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姉を、妹を、婚約破棄したこの国から亡命します

作者: 小埜我生
掲載日:2026/08/07

婚約破棄、虐待要素あります。

苦手な方はご注意ください!

サーベル王国の侯爵令嬢 カタリーナ・バスティーユは、艶やかな黒髪と深緑の瞳を携える絶世の美女であった。

その見た目に相応しい佇まいはまさに淑女の鑑で、同国の王太子の婚約者と選ばれた時も周囲は当然といった様子になるほど。


けれど彼女が学園の卒業を一年に控えた頃、とある噂が流れた。

卒業後に王太子妃になる彼女を妬んでの嘘だと最初は笑われていた。

しかしそれは徐々に広がり続けた。


『カタリーナ様は妹を虐げている』


そして卒業を祝う王城でのパーティにて事件は起きた。

王太子 オリバー・サーベル・シュトレイス殿下は、エスコートしていた婚約者のカタリーナを突き飛ばした。


突然の事にカタリーナは体勢を崩し、その場に転ぶように座り込む。

周囲も突然のその出来事に驚愕したが王族の行動という事もあって手を差し出すことも出来ず、殿下と彼女と一定の距離を開けた空間ができる。


「カタリーナ・バスティーユ!!貴様は王太子である私の婚約者の立場を笠に着て高慢に他者を威圧し、さらには妹であるレティス嬢を虐げていたのであろう!!いくら着飾ろうとその醜悪さは見逃せない!!ここにカタリーナと私の婚約破棄を宣言する」


