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追放編 第二話 出会い

本日ラストの投稿です!


紛らわしいですが、こっちが主人公です

 やっぱり僕には才能がないのかもしれない。


閃撃魔法(ライフォース)!」


 純白の光が暖かな大気を切り裂く。そのまま龍の絵柄が描かれた的に直撃した。


 しかし手応えがない。現に的は魔法を弾きピンピンしている。


「はぁ……」


 思わず溜息が漏れた。やはり母さんが強化しすぎたのではないだろうか。いやきっとそうだ。


 僕の父さんと母さんはかつて冒険者だった。魔王討伐に赴くほどではないものの、少しは名の知れたパーティーの一員だったと聞かされている。


「ちょっとぐらい受け継いでいてもいいじゃないか」


 幼い頃から僕は冒険者たちが残した『冒険記』を読むのが好きだった。未知の生物、魔法、土地、でてくるすべてが輝いて見えた。当時はそれが事実か創作かなんて関係なかった。総称して僕は『お話』と呼んでいる。


 その頃から、両親は家族であると同時に憧れの対象だった。街で2人への感謝の言葉を聞く度、勝手に誇らしくなったりもした。いつか僕も父さんや母さんみたいな、人の記憶に残る冒険者になれるはずだと信じて疑わなかった。


『ソラくんの適性は魔法使いですね。ですが潜在魔力量は魔法使いの平均を下回っています。戦闘での使用は現実的ではありませんね』


 父さんに冒険者の適性検査に連れて行かれたことがあった。そこでこの無情な事実をたたきつけられた。まだ5歳になったばかりの出来事だ。

 適正と潜在魔力量は成長で変わるものではない。つまり僕は5歳にして冒険者失格の烙印を押されたのだ。


「だからといって諦められるわけないけど!」


 魔法杖を構え直す。

 目を瞑って自然音すら遮断する。


 魔法杖と魔力の源を直線で繋ぎ流し込むイメージ。器に水を注ぐように慎重に、一滴もこぼすことなく確実に。

 はち切れんばかりの魔力を杖に込める。


 一度掴んだのに離してしまった見えない魔力を自由自在に操る感覚。魔法を初めて放ったあの瞬間、たしかに経験した僕の、魔法の原点を思い出せ!


 身体の奥底、ぶくぶく泡を立てて魔力が湧き上がってきた。

 

 !?


 以前までとは明らかに異なる。あのとき得た感覚が僕の手の中に宿った。


 きっとこれは!


 「閃撃魔法ライフォース!!」


 さっきよりも勢いよく唱える。


 放たれた魔法の大きさに変化はない。だけど魔力密度がさっきまでと格段に違う。高度圧縮されたエネルギー波。僕が望んでいた魔力の結晶だ。

 伝わる振動に手がひどく痺れる。でも杖だけは絶対に離さない。


 ついにきた!!


 僕にも誇れる魔法ができ――――


「あ……」


 一直線に進んでいた魔法は無情にも的の僅か上を通過して飛んでいった。かすってすらいないただの高密度エネルギー。僕のいままでの興奮をあざ笑っているかのようだった。

 

 「魔力を込めすぎると狙いが狂う」なんとも残念で当たり前のこと。結局僕は凡人以外の何者にもなれないんだ。


 期待させといてこれはないよ……


 僕の落胆を横目に純白の光はどんどん進んでいく。

 

 そして僕が少し目を離した隙に


 天を巻き込んで巨大な光柱へと変貌を遂げた。


 え?


 雷が落ちたのかと一瞬錯覚するほどの衝撃が僕を襲う。何もなかった草原に立派な光の塔が完成した。さっきまで地面と水平方向に飛んでいた魔法はもうどこにもなかった。

 いくら魔法制御ができないからってそんなことになるか? もしかして魔力の込め方がまずかったのだろうか。


 熱も音もこちらに伝わらない。そのかわりに膨大な魔力を感じる。こんなものが僕から放たれたなんて信じられなかった。

 

 天を突き刺す円柱型のそれはやがて徐々にしぼんでいき――――


 

 中心にひとりの青年を残して消滅した。


 

 何が起こったのか分からなかった。さっきまでそこには誰もいなかった。なのに閃撃魔法が解けると同時にその中から人が出てきた。


 頭を抱えうずくまる青年。陽射しで輝く茶髪が滑らかに風になびく。

 一面に広がる草原と彼。まるで一枚絵のような美しさだ。


 そんなこと考えている場合ではない。もっと大変な事実に気がついてしまったのだ。

 

 僕の閃撃魔法が直撃しているかもしれない!!


