タルカル編 第十五話 譲渡魔法
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『譲渡魔法』。使用者はほとんど存在しなく、いたとしても表舞台にその姿を決して現さない。魔法学者はこの魔法を共通してこう呼ぶ。
『人類史上最悪の魔法』
僕が通り名を知ったのはこれを習得してからだった。『洗脳魔法』や『自害魔法』など忌み嫌われる魔法には「人の尊厳を踏みにじる」という共通点がある。感覚的に僕も納得出来るものばかりだ。
しかし『譲渡魔法』はそうではない。この魔法は「対象に自身の習得している魔法を『譲渡』して一時的に使えるようにしてあげる」というものだ。一見するとチーム戦で強さを発揮する強力な魔法に見える。
実際そうであるし初めは魔法使いを擬似的に増やすことができるため、非常に愛用されていたらしい。
ただこの魔法にはもうひとつできることがあった。
それは「対象に『譲渡』した魔法を強制発動させる」というものだ。例えば『浮遊魔法』を譲渡して強制発動を行うと、強制的に浮遊させることができる。これは非常に厄介で、その魔法に精通していない者に無理矢理強力な魔法の反動を与えることができてしまった。
また、この仕様は魔族の使う『呪い』によく似ていた。他者に術式を付与し好きなタイミングで発動する。この世界において魔族は絶対悪。そんな魔族と同じ性能の魔法ということもあり、世界単位で侮蔑の対象になってしまったらしい。
「えっとソラくんどんな魔法習得しているっけ? 何か反動が大きそうなやつ」
そのためこんなふうに嬉々として使おうとしているクロンの方が例外なのだ。
「それについては考えがあります。ですがこの魔法は対象に触れないと発動しません」
「そこは任せて、道は切り開く。ね、エリサ嬢」
「任せて。あんな化け物はやく倒しましょう!」
この魔法を2度も使う日がやってくるとは。緊急事態だから仕方がないのだが。
もし2人が街中に僕が『譲渡魔法』を使えると広めたら? 僕は気味悪がれこの街を追放されてしまうだろう。せっかくできた友達もいなくなる。そんなことをするメリットが2人にないと分かっていても僕の臆病は戦闘での判断を鈍らせた。
「クロンさんにも『譲渡』しましょうか?」
「俺自身魔力を能力に結構使っちゃったし、魔法杖もキミたちにあげたもの限りだ。ここで俺が魔力切れで戦えなくなったら大変だから遠慮しとくよ」
そう、この『譲渡魔法』で受け取った魔法は受け取り手の魔力を消費して発動する。だから魔法使いの適正がない者はそもそも巨大魔法なんかは扱えないのだ。
「それじゃあ始めようか。悪魔討伐開始だ!」
合図をかけると同時にクロンが悪魔に突っ込んだ。無防備に見える彼だがその内側には無限の武器が仕込まれている。
クロンを見た悪魔もうなり声をあげて彼めがけて突進してきた。
ぐるぁぁ!!!
「待っててくれてありがとうな。お礼に楽しませてやるよ」
悪魔は長い腕をしならせて目の前の地面をなぎ払った。抉れた土塊が彼方へ飛んでいく。クロンは真上に飛んで悪魔の一撃を難なく躱した。
「模倣『聖剣 レプリカ』」
レプリカ!?
