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タルカル編 第二十六話 清算

毎日投稿中!

「ソラ! エリサ!」


 戦闘を終えたクロンが僕らのもとに走ってくる。転がっているジードたちなんて視界に入っていないかのように。

 クロンにやられた3人は気絶しているのかピクリとも動かない。まさか死んでしまったのではないか。刃の嵐を浴びたのだ、怪我では済まない。


 クロンはまずはエリサのもとに行き彼女を抱きかかえた。


「ごめん、俺がちゃんと見てさえいれば…………」


 悔しそうな表情でクロンが言う。


「クロンのせいじゃないわ。わたしも冒険者なのに簡単に誘拐されて、迷惑かけちゃったわね」


 微笑んで功労者を労るエリサ。その瞳はたしかに感謝の気持ちでいっぱいに見えた。

 

 クロンは彼女の言葉を噛みしめた後、もう一度だけ「ごめん」と呟いた。


「それに、ソラが助けに来てくれたのよ。かっこよかったわ」


 不意に僕を指さすエリサ。


 傷だらけの僕を視界に捉えクロンが慌ててこちらに来ようとする。腕の中のエリサを一瞥したあともう一度僕を見た。


「僕は平気ですよ」


 鈍い痛みがはしる全身をなんとか奮いたたせ立ち上がる。正直無茶をしていたがクロンを心配させたくなかった。それに今はエリサから離れて欲しくない。彼女のほうが僕よりずっと苦しい時を過ごしていたんだから。

 

 よろよろとクロンとエリサのもとに歩いて行く。魔法杖で身体を支えて床を杖で打ち鳴らす。老人にでもなった気分だ。


「助けてくれてありがとうございます。さすがはクロンですね」

「さすがじゃない! ソラまで急にいなくなって俺がどんだけ焦ったと思っているんだ!」


 歩いてきた僕をクロンが叱る。ごもっとも。


「すいません、何も言わずに出掛けたりして」


 結果としてクロンが助けに来たから良かったものの、あのままでは僕もエリサもどうなっていたか分からない。もう少し慎重に行動するべきだったのはたしかだ。初めての経験でテンパっていたので許して欲しい。


「それにしてもよく気づきましたね。僕があげた狼煙に」

「ほんとうに偶然だった」


 僕らが交わす言葉にエリサが困惑の表情で首を傾げる。

 戦闘中一縷の望みを託して僕が行ったこと。エリサにもジードたちにも気づかれなかったとは、我ながら良い選択をした。


「譲渡魔法を使ったとき、閃撃魔法を天井に撃ったでしょ? ジードには躱されたけど」

「うん。あのまま倒せるかと思ったわ」

「もちろんそうなれば良かったんだけど、あれには倒す以外にも理由があって。ジードたちに気づかれずにクロンに僕らの居場所を伝えるためだったんだ」


 ジードに当たることなく天井を突き破って闇夜に突き刺さった閃撃魔法。あれこそが遠くにいるクロンに僕の居場所を伝える目印となった。閃撃魔法といえば僕、クロンならそう結びつけて来てくれると信じていた。


「あんな明るくて長い光の柱。閃撃魔法だとすぐ分かったよ」

「気づかなかった…………」


 対照的な2人の反応。現場のエリサに気づかれたらそれこそジードたちにもバレる危険があるのでむしろ好都合だった。

 僕がいなくなればクロンはまた街に僕らを探しに出掛けてくれる。そうすれば閃撃魔法に気づく確率があがる。クロンの仲間を思う気持ちに賭けた僕らの絆の勝利だった。


 エリサがクロンの腕から抜け出す。彼女も見た目大怪我しているが、歩けるぐらいには元気そうで良かった。


「そういえば、気になっていたんだけど」


 クロンが一方向を指さす。僕らも合わせて視線を向けた。

 座ってこちらを見ていたミルシェと目が合う。彼女は身体をビクッと震わせ慌てて僕らから目線を外した。


 服が破れ、傷だらけの肩がむきだしになり壁にもたれかかって座る彼女は僕ら以上に痛々しかった。しかしはっきとした息遣いがこちらまで聞こえてくる。発光する身体から察するに自身に治癒を掛けているのだろう。


