内南洋に沈む星(中)
……合衆国軍太平洋艦隊が放ったマリアナ沖への侵略の足掛かりである第一波攻撃隊の帰還率は、「ノート」であった。赤松長官は、「さすがに全部討ち漏らさずに退けられるわけがない」と高をくくって、否、低をくくっていたが、なんと赤松長官の上空で艦隊を守っている歴戦のパイロットが総出で搭乗している航空隊は、合衆国軍の第一波を総て撃墜した!
……いくら好条件が揃っていたといえど、それは後の彼達をして猶、「会心の戦果」と回想するほどのものであった。さすがに、第三波や第四波などは総て撃墜することはできなかったものの、概ね合衆国軍の、この時期にしては絶望的な未帰還率をたたき出すことになる。
そうこうする内に、第一波の未帰還を訝しんだ合衆国海軍は、ひとまず第二波で様子を見始めた。よもや第一波の部隊が総て撃墜されているとは思ってもおらず、味方が残存していると考えてひとまず員数を正規編成の比率で埋めた飛行隊を飛ばすことにした。何せ、殲滅という戦術行動は文字通り生き残りを出さない、というものである。一見当たり前に見える国語の時間のように見えるが、これは恐ろしいことである。何せ、「生存者による報告」が「存在しない」のだから!
合衆国軍太平洋艦隊の面々は焦れ始めた。規定時刻になろうが、航空機が帰ってこないのだ。勿論、疾うの昔に計算された燃料も使い尽くしているであろうに。様々な風聞が流れたものの、都合三回目の航空隊を送り込むことを決断したのは、正午を過ぎ始めた頃のことであった。今度は戦闘機を、多めに用意して。
一方で、第二次航空隊を散々に討ち取り、皆殺しにしてから待機中のパイロットと交代した第一陣防空部隊は今なら敵艦隊を屠れるのではないか、と意見具申を行ってみた。だが、その返事は……。
「赤松長官、航空隊員より意見具申だそうです。……なんとなく、その顔で返事の内容は理解できましたが、偵察部隊くらいは発進させてもよろしいのでは?」
さすがに、殿下と呼ぶことを止めた周囲の人間であったが、とはいえ赤松が渋い顔をし始めたことに対して、航空隊員に同情しつつ折衷案を絞りだそうとしていた。だが、帰ってきた答えは……。
「一応、パイロットには別命あるまで待機ということにしておけ。……別命は、きちんと存在していることも、あまりに不服そうならば告げておくとしよう」
「……畏まりました。然らば、想定通りに続けます。とはいえ、士気の問題も御座います。あまり温存しすぎるのもどうかとは思いますが……」
そして、しつこく食い下がる周囲の人間に対して、一瞥すらせずに手帳を開くや、次の命令を用意し始めていた。それは、傍若無人な態度ではあったが、不思議と様になっていた。或いは、それも皇族としての立ち居振る舞いによるものだからだろうか?
「士気の問題だけならば、対策は考えてある。それよりも、敵の数は」
「は、ははっ。……現在、第三波が来襲しており、迎撃を行っております」
そして、第一波、第二波を悉く撃墜したエース・パイロット達は疲労も者ともせず第三波の敵編隊に斬りかかった。それは、一見して順調そうに見えたが、良くない傾向でもあった。そして、それを予期していたのか、赤松長官は一言、次のように下令した。
「そうか。……それでは、第四波が来る前には交代させよ」
「……ははっ」
……赤松司令長官が考慮していた「対策」とはなんであるか。それを紹介するのは、今少し待って頂きたい。