殿下の言葉にその場はシンと静まりかえった。

王族の宣言。それは判決にも等しい覆すことのできないものだった。

正式な手続きがなくともそれは正式なものと認識される。

今回に至っては、カタリーナと殿下の婚約破棄がそれに該当する。


もちろん後ほど撤回される事象も少ないがありはした。

しかしそれは宣言した王族の名誉を著しく貶める。

だからこそ王族は簡単に宣言したりしないのだ。


「・・・殿下、本気でございますか」


普段はどんな事にも冷静に対処し、微笑みを崩さないカタリーナの表情が崩れる。

殿下は、事実を突きつけられ動揺していると思った。

――― 自分の信じた正義を殿下は貫いた。どのような結果になるとも知れずに。



「お姉様!!」


周囲の人混みをかき分けカタリーナの側に現れたのは彼女の妹であり、被害者にあたるレティス・バスティーユ。

ゆるやかなウェーブを描く金髪にカタリーナと同じ色彩の瞳。

美しいがカタリーナに比べるとどこか幼い印象を与える可愛らしい令嬢。


「...レティス」


「お怪我はありませんか!?」


その場に座ったままのカタリーナにおろおろと動揺している。


「レティス嬢は優しいな。いや、そうしないといけないほど虐げられ続けていたのか」


殿下は、心優しいレティスに胸打たれると同時に、そんな彼女をこれまで虐げたカタリーナに憤りを感じた。

彼は、まさに姫の窮地を救う騎士のような気分だった。


しかし――その姫は何故か彼を睨んでいた。


「オリバー殿下!!」


レティス嬢が彼の名を呼んだ。しかしその後に言葉は続かなかった。

響いたのはパンッと言う音と。


「お黙りなさい!!」


カタリーナの怒声だった。

頬を打たれたレティスは、固まり一粒の涙を溢す。


それを合図かのように同じく怒声を発したのは殿下だった。


「ついに本性を出したな悪女め!!心配した妹を叩くとは!!こいつを城より追い出せ!!」


近衛兵は、一瞬戸惑ったが王族の命に逆らえるはずもなくカタリーナを立たせると会場から連れ出した。

カタリーナは連れ出される間際に会場と殿下に対して完璧なカーテシ―を披露した。

まるで何かに別れを告げるように。


「レティス嬢驚かせてすまなかった。頬は大丈夫か?」


殿下は固まったままのレティスの側へと寄った。

しかし彼女は、それを意に介していないかのようにただカタリーナが出ていった扉を見つめている。


「もう大丈夫だ。カタリーナの悪行はこれから明らかにされる。だから安心し「うぅぅぅ...、えっ、えっ、、、、うわぁぁぁ」


「レ、レティス嬢!?」


レティスは、その場で泣き出した。これまでの辛かった事を思い出したのか、それとも安心したからなのか。

顔を手で隠していたがその隙間から涙と嗚咽が漏れている。

殿下は心配しつつもその場でおろおろとするだけだった。




カタリーナは王家の馬車に乗せられ家へと向かわされていた。

外は生憎の雨。

まるで自身の心の様とふぅっとため息をつく。


しかし、そう言いつつ馬車の窓に反射する彼女の表情はどちらかといえば穏やかなものだった。

楽しそうとは言えないが安堵しているような。


ふと彼女は自身の右手のひらを見つめる。

少し赤くなっている。

先程妹を叩いたからだろう。


「・・・レティス」


その声は馬車と雨音に掻き消されていく―――




家に着くと王家からの馬車に父と兄が慌てて出迎える。

今日のパーティは卒業生を祝う為のものだった為、家族はパーティの後半にくる手筈になっていた。


まぁ、両親は母の体調を理由に欠席するようだったけど。身支度を終え、兄はまもなく向かう予定だったのだろう。

予定ではまだ始まったばかりのパーティから、私が一人帰宅したことに全員が驚いていた。


「何があったんだ」


父は、私を一瞥すると一緒に来た王家の使者に問い詰めた。

仔細を聞くとみるみるうちに顔色が悪くなっていく。


「カタリーナ、ここは任せて部屋に行きなさい」


兄であるクラウドお兄様は、私に駆け寄るとそう伝えた。

表情はいつも通り無で、父と違って落ち着いているようだ。

疲れていたし、言葉に従った。


「レティスは殿下のもとに残っております」


「・・・・分かった」


「では、失礼いたします」


まだ使者にやいやいと騒ぐ父とそれを冷めた目で見る兄を置いて私は、自室へと向かう。

侍女に着替えさせてもらいドレスを脱ぎ、身体を清めた。

湯船につかり身体が徐々に温まってくる。




「婚約破棄されるなどなんという事だ」


バスティーユ家現当主であるガストンは、執務室の机を叩き、鼻息荒くそう言った。

室内には、息子のクラウドが控えている。


「・・・とにかく王城に参ります。父上達は、本日は体調不良としているのですから休んでいてください。カタリーナの事はその後で良いでしょう。それにあまり騒ぐと・・・母上が気付かれますよ」


