☆35 永遠の闇に飲まれた村
グリムスドルフというその村は、ゼフィロンの北西に位置し、馬車で三日ほどかかる距離にある。かつてはそこそこ大きな村だったが、若者たちはゼフィロンなどの都会へと移り住んでしまったため、現在はわずか三百人ほどしか住んでいない静かな村になっている。
馬車の中で、改めてオリオンとエリオスの能力について説明を受けた。
オリオンは自分のマナを使って影と同化することができるらしい。
影の中を自由に移動し、敵の背後から不意打ちを仕掛けたりとか出来るのだろうか。
チートかな?
俺が言うのも何だけど。
物理法則とかどうなっているのか不思議だが、今回は吸血鬼の根城に侵入する際に、その能力が重宝されることになりそうだ。
一方のエリオスは全身に雷のオーラを纏って肉弾戦を挑む脳筋タイプだ。
彼の体から放たれる電気のエネルギーは、敵を麻痺させるだけでなく、彼自身の攻撃力をも大幅に強化するらしい。
戦闘スタイルはシンプルだが、その圧倒的な力とスピードは敵にとって脅威となるだろう。
カイのバフ能力についても紹介した。
リリスは目を丸くして驚き、カイは「いやいや、そんなことないですわ。」と言いながらも、嬉しそうに照れていた。
「ただ、ワシ自体は全然強くないから、しっかり守ってや。」
と、申し訳なさそうに、しっかり付け加えることも忘れていなかったが。
◆◆◆
依頼主の少年とは、村から少し離れた街道沿いで落ち合う予定となっていた。
既に夕暮れ時、空は鮮やかなオレンジ色と紫色に染まり、日が沈むにつれてその色合いはますます深くなっていく。遠くの山々はシルエットとなり、空のグラデーションと美しく調和している。
「お、あれじゃないすかね?」
前方を何となく眺めていると、小さな岩に腰掛けている人影が目に入った。
馬車は速度を緩め、その人影の前で止まった。
そのまま俺たちは馬車を降りる。
「やあ、君がルシアンかい?」
リリスが気軽な感じで、その少年に問いかける。
薄暗い光の中で、その金髪はまるで光を放つかのように輝き、エメラルドグリーンの瞳は何となく神秘的に見えた。
静かな夕暮れの風景に溶け込みながらも、妖艶な雰囲気を漂わせている。
「はい、そうです。僕がギルドへ依頼しました。ただ、見ての通り、ご期待に沿えるような報酬はお渡しできそうもないのですが……。」
そう言うと、申し訳なさそうにうつむいた。
「気にすることは無い。今回はギルマスからの直接依頼だ。放置しておくと近隣の街にも影響が及ぶだろうとのことで、ギルドでプールしてある資金が割り当てられる。」
その言葉にルシアンは顔を上げる。
「このまま我々を連れて村に戻るわけにもいかないだろうから、ここで話を聞かせてもらうよ。詳細を教えてくれるかな?」
リリスは真面目な口調で少年に問いかけた。
「はい、事の始まりは今から三か月くらい前、村に美しい女性が訪れたことでした。」
ルシアンの説明が始まった。
その女性の名前はキストピア。
優雅な立ち振る舞いと微笑みは、まるで光が差し込むように村全体を明るくした。彼女の長い黒髪は風になびき、透き通るような白い肌はまるで陶器のように滑らかで、深い赤色の瞳は、見る者を引き込むような神秘的な輝きを放っていた。
村人たちは、彼女の古風な話し方に引き込まれ、その優しい言葉に心を癒された。キストピアは村の子供たちと遊び、老人たちの話に耳を傾け、誰に対しても親切で思いやりのある態度を見せた。
彼女の存在は、寂れていく村に新たな希望と活気をもたらした。
それが、ルシアンが見た、村の最後の平和な光景だった。
ルシアンは出稼ぎの為、ゼフィロンで二か月ほど過ごし、その後、村に戻ると全てが一変していた。村は異様な雰囲気に包まれ、禍々しいマナが充満していた。
不安に思いながら、足を踏み入れるとそこには変わり果てた姿の村人たちがいた。正気を失っているような彼らの首筋には二つの穴を穿ったような傷跡が刻まれていた。近寄っただけでマナを吸い取られた為、命からがら抜け出し、村の近くで野営していたそうだ。
「何でゼフィロンの宿に泊まらなかったんだ?」
ふと疑問に思って、俺は聞いてみた。
そんな危険な場所の近くで寝泊まりとか、襲われでもしたらどうするつもりだったんだろう。
「そうしたかったのですが、せっかく出稼ぎで稼いだお金を使うことに抵抗があって……。それにこの辺りなら小動物を狩ったり、食用の植物にも困らないことを知っていましたし。」
あぁ、そういうことね。
「なるほど。典型的な吸血鬼災害だね。そのキストピア、恐らくは純血種、に血を吸われた人間はその眷属となり、眷属は人間のマナを糧にして力を増す。」
顎に手をやり、難しそうな表情をしてリリスは尋ねる。
「で、村人全員眷属になったわけだ。三百人だっけ?」
「はい、恐らくは。」
ルシアンは表情を崩さずに答える。
リリスは溜息をつくと、言葉を吐き出した。
「やれやれ。純血種だけでも厄介だと言うのに、そこまでとはね……。眷属となってしまうと、もうそこに元の自分の意思は存在しない。全ては主の為に行動するようになる。人間に戻すことも出来ないから、まぁそういうことになるけど良いよね?」
そういうこと。
つまり殺すしかないってことか。
「はい、もう覚悟はできています。近隣に被害を拡大させないためにも。」
ルシアンは強い決意を込めた瞳でリリスを見つめた。




