タルカル編 第十八話 眉唾な話
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「『魔人』との戦いが行われた場所から一番近いテレポート先はモルトゥルクか」
「モルトゥルクってクロンが生まれ育った街じゃない」
「生まれてはいないかな」
悪魔との死闘で思わぬ大金を得た僕ら。ハイドたちとの合流のための遠征に向けてギルドで計画立案中。
黒のローブに身を包んだクロンはいかにも怪しげだが、役職によっては奇抜な格好の人も少なくないため特段目立っているわけでもなかった。
情報収集のしやすさとどこへでもいける利便性、なんとなくの居心地の良さから話し合いの際は自然とここへ足を運んでいる。僕もすっかり冒険者に染まったらしい。今のところは会話の内容を怪しまれている様子もない。
「なんとも運命的ですね。クロンのお友達もいるんじゃないですか。よかったですね」
「だから俺は正体を明かすわけにはいかないの!」
そういえば忘れていた。この旅の間もハイドに出会うまではクロンを隠し通さないといけないんだった。面倒くさい制約だ。
「じゃあ観光は難しいかなぁ」
エリサが悲しそうな声で落ち込む。モルトゥルクに苦い思い出のある僕だが、久しぶりの街は楽しみだったので少し残念だ。
2人して肩を落とした。
「ふたりとも旅の目的覚えてる? 俺たちはハイドを追いかけているんだぞ。あいつが魔王城に到着しちゃったら意味ないの」
仮に追放理由が他にあるとするならば、タイミング的に魔王城かその周辺の事情が関与している可能性が高い。魔王城にたどり着かれる前に合流したいところ。
「大丈夫ですよ。魔王城へたどり着くには魔族の縄張りを何キロも進む必要があるんですよね。いくらハイドパーティーでも一筋縄ではいかないですよ」
「そうそう、どんなに急いでも一ヶ月は掛かるわ」
「ハイドを、というよりハイドパーティーをなめちゃいけないぞ。あいつらの実力は想像を超える」
クロンが胸を張って誇らしげに言う。そのパーティーに少し前まで所属していた自分も包含する褒め方だった。
事実なのだからいくらでもそうしてくれて構わない。変に卑下されるよりこちらとしても気が楽だ。
ただ、ほんの少しだけ鼻につく。
「お疲れー、英雄さん。おや、新しい仲間か?」
クエストを終えギルドに入ってきた冒険者がこちらに近づいてきた。アレックスだ。まわりにはパーティーメンバーも一緒だ。
エリサと出会った日に知り合った冒険者パーティーで、タルカルに在住して生活のためにクエストをこなしているらしい。僕と同じでまだ若いため気軽に話ができる。タルカルで僕がつくった数少ない友達のひとり。
「お疲れ、アレックス。最近新しく入ってくれてね」
「あんだけパーティー勧誘があった中で決めたってことは、彼相当優秀だな?」
「アレックスじゃ100人いても敵わないだろうね」
仲間たちが笑いだす。アレックスだけ不満顔だ。
冗談っぽく言ったが実際に戦ったら200人でも足りないだろう。
「そこまで言うなら勝負するか?」
「止めときなよ。この流れ、前も見たって。このあとコテンパンにやられるやつだよ」
『盗賊』のミランダが言う。彼女も僕に親しくしてくれている冒険者のひとりだ。リーダーはアレックスだがパーティーの実権はミランダが握っているらしい。
普段の会話からしてオカン属性が高い。アレックスの相棒であり手綱を操る保護者でもある。外から見てここまでお似合いの2人も珍しい。
好奇心旺盛な彼らだ、クロンに興味をもたれるといろいろと困ってしまう。
「彼、少し恥ずかしがりやなの。だからそのくらいにしてあげて」
エリサがナイスフォローで場を整える。
エリサの目配せを受け次は僕の番だ。コホンとひとつ咳をして注目を集める。
「そういえば伝え忘れていたけど、僕たちあと数日でこの街を発つことになったんだ。だからアレックスたちとはお別れになっちゃう」
「ええー、せっかく仲良くなったのに」
大袈裟に残念がるアレックスに少し嬉しくなる。僕がいなくなって寂しがってくれる人がちゃんといるんだ。
遠方へのテレポートサービスは頻繁にはやっていない。タルカルからモルトゥルクへの便は4日後に出発予定だ。
「旅にでるんならさ”フジおじさん”のとこで見てもらおうよ」
「フジおじさん?」
ミランダの提案に僕らはそろって首をかしげた。初めて聞く名前だった。
「そっかこの街にきてまだ数日だもんね。フジおじさんはタルカルでは有名な占い師なの。その腕前は折り紙付き! 彼の助言のおかげで『上級冒険者』になれた人もいるって噂よ」
この街にはほんとうにいろんな人がいるな。
