☆52 双生の運命①
斥候部隊のリアナは、その能力『超越する感覚』を駆使し、数日前からエルドラの街を監視していた。街には、王国内の大軍が次々と集結している。
ざっと見積もっただけで五千を超える騎士たち。
鎧が煌めき、戦意がみなぎるその様子に、彼女の心は一瞬すくみそうになる。
「こんな数が来るなんて、しかもヤバそうな奴らまで…!」
報告のため自治区へと急ぐ途中、不安が胸を叩きつける。
足が震え、息が荒れる。
まるで最悪の悪夢が現実になったかのようだ。
頭の中は混乱し、景色がぐるぐる回る。
追い立てられるように駆けながら、リアナの脳裏には、否応なく最悪の事態が浮かび上がっていた。
◆◆◆
「ついに来ましたね。」
リアナの報告を受け、防衛軍の幹部たちは集会場の会議室に集められていた。
助っ人として招かれたリリスたちも同席している。
だが、恐怖に顔を青ざめさせているリアナを横目に、部屋の空気は驚くほど落ち着いていた。
「この日のために準備を積み重ねてきたんだ。ただ作戦を実行するだけ。自分たちの力を信じればいい。」
そう語るオルディスの声は、どっしりと安定感があり、その存在感はすっかり軍の指揮官そのものだった。
「俺たちが使っている装備は、世界中を探してもこれ以上のものはない。マナの差なんか関係ない。さらに、この地形は俺たちの味方だ。それに何より、この数週間、俺のしごきを耐え抜き、戦術を叩き込まれたんだ。自信を持て。」
力強い言葉に、一同から「おお!」と声が上がる。
空気が一気に熱を帯びていく。
「指揮官の連中は僕たちが引き受ける。」
アビスラが冷静に言葉を挟む。
その表情には余裕すら漂っている。
「君たちは一般兵が僕たちの邪魔にならないようにだけ気を配ればいい。魔獣たちの力を借りれば、それほど難しいことじゃないはずだ。」
リアナが感じていた不安は、次第に空気の中へ溶けていく。
まるで部屋の中に充満した士気の高さが、彼女の心をも包み込むようだった。
今回の作戦を要約すると、
①エルドラと自治区の中間地点あたりの林に潜んで奇襲をしかける。
②カイのバフは一般兵にかける。
③ルビスとグリフィスは空から、カグツチとヴァルドは神出鬼没に駆け回らせる。
④敵の密集地帯にエリシアの召喚した魔神を当てる。俺はそのサポート。
⑤オルディスは軍の状況を見極め、司令官として立ち回る。
⑥リリスとアビスラはヤバそうな奴らに当てる。
⑦バルドラックは最前線で暴れつつ、一般兵をフォローする。
こんな感じだ。
一般兵の連携は充分に訓練してきた。
互いを信頼し合う結束がある。
ドワーフの精鋭たちは、故郷を追われた無念を晴らすべく燃え盛る復讐心を胸に秘めていた。彼らの瞳には迷いが一切なく、戦場での力強さを予感させる。
圧倒的な数の差があるはずの敵軍を前にしても、誰一人として怯む様子はない。
むしろ士気は高まり、全員の心が一つの意志で繋がっていた。
――返り討ちにするだけだ。
そんな空気が自然と全体に漂い、部屋の温度さえも上がるようだった。
「では、皆さんの幸運を祈ります。必ず戻って、ここで勝利の美酒を味わいましょう。」
エリシアが静かでありながら力強い声で締めくくる。
その言葉は自信に満ちていて、全員の心に響き渡った。
「オオオオオッッッ!!!」
その瞬間、雄叫びが会議室を揺るがし、壁さえ震えるような熱気が爆発した。
決意と士気が一つに混ざり合い、まさにこれから始まる戦いへの狼煙となった。
◆◆◆
――エルドラの公爵邸は、今や王国軍の幹部たちの拠点と化していた。
元の住人であるレオナード一家は、近くのローゼン子爵の屋敷に身を寄せている。
「ええっと、殺しちゃいけないのはエルフの王女様だっけ?」
南方騎士団団長のシンハーが、軽い口調で周囲に問いかける。
「最初から戦闘を前提にしないでください。無条件降伏がベストなんですから。」
ユハクが呆れたように返す。
「一番戦いたがってるのはお前だろう? 今さら何を良い子ぶってる。」
西方騎士団団長のパッシーユがすかさず突っ込む。
「私はもう昔の私ではないんです。陛下からも仰ってください。」
いきなり話を振られたアレクシスは、肩をすくめながら苦笑した。
「うん、まあ、そういうことらしい。僕もまだ信じられないけどね。」
戦いが間近に迫っているにもかかわらず、幹部たちの間にはどこか緩んだ空気が漂っていた。
「とりあえず、王女様の顔が分からない以上、エルフの女性は全員スルーする方向でお願いします。」
「りょーかい。」
シンハーは気軽に答えると、手を叩いて促すように続けた。
「さて、そろそろ行きましょうよ。奴らに無駄な準備の時間を与える必要はない。電光石火で沈めてやりましょう。」
「そうですね。外の騎士たちも準備は整っています。陛下、よろしいですか?」
全員の視線がアレクシスに集まる。
「分かった。出発しよう。」
その一言とともに、緩んでいた空気が一変する。
騎士たちは即座に動き始め、戦いの幕が静かに、しかし確実に上がり始めた。
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