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モルトゥルク編 第五話 新メンバー!?

 中層地区を一通り見て回った僕ら。エルティナはクロンとの会話に夢中になって案内らしい案内はなかったが何となくの構造は把握できた。中層地区には商店以外にも僕らが利用することになる宿屋やモルトゥルクの歴史についての展示をしてある施設などもあった。観光客はここが主な活動区域となるのだろう。


 下層、中層ときたらもうひとつ層があるはず。そう思って夢見心地なエルティナを引っ張ってさらに街の中心へと移動した。


 中層を回っていたときからチラチラ視界に覗いていたが、いざ実際に目の前に立つとその規模と深さに底知れぬ恐怖を感じる。


 中層地区を輪形に型どっていたのは水路ともうひとつ、大きな空堀だった。


 足が竦むほどの深さと中心の区画をぐるっと切り取る大きさは、街と一体化していた水路とはまったくの別物だ。

 空堀の両岸には無機質な柵が張り巡らされて落下事故を防いでいる。


「中層はここまで。ここからあの橋を渡った先が上層ね。あそこは街のお偉いさんとか『魔討士団』の隊長クラス、それに税金をたくさん納めているお金持ちとかが住んでるの」


 エルティナの視線の先には金属製で頑丈そうな橋が架かっていた。その入り口には関所のように厳重な警備体制がしかれている。

 下層から中層に行く橋とはずいぶん違う。


「警備厳重すぎない?」

「あの橋は上層に住んでいる人じゃないと通れないの。だからいちいち通行人の身分を確かめてる。そのおかげで上層では犯罪がほとんど起こらない。お金で安全を買っているのね」


 意外にもしっかりとした説明で驚いた。さっきまでのエルティナなら「なんでだろうねー」とはぐらかしてクロンに別の話題を振っていただろう。

 クロンのせいで変になっているが孤児院で働いているほどだ、意外と真面目で頭もいいのかもしれない。


 僕らには無関係だ、そう思って宿探しに来た道を引き返そうとしたとき


「ねぇ、クロン」


 荒めの息づかいとともにエルティナがクロンを引き留めた。さっきまでの甘えた明るい調子ではなく何か大切なことを告げるときのような真剣な響きだった。


「なに?」


 エルティナと僕ら4人で向かい合う。

 告白でもするのだろうか。長年の思いの丈をキルガレスがいなくなったタイミングで打ち明ける。打ち明けなくてもみな知っているけどありえる話だ。


「わたしね、キルガレスには黙っていたけど冒険者でもあるの」

「え?」


 クロンとともに僕も心の中で聞き返していた。彼女が冒険者?


「どういうこと?」

 

「クロンが旅にでちゃったあと、クロンがいない現実を受け入れきれなくて、わたしも冒険者登録をしたの。いつかクロンが新たに誰かとパーティーを組みたくなったときに入れて貰おうって」

「そんな、モルトゥルクで仲間を探すかすら分かんないのに。いくら何でも無謀だ」

「そうだよね。たぶんあのときのわたしはまだクロンと一緒にいられる可能性に縋っていただけだったんだと思う。けど意外と冒険者としての鍛錬も面白くって、できることができる度にワクワクした」


 エルティナの真剣な眼差しがもう一度クロンを貫いた。

 そして深呼吸で気持ちを入れ直したであろうエルティナが、声を張って告げた。


「わたしの役職は『戦士』。だからわたしをクロンのパーティーに入れて!」


 え? 嘘でしょ!?


「ちょっと待って! 本気?」

「めちゃくちゃ本気! ソラくんとエリサちゃんは魔法使いで、ミルシェさんは聖職者でしょ? そしてクロンは模倣者。前衛だったら無駄にならないと思う! 絶対役に立ってみせる!」

「急に言われても…………」

「お願い!!」


 僕らに向けても頭を下げたエルティナ。きっと彼女は本気だ。

 たしかに前衛不足でクロンの負担が大きいとは感じていたが、エルティナは出会って1発で見抜いてしまったのか。というか僕らの役職も把握した上でとはなかなかの策士。


「事情は分かんないけどハイドと何かあったんでしょ? わたしが代わりになれるように頑張るから!!」


 クロンがモルトゥルクに僕らといることに一切疑問を抱いてないように見えたエルティナ。ただ鈍感なだけだと思っていたが、そこまで見抜いていたとは。幼馴染みとはやはり凄い。

