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タルカル編 第十二話 決着の行方

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風操魔法ウィンディール!!」


 エリサが唱えると同時に彼女を中心に旋風が発生した。僕らを真ん中においてぐるぐると渦を巻く。

 まわりにある空気を巻き込んで瞬く間に規模が大きくなっていった。僕らが無事なことが不思議なほどの威力だ。


 悪魔が1体風にさらわれた。さらにもう1体。地面に踏ん張る悪魔も木にしがみつく悪魔も甲斐なく宙に浮く。誰にも止められない自然の暴力。


 風操魔法は次々と悪魔をすくい上げ巨大な竜巻へと変貌を遂げた。轟音とともに敵をさらい、緑を刈り取って舞い上げる。中心の僕らを除いて周囲すべてを飲み込んでいく。


 「操魔法は攻撃魔法としては使えない」なんて言葉、今の僕には口が裂けても言えない。これまで聞いた風操魔法への評価が、この強すぎる魔法に対する嫉妬にすら思えてきた。

 圧巻だった。ここまでの規模でこの精度。僕は風操魔法を、エリサを侮っていたのかもしれない。


 竜巻が高度をあげる。回転する悪魔たちが徐々に天へ運ばれる。地上から風の渦が浮き上がった。こうなったらやつらはもう何もできない。彼女が魔法を解除するか己の最期を迎えるか、選べぬ選択をただ空中で眺めるだけ。


 竜巻の圧縮が始まった。

 広がりきった風の渦が今度は上下に左右に小さくまとまっていく。悪魔たちの密度がどんどん高くなる。風にあおられ荒ぶる悪魔同士がぶつかり合い鈍い音が地上まで響いた。


 空に浮かぶ丸い空気の塊。その中に大量の悪魔。悪夢かと思うほど地獄のような光景だった。


 「ソラ!!」


 エリサが叫ぶ。


 彼女の役目はここまで。宙に浮く牢獄に囚われたやつらを仕留めるのは僕の仕事だ。僕に与えられた猶予はここから10秒。


 神経を研ぎ澄ませ、魔法杖を突き出して目を瞑る。

 クロンに出会ったあの日、僕は初めて魔力を限界まで込める感覚を得た。あれから毎日のように再現しようと試行錯誤を試みているが、あのときの感覚が宿ることはなかった。偶然できただけ、運が良かっただけだと僕の負の部分がうるさいくらいに囁いてくる。


 「命の危機に瀕した人間は実力以上の力を発揮できる」さっき信じた言葉を心中で反芻する。脳に強く言い聞かせて負の感情を司る部位を洗脳していく。

 きっとうまくいく、やればできる、根拠のない自信の完成だ。


 魔法杖と魔力の源を直線で繋ぎ流し込むイメージ。あの日はほとんどゼロ同然から生み出したじゃないか。

 はち切れんばかりの魔力を杖に込める。


 魔法付けという名の出口に繋がる1本線。これまで僕はすでに引かれた道を探していた。でもそれではダメだと知った。

 魔力と身体を一体化させ通った軌跡で光の線を描く。1度描いた線は魔法を撃ち終わったら消えてしまう。無駄なんかじゃない、それで良かったんだ。


 エリサの積み上げた数々の努力がこの竜巻を生み出した。それは彼女が風操魔法を信じて我が物へと昇華させた証拠。過去に縋っても成長は望めない。大事なのは再現ではなく、何度でも理想を押しつける高慢な欲望だ。


 身体の奥底、ぶくぶく泡を立てて魔力が湧き上がってきた。僕が求めていた感覚、いやそれ以上の手応えに身震いする。

 つかんだ、そう確信した。


「我が手に集いし純白の煌めきよ、」


 魔法使いが魔力を使い切るのは必殺のときだけ。それも動ける仲間がいること前提だ。それ以外での使用は自殺行為に等しい。


 だけど僕はもうひとつ使い時を知っている。


「闇夜を切り裂き正しき道を照らせ!」


 それはそれしか選択肢がないとき。


 気持ちを整え目を開ける。


閃撃魔法ライフォース!!」


 残りの魔力をすべて込めて僕は魔法を放った。


 


 魔力切れは嫌い。大好きな魔法を撃てなくなるから。

 魔力切れは不快。身体がだるく重くなるから。

 魔力切れは怖い。目の前の大切な人を守れなくなるから――――



 

 僕自身が萎縮するほどの膨大な魔力の柱。放たれた閃光は悪魔の塊、その中心に直撃した。


「わぁ!」


 上空から爆音とともに衝撃波が落ちてきた。真下の僕らを押しつぶす。両足で支えきれずエリサとともに地面に倒れた。

 身体中がしびれて動けなくなる。魔力切れも少しは関係しているだろう。


 早々に起き上がることを諦め、目を瞑って寝っ転がり空を仰いだ。

 作戦が失敗していたら悪魔たちが降ってくる頃だろう。どちらにせよ僕はもうしばらく動けない。あとはなるようになるだけだ。


 諦観に似た感情を掲げ、ゆっくりと目を開く。

 夜であるはずなのに飛び込んでくる光が眩しくて思わず目を逸らした。瞬きを繰り返してぼやける視界を修復していく。

 やがて目の前の世界をはっきりと認識できるようになった。


 一面に広がるは悪魔の軍勢、ではなく満開の星空だった。夜空にちりばめられた光の欠片が闇を鮮やかに彩っている。まるで僕らの戦いを称賛してくれているように光り輝いていた。都会でもこんな美しい景色が見られるなんて。


 そうか、僕らはきっと――――


「勝った…………」


 そう呟いた。

 言葉に出した途端、実感が波のように押し寄せてきた。

 

 勝った、勝ったのだ。僕らは悪魔族を討伐したんだ。たった2人で生き残ってみせたんだ。


 安心すると急激に嬉しさが込み上げてきた。苦手だった魔力込めも譲渡魔法も文句なし。大きすぎる成果を一発勝負で出してみせたんだ。初めての実践にしては刺激が強すぎる気もするが。


 エリサはどうしている?


