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第1話 プロローグ1

新作始めました。よろしくおねがいします。

 東京、某動物園。


 ある母子が歩いていた。

子供は男の子なのだが、顔つきが可愛くよく女の子に間違えられる。

母親も男なら振り返ってしまうような美人なので、男の子は母親似なのだろう。


「ママ、どうぶつたくさんいたね」

「そうね、たくさんいたわね。シンちゃんはどの動物が好きだった?」

「ぼくね、ゾウさんがおっきくて、でもかわいくてすきだった」

「そう、ゾウさんが好きだったのね」

「うん。ママ、きょうはつれてきてくれてありがとうね」

「シンちゃん……どういたしまして。シンちゃんが喜んでくれることがママ一番嬉しいよ」

「ぼくはママがよろこんでくれることがいちばんうれしいよ」

「まあ、シンちゃんは本当にいい子ね」


 シンちゃんのママ、山村紗希(やまむらさき)はシングルマザーだ。

19歳で学生結婚をして、20歳の時(シン)を産んだが、夫のDVにあい当初は耐えていたのだが、まだ赤ちゃんだったシンにまで暴力を振るうようになり、離婚調停をして離婚した。


 以来、女手1つで育てていたが、幸い学生時に小さく起業していたビジネスがうまくいって、経済的には問題なく過ごせていた。

しかし、その分シンの相手をする時間が減ってしまい、申し訳なく思う毎日だった。

シンはそんな紗希にわがまま1つ言わずにいつも労ってくれる。

紗希はシンに労われる度にその優しさに胸がギュッと締め付けられそうになる。


「シンちゃん、ママの会社ね、人も増えたからもう少し働く時間が減らせそうなの」

「そうなの、ママ! じゃあ、もっといっしょにいられるね。ぼくね、かみさまにおねがいしてたの。ママともっといっしょにいられるようにしてください。そのかわり、ママをこまらせないようにしますって」


「かなっちゃった。えへへ」と笑うシンを紗希はたまらず抱きしめる。


「ママ? ママはいいにおいするなー。ママだいすきだよ」

「ママもシンちゃんが世界で一番大好きだよ」

「やったー」


 この時は、間違いなくこの母子の幸せな時間だった。

紗希は今日動物園に来て本当に良かったと思った。


「そうだ、ママ。ぼくね、ママにかってもらったボールもってきちゃった」

「え、あのジャグリングのボールもってきたの?」

「うん、よいしょ……」


 シンは背負ったリュックを下ろし、ゴソゴソと探る。

中から青いジャグリングボールを取り出した。

これは、シンがテレビで見たものを欲しがっていたので紗希が誕生日プレゼントに買ってあげたものだ。

青赤白の3色で1セットのものになっている。

ひらがなの綺麗な字で『やまむらしん』と書いてある。紗希が書いたのだ。


「まだ、1こだけ、なげてとるだけしかできないけどね」

「すごいわね。それに使ってもらえてうれしいわ」

「うん、ママありがとうね。たいせつにするからね」

「うん、いっぱい使ってね。壊れたらまた新しいの買ってあげるからね」

「ありがとう。でも、ずっとだいじにするよ」

「ママね、シンちゃんがとってもいい子で嬉しいわ」

「みててね。よいしょ」

「あ、ここでは危ないわ」

「あっ」


 手元が狂って、投げたボールがシンの後方に飛んでしまい、高校生と思しき制服を着た集団のところに飛んで行ってしまった。


「あれ、ボール?」


 高校生の集団の1人の少女がひろう。

そこに女の子と思しき小さな子が走り寄ってくる。


「おねえちゃん、ごめんね。そのボールぼくの」

「うわー、可愛い子。お嬢ちゃんいくつ?」

「え? ぼくおとこだよ」

「あ、そうだったの? ごめんね、間違えちゃって」

「いいよ、よくおんなのこっていわれるの」

「そうだったの。大きくなったらかっこ良くなるよ。きっと」

「えへへ、ありがとうおねえちゃん」

「可愛いー」


 少女のそばにいて、興味深く見ていた他の少女たちも「きゃー」と、声を上げる。


「ありがとう、おねえちゃんもすごくかわいいよ」

「うれしい。ありがとうね。ボールだったよね。はい、どうぞ」


 ボールを手渡そうと、少女の手とシンの手が触れた瞬間、半径5〜6メートルの地面が光った。

驚きのあまり、その場に2人は硬直した。


「な、なにこれ」

「きゃー」


 周囲が阿鼻叫喚に包まれる。


「シンちゃーん」

「ママ!」


 シンが見た先には紗希が慌てて走ってきている姿があった。

その瞬間視界が暗転した。




 紗希の目の前で、シンを含めた高校生数人は消え去った。


「いやー! シンちゃーん。どこなの? シンちゃーん」


 紗希はあらん限りの声を振り絞って、シンの名前を呼んだ。

しかし、返事はなかった。


 半ばパニックになっていると、声をかけられた。

30代半ばくらいの体格の良い男性だった。


「落ち着いてください。私は今ここにいたはずの高校生の学校のものです。

なにがどうなったのか、教えてもらえませんか? 手を打てるなら、早く打ちたいのです。

お子さんの力になれるかもしれません」


 紗希は過呼吸寸前の呼吸を意識的に鎮めると、目の前で起こったことを話し始めた。


「そんなことが……すぐに警察を呼びましょう」


 目の前で、男性がテキパキと電話をしたり、他の人に指示をしたりしている中、紗希は腰が抜けたように座り込んだ。


 両方の目から涙が溢れ出して、アスファルトを見つめる。


「シンちゃん、どこ行っちゃったの。シンちゃん」


 その後、その場で呆然とする紗希の元へ、警察がやってきて、事情を聞かれた。

すがるような思いで、警察に協力をしたが、シンが見つかることはなかった。


 その日のうちに、テレビや新聞ネットニュースでは集団神隠し事件として報道された。

沙希はテレビの取材に応じることにし、もし事情を知っている人がいたら教えてくださいと、涙ながらに訴えた。

日本全国で紗希や高校生の保護者たちに同情が集まったが、ついぞ有力な情報は現れなかった。


 紗希は、会社のことは他のものにまかし、動物園周辺で、ビラ配りをしたり、ネットで広く情報を求めたりするなど、シンを探すために考えられることを全て行ったが、芳しい結果は得られなかった。

 

 紗希は肉体的な疲労と精神的な不安定さから、体調を崩し倒れた。


読んでいただきありがとうございました。


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