「....ッチ。あれが気付くとさらに面倒だ。分かった、殿下と王家に我が家と娘の責は分けていただくように伝えてこい」


「・・・承知いたしました。では、失礼します」


クラウドは、ガストンに軽く会釈し部屋をあとにした。

彼は、使用人に馬車の用意と一通の手紙を送るように指示した。


もともと向かう予定だったのですぐに用意できるだろう。

彼は、呼ばれるまで窓から外を眺めていた。

常に表情を崩さない彼の胸の内は分からないが雨の降りしきる庭園を見ながら何を考えているのだろうか。



「落ち着いたかい?」


レティスのあまりの泣きように殿下は、彼女を一時的に別室に移動させた。

本来なら喜んだ彼女とともにパーティを楽しむつもりだっただけにこの事態は、彼にとって予想外にほかならない。


「・・・はい」


涙こそ止まったもののレティスの表情は、暗いままであった。

彼は彼女がこれまで虐げてきた姉から解放されたのに何故落ち込んだままなのか理解できなかった。


カタリーナがレティスを虐げていたのは間違いない。

秘密裏の告発があり、今レティスが着ているドレスはかつてカタリーナが着ていた物らしい。

お下がりなど貧しい貴族なら無いことではないがバスティーユ家は侯爵だ。

事実カタリーナはたびたびドレスを新調している。

にも関わらず妹であるレティスにはお下がり。


さらに告発はまだあり、家ではまるで召使いのように自身の身支度を手伝わせていたと。

そしてカタリーナが結婚後は、侍女として城に連れてきて自由を奪う予定であったと。


殿下は、当初まさか婚約者が妹にそんな扱いをしているなど信じられなかった。

しかし侍女長に確認してみれば、実際に妹を推薦していた。


王太子妃の侍女ともなれば高位貴族女性もいるがそのほとんどは既婚女性。

未婚の女性は、下位の者の方が多い。

それは城に勤める侍女は制約も多いため外との交流にも制限がかかる。


そのため未婚のうちに侍女になると婚期が遅れると言われ。

高位貴族であり、しかも妹をわざわざ侍女にするなど嫌がらせに違いなかった。


また告発者は、カタリーナが王太子の婚約者という肩書きで学園で横柄な態度をとっているとも伝えた。

同級生でもある殿下はそんな事実は知らないと言うが情報を集めれば彼女に叱責された者は多くいた。


そして今回のパーティでの暴力。

普段からしていなければ突然ぶつなんてできない、そう殿下は思った。


自身の行為に間違いはない。

レティスを虐げた悪女カタリーナから救うにはこうするしかなかった。

それにそんな女は、いずれ国母となるに相応しくないのだ。


なのに救ったはずの女性は、思っていた反応をしてくれない。

今は、混乱しているだけ。

そのはずなのに何故か殿下の心はざわついていた。




「クラウド・バスティーユ様が参じられました」


レティスのいる部屋から出ると近衛の一人がそう報告してきた。


「・・・案内せよ」


応接室の一つにクラウドは待たされていた。

しばしの待機を命じられ、彼は座って待っていた。


「待たせた」


「いえ、突然の登城にご対応いただきありがとうございます」


クラウドは、部屋に入ってきた殿下に立ち上がり、臣下の礼をとる。

殿下は、彼に座るように促し、自身も向かい側のソファに腰を下ろす。


「さて、貴殿の妹であるカタリーナのしでかしたことは聞いているな」


「・・・はい、王家の使者からお話は聞いております」


「では婚約破棄に文句はないだろう」


「ええ、そちらは文句はありません。この後すぐにでも婚約破棄の書類にサインいたします。体調不良の父から名代として権限はいただいておりますので」


「そうか、すぐに用意しよう」

殿下の目配せに側近の一人が部屋から出ていき件の書類を用意するのだろう。


「・・・レティスは、どうなさるおつもりでしょうか」


「お前は知っていたのか?カタリーナがレティス嬢を虐げていたのを」


「いえ、虐げていた()()など知りません。私は、学園卒業後から隣国に留学しておりましたので」


「ああ、そういえば婚約者はベルゼシア帝国の王女だったか」


「はい。ロゼッタ・ニルマイヤ第一王女殿下です」


殿下は、彼の国の王太子とは会談で数度、顔を合わせていたが彼は随分屈強な男で確か側にいた王女の姿を思い出す。

殿下は、兄の背に隠れる大人しい女性だったと記憶していた。


「・・・今回のバスティーユの醜聞は影響するのでは?」


これは、殿下の素直な心配であった。

妹を虐げたカタリーナに対する慈悲はないがクラウドが留学していたのは自身も知っていた。

帰省などの短い期間では、殿下に隠していたようにカタリーナは愚行を隠していたと考え、

クラウドがそれによって不利益を受けるのは申し訳ないと思ったのだ。


「問題ありません」


しかしクラウドは、その感情を感じさせない表情を崩すことなく問題無いと言う。

それに殿下は、どこか気味の悪さを感じたがそれ以上は追求しなかった。

本音を言えば隣国の王女との婚姻を潰したなどと言われる面倒がなければ殿下にとってはこれ以上関わる必要はないからだ。


「ならいい・・・レティス嬢だが私の婚約者にと考えている」


「本気ですか!?」


これまで冷静を崩さなかったクラウドも殿下のさすがの言葉に衝撃を隠せなかった。

それはそうだろう。今日婚約破棄したカタリーナの妹であるレティスに、婚約者を入れ替えると言っているのだから。


「本人にもまだ伝えていないが本気だ」


クラウドは何か言おうとして言葉を飲み込んだ。

しかし随分と間を空けて口を開いた。


「・・・レティスの母親はご存じですか」


「確かガストン殿の妾だったか?出自までは知らないが」


「彼女の母は平民です。それでも殿下は妹を望みますか」


最初は、レティスを侮辱するつもりかと殿下はクラウドを睨んだ。

しかしクラウドは、再び無表情に戻っていたがその視線は真剣な意思を感じられた。


「ああ、気持ちは変わらない。彼女とはカタリーナと過ごしているときに少し話しただけだが彼女は虐げられているというのにそれを少しも感じさせず心優しく慈愛に満ちていた。そんな人間こそ私には必要なんだ」


「・・・・そうですか」


実は殿下は、カタリーナの悪事を知る以前からうっすらとレティスへと好意を持っていた。

カタリーナにはない、可愛らしい雰囲気と保護欲を誘う愛らしさ。

そして当時は知らなかったが虐げられているというのに姉を慕う優しい笑みに。

もちろん自身の立場を考えれば己の欲望に添うなどあってはならない。


カタリーナは婚約者として完璧だった。

次期王妃に相応しいと評価される彼女を今更その立場から降ろすなんて出来ない。


だからその思いは、殿下自身の心の奥底にしまわれた。

けれど告発者より語られたカタリーナの悪事。


ショックや悲しいといった感情より殿下の心によぎったのは、、、喜びであった。




「・・・確かに。これでカタリーナ様と殿下の婚約破棄は成立いたしました」


側近に運ばれた書類に記入しあっさりと婚約破棄は成立した。

証人の文官が書類の不備を確認し無事不備がないことを報告した。

婚約破棄の成立に殿下は満足したような表情。

クラウドはやはり無表情。


「では、私は失礼いたします。レティスにはこちらの手紙を渡してください」


クラウドは、一通の封蝋をした手紙をテーブルに置く。


「これは?」


「レティスが殿下からの婚約を受け入れたとしてもすぐに公表するのは厳しいでしょう。また一介の令嬢を理由なく王城におくのは厳しい。我が家にはまだカタリーナがいますので私が結婚後に住む予定だった屋敷で休ませます。すでに使用人も警備も入れていたので問題は無いです。そのことについて書いてあります」