 首だけを動かして同じく寝転がるエリサの方を見てみる。


「エリサ……?」


 エリサはじっと空を眺めていた。瞳に星空がきらめいている。美しかった。差し込む月明かりが彼女の美貌を際出させる。

 絵になる少女だ。お話にでてくるお姫様みたい。


 ふとその顔がこちらを向いた。


 目があった瞬間彼女は優しく微笑んだ。赤子を育てる母親のような安心出来る笑顔だった。


「ソラ」


 エリサが僕を呼ぶ。


 雰囲気も相まって告白でもされるのではないかと思った。それくらい彼女の声は僕を優しく撫でで包み込んでくれた。


「怖かった」

「え?」


 エリサからか細い声が漏れる。さっきとは対照的な聞き逃してしまうくらい弱々しい声。


「怖かった!!」


 エリサの笑顔が決壊する。それと同時に僕の胸に顔から飛び込んできた。何もできずに彼女の体重をこの身に受ける。

 お互い地面に転がった状態での抱擁。がむしゃらな戦闘の最後には相応しいなと思った。


「怖かった!! ほんとうに怖かった!! 初めてだったからこんなこと。もう死んじゃうかと思ったんだから!!」


 涙で崩れた顔を僕に押しあてて泣きじゃくる。暖かな感触と力強い締め付けで身動きができなくなった。弱った身体にこれは響く。


 戦闘中、冷静で頼りがいのあるエリサだったがずっと我慢していたんだ。僕を心配させないように彼女なりに恐怖を押し殺していた。

 いくら魔法操作が一流とはいえ、いくら貴族の出とはいえ、胸の中で溜めていた弱音を吐き出すこの少女はまだ13歳の女の子なのだ。


「もうもうもう!!」

「エリサ肩は止めて……傷が開く……」


 何度も僕を叩く。胸、肩、腕、頭。どこを叩くかなんてどうでもいいんだろう。ただ僕がいるその事実を確かめたいがために必死に。


 痛みと嬉しさでどうにかなってしまいそう。わずかに嬉しさに軍配が上がるのは僕もエリサ同様少し興奮状態だから。命懸けの戦闘後なんだ、無理もない。

 エリサがこうしたいというのなら、しばらくこうしていようか。甘えてくれることがこの先あるかも分からないんだ。そう思えるくらい、胸の温もりは心地のよいものだった。




 

 「えっと、何というかごめんなさい……」


 しばらくして我に返ったエリサがビショビショに濡れた僕の服を見て謝ってくる。気まずそうに上目遣いでこちらをうかがう。僕も抵抗していなかっただけにこう正面から謝られると申し訳なくなる。


「大丈夫だよ、別に平気。それに僕も嬉しかった」

「嬉しかった?」

「あーいや、初めて甘えてくれた気がしてさ」


 危ない。あやうく気持ちの悪い本音がでてしまいそうになった。明らかに挙動不審になってしまったが、顔を赤らめて俯くエリサを見るとどうやらバレていなさそうだ。


「忘れてね」

「大事にしまっておく」

「もう!」


 頬を膨らませるエリサ。いつもの彼女に元に戻ったらしい。一安心だ。


 普段の僕らに戻ったところでひとつ気になることがある。クロンのことだ。

 この山道に入ったのもクロンを追ってのことだ。しかし居たのは悪魔たちだけ。クロンの姿は一切見えなかった。


 こんなに派手に戦ったんだ。近くにいれば気づくはず。そうなると残るはもっと山の奥にいるか、すでに悪魔の餌食になっているか――――

 そんなことは考えたくない。あのクロンだ、魔王と戦おうとしている者が悪魔ごときに負けるわけがない!!


 じゃあどこに?


「とりあえず山を下りよう。傷の手当てをしたいし悪魔たちのことをギルドに知らせなきゃ」

「そうね。はやく行きましょう」


 忘れていたが一応残党がいる可能性も捨てきれない。それにこの血生臭い戦場からさっさと退散したかった。


 僕らはふたたび山道に出ると来た道を戻って山道の入り口を目指した。さっき戦っていた空間と比べるとやはり薄暗い。

 すぐにさっきまで閉ざされていた場所付近についた。元凶を倒したんだ、さっきまで悪魔のせいで閉じられていた空間もすっかり元通りで、帰る道がちゃんと存在してい――――


「「ない!!」」

 

 2人して叫んだ。


 そう、なかったのだ。戻るための道が悪魔との遭遇前のように木々に塞がれたままだったのだ。

 

 馬鹿な。たしかに悪魔は倒した。この目でこの手ではっきりと覚えている。


 悪魔の残党がいるのか? いるならどこに? さっきの戦闘で出てこなかったやつがいるということか?

 分からないことだらけだがこれだけは言える。この山にまだ敵が潜んでいる。それも僕らを閉じ込め決して逃がすまいと機会をうかがう知能犯が。


「どうしよう」


 またしても涙声になるエリサ。


「クロンさんを探そう。魔力の残っていない僕らにできることはそれだけだ」

ここまでお読みいただきありがとうございます!

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明日も投稿するので是非!

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