 魔法を生身で受けるなんてとてもじゃないが無事では済まない。かなりまずい。

 急いで青年もとに駆け寄る。


「大丈夫ですか!? すいません!!」


 勢いをつけ頭を腰下まで振り下げた。激しく脳内が揺さぶられる。まずは謝る。

 次にすることは怪我の有無の確認。


「お怪我はありませんか? 僕の閃撃魔法が当たってしまったみたいで。ほんっとうに申し訳ないです。僕の家で手当させてください」


「……」


 うずくまったままの青年。見たところ目立った外傷は見当たらない。


 もしかしたら防御や回避をしてくれたのかもしれない。なら僕にできることはひとつ。誠心誠意謝る!


「あの……ほんとうにすいませんでした」

 

 やはり反応がない。でもこんなことで挫けちゃいけない。もう一度詫びよう。


「あの――」

「大丈夫だよ、きみは関係ない」


 青年はうずくまったまま応えた。


「俺は転送魔法テレポートでここまで来ただけ。きみが見たのはその光だ」


 初め青年が僕を気遣ったのかと思ったが、転送魔法を思い浮かべてすぐ納得した。たしかにさっきの光柱は転送魔法によく似ている。僕が知っているのはあんな大規模ではないけれど。

 それなら青年が急に現れた理由も説明がつく。


 とりあえず良かった。硬直した身体がだんだんほぐれていく。

 

 しかし謝ってしまったためこのままでは気まずい。何か話しかけるか。


「えっと、僕ソラっていいます。お兄さんはどのような用事でこんな場所まで?」


 僕の家は草原に囲まれた僻地に立っている。両親が現役時代に貯めていた貯蓄を使い、母さんたっての希望で静寂と自然の中で暮らすことにしたらしい。

 そのため、ここを訪れる人はごく僅か。転送魔法の転移先に登録している魔法使いは母さんぐらいだろう、と思っていた。


 急に青年が立ち上がった。陰った瞳に僕を映す。

 

