タルカル編 第十一話 VS悪魔
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こんなことを聞いたことがある。
『悪魔は格上には絶対に手を出さない』
生存のための知恵としてそれを徹底してきたと。強い者には姿すら見せないらしい。
逆に言えば今僕らが襲われているのは、格下だと相手が判断した証拠。そして残念ながらそれは正しい判断だと言わざるを得ない。
「閃撃魔法!」
悪魔が吹き飛ぶ。しかし攻撃が通っている感触がない。せめて身体を貫くぐらいしないと埒が明かない。
やっぱりしばらくするとまた動き出した。
「風操魔法!」
エリサも風の刃を飛ばす。
「やっぱり威力が足りない!」
悪魔を吹き飛ばすには至るものの、手応えが手元に残らない。表情が読み取れないためダメージが蓄積されているのかすら不明瞭だ。
次から次へと襲いかかってくる悪魔。一体倒すだけで精一杯なのにこれじゃあきりがない。
「ソラ、もっと威力あげることできない?」
「できるけどこれ以上あげて外したら山火事になる」
そう攻撃魔法として優秀な閃撃魔法が風操魔法と同程度の威力しかだせていないのは僕が制御しているからだ。
制御を解いて仮に山火事を引き起こしたら逃げられずに焼け死んでしまう。その場合エリサも、そしておそらくこの山のどこかにいるクロンも巻き添えだ。魔法を乱発させて自身より小さい動く的に全発命中させるなんて無理難題もいいところ。
今僕ができる最適解は襲いかかる敵を退けて突破口を探ること。
「ソラしゃがんで!」
エリサの危機迫った声が飛んできた。
遅れて漆黒の細い腕が真横まで迫ってきているのに気づく。目の前の悪魔がその鋭い爪を僕の顔面めがけて突き出していた。
しゃがまないと、はやく……
焦る気持ちが一瞬だけ僕の思考速度を極限まで高めた。しゃがむのではなく脚にかかっていた力を無理矢理抜いて腰を落とす。
僅かに浮いた髪に鋭い爪が突き刺さった。間一髪だった。
そのままドサッとお尻から崩れ落ちる。
「風操魔法!」
腕を伸ばした悪魔の顔面を風の刃が捉える。そして悪魔の顔面だけを切り飛ばした。まわりに飛び散るどす黒い液体。
胴体だけとなった悪魔が力なく倒れた。液体の上に倒れたことでびちゃっと不快の音を響かせる。
間近で命が刈り取られた瞬間だった。
「ごめん、力加減間違えた! 焦って魔力使いすぎちゃった」
やってしまったと謝るエリサ。とんでもない。彼女がいなかったら僕は串刺しになっていた。
的確に急所でありそうなところに容赦なく魔法をぶち込んだエリサ。赤ん坊救出劇のときもそうだったが、彼女の咄嗟の判断力と行動力はやはり目を見張るものがある。
「ありがとう。油断していた」
多方向からの攻撃。一瞬でも気を抜けば命取りになってしまう。わずかの油断を反省し改めて気を引き締める。
しかしこんな状況、精神的にも魔力的にもずっとは続けられない。脅威を退けながら何か策を練らないと。
「ソラ、背中合わせにならない?」
「分かった」
互いに背をむけて悪魔と対峙する。
このシチュエーションはお話にもよくでてきた。冒険譚のクライマックス、長旅をともにしてきた相棒との命の預け合い。幼少期はそのシーンを想像して心が躍ったものだ。
だがこれはそんな眩しいお話の中ではなく現実。それも圧倒的に不利な駆け出し魔法使いふたりでの背中合わせ。
出会ってまだ数日の、共闘なんて経験したことのないエリサに命を託す。呆れられるかもしれないが、僕は少しのためらいもなかった。
後ろは信じきる。代わりに見える範囲は僕が倒す!
