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吾まだ死せず  作者: えねこ
第一章 ―― マリアナ沖迎撃作戦
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内南洋に沈む星(前)

「何だ、何が起こっている!?」

「こいつら、今迄のゼロじゃねえぞ!」

「クソッタレ、今味方はどれだけ残っている!」


「……殿下、どうやら「奇襲」は大成功したようですな」

「だから、殿下はよせ。……まあ、今のところは、だな。次の段階に進む。有馬、地図とペンもってこい」

「ははっ」

 上空で次々と墜落する合衆国海軍機、何せ粋がって帝国軍に懸かっていったはいいものの、帝国海軍側は端から彼等を迎撃する氣などなかった。否、本当の意味での戦術的な「迎撃」は行う氣満々であったのだが、彼達は戦略的な()()()()を行う氣はなかった。厭戦か? そんなわけはない。では、戦略的な迎撃作戦を行うことなく、合衆国軍の攻勢を水泡に帰すための行動とはなんであったのか。

「さて、さすがにまだ敵サンにはバレていないだろうが、味方には説明しておく必要があるか。有馬、例の書類を幕僚へ」

「ははっ、しかし宜しいので?」

「戦闘は始まった。今更情報戦を行う意味も無いだろう」

「畏まりました」

 有馬と呼ばれた人物が高松宮宣仁親王……いや、連合艦隊司令長官赤松(訳あって、宮様将校は身分を隠すために偽名を使って行動する習慣がある。後々まで使う情報なので覚えておいて欲しい)の指示に従い、幕僚や参謀達に印刷された紙片を配っていった。まあ、いわゆるレジュメなのだが、直前まで秘匿する必要があって、彼はこれを今この時まで手に持っていた。当然その内容は、これからの作戦次第である。

殿(でん)……いえ、長官。この度の集合命令は、この内容の確認でございますか」

 参謀の一人が先陣を切った。彼は直前まで、赤松長官の航空機編成を不思議がっていたが、手元のレジュメを読み終わった後に、真意を知り敬意と畏怖の念を持ったという。

「ああ、あらかじめ一部の者には口頭で伝えてあるが、念には念を入れて、だ。上空にどれだけ敵軍機が残っているかはわからんが、さすがに全部討ち漏らさずに退けられるわけがない。それに、たとえ第一波を退けたとしても連中の攻撃はしつこいことで有名だ。

 だったら此方は、逃げたり耐えたりする必要がある。ひとまずは上空の直掩の比重を限りなく多くしたが、如何な新型零戦といえど限度があるだろう。そこで、本土で一応、新型機を造らせてある。とはいえ、烈風ではないぞ。あれは、もう諦めろ。その代わり、もっと良い物を造らせることにした」

 そう、赤松長官はなんと、全部の航空母艦の中身を新型の零戦にする、という思い切った編成を行っていた。勿論、その新型零戦は直前まで根を詰めて指示を出していたこともあって、この一大事に稼働率100%という、この時期の日本としては奇蹟と言っても差し支えないほどの信頼性を誇っていた。

 とはいえ、飽く迄零戦を改良した機体に過ぎない。新型の発動機や装甲の強化、そして難燃性などを整えた物とはいえ、ボロが出ることを前提とした運用を行っていた。そう、後に呂宋沖で合衆国軍太平洋艦隊を文字通りの鏖殺に追い込む新型機、愛称を「昇風」という、までの場つなぎとして使っていたわけで、それは今迄いろいろと難航していた烈風では無かった。否、烈風よりも遙かに強かった。

「……烈風より、強力な機体、でございますか」

「ああ。信じられないだろうが、今のところ順調に試作品が上がっている。今度乗ってみるといい」

「……はあ」

 この「昇風」、後に世界初のマルチロール機である「晴天」にまで発展するのだが、とはいえこの当時はまだ純然たる戦闘機であった。戦闘爆撃機能すらないそれは、飽く迄迎撃のための機体であった。とはいえ、紫電改のような局地戦闘機というわけではなく、故に「風」号がついていたのだが、後にその機体の冗長性を利用して設計のみ流用した上に爆装機能なども付けた、いわゆる支援戦闘機として昭和が後半になる頃にも生き残るのだが、それはさすがに赤松長官も知ることは無かった。

「さて、そろそろか。……昼間見張員に連絡、試作電探の結果と共に敵機の密度を知らせ!」

「ははっ!!」

 ……後に、山名家を継ぐ有馬が、赤松を偽名として名乗っていた高松宮宣仁親王の下で働き、「やはり室町よりの名族は違うのう」と国家元首より褒められるのは、ある種の歴史の皮肉であった。

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