「本物の聖剣は言うこと聞いてくれねぇからな」
クロンはそう言うと銀色の聖剣を悪魔の腕に突き刺した。どす黒い血液が噴出しクロンに降りかかる。
あの皮膚はどんな攻撃も通らないほど固いのではなく、魔力を散らす効果を持っているだけらしい。物理だったらしっかりダメージが通るのだ。
悪魔が思わず振りあげた腕に乗ってクロンが上昇していく。途中までは片手をついて姿勢を保ち、最高点に達した瞬間曲げていた両足を一気に伸ばして宙に飛んだ。
そのまま空中で身体を回転させながら、あっという間に体勢を整えてみせた。
見事な身のこなしだった。大胆で曲芸的な魅力も兼ね備えた離れ業。『盗賊』などの専門職が鍛錬のすえにたどり着く究極点に、身体使いだけで到達してしまっている。
クロンの本職でないと分かっていても見惚れずにはいられなかった。
「目を狙え!!」
クロンに釘付けになっていた僕らに指示が飛ぶ。
おそらくエリサへのものだろう。そう直感したときにはすでにエリサは杖を構えて魔法を放っていた。
「風操魔法!」
風の刃が黒い水晶から放たれる。凶器となった空気の斬撃が悪魔の顔付近に飛んでいく。そして真っ赤に光った両目に直撃した。
頭にのしかかるような低いうめき声が響く。
「ソラ、いくぞ!」
宙に浮いたままのクロンが今度は僕に叫んだ。
ついに僕の出番がやってくるのだ。失敗してはいけないと無意識に構えていた魔法杖に力が入る。
「模倣『爆裂剣』『手榴弾』」
いつの間にか聖剣を手放していたクロンは別の剣を生成。刀身が炎のように鮮やかな朱色をしている。『爆裂剣』初めて見た。クロンは生成されたときに爆裂剣が得た推進力を頼りに悪魔の頭部めがけて飛んでいく。
圧倒的な機動力だ。武器を獲物としてだけではなく移動手段としても使う。動作ひとつひとつに何年もの鍛錬の跡が映る。
「今度は足下だ!!」
クロンがエリサに叫ぶ。
悪魔に衝突する寸前、クロンが爆裂剣を振り上げた。そして朱色の弧を空中に描きながら悪魔の首元へ刃を振り下ろした。
悪魔のうなり声と同時に僅かだが刀身が首へめり込む。
「やっぱり首は硬いな。だがな少しでも刃が通ればこっちの勝ちなんだ」
途端に刃が爆ぜた。爆発の炎に彩られて闇夜が真っ赤に染まる。爆裂剣ってそういうことか。
爆発の衝撃で悪魔が体勢を崩したことが分かった。
しかし爆発の影響を受けるのは使用者だって同じこと。クロンは爆風にあおられ僕らと反対方向に飛ばされた。下半身で爆風を掴み風に乗るように悪魔と距離を取る。まるで風操魔法を使いこなしているみたいだ。
体幹を安定させつつ、旋回する身体を捻って回転を止める。そのまま、まわりに佇む大木の枝になんとか掴まった。
前傾姿勢で倒れまいと脚を動かす悪魔。無駄に大きい図体のせいで細かい体重移動は得意としていないのだろう。
「エリサ!」
クロンが再びエリサに叫んだ。
「風操魔法!」
間髪入れずにエリサが唱える。放たれた魔法は今度は悪魔の細く長い脚に飛んでいった。
人間でいうところの足首からすね辺りを風の刃が斬りつけた。ダメージが入らなくなっていい、クロンの狙いは悪魔の体勢を完全に崩すことだろうから。
同時に悪魔の足下で爆発が起きた。大きく抉られる地面。さっきクロンが手榴弾を生成していたことを思い出す。いつ投げたというんだ、気がつかなかった。
体勢を崩していたところに足元への攻撃。悪魔は重力に逆らうことができずに前方に倒れ伏した。悪魔の倒れる衝撃が爆風になって僕を襲う。
触れるチャンスがついに訪れた。
大木から飛び降りたクロンは蹴り上げるように聖剣を拾い上げる。そして急いで悪魔の手のひらを地面ごと串刺しにした。
鼓膜を裂くような悪魔の咆哮がこだまする。
「ソラ! 今だ!」
躊躇っている時間はない。魔法杖を片手にクロンの元へ急いだ。
呼吸が荒い。心臓がうるさいくらいに跳ねる。これから起こることを脳裏に描き、身体が興奮状態になっている。
クロンとエリサが繋いでくれた悪魔攻略のバトン。悪魔が起き上がる前に、2人が切り開いてくれた道を見失う前に、僕が決着をつける!