「なるほど」


クラウドの説明に殿下は納得していた。

虐げられていた家に帰す気は無かったが確かに市井のホテルに宿泊させるよりは余程安全だろう。

実際、今の状態で城におく理由を作るのは難しいため殿下も彼の提案には助かっていた。


「そういうことなら分かった。責任持って彼女に手紙は渡すし、屋敷に送らせる」


「よろしくお願いいたします」


クラウドは、殿下に一礼し部屋を後にした。

去り際やはり彼の表情は変わらないだろうかとドアを開けた使用人が好奇心からチラリと視線を走らせる。


「!!」


使用人は、声には出さなかった。

見てはいけないものを見たと思ったからだ。

無表情で有名なクラウドの不気味な笑みを――――




「待たせてすまない」


クラウドとの話し合いの後殿下は再びレティスが休む部屋へと向かった。

彼女は、落ち着いてはいるようだがその表情は引き続き暗いまま。


「いえ、ご多忙の中殿下のお手を煩わせて申し訳ありません」


彼女は、殿下に謝罪した。

貴族女性として人前で涙するなど恥ずべき事。しかも王族たる殿下に尻拭いさせるなど例え原因が殿下だとしても許されない。

だからこの謝罪は、当然のものだった。

しかしその謝罪を受けた殿下の心境は複雑なものであった。


「そんな事言わないでくれ。・・・私は好きな人を守りたかっただけなのだ」


殿下は、レティスの前に片膝をつきながら彼女の両手を包み込むように握り己の思いを告白した。

突然の告白にレティスは驚きのあまり固まってしまった。

それはそうだろう。これまでは姉の婚約者としてか関わっていないのだから。


「驚かせてすまない。返事はあとで構わない。だが私の気持ちは本物だ」


殿下は、隠してはいたが実はレティスに惹かれていたこと。

これからは自分が守ること。

だから婚約者になって欲しいことを彼女に伝えた。


しかしレティスは何も答えなかった。

ただ顔を赤くして少し震えている。

殿下は、突然の告白への嬉しさか驚きからだと考えた。


「さすがにすぐにとはいかない。兄君から手紙を受け取っている。彼の屋敷で休んでどうかこれからの事を考えて欲しい」


殿下から手紙を受け取るとレティスはコクリと頷いた。

その後彼女に馬車を手配し、その日は別れた。

きっと落ち着けば自身を受け入れてくれると殿下は確信していた。

両親である両陛下は難色を示すかも知れないが彼女の清らかな心とカタリーナの愚行を知ればきっと納得してくれる。

愛する者とこの先をともに進める。そう彼は心から信じていた。



その日サーベル王国から三人の貴族が姿を消した。



「どういうことですか!!」


国王陛下の執務室に無礼にも声を荒げ、訪れたのは息子であり王太子のオリバーだった。

先触れもなく訪れた彼を扉の外で制止していた近衛の言葉など無視しての暴挙。

例え家族であろうと国の長たる陛下にしていい態度ではなかった。


しかしそんな王太子に側近含め陛下は気にも留めない様子で。

それどころか煩わしささえ滲ませている。


「ち、父上!!」


そんな態度に再度殿下が声をあげる。

無視して執務に集中していた陛下の手が止まり深いため息をこぼす。

そして宰相のみを残し、側近達を下がらせた。


「はぁぁぁ・・・今何をしているのか分からぬのか」


「あ、いえ、執務中にすみ「そう、執務中だ」


殿下は陛下に謝罪を遮られた。

再度謝ろうとしたがそれよりも先に陛下の言葉が紡がれる。


「私的な時間以外は陛下と呼ぶようにと幼き頃から教えたはずだが・・・十歳のルアーノでさえ分かっているというのに」


殿下はカッと顔を赤くする。

ルアーノとは殿下の八歳年下の弟君のことだ。

気が急いてついしてしまった行いとはいえ、幼い弟でもしない愚行を言外に責められた。


「それでそこまで慌てて言いたいこととはなんだ。国王は暇ではないのだ、早く言え」


「は、はい。バスティーユから三人が亡命したとは本当ですか」


「本当だ」


陛下の言葉は、あっさりとしたものだった。

それを補足するように宰相が続ける。


「クラウド様カタリーナ様レティス様がベルゼシア帝国に亡命したと正式な書状があちらから送られています。すでに三名はバスティーユ侯爵家からも除名済みです」


「除名だと!?」


殿下が驚くのも無理はない。

除名とは名実ともに追放と同義。

帝国への亡命が事実なら仕方ないがあの婚約破棄の日から数日しか経っていない。

あまりにも早すぎる動きであった。


「はい、陛下の承認も済んでいる為、三名は既に我が国の民ではありません」


「なんと・・・」


衝撃から言葉を失った殿下の心にあったのはただ一人。

陛下も宰相もそれが分かっているのかどこか呆れていた。

けれどそんな二人の様子に殿下は気付かなかった。


「オリバー、、、何故カタリーナ嬢と婚約破棄したのだ」


「カタリーナは私の婚約者という事を笠に着て学園で高慢な態度で周囲を威圧し、さらには妹であるレティス嬢を虐げていたのです。そんな人間は私の妻に・・・この国の王妃に相応しく無かったのです!」


