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タルカル編 第十七話 新パーティー

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 新パーティーが結成された夜、あの日はあれから大変な騒ぎとなった。

 「高台のほうから爆発音がした」「巨大な炎を目撃した」との目撃情報が街中で発生したのだ。夜中にあんな派手な魔法を使ったんだ、当然の結果だった。


 ギルドの職員が衛兵さんを連れて高台にやってきて僕らを発見した。慌ててローブを深く被ったクロンを怪しんだのだろう、鞘から剣を抜いてクロンに投降を勧めてきた。挙動不審になるクロンがおかしくてエリサと一緒に噴き出してしまった。僕とエリサは被害者だということになっていたらしい。

 結局事情を説明して誤解は解けたが、頑なに正体を明かさないクロンに少しばかりの疑念を抱いてはいたようだった。僕たちが仲間だと言わなかったらどうなっていたことか。


 ギルドの聖職者に傷を癒やしてもらった僕らは、宿に戻ると疲れもあってすぐに深い眠りについた。


 翌日、悪魔との戦闘・撃破の噂がギルド内で広がっていて僕らは一躍有名人となっていた。形式上は駆け出し魔法使い2人が悪魔を討伐したことになる。タルカルに来て数日でとんでもない成果をあげることになってしまった。


「神膳山道に潜む悪魔族の討伐、その栄誉を称えて感謝状を贈呈します。街の平和と安全を守っていただき、誠にありがとうございました」


 タルカルのお偉いさんから感謝状を贈呈された。どうにも荷が重い。大したことはしていないと返却しようかとも考えたが


「これは臨時クエストに対する報酬です」


 麻袋に詰められた大量の金貨にころっと考えが変わった。ずっしりと重く両手でないと支えられないほどだった。僕らは更なる犠牲者を防いだんだ。これくらいは当然の見返りなのかもしれない。

 ご機嫌な僕の横でエリサは少し不満げだった。贈呈のときは顔に出していなかったが、明らかに納得いかないご様子。

 後で理由を尋ねてみると


「街の危険を命懸けで救ったっていうのにたったこれだけなの?」


 と何ともエリサらしい応えが返ってきた。僕が庶民的なだけかもしれないが、貴族の価値観を理解できる日は遠そうだ。

 悪魔との遭遇というなんともイレギュラーな出来事だったが、僕らはタルカルに来てたった4日で遠征に十分な資金を調達してしまった。不運の中の幸運というやつか。


 簡易的な授与式を終えギルドでくつろいでいると、あっという間に冒険者たちに囲まれた。彼らが向ける羨望の眼差しの先は僕らか、はたまたこの大金か――――


「それでどうやって倒したの?」


「もうね凄かったんですから! わたしが風操魔法で悪魔をギュッと圧縮して、それ目がけてソラが閃撃魔法をバーンって」

「「「おおーーー!!」」」


 ほんとうに伝わっているのか? 悪魔たちをコネコネ丸めて撃ち落とすジェスチャー。あれはそんな可愛いものではなかった。

 クロンが関与していた事については口外厳禁なため最終バトルについては伏せられている。それでも悪魔たちとの死闘を語るには十分だった。


「怖かったでしょう?」


 黙ってエリサの話を聞いていた僕に女冒険者が話しかけてきた。僕のそばに近づき腕が触れあうほどの距離になる。

 20代後半ぐらいだろうか。お姉さんという呼び方がしっくりくる艶めかしい雰囲気を備えた女性。胸を強調した服装に僕の胸が飛び出そうになる。


「えっと、はい! ほんとうに怖かったです!」


 正直に応える。少しうわずってしまった。恥ずかしい。


「大変だったねぇ。よしよし」


 お姉さんに優しく頭を撫でられた。抱き寄せられる形となりさらに熱を直に感じる。

 僕はとうに迎えていた限界を越えてしまった。赤面して放心状態で天井を仰ぐ。クラクラして思考がまわらない。

 

 されるがままに撫でられ続けた。功労者である僕にはそれくらいの褒美はあってしかるべき。奥底に眠る本音が顔をだす。


「ほんとうにねぇー! ソラがいなかったら大変でしたよー!」


 乱暴に腕を引かれて現実に戻った。お姉さんから離れてしまう。なんとも名残惜しい。

 せっかくのご褒美タイムをエリサに遮られてしまった。一体何の権利があって僕から奪うんだ。


 あれ? なんだか腕が痛い。


 エリサが掴む力が徐々に強くなっていく――って爪立ててない!? 痛い痛い痛い!!

 

 暴れる僕を完全に無視して冒険者たちへの応答に戻っていくエリサ。もしかしてずっとこのまま!?