クロンの元で倒れる悪魔が眼前に迫る。その歪な姿を前に背筋が凍った。人型とかけ離れた魔獣の方がまだ落ち着いて見ていられる。
悪魔が反撃できないことを確認してから串刺しとなった悪魔の右手にそっと触れた。ゴツゴツとしていて皮膚が粗い。岩に触れているみたいだ。
これで譲渡魔法を掛けることができる。悪魔を直視しないように目を閉じて唱えた。
「譲渡魔法! 『浮遊魔法』『爆発魔法』!」
触れていた右手が動いた気配がした。目をあけて悪魔の状態を確認する。
漆黒の巨体が地面からわずかに浮いていた。クロンが聖剣を引き抜く。少し遅れて触れていた右手も徐々に上空へ持ちあがっていった。
もっとだ。もっと高く。僕らを巻き込まないくらい高く舞い上がれ!
こんな巨体を持ち上げられるだけの魔力を抱えていたとは、何とも恐ろしい。正面から戦っていたら消耗戦のすえ敗れていただろう。
悪魔が振り回す腕が僕らに届かなくなった頃、やっと安堵の息をつく。
「ソラくん、なにをしようと……」
当惑顔でクロンが問いかけてくる。
浮遊魔法までは想定内でも、爆発魔法は意外だったのだろう。反動が大きい魔法ではあるが、爆発場所を細かく定めないと僕たちが巻き込まれる可能性がある。第一、爆発魔法の反動如きで悪魔が倒せるとは思えない。
「この魔法の真の強さは言葉が通じない人外にこそ発揮されます。自ら『譲渡』された魔法を使うことのないものは術者の強制発動を待つだけ。でもその状態になった時点でやつらの負けなんです」
エリサも僕のそばに走ってきた。
「どういうことなの?」
「魔法は本来、魔力の性質を変化させているだけ。水を生成する魔法なら魔力を水へと換えているだけなんです。水へと換えられた魔力を外へと放出する過程は別に魔法のもつ本来の働きとは無関係です」
まだ上昇を続ける悪魔を見ながら続ける。
「『譲渡魔法』における強制発動は魔法が制御している魔力変化にのみ対応します。『浮遊魔法』のように魔力を体外へ放つ過程が存在しない魔法なら問題ないのですが、水を生成する魔法などの体外で使用する魔法だとその弊害がでる」
小さく息を吸い込むと、一拍おいて言った。
「そういった魔法の強制発動は魔力が存在している体内で行われてしまうんです」
「それなら…………」
「待って、どういうこと?」
クロンは察した様子だ。逆にエリサはまだ僕が言わんとしていることに気がついていないのだろう。
「『爆発魔法』は飛ばした魔力を爆発させる魔法。その魔法の中から魔力を体の外に放出する過程を省略したらどうなると思う?」
「まさか…………」
やっと理解したようだ。そう僕はこれから非人道的ともいえることをする。身を守るためには致し方ない。
悪魔はすでにまわりに立ち並ぶ樹木よりも遙か高くに浮遊していた。
僕は『爆発魔法』を使いこなせない。けれど『譲渡魔法』ではそんなこと関係ない。その魔法を教わったことがあるだけで『譲渡』できてしまう。「習得している魔法」という定義からは外れていないのだろう。
こんな使い方、許してくれるだろうか。こんな卑怯で非人道的な使い方、責められても仕方がない。いや、もしかしたら仲間を守ったことを褒められるかもしれない。希望的観測であることは知っている。それでもエリサを失うことはもっとも僕が恐れていること。
隣で祈るように見つめてくるエリサ。彼女に初めて会ったとき、僕は彼女を守るべき人だと悟ったんだ。
譲渡魔法なんて公に練習できる訳が無い。まさしくこれは命を懸けた綱渡り。でも選択肢がひとつなら僕は迷わない。
紫色の水晶が手元で淡く輝いた。それを合図に1度深呼吸をしてから覚悟を決める。
悪魔を見上げて
「強制発動!! 『爆発魔法』!!」
そう叫んだ。
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