殿下は陛下と宰相、二人にそう言い切った。自分の判断に間違いなどないと信じていたから。

しかし二人の表情は先程と変わらず。


「この愚か者め」


と陛下がこぼす様に言うのみだった。




「お姉さま~」


「あらレティどうしたの?」


「いえ、お姉様に堂々と甘えられるのが嬉しくて」


ソファで読書していたカタリーナに抱きつくレティス。

カタリーナがどうしたのかと尋ねるとレティスはやや照れながら答えた。

そんなレティスの頭をカタリーナは嬉しそうに撫でた。


こんな日が得れるとは思わなかった。

カタリーナはかつて妹と出会った日を思い出す――――




「お前達の妹のレティスだ」


父が連れてきたのは私と同い年の妹だった。

当然私の母であるフェリシアの子ではない。父が外で囲っていたという妾の子。

妾が亡くなったためその娘である彼女を引き取ることになったのだ。

事前に何の説明もしていなかった為、母は父に異議を唱えていた。


「こんな妾を我が家に引き取るなんて認められないわ!!」


「ならばどうすると言うのだ。侯爵家が子を施設に入れたなど知られればそれこそ恥だろうが」


「....っ、ですが!!」


傍らにいる子供の事など気にしないで揉め続ける両親。

レティスは、突然連れてこられて来たことと拒絶された不安からか震えていた。

それに手を差しのばしたのはカタリーナであった。


「はじめまして、長女のカタリーナですわ」


「あ、はじめ・・まして・・レティス、です」


「ふんっ!やはり平民の子ね!ろくに挨拶も出来ないのかしら」


たどたどしい挨拶にフェリシアは、あからさまに馬鹿にした。

しかしカタリーナとレティスに差があるのは当然だ。


侯爵家の長女で、すでに王子の婚約者。家庭教師だけでなく王家の教師からも指導されているカタリーナはレティスどころか同世代の貴族女性で群を抜いて優秀。


一方レティスの母は平民の女性だった。

美しさをガストンに見初められ囲われた。

しかし彼はその美しさは愛でてもその女性との娘には興味をあまり持っていなかった。


いや、彼はカタリーナとクラウドにも興味は無い。

家の後継者と政略結婚の駒として教育を与えていたに過ぎない。

平民の血が混じったレティスでは政略結婚には使えない。

だから妾に小金を渡し適当に育てさせた。自身に迷惑をかけなければ問題なかった。


けれど妾が事故で亡くなってしまった。

これで残された娘を引き取らなければ他家から金がないだの情がないだの言われかねない。

彼のプライド、ただそれだけが引き取られた理由だ。

だから引き取られた彼女がどんな目にあうかなど考えなかった。


「あーら、今日も挨拶も出来ないのかしら」

「母親に似て顔だけが取り柄ねぇ」

「我が家の恥だわ」

「泣けばいいと思っているのかしら」


フェシリアは、黒髪の美しい女性だった。

彼女自身も侯爵家の出身で夫のガストンとは政略結婚。

不満はなかった。貴族というものはそういうものであったし、嫡男ももうけることが出来ている。

しかし彼女のプライドを砕く出来事が起きた。

第二子であるカタリーナを身籠もっているとき夫が浮気したのだ。

ただの浮気なら貴族男性によくある事と達観できた。

しかし女は身籠もってしまったのだ。

正妻であるフェシリアから半年ほど遅れて。


女によく似た娘が産まれ、女はガストンの妾となった。

彼女のプライドをさらに傷つけたのは、妾が平民だった事。

貴族女性として育った彼女は、選民思想があり平民と自身を夫に比べられたなど耐えれるものではなかった。


その憂さを晴らすように我が子達に徹底した教育を施した。

あんな妾の子より自分の子の方が血を初めとして全て勝っていると信じていたから。

時折彼女に甘えようとした子供達はその度に傷が残らない程度に折檻し、甘えを許さなかった。

夫は妻に任せるだけで関わらなかった。

いや、彼がヒステリックな妻に嫌気がさして妾の家に行った日はさらに厳しく子供達は躾けられた。

その教育が実を結んだのか息子は帝国に留学を望まれるほど娘は王太子の婚約者となった。


そんな憎む妾の子が同じ屋敷にいるなどフェリシアに耐えられるものではなかった。

何かにつけて否定した。

そしてミスする度にかつて子供達にしていたように折檻した。

泣き声を聞く度に彼女は癒やされる気がした。

ガストンからは顔に傷をつけるなとだけ。


レティスにとって地獄の日々。

泣いても謝っても正解はなく。孤独な。

それが変わったのはカタリーナが声をあげた日。


「お母様ばかりずるいわ!妾の子は正妻の子である私が躾けますわ」


「あら、そう?」


フェリシアはカタリーナの申し出に喜んだ。

我が子が忌々しい妾の子を自身に代わって教育してくれるというのだから。

その日からレティスはカタリーナの召使いのような扱いに。

それはフェリシアにとってとても愉快であった。




「お姉様が私を守るためにあえてあの人に代わって虐げているフリをしていたなんてきっと思ってもみなかったでしょうね」


「・・・でも貴方に辛い思いをさせたのは事実よ」


ふふんと得意げなレティスに対してカタリーナの表情は暗い。

いくら叩いたり、泣かせたりが演技だったとはいえ、召使いのように身支度を手伝わせたりしたのは本当だったのが彼女の心につかえたままなのだ。


彼女が母に代わって虐げれば母はそれ以上手を出してこなかった。

だから表面上はレティスを召使いのように使って常に自分の側に置いていた。

服や物も妹には当然の様に用意されなかった為、自身が贅沢するフリをして買ってはお下がりをレティスに渡した。

両親からお小言は王家に相応しくある為と言い訳すれば黙った。


