイトに誘われて、怪しい荷物を江戸から伊勢神宮まで運ばされることになりますよ!」
「なんで闇バイトが東海道中膝栗毛のルートを辿ってんだよ。――いいからもう帰るぞ」
「え? ……にゃっ!?」
花倫が差し出してた右手を俺が左手で握って歩き出すと、花倫が変な声を出した。
「何だよ、お前が手を差し出してきたんだろ?」
「そ、そうですけど! そうですけど~!! もう! もう!」
花倫に空いている左手で脇腹をポスポスパンチされる。
ふふ、相変わらず変なやつだな、こいつは。
「あっ! 蒼翔くん、今、笑いましたね!?」
「え? ……そうか?」
そうか、俺今、笑ったのか――。
「えへへ! 蒼翔くんのことを笑顔にできるのは、叔母である私だけですね!」
「いや、そんなことはないだろ。お前は叔母という立場に、いろいろ背負わせすぎだ」
まあ、とはいえ、この叔母さんとなら、退屈はしない人生を送れそうではあるな――。
拙作、『戦争から帰って来た婚約者が愛人を連れていた』がコミックグロウル様より2026年3月6日に発売された『選ばれなかった令嬢には、本命の彼が待っています!アンソロジーコミック』に収録されています。
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