夜に照る日差し(中)
サウスダコタの壮絶な最期は、両軍に少しの間、戦闘行為を中断させた。そして日本軍はその直後歓喜し……合衆国軍は十字を切ると共に敵影を睨み付け、砲撃準備を急いだ。
だが、その努力は虚しく空を切ることになる。と、いうのも、大和、武蔵に続いて単縦陣を取っていた軍艦がようやく合衆国軍を射程距離に収めることに成功したからだ。そして、曲線射撃いっぱいの砲撃を彼女達は行い始めた。世界に冠たるビッグセブン、帝国海軍の花形、そして妹たる存在が本来居るはずだった、その彼女の名は……。
「……我々の砲撃は、少し早すぎたかもしれませんな」
「……それみろ」
「ああ、いえ、そういうことではなく……」
「じゃあ、なんだ」
「……長門以下、ようやく合衆国海軍に砲撃を開始したようです。どうやら、大和と武蔵の砲撃能力に比べて、彼女達はそこまで広範囲をカバー出来なかったようで」
「……そうか」
……後に、長門の乗組員は語る。「我々が来た頃には、既に合衆国海軍は半壊していた」、と。
そして、合衆国海軍の砲撃部隊に任じられた司令官は、退却を長官に打診し始めた。だが、彼等の逃げられる海域は、最早存在しなかった。と、いうのも……。
「……なんてこった……」
そこに存在したのは、金剛、そして榛名。赤松長官はあろうことか、敵軍が後退する海域に既に伏兵を送り込んでいた。その伏兵、砲撃能力こそそこまで高くはなかったものの、高速を出せる艦艇のみで固められており、戦艦もまた金剛と榛名といった高速の――何せ、彼女二隻は最大戦速とはいえ30ktを出せる――艦艇で揃えており、いかに戦艦五隻を沈められたとはいえ彼等の注意が大和、武蔵、長門のみに向けられていたことを命を対価として学習させられることになる。だが、金剛と榛名に課せられた任務とは、其方ではなかった。彼女達がそこに居た理由とは……。
「艦長、どうやら我々は奇襲に成功しそうですな」
「……ならば、やることは一つだけだな」
「ははっ。……大和以下本隊に連絡、「|我ら此より突撃を以て雷撃を開始する《トラ! トラ! トラ!》!」」
……金剛、榛名以下伏兵艦隊は、なんと敵空母艦隊を捉えることに成功した。そして、迷わず雷撃を行い……遁走することなく更に接近した。彼達に与えられた任務とは、すなわち。
「……なんだ、騒がしいな」
「前線で砲撃が始まったのでしょう、悩むことはありませんよ。ノースカロライナ級に勝てるような軍艦を連中が保持しているわけが……」
「油断は禁物だぞ、キャラハン。それに……!?」
「何の音だ!」
「雷撃です! 連中、潜水艦を忍ばせていたのでしょうか!?」
「……潜水艦なら、爆雷を蒔けば良い。駆逐隊に連絡、対潜哨戒始め!」
「ははっ!!」
だが、その「雷撃」は潜水艦から発射されたものでは、なかった。と、いうよりは、彼等は敵軍の魚雷能力を完全に見誤っていた。と、いうのも……。
「命中! 初回命中致しました!」
「おう、見えておる。……然らば、第二斉射を開始し……反転して接近、砲撃を開始する!」
「ははっ!!」
……夜はまだ、始まったばかりである。