「いや大したことないんだ。ただこの近くに用事があって。驚かせてすまなかった」


 柔らかな微笑みを浮かべる青年。

 無理矢理明るく振る舞っていることがすぐ分かった。彼が嘘をついていることも。


「そうでしたか」


「それでは」と立ち去ろうとする青年。彼を止めなければ、直感でそう思った。


「そうだ、時間に余裕があるようでしたら是非うちで休憩していってください。ここから近くの街まで歩くと1時間近くかかりますし」


 どのような事情か分からないが、無理やり家に招く。張り付いた笑顔の奥の悲哀を無視できなかった。


「いや悪いから遠慮するよ」

「お兄さん冒険者ですよね」


 青年の足が止まる。

 腰には短剣を携えて纏う衣服も明らかに冒険者の装備だ。僕が見間違えるわけがない。


「お兄さん、良かったら僕に『冒険者』について教えてくださいませんか」

「俺が教えられることなんて何もない」

「あなたの『冒険者』としての在り方が知りたいんです!」


 もし本当に用事があったらどうしよう。勘違いして勝手に盛り上がっていただけになる。

 でも今はとりあえず自分の直感を信じてみることにする。


「俺は――――」


「おーいソラ、母さんの手作りケーキが焼けたぞ!」


 不意に声が飛んできた。

 ガタイのいい男が自宅の方から歩いてくる。父さんだ。


「おや? こんなとこに珍しい。ソラの知り合いか?」

「いや、さっき出会ったんだ」

「こんにちは」


 社交辞令といわんばかりの笑顔で青年が言う。


「随分礼儀正しい青年だな。って待て、君もしかしてクロンか」


 不意を突かれた青年の笑顔が剥がれる。


「あれ、違ったか? ハイドの親友の」

「…………、どうしてそれを」

「あ、えっと……」


 一方的な仲なのだろうか。しかしなぜ父さんの方が言葉に詰まるのだろう。


「ちょっと事情があって……」


 こんな父さん初めてみた。嘘も建前も知らなそうな人が、今回ばかりは何かを隠そうと必死だ。


「まあ詳しい話はうちでやらないか。ちょうどケーキが焼けたところなんだ。戦闘疲れによく効くぞ。それ食べてゆっくり話そうぜ」


 クロンと呼ばれた青年は少し考える素振りを見せながら黙った。やがて父さんに向けゆっくりと頷く。よっぽど話が聞きたいらしい。


 結局用事はなかったのか。



    *  *  *



 母さんがクロンにケーキとレモネードを差し出す。


「ありがとうございます」


 遠慮がちに礼をする彼は拳を固く閉じ、家の中だというのに首筋には僅かに汗が滲んでいる。


「いやぁ母さんの手作りケーキは最高だな! なぁソラ」


 父さんのはつらつとした声を聞きながらフォークに乗せた白い塊を口に運ぶ。


「んんっ! おいしい」


 頬張りながら応える。いつもよりチーズの風味が強く感じた。


 クロンも決心がついたようにケーキに手をつけはじめた。食べ終わらないと話ができないと考えたのだろうか。だたひたすら黙々と。




「さて、君が知りたいのは俺とハイドの関係だな」


 レモネードをすすっていた父さんがいきなり切り出す。


「はい。僕は5歳のとき孤児院で彼に出会いました。そこから僕らはずっと一緒です。彼といつ知り合ったのですか。僕の顔を何故ご存じなのですか」


 クロンは用意された台本を読み上げるかのように、ハイドとの関係と疑問を簡潔に投げかけた。

 

「まあ落ち着け。俺がハイドと初めて会ったのはあいつが4歳の頃だ」


 クロンがハイドと出会う前か。


「君が孤児院に来る前、モルトゥルクで大規模な魔獣の襲来があった。たまたま街に滞在していた俺らパーティーはその対処に駆り出されたんだ。その時に俺が救った子どもがハイドだった」


 父さんは再びレモネードで口を潤す。クロンは父さんの所作すべてを真剣に見つめている。


「討伐は2日間にも渡った。2日目の夕方頃に魔獣が急に出現しなくなって撤退となった。噂では裏で魔獣を操っていた魔族がいたんじゃないかっていう話だ」


 魔獣と魔族はまったく別の生き物だ。魔獣は凶暴で誰に従うでもなく暴れる獣。魔族は人類から見た犯罪種族。このふたつが協力することは恐らく魔族が一方的に魔獣を服従させている場合に限る、と何かの本で読んだことがある。


「助けた後、ハイドはやけに俺に懐いてくれてな。モルトゥルクを離れてからもなにかと孤児院に顔を出していたんだ。君の話はそのときに聞いた。『途中から孤児院に来た子でとても頭がいい。そして俺の親友だ』なんて自慢げに語っていたなぁ」


 父さんは懐かしむように天井を仰ぐ。母さんも思い出しているのか時折深く頷いている。


「俺たちの面識がないのはタイミングが悪かっただけだ。ハイドが愚痴っていたぞ。俺が来るときに限ってクロンの姿が見えないって。俺は部外者だからあんま孤児院に長居する訳にはいかないから待つこともできなかった」


 クロンは一度視線を下に落とした。何か思考を巡らせている様子だ。


「最近ハイドから何か聞いていることはありますか?」


 クロンが父さんのほうを向き直す。


「そうだな、近々魔人の討伐に赴く可能性があるってことぐらいだな。パーティーの近況報告程度だ」


 ハイドは冒険者になってからも父さんと偶に会っていたということになる。街へと出掛ける父さんを記憶から探す。僕に隠れてそんなことしていたなんて気がつかなかった。


「そうですか。ありがとうございました」


 話を聞き終わるとクロンが立ち上がった。


「ケーキ美味しかったです。ご馳走様でした」


 母さんに微笑んで礼を言う。そこだけ見ると礼儀正しい青年だが、彼の意識は明らかに斜め後ろの玄関にある。


「もっとゆっくりしていけよ」


 それに気がついたのか父さんが制した。


「いえ、街に用がございますので」

「けど泊まるところないんだろ? お金も足りなくなる。ここだったらいくらでも居ていいぞ。2階に使ってない部屋があったな。掃除すればそれなりに快適だ」

「お気遣いありがとうございます。では、いつ用事が済むかは分かりませんが、済んだらまた少し甘えさせて貰います」


 クロンは一礼すると、まだ不満顔の父さんを置いて玄関へ急いだ。


「それでは、ひすの……久しぶりの街、楽しんできます」

「気をつけてね」


 クロンは再び僕らに向け頭を下げると扉を開け草原へと足を踏み出す。その瞳に僕らはもう写っていなかった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

少しでも面白いなと思ったり続きが気になる方は、高評価・ブックマーク・コメントをお願いします。作品制作のモチベーションに繋がります!


本日の投稿は終わりですが、明日も3話分投稿するつもりなので是非!

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