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モルトゥルク編 第一話 モルトゥルクの街

モルトゥルク編スタートです!

「モルトゥルク? 行ったことないわ。だってそこって冒険者が権力を持っている街よね? お父様が近づいちゃダメってうるさかったから」


 エリサにモルトゥルクを訪れたことがあるか尋ねたことがあった。まだエリサと出会って日が浅い、悪魔騒動よりも前だったと思う。


「家族が行ったりは?」

「お父様はそりゃあ行っていたでしょうけど、お父様の言いつけを守らない人なんてうちにはいなかったわ。というより、なんでそんなこと訊くのよ」


 断言するくらいならそうなのだろう。


「ちょっと気になっただけ。冒険者がはびこる野蛮な街にお嬢様が行ったことあるのかなって」

「なによそれ。ソラも野蛮人ってこと?」

「別にそういう訳じゃないよ。冒険者っていうのはある一定の時期を過ぎてから2つに分かれるんだ。冒険者という肩書きを人を助ける原動力にする人と、乱雑な振る舞いの免罪符にする人。僕らは雄雌すら分かっていない卵に過ぎない」


 とあるお話の受け売りだが冒険者差別の本質である気がした。前者に多く出会った人ならば冒険者の価値を理解してくれるし、後者の方ばかりに目がいけば当然冒険者をただの野蛮人としか考えられなくなる。各地の冒険者差別も巡り合わせが生んだ不運なのかもしれない。


「わたしたちはどっちになるか分からないってこと?」

「そうだね。自分でコントロールできるものなのか分からないけど、冒険者に憧れていた小さい頃を思い出すことができれば、認めてもらえる冒険者になれるはずって思うんだ」


 

   *   *   *


 

 あまりの眩しさに思わず目を瞑っていた。転送魔法が放つ閃光、もしくは遮られていた日光をいきなり浴びたことで瞳孔が驚いたのかもしれない。

 眩しさが収まるまでしばらくこのままでいようかと考えていたが


「ようこそ、モルトゥルクへ」


 無愛想な男性の声がして、ゆっくりと瞼をあげた。


 まず目に飛び込んできたのは大きな水路だった。清澄な水が空の青を反射してキラキラ輝きながらゆったりと流れている。水路は街の中を弧を描きながら伸びており、川との合流地点を除けば街を丸く切り抜く輪のようだ。


 僕らが今いるのはおそらくギルドのすぐ外。近くにはタルカルのものとは比べものにならないくらい巨大な、ギルドと思しき建物が鎮座している。

 しきりにギルドを出入りする冒険者。その全員が僕らを一瞥した後に眉をひそめては、何やら仲間と耳打ちし合っている。


 おそらく見ない顔の僕らを不審がっているのだろう。こんな場所に駆け出し冒険者っぽい子どもが2人と保護者が2人。端から見れば僕らは異質な存在なのだ。いろんな事情から集まったチグハグパーティー、その目的さえもやはり異質。


「ここがモルトゥルクなのね。意外と綺麗な街じゃない」


 隣でエリサが言った。


 ギルドから見渡せる街並みは、タルカルの東地区と細かい色合いや装飾は異なれど、住宅が街と一体化し整然と建ち並んでおり、秩序ある街として近しいものがあった。タルカルでは鮮やかで明度の高い色が目立っていたが、ここでは落ち着きのある大人しい雰囲気で統一されている。


「ここはギルドが近いから冒険者の家が多いんだ。反対側に行けば期待通りの風景を見ることができるよ」

「冒険者の方が優遇されているなんて不思議な街ね」


 ミルシェが呟いた。彼女はモルトゥルクに来たことがないそうだ。新たな街を物珍しげに眺めている。


「昔、冒険者たちが街壊滅の危機を救ったらしい。今の冒険者優遇はその名残だね」


 クロンの言葉に、以前エリサに話した内容を思い出す。

 2つに分かれた冒険者のどちらと多く出会ったか。いや、正しくはどちらが印象に残ったか。たったそれだけで冒険者への態度が180度変わってしまう。

 モルトゥルクでは、『冒険者という肩書きを人を助ける原動力にする』冒険者が刻んだ有志こそが冒険者という人たちへの全体評価に繋がったのだろう。


「他の街なら差別してくる権力者も、ここでは多少のわがままなら許してくれる」

「まさに、冒険者にとっての楽園ですね」

「”この街の冒険者”にとってのね」

 

