表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
79/171

モルトゥルク編 第四十五話 二人の魔法使い

ソラ視点

「魔力に自信はありますか?」


 エルティナがピタリと固まる。しかしすぐに「うん!」と頷くと


「人よりはあるよ!」

「分かりました。ちなみにその武器たちは?」

「ソラくんを追おうとキルのお店飛び出すときに持ち出してきた。何が必要か分かんないから適当にたくさん!」


 エルティナが動くたびに抱えた武器たちがガチャガチャ音をたてる。


「あとでキルに謝らないと」


 無許可で持ってきたの!?

 どうやら彼女は後先考えないで行動する人のようだ。分かっていたけど。

 

 エルティナの説明に困惑しながらもどうにか作戦を組み立てる。


「魔法の撃ち方分かります?」

「魔法……?」

「あ、いや、魔法を習得しているかではなく…………魔法杖を使って魔法をどう放つのかイメージできますか?」


 「なんでそんなこと訊くのか」といった様子で首を傾げるエルティナ。抱えていた魔法杖を手にとり感触を確かめている。

 彼女は戦士よりも魔法使いが似合っているように思う。はつらつとした性格で無邪気に魔法を撃ち込む、なかなか恐ろしいがしっくりくる。


「いけるよ! これでも魔道具店で働いてるんだから!」


 自信の在処を尋ねたくなるくらいハキハキ応えた。

 返事が軽くて途端不安になったが、あとは彼女が持っていそうな飲み込みセンスに任せることにする。


 さっきまでの戦闘で、ハノークは一度も魔獣を同時に仕向けることはしなかった。そうすれば簡単に僕を殺せたというのに。

 洗脳魔法でわざわざ仲間を殺させるという選択をとったハノーク。流儀なのかこだわりなのかは知らないけれど、突くとしたらそこしかない。


「一旦武器は置きましょう。魔法杖だけ持ってください」


 ハノークを注視しながらエルティナに指示を飛ばす。意図も訊かずに素直に聞いてくれるのはありがたかった。


「何を――――」

「ちょっと失礼します」


 隣で指示を待つ彼女の手をとった。エルティナがピクッと肩を震わせる。


「ソラくん急に何を……!」


 何か勘違いした様子で顔を赤らめるエルティナ。彼女を無視して魔力を魔法杖に流すことに集中する。


譲渡魔法(フォグトリック)閃撃魔法(ライフォース)』」


 エルティナの手と触れ合っている右手がじんわりと熱を帯びてきた。僕の体温と魔力の熱が混ざり合って、閃撃魔法が彼女へと『譲渡』されていく。身体を伝う感触に何かを感じとったのか、驚くように彼女が見つめてくる。


 エルティナの手を解放すると、魔法杖をハノークの横に佇む巨躯へ向けた。


「ソラくん、これって…………」

「今、エルティナさんは閃撃魔法を放つことができるようになりました」


 エルティナが黙って息を呑む。


「魔法を杖の先端から放つイメージを持てば簡単に撃つことができると思います。反動が怖いので魔法杖は念のため両手で構えてください」

「こ、こう……?」


 ぎこちない仕草で顔の前に魔法杖を構える。初めてにしては様になっていた。


「僕の合図であの黄色い魔獣に向けて魔法を撃ってください。なるべく長く」

「分かった!」


 魔法杖を構えた彼女の腕が震えている。

 僕も初めて魔法を撃ったときはこんなふうに震えていたものだ。自分の中を自分ではない何かが駆け巡る感覚。それが眩い光となり前方へ撃ち出されたときのあの快感。忘れようにも忘れられない。


「目の前で作戦会議とか舐めてるの? それにこいつに攻撃するのは止めた方が良い」


 蚊帳の外となっていたハノークが口を挟む。

 聖獣がいる限り、ハノークに触れることなく彼を無力化させることはできない。魔力が残っている今優先すべきは、閃撃魔法で退けることができる魔獣よりも一人じゃ歯が立たない聖獣だ。


 ハノークが手首を返す。それを合図に静観をきめていた魔獣が僕らに向かって牙を剥いた。


閃撃魔法(ライフォース)


 噴き上がる血しぶきにエルティナが顔をしかめる。断末魔を上げて地べたを滑る魔獣はやがて家屋にぶつかって制止した。


「エルティナさん見ましたね」

「うん……」


 エルティナの口調に恐怖と動揺が含まれだした。魔獣とはいえ命が終わった瞬間など縁のない人にとっては地獄に映るだろう。

 