 痛いのももちろんあるが、これじゃあ腕組みしている恋人に見える。


 結局傍から離れることを禁止されて、エリサの監視下で冒険者たちとの会話にぎこちない花を咲かせた。

 パーティー勧誘もいくつかあった。クロンとの約束がなかったら喜んで受けていただろう。遠征が終わった後で頼むのはさすがに自分勝手過ぎる。「今後の方針が定まっていないから」という表向きの理由でやんわり断った。


「あんまり調子に乗らないことね」


 ギルドからの帰り道、エリサが僕の態度を咎めて言った。どうせ女冒険者への対応が気に食わなかったんだろう。


「僕の苦労を労ってくれたんだよ。素直に受け取らないと」

「ああいうのは、端からソラ目当てなの!」


 エリサにとっては日常なんだろう。僕も彼女と行動をともにしてからずいぶん見かけた。華麗に躱す姿はまさに名人芸だった。

 けれどあんな誘惑を断れるほど僕は大人じゃない。


「せっかくのご褒美だったのに…………」

「あのさ」


 やばい、心の中で言ったつもりが口から漏れた。エリサが聞いたことのない低い声でこちらを睨む。


「嬉しかった?」


 急に笑顔になるエリサ。

 

「ほんとう夢みたいでした」

「夢っていうのはね、目覚めて初めて夢になるのよ」


 エリサがおもむろに何もない空間から魔法杖をとりだす。


「我が手に集いし虚空の大気よ、天の――」

「ちょっと待って!! 覚めてるから!! もう気をつけるから!!」


 風操魔法を放とうとしたエリサを慌てて止める。詠唱つきのガチ魔法だ。あんなもの食らったら永遠の眠りについてしまう。

 「冗談よ」と杖をしまう彼女だが僕には分かる。あれは本気の顔だった。いくらでも威力を調整できる風操魔法だからこそ気軽にお仕置きの手段となってしまう。


 『風操魔法を使える相手の機嫌を損ねてはいけない』


 僕の人生における教訓がひとつ生まれた瞬間だった。


 

   *   *   *


 

 古宿に到着した僕ら。そこではクロンが物欲しそうな表情で待っていた。視線の先は僕が抱えた麻袋。獣ばりの嗅覚をしているな。


「ふたりともお帰り。どうだった?」

「ただいまクロン。大変でしたよ。僕らはすっかり有名人です」


 パーティー仲間になったもののまだクロンに対する敬語が抜け落ちていない。頑張って呼び捨てにはしているが言葉使いの矯正は無理そうだ。


「ほんとうに疲れたわ。クロンの存在を隠すのとか、夢見心地なソラを連れ戻すのとか」

「やだなぁ、あははー」


 棒読み笑いで誤魔化す。エリサの鋭い目つきが怖い。クロンが深い詮索をする前に話題をずらさないと。

 幸い僕は彼の好物であろう物を大量に持っている。


「そんなことより、報酬をたくさんもらったんですよ。見てください」


 麻袋の口を縛っている紐をほどいて中身をクロンに見せる。物理的にも心理的にも眩しいくらいの金貨が目に飛びこんでくる。

 クロンが一瞬にして満面の笑みになった。分かりやすい人だ。


「おおーー! いっぱい貰ってきたな。これでこの宿からもおさらばだ」

「今度は自分からの退去ですね」


 クロンを宿から追い出した日を思い出す。


「とりあえず、みんなで分配してから必要出費を出し合いましょう」

「取り分は均等?」

 

「「…………」」


 何気ないエリサの発言によって部屋に張りつめた空気が流れた。3人で相手の出方を慎重に窺っている。

 やはり気になっていたか。僕も同じだ。


「昨晩の戦いは誰が欠けてもいけなかった。みんながそれぞれの役割を全うしたんだ。だから均等でいいと思うな」

「そうですよね。みんながベストを尽くした結果ですもんね。もちろんです」


 クロンと意見が合致する。若干ひとりに気を遣ったのだが、平和に終われるのならそれに越したことはない。僕らは同じパーティーの一員なんだから。


「遭遇理由、討伐数、戦闘機会、貢献度――――。うん、クロンはラスボス戦での貢献度が断トツだもんね。わたしも最終決戦では人のこと言えないからソラがいいっていうならわたしも意義ないわ」

「前半戦気づかずにただ泣いててごめんなさい!!」


 やっぱりこのふたり相性いいな。


 新しいパーティーとしてちゃんとやっていけるか不安もあった。でもそれ以上にこれからの冒険者人生への期待に胸が躍った。

ここまでお読みいただきありがとうございます

少しでも面白いなと思ったり続きが気になる方は、高評価・ブックマーク・コメントお願いします。作品制作のモチベーションに繋がります!


タルカル編が終わるまでは毎日投稿を続けます!

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