 クロンがギルドに出入りする冒険者を眺めて言った。

 その真意は彼らの表情をよく見ればすぐに分かった。各地で行われている冒険者差別とはまた異なる差別がここには存在してる。

 

 モルトゥルクは決して旅をしている冒険者のオアシスにはならない。


 僕らを出迎えてくれた魔法使いの男性はもうどこにもいなかった。おそらく彼は冒険者ではなくギルド職員だ。冒険者同士の牽制し合いには関係ないはず。

 しかし彼が最初に発した『ようこそ』という言葉に歓迎の意が込められているとはどうしても思えなかった。


「さて、まずギルドに入ろうか。次のテレポート先を調べないといけないし」

「お金も足りるか分かりませんしね」

「あら、どうして? 無駄遣いでもしたの?」


 不思議そうにエリサが尋ねてくる。

 もともとの持ち金にだって僕らと彼女には天と地ほどの差があるだろう。共有資金としてお金を集めたとき、硬貨を数えながら渋る僕らを横目にエリサはパッと倍以上の金額を出してみせた。あのときの余裕そうな表情は、僕らに男夜会と称した慰め合いを開かせたほどだ。


「この先、こんな大都市に立ち寄ることが難しくなる。そうするとお金を集める手段が限られるんだ。手持ちは多いに越したことはない」


 クロンの説明に一応納得した様子で頷くエリサ。きっと「だとしても余裕じゃない」とでも思っているのだろう。

 

「じゃあ早速入ろ!」

「そ、そうですね」


 ミルシェの突然の威勢に圧倒されてしまった。

 パーティー加入当初は縮こまっていたミルシェだが、エリサが積極的に話しかけてくれたおかげですっかり僕らパーティーに馴染んでいる。初めは涙脆いか弱い女性、というエリサと正反対の印象だったのに、意外と意思表示がしっかりしていると知った。

 こんな彼女の魅力を殺していたジードにつくづく嫌悪感を覚える。


 ミルシェの後を追って僕らはギルドに足を踏み入れた。


 ギルドとは冒険者の拠点となる施設。つまり僕たちがギルドに入ることも、中の冒険者が快く迎え入れてくれることも当然である、はずなのだ。


 あらゆる方向から向けられる刺々しい視線。「ここはおまえらの来る場所じゃねぇ」言外にそう訴えるような険しい表情で僕らを睨んでいる。

 よそ者を嫌うその気持ちは理解できるが、こうも全身で感情を表現されると、気づいていない振りもできない。


「えっと……街を回ってからにしようか」


 クロンの提案に3人で首を縦に振る。

 

 そしてわずか数秒しか経たないうちに、回れ右をして僕らは一目散にギルドから飛び出した。




「なんなのこの街、態度悪すぎだわ!」

「ほんと! 私たちなんもしてないのに」


 ギルドを諦めモルトゥルクの街を見て回っている僕ら。さっきからエリサとミルシェの鬱憤が爆発し続けている。冒険者以外の目線はタルカルと変わりないが、いつの間にか怒りの矛先は街全体に拡大していた。


「ソラは意外と驚いていないな」

「噂は聞いていましたから。ここまで極端だとは思いませんでしたけど」


 父さんたちと訪れたときも魔法杖を持ち歩いていたが、コスプレ程度にしか思われなかったのか過度な冷遇は受けなかった。単に幼かったからという可能性もあるけど。

 今この街には、徹底的に他の冒険者を排除しようとする空気が流れている。


「クロンは慣れているんですか?」

「初め来たときは驚いたけど、もうそういうものって割り切っているよ。でもなんていうか…………」

「なんていうか?」


 クロンはキョロキョロと辺りを見渡して

 

「いや、さっきのギルドの雰囲気が前と違っている気がしたんだ。いつもに増して拒絶を感じたというか」

「僕らのパーティー構成を見て、なにか気に障ったんですかね?」


 違和感を持たれることはあれど、それで嫌悪感を抱かれた経験はない。ちょっと不審がられる程度。もちろんそれは僕ら全員というよりクロンに対してである。

 何かこの街の冒険者が敏感になっている理由があるのだろうか。


 ギルドから離れるにつれ、街並みが作り出す景観が変化してきた。建ち並ぶ住宅は徐々に個々が小さくなっていき、空いているスペースを利用して適当に建てた小屋のようなものも多い。さっきまでの整然とした雰囲気はどこにもなかった。


