タルカル編 第四話 上級冒険者
本日2本目、ラストです!
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「魔法使いですか?」
「そうよ?」
手に持つ魔法帽子をちょこんと頭に乗せて少女は答える。
首をかしげて「何を当たり前のことを」と不思議そうにこちらを窺っている。
こんな美少女に話しかけられただけでなく、僕のパーティーに入りたいと申し出を受けるなんて、これ以上ない幸福だ。できることなら募集条件を書き換えたいぐらい。
もちろんそんなことしたら他の冒険者たちの軽蔑した視線を浴びることになる。
「一応、募集条件には『魔法使い以外』と記載したんですが」
「そうだった? でも魔法使いがふたりいてもわたし良いと思うわよ。魔法使いはできることが多いし、お互い高め合えるしね」
それはそうなんだけど。募集における根本的な部分が解決していない。初心者魔法使い2人では受注できるクエストの幅が狭くなる。
「きみ、その様子じゃまだ仲間ひとりもいないんでしょ? ここ断ったらまたメンバー集め苦労するかもよ」
ほんとうに痛いところをついてくる。魔法使い2人と1人では圧倒的に1人の方が辛い。ほとんど脅しに近かった。
だいたい何故僕なんだ。たしかに初心者魔法使いを歓迎する募集はなかった。それでも駆け出し冒険者の募集はあったはずだ。それに僕が弾かれた女性冒険者という条件に彼女は当てはまっている。
断る理由はたくさんあった。それでもそれを口にするまでには至らない。
何故かは考えなくても分かった。
ああ…………やっぱり僕も根っこの部分は他の冒険者たちと変わらないんだ。
「わかりまs――――」
「おい、ちょっと待てよ」
不意に飛んできた声にせっかくの承諾が遮られる。苛ついているような高圧的な声だった。
見れば身長の高い男を先頭に4人の冒険者がこちらに歩いてきていた。冒険者たちが彼らの進路を防ぐまいと離れていく。4人が放つオーラは他の冒険者とは比べものにならないくらい凄まじかった。
彼らのことをこのギルドに来てからわずか2日ですでに何度も耳にした。
”ジード”パーティ。
『戦士』ジードを筆頭に実力者のみで構成された精鋭パーティー。このギルドでトップを謳う自他共に認めるエリート集団。
「おまえは相応しくねぇよ」
ジードが僕に言った。
冒険者は『上級冒険者』と『普通冒険者』に分けられる。『上級冒険者』は魔王討伐を主な目標としている。クエストをこなす余裕はないため国王からの援助を受けられるが、『普通冒険者』時代に大量のクエストをこなして資金を貯めてから『上級冒険者』となるのが一般的だ。
ジードパーティーのリーダーであるジードは素行が悪く、行く先々で数々のトラブルを起こしてきた。彼が起こしたある事件のせいで国王からの魔王城遠征の援助を打ち切られ、離れたここタルカルで2年間の謹慎を命じられたそうだ。
「お嬢ちゃん、俺らのパーティーに入らねーか?」
さっきは遠目から少女を囲む男どもを眺めていただけだったが、やはり気になっていたようだ。それとも単に僕のような駆け出し冒険者にとられるのが気に食わなかったのか。
『上級冒険者』は『普通冒険者』にとって常に尊敬の対象である。命を賭して世界平和を目指す彼らは高い実力と確かなカリスマ性をもってるからだ。
それが理由で冒険者の中では「『普通冒険者』は『上級冒険者』の行動を妨げてはいけない」という暗黙のルールができあがっていた。
「こんな羽虫すら殺せねぇ弱っちぃ魔法使い構う事ねぇーよ。お嬢ちゃんにはもっと高いところが似合っているぜ」
その”高いところ”こそ自分だと言いたいんだろう。
もっともではあるが流石に腹が立つ。僕は応募を受けた側だ。なんでこんな侮辱を受けないといけないんだ。
「私たちのところにくれば好きなだけ遊ばせてあげる。お金ならたくさんあるんだから」