「あれってジードパーティーの『聖職者』ミルシェだよな。襲われていたから反射的に助けちゃったけど、なんで? 仲間割れでもしてたの?」

「仲間って感じではなかったですね」


 ミルシェがジードへ語っていた内容が事実なら彼女も被害者だったわけだ。それも僕らよりもずっと長い間ジードたちに支配され続けてきたということになる。

 的当て対決のとき無表情で沈黙を貫いていた彼女。あの時もほんとうは助けを求めていたんじゃないか。


「彼女もジードたちの被害者のようです」

「ほんと?」

「あーいや、あくまで本人が言っていただけですが」


 十中八九真実なのだろう。でもクロンは何が起きたのか知らないのだ。身勝手な憶測で断言はできない。

 ミルシェから直接聞くのが一番だ。


 僕らが自分のことを話しているとわかったのだろう、彼女が立ち上がった。おぼつかない足どりでこちらに歩いてくる。上半身はまだ傷だらけだが、意外にもその歩みに危なっかしさは感じられない。


 クロンが警戒心を強めたのが分かった。彼にとっては彼女もジードの仲間、立派な敵なのだ。クロンが僕らの一歩前にでて手で合図する。何かあったら逃げろと。


 ついに僕らの前までたどり着いたミルシェ。肩で息をして目が泳いでいる彼女はとても僕らを襲いそうになかった。

 

 3人で静かに彼女の第一声を待っていると


「ごめんなさい!!」


 視界の中のミルシェが消えた。

 一拍遅れて彼女が土下座をしたのだと気がついた。いや、正確には土下座ではない。両手両膝を床につけ地に謝罪の言葉をぶつけている。


「エリサちゃんが誘拐されたのは私のせいです!! ほんとうにごめんなさい!!」


 クロンが面食らった様子で固まる。「え……」と困惑の声が聞こえてきた。


「ソラくんを危険にさらしたのも、こんな傷だけらになったのも、もとは私が悪いんです!!」


 溜めていた謝罪を、湧き上がってくる悔恨のままに吐き出している。謝られている僕らの方が何故か勢いに呑まれ言葉を失っていた。


「こんなことになって…………ほんとうにごめんなさい!!」


 1度頭を上げもう1度振り下ろした。

 彼女の顔から涙が一粒落ちる。もう一粒、もう一粒。顔は隠れて見えないが、目をギュッと瞑り抑えきれない感情に頬を濡らしているのだろう。


 彼女も被害者である、それは僕らが勝手に思っていること。本人はきっとずっと苦しかったんだ。ジードたちの指示を受けて僕らを欺くことが、彼女の良心を傷つけ続けていた。


「ミルシェでいいんだよね。きみはジードたちの仲間?」


 屈んでクロンが言った。

 穏やかに問いかける彼だが、敵意にも似た冷たさも内包されているのが分かった。


 ミルシェは何も答えない。

 言いたくないのではなく自分が置かれている立場への葛藤が感じられた。自分はジードたちの仲間かもしれない、と彼らに加担した事実が彼女に否定の選択を拒ませている。


「俺はこれからジードたちをギルドに通報しないといけない。おそらくあいつらは牢獄に入ることになるだろう。だからきみをどう報告するか迷っているんだ」


 誘拐も決闘以外の暴力も犯罪だ。殺人未遂なんて重罪だしこの様子なら余罪だってでてくるだろう。ミルシェもパーティーの一員として活動していたんだ。脅されていたのなら直接的な罪には問われないだろうが、経歴に傷がつくことは避けられない。


「私は…………」


 ミルシェが声を発するが言葉は続かない。


 クロンは黙って彼女の言葉が紡がれるのを待っている。

 どうしよう、口を挟むべきだろうか。彼女だって怒っている被害者の仲間に面と向かって「自分は悪くないです」なんて言いづらいだろうし、かといって言い訳を望んでいるというわけでもなさそうだ。


 何故か僕までが頭を抱えて悩んでいる。


「わたし、彼女に助けられた」

 