 ハノークの動きがない。仕掛けるには絶好の機会だ。

 彼が息を吸い込むその一瞬に、


「今です!!」


 僕は叫んだ。


閃撃魔法(ライフォース)!!」


 威勢のいい掛け声に乗って、エルティナの魔法杖から純白の光が聖獣へ向け放たれる。勢いよく飛んでいく魔法は聖獣の毛で覆われた顔面の中心に命中した。

 驚いた。精度は偶然だとしても、彼女の放った光線は威力も規模も僕のものと大差ない。眩しさに目を細めたくなる純白の光は美しい軌道で僕を魅了した。


 自然と魔法杖を握る手に力が入る。

 身体を循環する魔力を魔法杖へ繋ぐ一本線へ誘導する。淀みなく清らかな魔力の流れに閃撃魔法を司る光波を宿していく。エルティナのものよりも眩しく、緻密で強力な一発。

 狙うべきは聖獣の身体でもっとも光輝いている部分、つまりエルティナの閃撃魔法が命中している一点のみ。


閃撃魔法(ライフォース)!!」


 魔法杖に伝わる衝撃に杖を押し返す。煌めく二本の光線。譲渡魔法の本来の目的「魔法使いを擬似的に増やす」まさしく今の状況だ。隣の彼女に遅れをとりたくなくて少し力んでしまった。

 

 徐々に接近していく二つの魔法はやがて――――聖獣の顔面で衝突した。


 グオォォォ!!!!


 空気の震えが僕の身体までもを震わせる。全身にのしかかる重低音が響き渡った。家屋のガラスが揺れてカタカタ音を立てている。

 真っ赤な目だけを覗かせる聖獣の瞳に殺意が芽生えたことが分かった。洗脳下にありながら、やつは憤慨している。獣毛が小刻みに揺れ、粗い呼吸を繰り返す聖獣の顔面には、閃撃魔法が命中した焦げ痕がしっかりと残っていた。

 

 額に埋められた黄金色の宝石が、聖獣の怒号に呼応するように強く閃く。


 初めて聖獣に攻撃が効いた。手に残る確かな感触を噛みしめる。

 この調子でいけばもしかしたら倒せるかもしれない。あとはエルティナの魔力が尽きないことを祈るだけ。


「エルティナさん、もう一度――――」

 

「ソラくん危ない!!」


 エルティナの声に聖獣から目線を切る。彼女の顔へ向こうとする視界の端に鋭く尖った二本の牙が映った。世界が途端スローモーションになる。

 鼻息が掛かるほどの距離まで迫った魔獣は、大口を開けて僕の頭を噛み砕かんと飛びかかっていた。


 魔法を放つ余裕も避ける余裕もなかった。さっきまで静観を決めていた他の魔獣が、死角から襲いかかってきたのだ。

 僕を見つめるハノークが目を細める。僕のあっけない最期を哀れんでいるかのように。


 どうにか身体を動かさないと…………このままだと食われる…………


 突然、光が頬を掠め熱波が肌に伝わってきた。ヒリヒリする頬を生暖かい滴が一筋流れ落ちる。

 顔の傍を通っている光線に遅れて気づいて、ぎょっと目を見開いた。


 苦痛に満ちた咆哮を上げて魔獣が吹き飛ぶ。

 

 エルティナが放った閃撃魔法は僕に迫っていた二つの凶器を完璧に退けていた。


「大丈夫!?」


 魔法杖を下ろしたエルティナが僕の頬に触れる。彼女の指が赤く染まったのを見て、出血していたのだと気づいた。


「ごめん、当てないようにと思ったんだけど」


 あわあわしながらハンカチを取り出し、僕の傷口に当てる。チクッとする痛みよりも、湧き上がる衝撃にただ彼女の顔を呆然と見つめていた。


「大丈夫……?」

「あ……は、はい。助けてくれてありがとうございます…………あんな一瞬で魔法を当てるなんて凄いですね」


 徐々に起こった出来事を理解するにつれて、その衝撃が鮮明になってきた。

 

