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モルトゥルク編 第二十四話 犯人は?

「どうして犯人は殺傷能力の低い”短剣”を使っているのかってことさ」


 尖っている先端を向けられて顔をしかめる僕にハノークが告げる。


「犯人はまず短剣で背中を刺して、仕留めきれなかったら全身を滅多刺しにしている。背中に不意打ちが基本の犯人がなんで一撃で仕留めきれる可能性が低い短剣なんか使っているんだ? 日常的に防御装備をしている冒険者だけを狙っているのならなおさらだよ」


 魔法杖を自分の胸付近に刺す素振りを見せるハノーク。「短剣なんてこの魔法杖と大差ない」とも言っている。


「路地みたいな狭い場所だから、扱いやすいものを使っているだけなんじゃないですか? あと隠しやすいからバレにくいとか」

「うんうん、他には?」

「えっと、反撃されても対処できる自信があるとか」

「いいね」


 自分の疑問が簡単に解かれたというのにハノークは何故か満足そうだ。


「推理らしくなってきた。ソラの言ったこと、すべて理にかなっていると思うよ。逆に言うなら、その条件に見合う人こそが怪しいってことになる」

「条件に見合う人?」

「例えば『戦士』は聖剣を持ち歩いていても目立つことはないし、いくら狭いからって扱いやすいのはそっちだ。『魔法使い』ならわざわざ近づいて殺すなんて自分の強みを潰す殺害方法はとらないだろう」


 ハノークの言いたいことが分かってきた。

 1つの情報から疑問点を見つけ出す。その疑問点を解決する特徴を挙げていき、それが犯人という像を形成する新たな点となる。


 ちょっと楽しいかも。


「じゃあ冒険者以外は?」

「冒険者だと仮定する一番の理由は『反撃されても対処できている』からだね。たかが短剣1本で抵抗する冒険者を、1度も失敗することなく殺害し続けるなんてなかなかできない。そんな技を持つ一般民を探すのは、譲渡魔法を隠し持った冒険者を探すくらいに骨が折れる」


 ハノークのいじりにも慣れてきたので、動揺することなく「はいはい」と先を促す。彼の方が若干手応え不足で不満そうだ。

 

「可能性はあるけど僕らに特定は難しいってことですか?」

「別の理由に絞ればもしかしたら可能かも。反撃の可能性を考慮しても、短剣を使う理由がある人とか」

「そんな人います?」

「さあね。俺は探偵じゃないし」


 急に突き放すようなことを言うハノーク。てっきりこの話の流れのままに犯人を突き止めるのかと思っていた。

 

 犯人を示す点が増えれば増えるほど繋ぐことが大変になる。どことどこを繋げば正しい線となるのか下書き状態の推理上では、予測することすら難しい。

 今はこれ以上考えても疲れるだけ、そう諦めることにする。

 

 代わりに僕が気になっていたもう一つの情報についてハノークに助言を請おう。


「じゃあ被害者が背中を刺されている点についてはどう考えていますか?」

「お! どういう趣旨の質問かな?」

「こんだけ冒険者が殺されているんです。路地なんて暗くて狭い場所で知らない人に背を向けるなんて、少し無防備じゃないですか?」


 犯人の違和感のあとは被害者の違和感。すっかり犯人を追い詰める探偵気分。


「うーん、一番単純な理由でいいんじゃない?」

「というと?」

「犯人と被害者が隙を見せるほどの仲だってこと」


 隙を見せても良いような仲と聞いて一番初めに思い浮かぶのはパーティーメンバーだ。仲間で一緒に行動している人ならば警戒なんてしないだろうし、さりげなく路地に誘われても従うだろう。

 僕だってクロンの言葉だったら、理解できなくても言うことを聞くはず。もちろんそれはエリサやミルシェだって同じこと。


 しかしそんなわけないと分かってもいる。だって


「連続殺人なのでありえないですね」


 被害者全員とパーティーを組んでいる人なんていない。


「別にパーティーメンバーだけとは限らないよ」

「え?」


 見透かしたようにハノークが言った。


「ある程度仲が良ければ隙を見せることもあるだろうさ」

「人望がある人ってことですか?」

「それか仲良くなる機会をたくさんもっている人とかね」


 ピンとこなくて首を傾げる僕に「俺も分からないよ」と首を振っている。

 