 突然エリサが口を開いた。驚いてクロンと一緒にエリサを見る。


「彼女、ソラが来るずっと前からジードたちを説得していたの。こんなことするべきじゃないって。聞き入れられていなかったけど」


 エリサはミルシェを見つめながら言った。

 ミルシェの傍にもっとも長く居た彼女だから言えること。なによりの被害者が庇っているという事実がこの空間では一番必要なものだった。


「ソラがジードたちと戦っていたとき、弱っているわたしに遠くから治癒を掛けてくれていたの。彼らに気づかれないようにそっとね。だからわたしは今こうして動くことができている」


 エリサがミルシェに近づいてしゃがみこんだ。今も頭を下げ続けるミルシェに優しく微笑む。

 

 いきなり魔法を使うことができるまで回復していたエリサ。そのカラクリがようやく分かった。エナドに蹴られうずくまっていたミルシェだが、影でエリサを救っていたんだ。最悪の中でも彼女なりに冒険者として人を助けることを諦めなかった。

 

 ピンチだった僕の前に突如現れたミルシェ。クロンとはまた異なり、脆くて吹けば飛んでしまいそうで――――それでも縋りたくなるあの背中は彼女そのものだった。


「彼女がわたしの心の支えになってくれていたから、精神を病むことなく助けを待っていられた。初めはジードたちに操られていたけど、最後は結びついていた糸を自分で断ち切ってわたしたちを逃がそうとしてくれた。彼女はジードたちとはまったく違う、心優しき冒険者よ」


 エリサがそう言い切った。


 僕もクロンもエリサの言葉を疑うことはしなかった。それが真実であると目の前の2人を見ればすぐに分かったから。


「ありがとう、わたしたちを救ってくれて」


 エリサが彼女の桃色の髪を優しく触る。

 ミルシェが顔を上げた。真っ赤に腫れた瞳にエリサが映ってはぼやけていく。瞬きをするたびに涙がこぼれ落ちる。


 エリサがミルシェに掛けた最後の一言は、これまでの彼女の過ちを精算し冒険者として歩むべき道を照らす希望そのものだった。

 

 「ありがとう……」ミルシェが何度もそう呟いている。


「僕も彼女がいなかったらエナドに殺されていたかもしれません。僕もとっても彼女は救世主でした」


 エリサにならって僕もクロンに彼女の功績を訴える。

 

 僕の真剣な眼差しを受けクロンが軽く笑った。「しょうがないな」と観念したみたいに両手を振る。


「2人がそこまで言うのなら俺にどうこう言う権利はないよ」


 やったぁ! 分かってもらえた!


「とりあえず、一旦ギルドにあいつらを突き出してこよう。このまま目覚めて2回戦が始まったら面倒くさい」

 

 クロンが倒れているジードたちを見て言った。「倒せない」とは口にしないのがいかにもクロンらしい。

 

 そして最後にミルシェの方を振り返ると


「ありがとう。俺の仲間を守ってくれて」


 彼女にそう笑いかけた。今度は冷たさを取っ払った暖かい響きを含んでいた。


 ミルシェの涙腺が再び決壊した。エリサが胸に彼女の頭を抱き寄せ優しく撫でる。エリサのほうがだいぶ年下だが、子どもを慰める母親のようだった。


「さて、そんじゃあ通報する前に」


 感動的な場面であるのに1人冷静なクロン。激昂していた割にはいつもの調子に戻るのが早い。

 

 意味ありげに気絶しているジードたちに近づいていったかと思うと


「もう少しやってもいいよな」


 え?


