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タルカル編 第十四話 模倣者

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「2人とも下がって」


 悪魔を倒すべき敵と判断したであろうクロンは、僕らを自分の後方に下がるように指示した。やっぱり頼りになる人だ。これまで頼りにしていなかっただろうというツッコミはしまっておこうと思う。

 さっきまで泣いていたクロン。なのに今、自分の悲しみを押し隠し迫る危険から僕らを守ろうとしている。


 教会へその無駄に大きい図体をなんとか入れようともがく化け物。やつが動くたびに建物が軋み鈍い音が鳴り響く。いつ教会の壁が壊されるとも分からない。壊されたら崩壊の危険もある。


模倣アミック『閃光弾』」


 クロンが唱える。それと同時に手にレバーのようなものがついた筒状の物体が出現した。


「ふたりとも目瞑って!」


 クロンが言う。


 慌てて目を伏せた瞬間、教会が昼間のように明るく照らされた。目を閉じていてもはっきりと分かるほどの強烈な光だった。

 ゆっくりと顔を上げる。悪魔が怯んで後退していくのが見えた。あいつにクロンが閃光弾を投げたのだ。


「今のうちにここから出るんだ! はやく!」


 僕らは先導するクロンに続き入り口へ走った。悪魔が待っている教会の外へ。エリサを横目で確認した。大丈夫、ついてきている。


模倣アミック『手榴弾』」


 クロンが手榴弾を入り口へ投げる。外へ投げられた手榴弾は大きな破裂音とともに爆発した。しかし炎がほとんどあがっていない。

 キュルシニィ戦を思い出す。あのときと同じ物だろうか。


 教会から出た僕らの目に飛び込んできたのは巨大な人型の化け物だった。教会ほどもある巨体に加え、全身の筋肉が湯気のように逆立って鋭く宙に刺さっている。漆黒の身体に赤い目だけが光る顔面。疑う余地がまったくなかった。こいつは悪魔だ。それにおそらくこの山の長。


「こんなんありかよ」


 文句が漏れる。前に佇むこいつはそれくらい常軌を逸した存在だった。


「まずいな」


 クロンが呟く。


 僕とエリサが同時にクロンを見た。彼でも倒せないというのか、そんな驚きと不安の混じった表情をしていたと思う。だってそうだ、クロンに倒せなかったら誰が倒せるというんだ。

 クロンがこちらの視線に気がついた。


「期待してもらうのはありがたいんだけど、俺はどっちかというと小技専門なんだ。だから魔法使いのキミたちの力を借りたい」


 申し訳なさそうに言うクロン。そしてもっと申し訳ないことを僕らも告白しなくてはいけなくなった。


「クロンさん、実は僕たちここに来る前の戦闘で魔力を使い切ってしまったんです……だから……」

「そうだったのか…………大変だったね」


 労るような優しい声。てっきり失望するのもだと思っていた。


「驚かないんですか?」

「驚いたさ。キミたちがボロボロで教会に入ってきたときは何事かと思った」

「そうじゃなくて。魔力がもうないんです、僕たち。なので魔法を使えないんです」

「その様子じゃ疲れきっているね。無理に戦えとは言わないけど魔力ならどうにかなるよ」

「え?」


 当たり前のように応えるクロン。そんな彼に僕もエリサも目を丸くする。魔力を補充する道具をクロンが持っているというのか。

 ところでクロンの役職ってなんだっけ?


模倣アミック『魔法杖』」


 空いていた左手に硬い感触が当たった。そこに握られていたのは紫色の水晶で飾られた魔法杖だった。

 エリサも同様黒い水晶のついた魔法杖をいつの間にか手にしていた。


「その魔法杖には魔力が事前に込められている。実践向きでかなり貴重な杖だ」


 説明するクロンだが、僕らが知りたいのはそこじゃない。さっきから唱えているそれは一体なんなのか。なにをしたのか。


「どうやって出したんですか?」

「そういえば教えてなかったな」


 少しもったいぶるクロン。まだ待ってくれている悪魔の方を一瞥したあと、彼は続けた。


「俺の役職は『模倣者』。適正をもった者しかなれない特別な役職だ」


 そうか思い出した。キュルシニィとの戦いでクロンが言っていた。あのときは中断させられて聞けなかったんだ。


「俺は今まで触れたことのある武器を再現することができる。自分の魔力を使ってね。見た目や性能は本人の力量に左右させる。一流にもなると本物と性能も瓜2つの代物を作ることも可能だ」


 強い。さすが適正のある人しかなれない役職だ。珍しい適正者がクロンだというのもしっくりくる。


「強いと思ったでしょ? でもね所詮は魔力なんだ。本物の武器の輝きには勝てっこない。性能を近づけようと研磨すると今度は消費魔力が膨大になる。それに、時間が経てばそれらは離散して消えてしまうんだ。僕の唯一の能力で作っている武器は結局その場しのぎのまがい物にすぎない」