けれどそれが出来るのもこの家にいる間だけと理解していたカタリーナは、秘密裏にレティスを侍女にと王城の侍女長に申し立てていた。

決まってしまえば体面を気にする父がわざわざ訂正などしない。

それに母には城でのストレス解消のため、父には王太子妃の侍女という格を妹につけるためと言えば大人しくなるだろうと。

城にいれば彼らがレティスに会うのも困難になる。

そしてレティスをある時まで側で守るつもりだったのだ。


「お姉様のお手伝いするのはご褒美だったので問題ないですわ!」


「ごほうび?ふふふ、変な事言わないでちょうだい」


「本当ですのに~」


コンコン


「二人とも失礼するよ」


部屋に入って来たのはクラウドだった。


「おや、二人とも楽しそうでなによりだ」


「お兄様もやっと元に戻れましたわね」


「あぁ、妹たちと彼女のおかげだな」


「前のお兄様も今のお兄様も好きですけどね!」


「えぇ、私も同じだわ」


クラウドにかつての感情を感じさせない雰囲気は跡形もなかった。

柔らかな笑みを浮かべ妹達から好きと言われれば少し照れて。


クラウドもまたカタリーナとレティスを守るために動いていたのだ。

産まれてから家族というものがよく分からなかった。

それは歪な両親が原因だろう。

妹であるカタリーナともどう関われば良いのか分からなかった。


クラウドはフェリシアから寵愛されていた。

けれどそれはバティーユ家の嫡男だから。

子としての愛情ではなかった。

彼は教育が過激になっていった頃さすがに辛いと言ったらひどく叩かれた。

彼女は、寵愛していようと己の意にそぐわない子は許さないのだ。


その時クラウドよりさらに幼かったカタリーナが彼を庇った。

結果それはフェリシアの怒りをさらに買ってしまうのだが、その出来事がクラウドの心を動かした。

守るべき大事な妹 カタリーナ。


表向きは、あまり関わらないようにした。

それはフェリシアが嫌ったから。表情を無くし、両親の意向のままに振る舞う。

母の機嫌さえ損なわなければ妹は安全なのだから。


妹が殿下と婚約が決まったときは隠れて喜んだ。

両親の機嫌が良くなるのは間違いないし、王族になれば妹は全てから守られる、そう信じて。

そんなある日妾の子であったレティスをガストンが連れ帰ってきた。

存在は、知っていたが初対面の腹違いの妹。

突然連れてきて言い争う両親にクラウドは表情に出さず辟易としていた。


カタリーナと同い年というには弱々しくか細かった。

彼女の母という者の程度が知れる。

どうしようもない大人どもから半分といえど血のつながった新たな妹を守らねば。

彼はそう決意していた。カタリーナと同じく。


予想通りフェリシアのレティスへの態度はひどいものだった。

庇いたくてもそうすれば母の機嫌がさらに悪化し、レティスへの被害が増すだけ。

そんな時カタリーナが母に代わりレティスを虐げ始めた。


召使いのように扱って、ことあるごとに叱責していた。

けれど彼にはそれが演技だと分かっていた。

ならば彼は、自分に出来ることで彼女らを守らねばと動く。


とにかく二人から母の目をそらす。

表向きは関わらないが両親の行動に不満を持っている良識ある使用人を二人に回す。

制限あるなかで様々な方法を模索した。


そしてクラウドは、ある目標をたてる。

父親から家督を奪うという。

そして両親を追放すれば真の意味で二人を守れ、自由に出来ると信じて。

容易ではなかった。必死に勉強し、論文などの功績を立てた。


彼が予想外だったのは、そのせいで帝国への留学生に選ばれてしまったこと。

家から離れてしまうのは恐怖でしかなかった。

もしも目の届かない間に二人に何かあったら。

けれど行かないわけにはいけない。


結果、後の婚約者となるロゼッタ・ニルマイヤ王女と出会えたのだが。


カタリーナが婚約破棄された日、彼はサーベル王国に絶望した。

そしてベルゼシア帝国にいる婚約者へと手紙をすぐに出した。


彼は、もしも時の手段として残していたのだ。

レティスを守るために侍女にしようとしたカタリーナの思いを、そんなカタリーナの思いを理解しているからこそ彼女を慕うレティスの思いを。

独りよがりの正義感と恋慕で台無しにした王太子。


国を両親をその身分とともに捨て、帝国に亡命した。

大事な妹たちを蔑ろにした者達などに未練は彼にはなかった。



「兄妹揃って元気そうで何よりだわ」


「ローゼ!おかえり、もう帰って来れたのかい?」


部屋に入ってきた女性にクラウドが駆け寄る。

彼女こそが婚約者のロゼッタ。


「えぇ、といっても一時帰宅だから貴方達の顔見にだけね」


「・・・そうか、無理だけはしないでくれ」


「ありがとうクラウ」


「「///////////」」


クラウドとロゼッタの熱い雰囲気にあてられカタリーナとレティスは顔を赤くしてしまった。

「あらあら、義妹達には刺激が強かったわね」


「・・・・っすまない、つい」


クラウドも照れてしまった。

かつての彼を知る者からすれば考えられない状況だろう。

感情を一切出さなかった男が一人の女性に翻弄されるなど。



サーベル王国からの留学生が鬼気迫る勢いで勉強している。

そんな噂がロゼッタ王女に届いたのはたまたまであった。

優秀な生徒を招いているとはいえ親の目の届かない他国で羽をのばすのは年頃の者ならよくあることであった。

けれど王女から見たクラウドにはそんなものは一切なかった。

侯爵家の嫡男らしい。将来安泰の身でそこまで必死になる理由が気になり、何度目かの見かけた時に初めて声をかけた。

護衛を撒いて、王女が一人だったのも都合が良かったのだろう。


「はじめまして」


「・・・はじめまして、ロゼッタ王女殿下」