 エルティナに助けられた。それも僕が譲渡した閃撃魔法で。

 身体の適性と、感覚やセンスが異なっている冒険者もいるとは聞いたことがある。適性は聖職者でも剣術の飲み込みが早かったり、体捌きに拳闘家の素質があったり。


 僕なんかよりも才能あるんじゃないかと嫉妬すら覚えてしまった。


「はぁ……」


 苛立ちを露わにする溜息と舌打ちが聞こえてきた。エルティナと二人でハノークとふたたび向かい合う。

 ハノークが聖獣を一瞥した。主人の目線に聖獣も鋭い眼光を返す。

 

 彼は手にした魔法杖を隣の聖獣の横腹に容赦なく突き刺した。先端の尖った魔法杖が獣毛と皮膚を貫通する。

 痛みにもがく唸り声がこだまする。


「ソラだけは生きていて欲しかった。きみはまだ『死ぬべきとき』じゃないから。でももう無駄みたい」


 ハノークが濁った空に手を掲げる。


 グルルルル……


 唸り声が聞こえてきた。それも一つや二つではない。数を把握できないくらいの音の波が押し寄せてきている。

 聖獣の背後、ハノークに見え隠れしながら魔獣が姿を現わした。聖獣に見切れた傍から新たに魔獣が現れる。一体、また一体。


 全部で八体の魔獣がハノークを取り囲んだ。どれも目が真っ赤で操られているのは明白だった。


「みんな命令だよ。『あの二人を殺せ』」


 グルルァァァ!!


 ハノークの命令に魔獣たちが咆哮で応える。

 足を踏みならして突進の準備をする魔獣。操られているあいつらはきっと死ぬまで僕らを殺そうとしてくる。何度吹き飛ばされてもその身果てるまでは、ずっと。


 この数をいったいどうやって攻略する? 僕の使える魔法は閃撃魔法と譲渡魔法、浮遊魔法ぐらい。エルティナは? 彼女の剣術で隙をつくってもらって……

 いやその間に他の魔獣に襲われて終わりだ。今のハノークはもう一体ずつなんて流儀は捨てている。


「ソラくん! 飛行魔法使える?」


 突然エルティナが僕に問いかけた。

 

「え……? いえ、使えませんが……」

「じゃあ何か移動に便利な魔法ある?」

「えっと……便利ではないですが、浮遊魔法ならあります」

「なら今すぐ使って! 早く!」


 何か策があるのだろうか。心配だけど彼女の表情は本気だった。


浮遊魔法(フローティング)!」


 浮遊感とともに僕の身体に浮き上がる。魔力を調整してエルティナと同じ背丈くらいまで浮遊した。


 エルティナは置いていた聖剣を腰に据え、魔法杖を片手に持つと


「ごめんね、いくよ」

「え!?」


 脇に身体を入れ僕を持ち上げた。元々浮いていたわけだから「抱き寄せた」の方が正しい。

 正面から彼女の半身に身をあずけ、脇より上は彼女の背側に投げ出されている。エルティナは僕の腰に手を回し、片腕でフワフワした僕の身体を支えた。


「エルティナさん……何を……?」


 僕の問いかけには答えずに「持ってて」と魔法杖を僕に押しつけてくる。

 懐を漁っていたエルティナが取り出したのは麻袋に収まった大量の魔石。半透明の石肌から内に揺らめく朱色が見える。衝撃を与えれば簡単に爆破する危うい魅力を抱え、エルティナが振り返った。それに合わせて僕の視界も逆転し、魔獣たちに背を晒す。


 背後から迫ってきている魔獣の群れの気配がする。はやく反撃しないと――――


「ソラくん耳塞いで! はやく!」


 まさか…………

 エルティナが振りかぶった。彼女の動きに合わせて揺れる視界に酔いながら急いで耳を塞いだ。


 刹那、けたたましい爆発音が鳴り響いた。背中を向けていても熱風に肌が焼けそうになる。

 エルティナが魔石を魔獣の群れに投げたのだ。なるべく魔獣たちがハノークから離れて彼を巻き込むことがない位置まで引きつけて。


 首を回して後ろを見ようとしたとき身体がふたたび反転した。視界に飛び込んだのは魔獣たちが轟音とともに業火に焼かれる光景。四肢の一部を欠損した魔獣がふらついて、隣で燃える仲間の亡骸に崩れ倒れた。


 そんな光景を眺めていた視界が揺れだし、高速で街並みが流れていく。


「逃げるよ!!」


 僕を抱えたままエルティナが走り出した。

ここまでお読みいただきありがとうございます


次の投稿はあさってです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