「エ」号作戦(前話)
高松宮宣仁親王が赤松連合艦隊司令長官として綱紀粛正を図っていた頃、ニューギニアの……おそらくウエワクすら奪われている現状、ビワク近隣であろうか、帝国軍にとって残された数少ない抵抗拠点は、必死になって、文字通りその地を死守していた。彼等は最早刀折れ矢尽きる状態に極めて近いほどの状況であり、支えていたのはその、帝国軍ということへの矜持と士気でしかなく、玉砕は時間の問題といえた。
「気張れ貴様等!なんとしても援軍が来るまでは耐え抜くぞ!」
隊長格と思しき将校が部下を必死に励ましていた。援軍の充てはないが、援軍があると信じさせることは一つの戦術であった。それに、彼には一応の目算があった。マリアナ沖に於いて、味方の海軍部隊が展開していることを、彼はどこからか聞きつけていた。つまりは、自分たちはまだ見捨てられては居ない。その蜘蛛の糸のようなか細い根拠が、彼を支えていた。そして、その確信は突如としてしめ縄のように太く、そして固くなる。と、いうのも……。
「連隊長、味方より通信を受け取りました。「まりあな沖防衛ニ成功、コレヨリ我等後方ヲ衝キ貴殿等ノ支援ヲ行ウ」……どうやら、海軍はマリアナ沖の防衛に成功したようです!!」
その通信がどこから来たのかは扨措いて、援軍が来ると正式に決まった、否、正確には援軍が来るのではなく、味方の艦隊は敵の後方拠点を叩くことによって間接的に支援を行おうとしていたのだが、それは彼――つまりは、連隊長と呼ばれた男性――の矜持を深く満足させるものであった。
「おう、そいつぁ有難ぇ! おい貴様等! どうやら海軍は殿下自ら敵の後方拠点を急襲して敵を潰乱させるおつもりだ!なんとしても敵の注意を此方に引きつけるぞ!」
『応っ!!』
……ニューギニア方面に於いて、帝国陸軍はウエワクすら奪取され既に残すはビアクのみとなっていたが、高松宮が連合艦隊司令長官になったことは彼らの士気を厭が応にも高めていた。何せ、彼らにとっては天皇陛下の弟という立場は雲の上の存在に等しい。その人物が、彼らの扶けを必要としている。それが彼らの士気を底上げしていた。無論、士気だけで戦えるほど近代戦は甘くはない。だが、士気は得てして超常現象を引き起こすこともある。そしてビアクにて籠もる日本軍部隊は、ポートモレスビーに日章旗が昇るまでの時間を美事稼ぐことに成功する。それまで、彼こと連隊長が率いる連隊が生き残ったかどうかは、まだ定かとは言い難いが。
そして、ビアクにこもる彼の連隊や、他生き残り達が奮戦を通り越した奮戦をしている最中、マリアナ沖にて防衛作戦を完遂した赤松長官は単身陸軍のビルマ攻略司令部に殴り込みに行った。それは当然、ビルマ戦線を指定日時まで後退させ、敗戦の責任者をつるし上げるためであった……。




