タルカル編 第九話 作戦開始!
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作戦は計画通り進んでいた。
ぼろを出さないよう夜に帰った僕は、クロンとの会話もそこそこにさっさとベッドに入った。ふたりで寝る演技をしていた僕らは今思い返しても滑稽だ。
日中の疲労からくる布団の心地よさから睡眠と覚醒を繰り返していた僕は、意識の境目に扉が開いた音を聞いた。
クロンが出掛けたと確信して重い意識をなんとか引き上げようしたのだが
「ぐはっ!」
お腹に強い衝撃に受けることになった。一気に目が覚める。
ゆっくり目を開けるとエリサの顔が視界に飛び込んできた。お腹にまたがって僕を見下ろしていたのだ。
「次は魔法を使うわよ」
恐ろしい宣言をする彼女。
「起きた! 起きたって!」
慌てて言う。
僕が起きたことを確認して、エリサはピョイとベッドから降りた。
まさかあの扉の音はエリサが入ってきた音だったとは思わなかった。つまり1度目のクロンが出掛けた音は完全に聞き逃していたことになる。
「もう少し優しく起こして欲しかった」と抗議する僕だが、「何回も起こした。起きなかったから飛び乗った」という彼女の言い分を聞いてからはエリサに謝ることしかできなかった。
まさか僕が起きなかったらほんとうに魔法を使っていたのだろうか。寝坊で吹き飛ばされるなんて洒落にならない。
エリサに急かされながら慌てて支度をして宿を飛び出した。
幸運なことにクロンはまだ道を真っ直ぐ進んでいてはっきりとその姿を確認できた。
そういうわけで、いろいろあったがまだクロンを見失わずにすんでいる。
「なんかこういうのワクワクするわね!」
笑顔で飛び跳ねて楽しそうなエリサ。眠そうな様子はいっさいない。
「あんま目立ちすぎるとばれちゃうよ」
まだジンジンするお腹をさすりながら言う。
もしクロンが物音に振りかえったら終わりだ。言い訳はできたとしてもその後の尾行が困難になる。見つかるなら現場を押さえてからにしたい。
「見つかりそうになったら飛んで隠れるから平気よ」
「でも僕は?」
「うーん、得意の閃撃魔法で誤魔化す?」
「どうやって!?」
西地区を抜け中央地区に入ってきた。クロンはまだ1度も後ろを振り返ることなく進んでいる。
なんとなくクロンの様子が変だ。ふらふらとおぼつかない足取りで歩いている。
目的地に導かれるように。そこに自分に意思は介入していないのではないかと思うくらい、クロンの後ろ姿には生気がなかった。
「なんかクロンさん、様子変じゃない?」
「そうかしら? 労働というものはそこに向かうだけで憂鬱なものよ」
「もしかしてクエスト憂鬱だった?」
「わたしは別よ」
なんとも信憑性に欠けるお嬢様だ。
しかしこそこそ出掛けなくても僕と一緒にクエストをこなすとでも提案すればよかったのに。もちろん今言われてもエリサがいるから一緒には無理だけど。
「やばい、曲がった」
クロンが大通りを左に折れた。たしかあそこの道は高台へ向かう坂道にでるはずだ。
慌てて駆け足で曲がり角に急ぐ。夜とはいっても人はまばらにいる。できるだけ怪しまれないようにしなくては。
急いで足を動かすたびに疲労が蓄積されていく。噴き出る汗を夜の空気が冷やして寒さすら感じた。魔法使いが運動を得意にしているはずがないんだ。それはエリサも同じようで、息を切らしながらなんとか僕についてくる。
やっと曲がり角にたどり着いた。クロンと同じようにそっと左に曲がると、クロンは高台への坂道を登り始めたところだった。
「どうして高台なんか」
あそこの坂道を登った先には高台があるだけ。もうひとつの坂道が続いている反対側へ降りることもできるが、それなら下の道を通った方が圧倒的に早い。
他にあるものとすれば坂道の途中で山へと延びる古い山道くらいだ。しかしその先は倒木のおそれがあるとかで数年前に立ち入り禁止からなっているらしい。
「もしかしてわたしたちのこと気づいているんじゃない? だから遠回りして撒こうとしているのよ」
「撒くためにわざわざ一本道に入ったりしないと思うな。たぶんあの先がクロンさんの目的地なんだよ」
言ってみたものの、何が目的なのかは検討もつかない。
とりあえず見失わないようにそれでも慎重に歩みを進める。この先に何もないのは僕たちにとっても同じ。見つかればいいわけはもう効かない。
やっと坂道の下までやってきた。クロンの姿は見えないがこの先にいるのはたしかだ。
間を詰めすぎないように、それでも置いて行かれ過ぎないように、見えない相手を追っていく。歩を進めるたびにクロンの目的を推測した。
高台からは綺麗なタルカルの夜景が見えるだろう。しかしもしそれが目的なら僕らに黙っておく理由がない。わざわざこんな真夜中に出掛ける必要だってないはずだ。
暗闇を歩いていると自分がどこへ向かっているのかを見失ってしまいそうになる。目的すら曖昧にさせるとは夜は恐ろしい。
クロンの背中を思い出し隣のエリサを確認しながら、闇に抗ってクロンを探す。
まだ見えない。まだ見えない。まだ見えない。まだ見えな――――
開けた場所にでた。道の勾配もなくなり足にかかる負荷がぐっと軽くなる。
気がつけば僕たちは高台へと到着していた。あたりを見渡すがクロンの姿はそこにはなかった。
「どうして……分かれ道はなかったはずなのに」
「いえ、ひとつだけあったわよ」
エリサは振り返って上ってきた坂道を指さした。
「あの山道よ。あそこが目的地だったのよ」
「でもあの先は通行禁止になっていて行き止まりだよ」
「登りきった先とは限らないわよ。途中に何か他の目的があるのかも」
もうふたりともクロンが働きに出掛けたとは考えていなかった。だけどここまで来たからには何をしているのかぐらい確かめたい。
思えばクロンの靴が不自然に汚れていたのはこの山道を通ったからではないだろうか。もう使われていないため整備も行き届いていない。足下が見えづらい夜に入ったのなら汚れるのもうなずける。
筋が通った。その代わりに「どうして」という疑問が湧きでてくる。
「どうする? あそこは電灯がない。月明かりだけじゃ危険だよ?」
「ふふふ。こんなこともあろうかと持ってきました」
自慢げにエリサが懐を漁る。
出できたのはランタンだった。照らされる僕の顔。眩しい。
「さすがです! エリサ様」
「でもひとつしかないからはぐれたら終わりね」
「では僕が持ちます!」
「わたしが持ってきたんだからわたしが使うに決まっているでしょ。ソラはその恩恵にあずかってなさい」
さすがに無理だったか。諦めてエリサを信じることにする。
さっそく山道の入り口から山の中へ入った。
風で揺れる草木が不審者の侵入を拒むようにざわめいている。
山道は思ったよりも暗かった。足元がわずかに確認できる程度。ランタンの光がないとほんとうに道に迷いそうだ。
はぐれる恐怖からエリサの羽織るマントの裾を後ろから掴んでしまう。
「どんだけ怖がりなのよ」
そう言う彼女だが「止めて欲しい」とは言いださない。優しさに甘えながらもその状況を少しだけ喜んだ。
ほんとうはここで気がつくべきだったのだ。この山道こそ男たちが噂していた『幽霊山道』であると。
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