「あら、私を知っていたのね」


「皇帝陛下に開いていただいた留学生の歓待パーティでご尊顔を拝謁いたしました。挨拶できなかったご無礼をここに謝罪いたします」


「謝罪を受け入れます。って護衛もいないし堅苦しいのはいいわ。それより貴方に聞きたいことがあるのよ」


「・・・なんでしょうか?」


「何故そこまで必死に学ぶの?」


「功績を残すためです」


「功績?そんなことの為にそこまで?」


そこでクラウドの無表情に一瞬怒りが滲んだ。

本当に一瞬だったので普通なら気付かないだろうその一瞬を王女は見逃さなかった。


「・・・失礼をしたならごめんなさい。でも私は何故そこまで必死なのかが気になるの」


「あ、いえ・・・こちらの方こそ申し訳ありません。・・・守るためです」


「誰を?」


「妹たちを」


王女からの追求は続きクラウドは家の事を語った。

普段なら躱していたであろう彼だがやはり妹たちから離れてしまった不安からかついこぼしてしまったのだ。


「・・・・恥ずべき事を話してしまいました。お忘れください」


クラウドは謝罪をしてその場を離れるつもりであった。

他国とはいえ秘するべき事を漏らしてしまった事への罪悪感が募っていた。

けれどその離れようとした彼の手を掴み止めたのはロゼッタ王女だった。


「恥ずべき事なんかじゃない。君ら兄妹の絆は誇るべきものだ」


「・・・お離しください」


「いやです。突然で驚かれると思いますがどうか私と結婚してください」


「!?」


突然の告白にさすがのクラウドも動揺した。

それもただの女性ではない。

この大国である帝国の王女。動揺しない方がおかしい。


「妹さんたちを守るその心に惚れました。私の地位も権力も利用して良い・・・私に君を妹さん達ごと守らせて欲しい」


あまりに男前な求婚。

けれどクラウドには衝撃的であった。

妹たちを両親から守ることだけを意識して生きてきた彼にとって守ると言われたことなどなかったのだから。

そこからロゼッタ王女の怒濤のアピールにより婚約まではそう時間がかからなかった。


ロゼッタ王女は、女という身の為隠していたが剣と戦略に優れた軍師であった。

王太子の兄に隠れこっそりと助言していた。

兄は懐が深く、王女といえど意見を聞き入れる度量を持っていた。

けれど帝国では女は守られるもの。表向きは、王女として大人しく従っていた。


そういうものと諦めていた王女は、クラウドに出会った。

心から守りたいと王女は思った。

彼の妹たちの強さも含めて惚れたのだ。


それまで兄に隠れていたが婚約者の為に自身の力を強めねばと考えた彼女は積極的に表舞台に立ち始めた。

輿入れした後に彼の両親を追放し、彼らを幸せにしてやる。

しかしその目論見は突然崩れる。


サーベル王国の王太子がやらかした。

よりにもよって卒業のパーティでカタリーナ嬢との婚約破棄を宣言してしまった。

それまで妹を守るために努めた彼らのこれまでを実質否定したのだ。

王太子にその意思はなかっただろうが結果が全て。


クラウドからの手紙が届くと王女は瞬く間に彼ら兄妹を帝国に亡命させる準備を整える。

兄含め国の重鎮たちへの根回しも問題なかった。

それはひとえに彼らの優秀さは有名だったことも関係していた。

王国から不服を受けようとも受け入れたい人材。しかも婚約破棄後のため王家が介入しづらいのも理由だ。


王女は、戦での功績により公爵位を叙爵することが決まっていた。

女公爵は、珍しいがそれを黙らせる戦果をあげたのだ。

また王国のもと侯爵の嫡男ならば執務に長けていて然るべき。

戦で家を離れようともクラウドが家を守る。

またクラウド自身も弱くないため戦に出ることも厭わない姿勢が評価された。


現在はまだ婚約者だが既に王女とクラウドは夫婦のようであった。

両親という抑圧を無くし、妹たちを可愛がって、唯一甘えれるのが王女という生活に閉じ込めていた感情と表情が溢れ出していた。




とある日ロゼッタと剣を交わす者がいた。


「ほら!もっとスピードを上げないと追いつけないわよ」


「っっっ、、、はいっ!!」


息は切らしつつもその瞳は力強く。

そしてついにロゼッタに一撃を入れることに成功した。

そこで一旦練習は休憩に。


「よくこの短期間でここまでついて来れましたわね」


疲労からその場に座り込んだ相手に手を差しのばす。


「はぁ、はぁ、はぁ、、、まだまだ足りませんわロゼお義姉様」


「まずは体力ね。けど私に一撃入れれる剣士はこの帝国にも少ないと言うことは覚えておいてレティちゃん」


そう、剣の達人の域にあるロゼッタと一戦交えていたのはレティスであった。

帝国に亡命後レティスは剣を習い始めた。

最初は、大人しい彼女には向かないのでないかと心配性の兄妹は戸惑っていた。


けれどそれを諌めたのはロゼッタであった。

彼女は、レティスの守られ続けていたからこそ守る力を手に入れたい気持ちが理解出来たからだ。

例え相手が見返りなど求めていなくても弱いままの自分なんて許せないのだ。


最初は、予想通り散々な結果だった。

兄妹はレティスが傷つかないか心配でたまらなかった。

けれど彼女は何度倒されても諦めなかった。

その姿に兄妹も考えを改めた。

かつて必死に守った妹は今、独り立ちしようとしているのだと。


「いてて」


鍛錬後にレティスはお風呂に入っていた。

手のマメや擦り傷に湯が染みる。

けれど辛くはなかった。彼女にとって力を手に入れる為の痛みなど幸福ですらあったのだ。


「同じ痛みでも雲泥の差ね」


かつて義母に受けた折檻の傷は薄くなっても未だレティスの身体に残っている。

けれどそのことについて彼女に恨みはなかった。