 それでもスラム街というにはまだ秩序があった。道を遮る建物も壊れかけの住宅も見当たらない。領主の手がモルトゥルク全域に満遍なく行き届いている。仕方なくこの住宅に住んでいるというより、これ以上を求めない寡欲な人たちの集まりに感じた。


 しばらく街並みを眺めながら歩いていたのだが、ひとつ気になることがあった。

 少しの間は僕らもモルトゥルクに滞在することになる。だから寝泊まりできる場所を探しているのだが、ここまでなかなか見つからない。それどころか商業の気配すらないのだ。


「どうして何もないの? これも差別?」


 エリサが不快感を顔いっぱいにさらけだして言った。彼女はさっきからすぐモルトゥルクの悪口が漏れる。


「いや、ここをいくら回っていてもお店なんてないよ」

「「「え!?」」」


 クロンの言葉に3人で目を丸くした。せっかく休息できる場を求めて疲労が溜まった足を懸命に動かしていたというのに。すべて無駄だったというのか。

 

 だいたい何故クロンは黙っていたんだ。


「それを早く言ってくださいよ!」

「だってみんな街並みを見たそうにしてたから」


 たしかにそうだが、街並みを眺めながら宿や利用できそうなお店を探すことが最優先だったのに…………


「じゃあどこにあるの?」

「商業が盛んなのは中層の方」

「中層?」


 ミルシェの問に答えたクロンだが、僕らの頭にはまだ疑問符が浮かんだままだ。中層? ここは地区ではなく層で分けられているのか? 昔訪れたときは都市の構造なんて気にしていなかったので、モルトゥルクについてはエリサたちと同程度の知識しかない。


 どうにも釈然としないまま僕らは歩きだしたクロンについていった。


 


 水路の両岸を繋ぐ木製の橋を渡って、ギルドのあった水路の外側の地区から一段階都市の中心へ移動した。ここがおそらくクロンの言っていた中層なのだろう。

 橋を渡っただけなのに、まるで別の街に来てしまったのかと思うほど何もかもが異なっていた。


 さっきまで姿を隠していた飲食店、魔道具店、その他商店が所狭しと並んでる。客引きの盛んな声や利用者同士の陽気な会話。さっきまでの落ち着いた雰囲気とは打って変わってタルカルの東地区のような活発で賑やかな街がそこにはあった。


「商業地域っていうのかな。ここ中層は商人と貿易商メインの地区になっている。いわゆる棲み分けだ」


 新鮮な感覚だった。後ろを振り向くとさっきまでモルトゥルクの全体像だと思っていた大人しめの区域がある。しかし前に視線を戻すと一気に空気の彩度が上がる。

 水路が冒険者と商人を分かつと同時に、そこに広がる文化すらせき止める障壁となっているのだ。橋は2つを繋ぐ仲介役といったところか。


 景色がころころ変わるのが面白くて、橋の両岸に面する街並みを交互に見て楽しんだ。あまりにもキョロキョロするものだから3人、特にエリサから呆れたような視線を受けている。

 何故みんなやらないのだろうか、こんなに面白いのに。


 後方の静寂を目に焼き付け、再び中層に視線を移したとき、僕らから少し離れて佇む2人の人物が目に留まった。

 周りの迷惑なんて知らん顔で道の真ん中で立ち止まっている。どうやらこちらを見ている様子。

 

 また冒険者差別化かと目を逸らそうとしたのだが、突然2人のうちの1人、見た目からして女性が小走り気味に近づいてきた。もう1人、おそらく男性が止めようとしているが、女性はどんどん速度を上げて男性から離れていく。


 クロンたちも気がついたみたいだ。

 また嫌味でも言われるのだろうか。無意識に表情が曇る。


 でも何やら様子がおかしい。

 こちらに走ってくる女性の顔には満開の笑顔が咲いていた。そして僕らの中からクロンだけを見つめている。橙色の髪を元気に揺らしながらクロンめがけて一直線だ。


 クロンがぎょっとしたのが分かった。

 女性はそのままの軌道で突っ込んでいき――――


 

 抱きつくようにしてクロンの身体にしがみついた。


 

「おかえり!! クロン!! 会いたかった!!」

「「「!?」」」

ここまでお読みいただきありがとうございます!


次の投稿はあさってです

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