 

 クロンに彼女が畳みかける。


「戦い方はキルと冒険者との会話を聞いてある程度理解してるし、キルに内緒で特訓もした。だから足は引っ張らない!」


 チラチラ僕らのことも気にかけるようにこっちの様子をうかがい見る。僕らはただ彼女に圧倒されてクロンの返事を待つことしかできなかった。

 エルティナとのパーティーは騒がしくなるだろうとは思う。それで僕らに何か不都合があるかと聞かれれば首を横に振るだろう。楽しい旅に越したことはないのだから。


 このことはクロンに一任する。少なくとも僕はそう決めた。


 ハイドのことを口にだしてから黙りこくってしまったクロンを下から覗き見るエルティナ。


「もちろん、今すぐに返事をして欲しいわけじゃないよ。モルトゥルクにはしばらくいるんでしょ? その間に考えておいてくれたらいいから」


 そういうとエルティナはからりと笑って元の明るい彼女に戻った。「さ、はやく行こ!」とクロンの袖を引っ張っている。


「おまえさ、そういうことは最終日で言えよ」

「そしたら絶対断るでしょ! 長い時間考えてくれれば、もし断られてもわたしをたくさん想ってくれたことになるから良し!」

「じゃあ断ります」

「もっと真剣に考えて!!」


 頬を膨らませながらエルティナが怒る。

 クロンの目的を考えるとエルティナを入れることはできない。それはクロンも分かっているはずだ。クロンを抜いた僕らのパーティーに残ってくれるのならそれでもいいが、たぶん彼女は望まないだろう。だって彼女の目的は冒険者になることではなくクロンと一緒にいることだから。


「エリサちゃんたちごめんね、こんなよく分からないお姉さんと同じパーティーだと嫌かもしれいけど、入ったら真面目にするし仲良くするから!!」


 返す言葉が見つからずに軽く頭を下げた。


 彼女はそう言うとさっさとクロンすら置いて歩いて行ってしまった。


「クロン、どうするんですか?」


 クロンの元に駆け寄って訪ねる。


「どうするもなにも、断るしかないよ。この旅にエルティナを連れていくといろいろ面倒だし」


 1度言葉を区切るクロン。そして


「たぶんあいつ、ハイドのことがあまり好きじゃない」


 エルティナの背を見つめながらそう言った。


「そうなんですか?」

「なんとなくね。俺がハイドのことを話題に出すと露骨に嫌な顔する。まるで敵だと思っているみたいに」

「あ、それって――――」

 

「ハイドさんに嫉妬してるんじゃない?」


 ニヤけ顔でミルシェが言う。彼女はハイドとクロンの関係を説明したときやけに感銘を受けていた。「素晴らしい関係」と幼馴染みであり親友の2人を褒め称える彼女は、どこか懐かしむような顔をしていた気がする。


「ハイドさんにクロンさんが取られていることが悔しいのよ」

「エルティナに限ってそんなこと」

「クロンさんは乙女心が分かっていないね」

「乙女心……乙女心?」


 見知らぬ響きを反芻して、何とか自分の中に落とし込もうとしているらしい。

 ハイドを追いかけすぎてその他のことについて彼は興味がないままだったのだろう。勇者に寄添う者の宿命というかなんというか。


「乙女心はそのうちクロンに教えるとして、はやく追わないと見えなくなるわよ、彼女」

「そ、そうだね。一旦忘れよう!」


 スキップしながら何故かご機嫌なエルティナ。彼女を見失う前に4人で急いで背中を追った。こうして見ると少しお転婆な仲間を追いかけるメンバーのようだ。そう思うと彼女との旅も悪くないかもと思えてしまう。



 ぐんぐんスピードをあげるエルティナ。僕らのことを忘れているんじゃないだろうな。

 まずい、ほんとうに追いつけないかも。僕らがそう思い始めたとき、彼女の暴走が突如停止したのは他でもない、


 血溜まりに倒れる冒険者の死体を発見したから。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

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