レティスは義母もある意味被害者だと思っている。

兄妹にしたことは絶対に許せないが自身は妾の子。


しかもお姉様を身籠もっているときに手を出したのが母だった。

母はあまり頭のいい方でなく、お金さえあれば特に気にせず侯爵に媚びていた。

娘の私は侯爵からのお金で雇った使用人に任せて侯爵と二人でよく出掛けていた。


つまりその間義母は、孤独だったのだろう。

だから妾になる原因となってしまったレティスを恨むのを仕方ないと彼女は自身で納得していた。


恨んでいるのは、諸悪の根源である侯爵だけ。

ちっぽけなプライドで彼女を引き取った事だ。

兄妹のことは、愛しているが自身を守るために侯爵家に縛ってしまった事を彼女は悔いていた。

いっそ命を絶つかとも考えたがそんな事をすれば優しすぎる兄妹がどうなるか心配で出来ず。


守りたいのに守る力も知恵も無い。

レティスは義母に虐げられるよりもカタリーナが辛そうに虐げるフリをする事が、クラウドが義母の目を向けないために感情を殺している事が、苦しかった。

けれどそのどれもがレティスを守るためのものと理解して、それを兄妹が望んでいる事も理解してただ受け入れていた。


そんな日々に突然終止符が打たれる。

カタリーナが王太子から婚約破棄された。

しかもレティスを虐げただの学園で高慢な態度だとかいうあり得ない理由。


カタリーナが家で虐げていたのはフリであり、側にいさせたのは義母から守るためと彼女は理解していた。

そして高慢な態度とされているのは位の低い貴族令嬢にこっそり指導していた事だと彼女は後に予想した。


学園といえど高位貴族とそれ以外では元々の学んだ量が違った。

なのに高位貴族の中には時折出来ないことを馬鹿にする者達がいた。

その現状に心を痛めたカタリーナはこっそり指導していた。


厳しくしていた為、外野から見ればカタリーナが威圧していたととられたのかもしれない。

それでも調べれば簡単に分かることであったはずなのに王太子はどこぞの誰かの流した噂をあっさり信じたのだ。


あの日突き飛ばされたカタリーナに駆け寄ったレティスは、あまりの怒りに我を忘れて殿下に怒鳴りかけた。

しかしそれを正気に戻したのはカタリーナのビンタだった。

痛みとともにレティスは理解した。また守られたのだと。

自身の為に悪者に進んでなろうとしてしまう優しい姉とそんな姉に守られるだけの自分に彼女は悔しくて泣いてしまった。


予想外だったのは殿下からの告白であった。

姉という素晴らしい人間の婚約者だったにも関わらず、彼女の本質を何も理解していない目の前の男に彼女は落胆した。

そしてまた怒りでカッと顔が赤くなり身体が震えたがなんとか胸の内にとどめる。

それは殿下の為でなく守ってくれた姉のため。


姉を努力も理解せず、捨てた王太子のいる国から兄妹で亡命した。

兄の婚約者のロゼッタ王女のいるベルゼシア帝国に。


幸せだった。初めてただの兄妹、姉妹として二人と接せれた。

二人もやっと妹を守らねばという呪縛から解放されたのだ。


「もう誰のためにも家族を犠牲にしない」


レティスは、拳を握りしめ一人誓った。その為に守る力を手に入れる。

そこにかつての弱々しい少女はいなかった―――――



後にカタリーナが指導していた貴族たちが複数声をあげた。

威圧ではなく、至らない自分たちに善意から指導してくれていたのだと。


そして、バスティーユ家の歪んだ両親からの虐待と兄妹はお互いを守り合っていただけという事実が王家の調査により明らかとなった。


彼らの両親は、子に亡命を選ばせるほどの虐待をしていた事が公となり降爵で子爵位となってしまった。

しかし転落はそこで終わらなかった。亡命したかつての息子クラウドよりバスティーユ侯爵が国への税金を横領している事を証拠とともに王家に告発。

そしてその結果ガストンは、横領の罪により貴族位剥奪の上で鉱山で強制労働が課される事が決定。


フェリシアは、横領には関与していなかった。夫が犯罪者として捕まったのをきっかけに離縁した。

生家に戻ろうとしたが子に虐待した鬼母という恥を受け入れてはもらえず、その後の行方は不明だ。だがこれまで貴族としての矜持に相応しい生活が送れていないことは確かだった。


そしてオリバー殿下は、王太子の地位を剥奪された。

王族からは、追放されなかった。けれど調査もせず自身が正しいと思い込んだ正義感で王国から優秀な人材を亡命させてしまった事は許されなかった。

王太子の座には弟のルアーノがついた。


オリバーは、王太子を剥奪されたあと帝国へ亡命した三名に謝罪したいと申し出た。

しかしその答えは否。

憎んでいるのだろう。そう思ったオリバーだったが彼らの返事は違った。


亡命して兄妹は皆幸せだと、やっと自由に家族と暮らせる、そのきっかけとなったオリバーには感謝しているから謝罪は不要と記されていた。


そこでオリバーは気付いた。

また思い込んでいたと。謝罪もただ己の気持ちを軽くするためにしたかったのだと。


自身が何も見ていなかった過去とそんな自分になど目もくれず先へと進んでいく兄妹の眩しさに彼はどうすることも出来なかった。

守るの意味をはき違え、くだらない正義感に酔いしれたあの日をただ悔いていた。


感想、誤字報告ありがとうございます!

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これ王子がやらかさなければ王女が兄に嫁入りで両親は引退でカタリーナは王太子妃。王国にとってはハッピーエンドだけど、思い込みが激しい夫に段々目が死んでいくカタリーナと心配する兄妹で三兄妹にとってはバッド…
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