「閃撃魔法!」
「風操魔法!」
声が重なる。反対方向にふたつの魔法が飛んでいく。
命中した悪魔の肉体が消滅した。
僕らは力の制御をもう考えなくなっていたんだと思う。山火事よりも魔力切れよりも今を生き延びることを優先した。
正面から、左右から、ときには上から。襲ってくる悪魔めがけてただひたすらに繰り返した。
練習の中で魔法制御を覚えるように、実践でできる限り最適な威力と精度を模索していく。その過程で1度も魔法を外さないでいるのは奇跡だった。「命の危機に瀕した人間は実力以上の力を発揮できる」半信半疑だったこの言葉を信じるときがくるとは。
しかし学習するのは相手も同じ。魔法を唱えて撃つ、その繰り返しの僕たちに悪魔たちだって慣れてくる。
僕の正面から悪魔が2体襲いかかってくきた。しかも同時に。
意図してかせずか魔法使いの弱点を的確についてきたのだ。最悪だ、心の中でそう呟く。
「くそ! 閃撃魔法!」
わずかに前にでてきた片方に魔法を撃ち込んだ。あっさりと蒸発する肉体。
仲間を葬った魔法が真横を通過した悪魔は、怯んで一瞬だけ踏み込みを弱めた。その隙を決して逃さない。
速度が落ちた悪魔に魔法杖を槍のように突き出した。進路を変えずに突進してきた悪魔の重い衝撃を僕のか弱い腕が受け止める。
進行を防がれた悪魔は杖をつかんで鋭い爪を伸ばしてきた。ガリガリと魔法杖を引っ掻き徐々に近づいてくる。
力が強い。小さな身体のどこに蓄えられているんだ。必死に魔法杖で押し返すがジリジリと後退してしまう。腕がもたない。
だけど作戦通りだった。杖の先端はしっかりと悪魔の腹に密着しているのだから。
「閃撃魔法!」
杖から放たれた魔法は密着していた悪魔の腹に大きな風穴を開けた。一瞬にして腕にかかる力が消滅する。
魔法使いとのバトルにおいて魔法杖をつかむことは御法度だ。特に先端を掴むなど死にに行くようなものなのだ。
なんとか2体を退けることに成功して大きく息を吐いた。即席の作戦だったけど案外うまくいくもんだな。なんて安堵して力を抜いた瞬間だった。
僕の左右、視界の端にふたつの影が映ったのは。
意思疎通をしているとしか思えない完璧な挟み撃ち。正面からが無理だったら左右から、悪魔の成長が絶望に置き換わって僕を苦しめている。
魔法を放つことすら間に合わない。しゃがんで避けても無駄だろう。
じゃあどうする? 閃撃魔法は杖の先端から放たれる。構える隙がないようじゃさっきのようには倒せない。
あらゆる策を否定されると、僕の頭の中にはいつもある選択肢が出現する。常に候補として名前を連ねているのではなく、万策尽きたと感じた瞬間に突如として現れるのだ。それは僕が持つその策を使うことに対する拒否感によるものだった。
現れたということはそれ以外に方法がないということ。
そしてそのためには……相打ちを覚悟で迎え撃つしかない!
迷う暇なんてなかった。右手に握った魔法杖の感触をたしかめ瞬時に身体を右に捻った。身体を戻すと同時に回転によって生まれたエネルギーを使って杖で右の悪魔を殴りつけた。今度は先端をぶつけるのではなく杖を握る拳ごと側面を悪魔に押しつけるように一撃をぶち込む。
予期しない行動だったんだろう、悪魔が一瞬怯んだ。やっぱりこいつらは内面に生物としての本能が潜んでいる。悪魔族は得体の知れない化け物なんかじゃなくただの異形生物だ。そう分かると恐怖心がいくらか和らいだ。
怯んだ隙に固まった肉体を杖と一緒に右手で触る。
「ぐあっ!!」
突如襲った激痛に思わず悲鳴を上げた。がら空きになった僕の後ろから肩あたりに振り下ろすように爪が突き刺さっていた。右の悪魔に対処すればもう片方には背を向けることになる。分かってはいたが想像以上の痛みだ。
痛い、痛い、熱い、熱い…………
体験したことのない熱さを帯びた激痛に顔を歪めた。血が噴き出し緑色の地面が真っ赤に染まる。
「ソラ!!」
エリサがこちらに気がついた。
だが少し振り返っただけで正面から突撃してくる悪魔たちに後れをとってしまう。急いで対処に戻った彼女だが、あっという間に向こう側でエリサが劣勢になった。エリサの魔法を撃つスピードが上がる。
時折心配そうに振り返るエリサに「大丈夫」と言葉を返した。彼女の助けは求めない。背中合わせで戦うと決めたときからこっちの敵はすべて僕が排除すると誓ったんだ。
今度は上半身だけを捻り左手で爪を突き刺した悪魔の腕をつかむ。右手と左手で別々の悪魔の肌を感じる。ゴツゴツしていて小さな石をたくさん握っているときのように痛かった。
やっと準備が整った。チャンスは一度きり。我が身を危険に晒してまで厳しい条件を整えてきた。
悪魔たちがふたたび腕を振り下ろす前に決着をつける!