 やっぱりこれだけの情報で犯人を特定するなんて無理なんだ。ハノークからの推理によって解決に向けて前進できているが、ここまでのようだ。

 議論が滞ってきてハノークとともに黙り込んでしまう。断片的な情報が巡る頭がこれ以上考えることを拒絶している。朝の限界が来てしまった。


 空が明るくなってきた。不透明だった空が鮮度の高い青で満ちていく。モルトゥルクの朝が今日も始まる。


「ありがとうございました。気絶には見合ってるのかは分かりませんが」

「元々『短剣を使う人はどんな人でしょう』なんて曖昧に答えるつもりだったんだ。それがあんなことになって少し親切にしたまで。それで感謝されるならありがたいよ」

「それ言わない方がよくないですか?」


 正直に白状したハノークに苦笑する。


「じゃ、僕はそろそろ帰らないと」

「今度は怪しまれないように気をつけて」

「はい、さようなら」


 マラビィになのかクロンたちになのかは分からなかったが、元気に返事を返して手を振った。

 背を向けて走ろうと息を吸い込んだが


「ソラ」


 ハノークに名前を呼ばれて振り返る。


「なんですか?」

「必ず犯人見つけてね」


 予想外の言葉に面食らう。さっきまでの彼とは雰囲気が異なっている。僕の傍にいたはずの彼がはるか遠くに感じられた。

 期待に満ちた柔らかな視線を受け、「はい!」とまた元気に返事をしたあと


「まかせてください!」


 と威勢よく応えた。



   *   *   *



「元気だね」

「うぇっ!」


 宿の扉をそっと閉めてベットに潜りこんだ瞬間、隣からはっきりとした声が聞こえた。恐る恐る首だけ回して隣を見ると、目を開けて天井を見つめているクロンがいた。

 彼も同様に首だけをこちらに回して、僕と目が合う。


「日課は欠かせない、と」

「起きてたんですか?」

「昨日はソラが寝てすぐに休んだから、たまたま目が覚めた」


 迂闊だった。僕が早めに寝たということは他のみんなもそうした可能性があったのだ。


「で、何を話してきたの?」

「…………そんなことも分かるんですか?」

「さあね。ただソラが昨日の青年と仲良くなる機会なんて、ここぐらいじゃない?」


 察しが良すぎるよ。

 こうなるとたまたま目が覚めたという言葉も怪しくなってくる。ほんとうは問い詰めるために起きていたんじゃないか。

 

 観念してベットから起き上がる。クロンの方を向いてベットの縁に腰掛けた。

 クロンは身体を回して横向きで寝転がっている。


「エリサたちには内緒にしてくれますか?」

「ソラが寝た後でその青年にずいぶんご立腹だったから、俺が黙ってても今日あたりに詰められるよ」


 それは大変困った。言い訳を考えておかなくちゃ。


 ハノークから受け取った推理はどうせパーティーで共有しないといけないんだから、今クロンに話した方がいい。むしろクロンと2人っきりの今が絶好の機会だ。


「クロンは背中を不意打ちで刺している点をどう思いますか?」

「…………ああ、殺人事件の話か。急に何の話かと思った」


 クロンは起き上がるとベットの上であぐらをかいた。


「俺だったら首を狙うのになってぐらいだなぁ」

「首……ですか?」


 物騒な発言に思わず聞き返す。

 

「うん。一撃で仕留めたいなら背中より首だ。それなら反撃もされにくい。背中よりも的が狭いから難しいっていうのは分かるんだけど、俺なら迷わず首を狙う」


 ハノークがマラビィとの戦いで首を狙っていたことを思い出した。

 

「武器を扱い慣れていないってことですか?」

「人に刃物を刺すなんて慣れないほうがいいけどね。ここまで頑なに背中を狙うのは、それで十分だと考えているから――――なのかな」


 頭が疲れたから帰ってきたのだいうことを思い出した。「うーん」と唸りつつ働いていない脳をぼんやりと動かす。

 短剣を使う理由も同じなのだろうか。単純にこれで十分と考えているから、一番扱いやすい短剣を使っているとしたら。


「あーもう分かりません」


 掛け布団を乱暴にめくり上げてその中に潜り込んだ。


「あれ? また寝るの?」

「はい、疲れたので。クロンもどうせ2度寝するんでしょ?」

「そのつもりはなかったけど、ソラが寝るならそうしようかな」


 クロンはそう言うと僕に習ってベットに戻った。ベットから起き上がったときと比べて、やけに素早く手慣れた動作だ。

 

 それからエリサとミルシェが起こしに来るまで僕らは睡眠を貪った。

ここまでお読みいただきありがとうございます


次の投稿はあさってです

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