 自嘲するクロン。僕の考えていることはすべてお見通しらしい。

 必要なのは慰めか励ましかも分からないまま、僕は押し黙った。目の前の悪魔に注意を払うクロンに掛ける言葉が見つからない。

 

 沈黙を破ったのは意外にもエリサだった。


「それでも素敵な力じゃない。あなたのおかげでわたしは今魔法が使えるのよ」


 想像以上にストレートな褒め言葉にクロンが驚いたようにエリサを見た。そしてすぐ笑顔を浮かべる。


「嬉しいことをいうね。お嬢さん」

「エリサよ」

「ありがとう、エリサ嬢。キミはどんな魔法を使うんだい?」

「風操魔法よ。それ以外はからっきし」

「いい魔法じゃないか」


 やけに形式だった会話に噴き出しそうになった。場違いなことは分かっているがこの2人は相性がいいのかもしれない。


 ジッとこちらを睨んで離さない悪魔はいまだ僕らと距離をとって牽制している。さっきの手投げ弾2連投は意外と効いていたようだ。どちらも見せかけの爆破だったわけだけど。


「念のために聞くけど、ソラくんは閃撃魔法以外になにか使える?」

「えっと……」


「ソラ、さっきの戦いで使っていたやつは?」

「あれは……」


 たしかにあれはこの悪魔にも有効だろう。しかしこの魔法を晒すことに僕はためらいがある。この魔法は隠さないといけない、と幼少期から何度も自分に言い聞かせてきた。

 続く言葉が見つからない。


「別に苦手なら無理しなくていい。エリサ嬢、風操魔法で悪魔を足止めして欲しい。ソラくんは今出せる全力の閃撃魔法をあいつにぶち込め」

「あ、はい」

「分かったわ」


 結局言いだせなかった。後ろめたさだけが傷跡のように残る。

 とりあえずは今できる全力を出し切ろう。さっき悪魔の大群をやっつけたときと同じように撃てばきっと倒せるはずだ。


「それじゃあ行くわね」


 エリサが言うと同時に悪魔も動き出した。地響きとともにこちらに迫る。小さい悪魔ほどのスピードはないが、その何倍もの破壊力を備えていることが地面を通して伝わってくる。


模倣アミック『短剣』!」


 いきなり宙に現れた短剣が悪魔の脚に突き刺さった。悪魔のこもった悲鳴が山に響く。口がない悪魔だがこいつだけは声をだせるようだ。そうなると初めの泣き声もこいつの仕業だった可能性が高い。


「我が手に集いし虚空の大気よ、天の息吹となりて舞い上がれ! 風操魔法ウィンディール!」


 エリサが唱えた風操魔法により、悪魔が巨大な風の渦に閉じ込められた。最初から出力マックスだ。


「ソラくん!」


 頷く。大丈夫、さっきの再現をする必要はない。ただ今の全力をあいつにぶつけるだけだ。


「我が手に集いし純白の煌めきよ、闇夜を照らし正しき道を示せ! 閃撃魔法ライフォース!」


 魔法杖から純白の光が放たれる。そのまま闇を切り裂き悪魔の首元に的中した。少し精度を欠いたが的が大きくて助かった。

 完璧な連携技。僕らの魔法にさすがの悪魔も為す術なかっただろう。


 エリサが風操魔法を解除する。徐々に小さくなっていく渦。

 小悪魔の大群を一瞬で葬った連携技だ。致命傷とまではいかなくてもクロンが倒せるぐらい弱らせることはできただろう。


 漆黒の身体が露わになってきた。足元、腕、胸、そして魔法が当たった首――――


「うそ……」


 現れた悪魔には傷ひとつなかった。


「まじかよ、こんな硬いのか。俺の武器じゃ致命傷を与えられそうもないな」

「クロンさん……」


 エリサが不安そうにクロンの指示を待つ。クロンの言葉が本当なら僕らは策が尽きたことになる。万事休す。


 悪魔がふたたび動き出した。

 クロンがもう一度『手榴弾』を投げるがさっきよりも怯む時間が短い。このままだと全滅してしまう。

 やっぱり使うしかないのか――――


 使わずに殺されることだけは絶対ダメだ。ここならバレるにしても2人にだけ。

 この2人が信じられないのか? そんなわけない。僕はこんな簡単な問に迷っていたのか。


「クロンさん」


 この状況がそう判断させただけかもしれない。でも過去をねじ曲げるには十分な動機だった。


「僕、もうひとつ使える魔法があります」

「なんだ?」


 剣で戦闘を試みようとしているクロンに言う。


「譲渡魔法です」

「本当か!?」


 クロンが目を見開く。なんだ知っていたのか。


「はい」


 ニヤリと不敵な笑みを浮かべてクロンは言った。


「なら勝てるじゃないか」

ここまでお読みいただきありがとうございます

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タルカル編が終わるまでは毎日投稿を続けます!

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