「譲渡魔法『浮遊魔法』!!」
そう大声で叫んだ。
エリサが驚いたように振り返ってこちらを見た。そんなことしたらまた襲われてしまう。
だけどそうはならなかった。僕側の悪魔もエリサ側の悪魔も、とある2体に意識を奪われていたから。
僕が触れていた悪魔。そして僕が魔法をかけた悪魔が無抵抗で宙に浮いている。
よかった。うまくいった。
空中でもがく2体の悪魔を少しずつ動かしていく。そして僕と月とを結ぶ直線上に2体をくっつけて配置した。表情を読み取ることはできないが、明らかに困惑している様子。
それでいい。理解が追いつく前に仕留めてやる。
杖を構えていつも通り狙いをさだめる。
さっきまでは背後に映る木々が邪魔をしていたが、今はそれがない。夜空に浮かぶ月を目印に天まで届く純白のエネルギーを杖に込める。
「閃撃魔法!」
ああ、窮屈だった。空に撃つことがこんなに開放的だとは。
外せないという恐怖は思いの外、僕に枷として制約を課していたらしい。
魔法の通り道にいた2体の悪魔はそのまま跡形もなく消し飛んだ。回避もできずに空中で為す術なく。
「今のって」
「後で説明する。けど多分もう使えない」
エリサが問いかけてくるが、これ以上の悪魔との接触はリスクが大きすぎる。それに今は悪魔の処理が最優先だ。僕は隠し技を使っても2体しか倒せなかったから。
だけどなんだろう。僕はこの戦いで初めて魔力を込めて魔法を撃てた。もし全力で撃って悪魔を一掃できるとしたら――――
「ソラ、魔力を出し切る勇気はある?」
心を見透かしたかのようにエリサが言う。同じ事を考えているらしい。
「もちろん。エリサはどこまでの威力なら?」
「問題ないわよ。全部巻き込むぐらいなら出し切ればいけるわ」
「空中に留めておける?」
「ぐるぐるしながらでいいなら10秒かしら」
十分じゃないか。
僕らはパーティー仲間であり支え合うために一緒にいる。互いの弱点は補い合ってこそ。
刺された肩がジンジン痛む。出血は少量だがまだある。悪魔たちがさらに成長する前に早めに片をつけよう。
「外したら?」
「大丈夫よ。移動させるから変に動かさないで」
「分かった」
1回きりの勝負。失敗したら僕らは殺される。魔力をすべて使い切る作戦なんて賭けとしかいえない、大博打だ。
深く頷いてエリサに合図する。エリサも頷きかえしてきた。
エリサの自信に満ちた瞳を見ると自然と僕も大丈夫という気持ちになる。それはまやかしなんかじゃなく、彼女の信頼に応えたいという明確な意志確認でもあった。
彼女は作戦に関わるすべてを信じ、託してくれている。
僕だってできるはずだ。自分をエリサを魔法を信じろ!
彼女が静かに目を瞑る。杖を胸の中心に立てた。
「我が手に集いし虚空の大気よ、天の息吹となりて舞い上がれ!」
詠唱と同時に目を開き、
「風操魔法!!」
エリサが唱えた。
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