助言だけで『上級冒険者』になれるのなら苦労はしない。オカルトは好きだが、人が生み出しているものなら理論に基づいていて欲しい。
「ちなみにフジおじさんって200年以上前から占いをしているらしいの。不死身だから”フジおじさん”ね」
なんてありきたりな。
しかし200年以上生きているとは。人間ではまずあり得ない、魔族ならともかく。
あーもしかしてフジおじさんは魔族なのか。それなら納得だし面白い展開になりそうだ。
そんなわけないんだけど。
「ええーー凄い!! そんな方がいるのね! 健康だった曾祖母だって150歳が限界でしたのに」
隣で眉唾の噂話に嬉々として食いついている人が居る。エリサがこんなに興味を示したことなんてこれまであっただろうか。身を乗り出してキラキラと瞳を輝かせている。
さらっと言っていたが150歳って記録に残るくらい長寿だな。
「ソラ、これは行くしかないわよ! きっとその方ならわたしたちの旅路にぴったりのアドバイスをしてくれるに違いないわ!」
僕の腕をグイグイ引っ張ってエリサが言う。
「でも怪しくない?」
「そうだぞソラ。きっと油断させておいてこの街を侵略しようとしているんだーーいだだだだ!」
アレックスがミランダに耳を引っ張られて悲鳴をあげる。
「お世話になっている人にその言い方はないでしょう!? この街に尽くしてくれている人に失礼よ」
「そうだわソラ。占いはれっきとした魔法よ。王都でも専属の占い師をおく家も少なくないの」
意外なところで意気投合するふたり。
意地を張りたい話題でもないため、大人しく頷いておく。アレックスと同じ末路は勘弁したい。
用事があるとアレックスパーティが去った後、さっきまで俯いていたクロンが大きく息をついた。
お疲れと肩を叩く。
「これ以上クロンの神経がすり切れる前に移動しましょうか」
「そうしよう! そうしよう!」
クロンが突然むくっと起き上がった。心配のしすぎだったか。
「じゃあフジおじさん? のところに行きましょう!」
「根拠のない助言も役には立つかもしれませんしね」
「だから”占い”っていう根拠があるのよ!」
「どっちでもいいから早く行こう」
この場を離れたくて仕方がないクロンがギルドを飛び出す。僕らは急いでクロンの後を追った。
彼と仲間になったんだという実感が後追いで襲ってくる。誇らしさと恐れ多さが混じり合っているぐちゃぐちゃの感情だ。
タルカルの街が眼前に広がる。そういえば肝心なことを確認し忘れた。
フジおじさんってどこにいるの?
* * *
フジおじさんの占い屋はギルドの裏に延びる路地の先にあった。街ゆく人に尋ねながら探しため、やけに遠回りしてしまった。
小さな洋館を思わせる外装はこの空間だけ別世界なようだった。路地の両脇から無秩序に伸びた植物が建物への侵入を妨害している。入り口には動物の形をした重厚な取っ手が大きくふたつ取り付けられていた。羽がある、鳥だろうか。
ただの住宅の可能性も拭えないぐらい何の案内もない。客を呼ぶわけでも歓迎するわけでもなくただそこに佇んでいるだけ。
「ここだよな……?」
クロンが扉の前に立って数回ノックする。金属同士がぶつかる音が鳴いた。
反応がない。もう一度ノックした。今度はさっきよりも強く。
しばらく待ったが結局中から物音ひとつしない。留守なのだろうか。そもそもほんとうにこんな場所で占いをやっているのか?
「もう入っちゃいましょ!」
エリサの発言でクロンが取っ手に手を掛ける。身を震わせる重低音とともに鳥が傾いた。
「開くぞ」
クロンはそう言うとゆっくりと扉を押した。扉の軋む音が静まりかえった店内に響き渡る。
洋館の中は時代を跨いでいるかのようだった。左右にある骨董品のテーブルの上には魔法書や占星術の学術書、『呪い』の調査書がガラスケースに並べられている。
壁には魔法陣が描かれた古い巻物やタロットカードが飾られている。
研究室、もしくは展示室のような空間だ。今を生きる僕らのほうがここでは異物だった。
正面、えんじ色のカーペットを辿った先に古い木製の扉が見えた。かかる札には『占い』の文字。どうやらここがフジおじさんのお店で合っているらしい。
展示品を眺めながら歩いて扉の前まで移動する。
「ここよね」
「たぶん」
一気に緊張がはしる。背筋を伸ばし佇まいを正した。
クロンが一歩前にでた。扉を撫でて感触を確かめた後、ゆっくりと3回指の背で叩いた。
「こんにちは。こちらで占いを受けられると聞いてやってきました」
クロンが言う。
返事はすぐに帰ってきた。しわがれた男の声だった。
「お入り」
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