「そうだ、クエストだって俺らがすぐ片付けてやる。もちろん魔法の練習時間だってとれるだろうさ」
ジードパーティーの『魔法使い』と『魔法戦士』であるメリッタとエナドが言う。
このふたりもジードに負けず劣らずの実力者。それに加え美男美女である。彼らの溢れんばかりのカリスマ性から、活躍していたときは”追っかけ”のようなものも存在していたとか。
世界はこうも理不尽なのか、2人の顔を眺めてそう思う。
ちなみにもう1人は『聖職者』のミルシェ。パーティー最年少で無口な彼女だが彼らのパーティーに所属しているぐらいだ、きっと優秀なのだろう。
「ごめんなさい、わたしこの方に決めたので」
少女が応える。一切怯怯むことなく『上級冒険者』の誘いを断った。
意外だった。適当に選んだのが僕が出した募集だっただけだと思っていた。だから好条件の勧誘があればそちらに乗り換えるだろうと。
それにまだ僕たちは正式なパーティーではない。
「おいおい、正気か? こんなやつのパーティーに入ってなんになる? どうせ初級クエストでコロッと逝っちまって終わりだ」
ジードが呆れたように言う。
俺の何を知っているんだ。誰しもが駆け出しのころは存在していて、それを乗り越えて今があるんじゃないか。
心の中でそう叫ぶがもちろんジードには届かない。
「あら、そうかしら?」
少女は立ち上がると僕を一瞥し、僅かに微笑んだかと思うと
「彼、結構やると思いますよ」
ジード向かってそう言い放った。
さすがに予想外の返答だったのだろう。4人は少し面食らったように固まってる。
期待してもらうのはありがたいが、今の僕は的すらまともに壊せない弱小魔法しか扱えない。申し訳なさからさらに小さく縮こまってしまう。彼女が自信満々なのが不思議なくらいだ。
「おもしろい。なら勝負してみるか?」
エナドが言った。
え?
「こいつが勝ったら俺らは諦める。2人で冒険者ごっこでもやったらいい。ただし、俺が勝ったらきみは俺らのパーティーに入る」
「え……ええ、構わないわよ」
「ちょっと待ってください。なんでそんな勝手に!」
さすがに割って入った。なにやら事が大きくなっている。
彼女もなに勝手に決めているんだ。というか少女も一瞬躊躇ったようにみえたのだけど。
我が身を賭ける勝負なんて彼女にとってリスクが大きすぎる。初対面の正体も分からない少年に託してよい案件ではない。第一僕じゃ彼らに敵わない。
「おいおい、怖じ気づいたか?」
「そもそも僕は勝負するなんて……」
勝負を受けても晒し者になるだけで僕にメリットがあるわけではない。
強いていうなら彼女を仲間にできるかもということだけ。
そして彼女がジードたちのパーティーに入ることを阻止できるということだけ。
あれ? 悪くもな――――
「別におまえが勝負を受けないっていうんならそれでもいい。ただお嬢ちゃんを頂くだけだ」
「そうだな。たっぷり"御奉仕"させてやる」
ジードとエナドが言う。
「退屈していたところだしねぇ。その態度も躾ける必要がありそうだし」
3人が下品に笑う。不快だった。
「待て」
さすがにそれは許容できない。
そう思った瞬間、僕の口から言葉がこぼれていた。それも使い慣れないタメ口で、3人を睨みつける。
「おや?」
「ソラくん」
上目遣いでこちらをうかがう少女。
しまったと一瞬思った。けれども考えてみる。
本来なら『普通冒険者』の僕らは彼らに逆らうことができない。少女は言われるがままにパーティーに加入する他ないのだ。
せっかく貰ったチャンス。自分で潰してしまうのはもったいなくないか。後悔だったら後からでもできる。
一度開き直ると早かった。
「分かりました、やります」
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