「まだこいつらに分からせ足りねぇからなぁ!」


「…………! ダメダメダメ!!」


 

   *   *   *


 

 通報したことで衛兵さんたちに連れて行かれたジードたち3人。僕らの証言と現場検証の結果、間違いなく有罪になって投獄されるだろうとのことだった。

 ミルシェは後で詳しく話を聞きたいと翌日にギルドに赴くよう命じられていた。偽証の可能性を減らすためにエリサの出席を求められたが、1人だと心配だからと僕らも同席させてもらうことになった。


 ギルド職員はまた僕らが事件に巻き込まれたのかと呆れていたように見えた。別に好きで厄介ごとに首をつっこんでいるわけではない。僕たちだって平和に暮らせたらどれくらいいか。


 それともうひとつちょっとした揉め事があった。


「すいません、『冒険者証』を見せてください」


 通報した本人であるのにフードを深々被って素顔を一切明かさないクロン。先日の悪魔戦のとき同様怪しまれていたが今回はそれで済まなかった。


「前回の悪魔討伐の際もご活躍されていましたよね。ギルドといたしましてもどなたか確認したいのですが」


 そんな単純な理由ではないんだろうと察しがついた。ギルド職員の鋭くて眼差し。たぶん僕らが想像するよりもずっとクロンを疑っている。


 思えば悪魔戦のときは幽霊山道での被害が実際にでていたから信じてもらえたが、これは僕らの証言と工場内の惨劇の痕跡しか判断材料がない。僕らが結託して自作自演していると嫌疑をかけられても仕方ない。ましてやこんな大きな事件にこんな短期間に2度も遭遇しているというのもおかしな話だ。


「ソラさんもエリサさんもまだ駆け出し冒険者です。悪魔族の長もジードパーティーも2人には荷が重すぎる。あなたは相当な実力者のはずです。この街でいったい何をしているんですか? この子たちをどうするつもりですか?」


 疑いすぎてだいぶ失礼な発言をしているギルド職員。長い黒髪とつり目でいかにも気が強そうな女性だ。

 僕もエリサもきっとまだまだ実力不足。でも、ほとんどクロンが倒したのだろう? なんて勝手に決めつけられちゃ困る。ましてや僕らを仲間だとこれっぽっちも考えていない。


「彼は別に怪しい人では」


 クロンを横から庇う。しかし職員は僕を完全に無視して詮索を止めようとしない。


 衛兵さんたちもだんだんクロンを囲うようににじり寄ってきた。逃がさないように、抵抗された場合、武力制圧でもしそうな勢いだ。


 クロンが溜息をついた。

 

 それからゆっくりとフードを脱ぐ。彼の茶髪と深碧の瞳が露わになった。


 観念したようだ。どうせもうすぐ離れるからバレても良いと思ったんだろう。


「クロンといいます。『冒険者証』は宿に置いてきてしまいました」


 名前まではっきりと言った。つり目で睨む相手をジッと見つめ少し面倒くさそうに。


 クロンの容姿を見たギルド職員の目が大きく見開かれる。衛兵さんたちも動揺していることが空気から伝わった。


「クロン……クロンってあの……」


 口を動かしてはいるが言葉になっていない。

 気味が良かった。そうだ、あなたたちが不審者だと決めつけていた男は、世界の英雄となるかもしれないお方なのだ。


「もういいですか?」


 クロンが早めに切り上げようと不機嫌に尋ねる。

 

 なんだよ、せっかくなんだからもっと自分を誇示してよ。「俺はこの世界の命運を担っているんだ、この無礼者!」ぐらい言っても大丈夫だよ。


「え…………あ、はい! 大変失礼いたしました!」


 慌てて謝ってくるギルド職員。正体が分かったからって態度を変えるなんて卑怯だ。


「えっと……ちなみにどのような御用事でタルカルまで?」


 いきなり下手(したて)に出たかと思うと、地雷を的確に踏み抜いてきた。彼女にとっては何気ない質問のつもりだろうが、今のクロンにとってみれば触れてはいけない領域だ。


「極秘任務なのでお伝えできません。できれば私がこの街にいることも口外しないでいただけると助かります」

「あ、はい! もちろんです!」


 立場が変われば言い訳の幅も広がる。賢い躱し方だ。これで街中にクロンの噂が広まることもないだろう。

 すっかり従順になってしまったギルド職員は衛兵さんたちにもクロンのお願いを再度伝えている。キラキラした表情から本物のクロンに興奮しているのが分かった。まったく罪な男だ。


「ではこれで失礼します」


 そんな彼女を完全に無視して僕らはその場を後にした。

ここまでお読みいただきありがとうございます

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タルカル編が終わるまでは毎日投稿を続けます!

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