タルカル編 第八話 クロン追跡大作戦
本日2本目、ラストです!
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「というわけでクロンさん、退去命令です」
「ソラくん!?」
部屋で僕を出迎えてくれたクロンをさっそく追いだす。
エリサとの部屋はもちろん別々なのだが、クロンがいるとなにかと面倒なことになりそうだと思ったからだ。ふたりの行動を見張られているというのもあまりいい気がしない。
クロンには少し可哀想なことをする。
「さすがにいきなりは可哀想なので明日までは泊まっていただいて構いません。その代わりそれまでには新しい宿を探してくださいね。もちろんお金を稼ぐ方法も」
「そんなぁ」
大袈裟に落ち込むクロン。
彼にとってみればいきなり寝泊まりする場所を奪われたのだから無理はない。
しかしクロンに前を向いてもらうには少し強引にでも生きる術を身についてもらったほうがいい。ここは厳しくいこう。
宿に着くまでにクロンのことを思い出した僕は、エリサに事情を説明した。”復讐”という言葉は使わなかったが、元パーティーを追っている最中であること、お金がないためたまたま知り合った僕の部屋に居候していることを伝えた。
『大の大人が恥ずかしくないのかしら』
エリサの言い分はもっともで擁護の隙がなかった。やけに刺々しい口調でクロンを罵るエリサは鬱憤をこれでもかと僕にぶつけていた。初対面で口説かれたせいかもしれない。
しかしそんな評価とは裏腹になんとエリサは資金援助を申し出た。退去したあとの数日間分の宿代を工面すると。
申し訳ないとは思いつつ、それなら罪悪感も幾分ましになるだろうと彼女の好意を尊重した。彼女のクエストの分け前を少し増やして、ふたりで折半したことにすれば問題ない。
僕らの提案をしぶしぶ承諾したクロン。承諾させたと言った方が正しい。
「そろそろ戻るわね」
もう夜も遅いからと今日は解散となった。お嬢様のエリサをあまり夜更かしさせるわけにはいかない。
実は僕らがクロンを明日まで泊めさせてあげたのにはもうひとつ理由がある。クロンの不自然な行動を確かめるためだ。
すべては今日の夜、分かる。
ちなみにエリサが古宿をみて最初に発した言葉は「外の方が安全そう」だった。
* * *
「それでどうだったの?」
簡単な薬草採集のクエストを終えた僕らは『中央広場』で今後の予定について話していた。僕の魔法杖はギルドに預けてある。エリサも魔法帽子を脱いだただのお嬢様スタイルになっていた。
「やっぱり同じだった」
おとといに初めてクロンと部屋を共有したとき、不安と緊張でなかなか寝つけないでいた。
日付が変わる頃だろうか、部屋のなかで何かが動く気配がした。静かに目を開けるとクロンの姿がなかった。
初めはクロンがトイレに行ったのだと気にしてはいなかったが何分経っても戻ってこない。待っているうちに僕は寝落ちしてしまった。
朝、目が覚めるとクロンは割り当てられた自分のスペースで眠っていた。まるで昨夜のことがなかったかのようにぐっすりと。
やがて起きたクロンに昨晩どこかに行っていたか訊いても行っていないの一点張り。
だけど僕は気がついていたんだ。クロンの靴が不自然に汚れているのを。
「やっぱりどこかで働いているのかしら?」
「夜だと目立たないしね。でもそれなら僕に隠してる理由は?」
「それはあれよ。稼いでいるのがばれると部屋を追い出されるから」
隠しても結局追い出されているのは何というか、不運だとしか言えない。
一応追い出した引け目があるため、クロンがちゃんと働いて自立しているか確認したい。そんな野次馬精神でエリサと作戦を立てているのだが。
「やっぱりこっそりついて行って確認するのが一番だわ」
「そうなると今日は夜まで起きていないといけない。夜に起きているって案外大変なんだよ」
「そうかしら?」
エリサが首を傾げる。
きっと夜更かしの経験がないから想像しづらいのだろう。早寝が習慣になっている人は日を跨ぐことすら苦痛のはずだ。
「そうだよ。途中エリサが外で眠っちゃったら宿まで運べる自信ないよ」
「あまりわたしをナメないでよね」
エリサは心外だと顔をしかめた。
「だってお嬢様は夜更かしとかしないでしょ? 日が落ちると同時に寝て、夜明けとともに起きる。管楽器の音が朝を知らせて、呼び鈴を鳴らすと白髭をたくわえた老紳士がこう言うんだ。『おはようございます、お嬢様。本日のモーニングにはドラゴンベリーのサンドウィッチとホットミルクをご用意しております』」
「昨日からだけど、ソラのその偏見はどこからきているの?」
呆れ顔のエリサ。
特に変なことを言った覚えはないんだが。だって僕が読んできたお話にでてくる貴族はみんなこういう生活をしていた。管楽器はただの想像だけど。
もしかしたらエリサは少しやんちゃな子だったのかもしれない。冒険者に憧れるくらいだ、おでんば娘で使用人もさぞかし手を焼いたことだろう。そういえば女の子だから老紳士ではなくてメイドさんだったか。
「ごめんそうだよね。管楽器はうるさいもんね」
「そこじゃないわよ。いやそこもなんだけど」
やはり貴族の暮らしを想像するのは難しい。
話がそれてしまった。
「とりあえず、わたしは全然大丈夫。ソラも大丈夫ならその作戦でいきましょう。クロンさんが出て行ったらわたしを呼んで」
「分かった。寝落ちしたらごめんね」
「大丈夫。わたしもドアが開いた気配ぐらいは分かるから。たたき起こすわね」
「優しくお願い」
それなら2人でエリサの部屋で待機するという作戦もある。ただそうするとクロンが僕の帰りを懸念して出て行かない可能性がでてくる。
チャンスは今夜しかないんだ。寝たふりよりエリサと一緒にいるほうが楽しそうだが我慢しよう。
「あと、念のために魔法杖は持っていこうね」
「危ないから?」
「それもあるけど、もしクロンさんがわたしたちに気がついてもクエストへ行く途中だったっていいわけできるでしょ?」
エリサはほんとうに賢いな。
深夜限定のクエストもあるにはある。少し部屋で仮眠してきたと言えば誤魔化せるだろう。
「わかった」
尾行の経験なんてもちろんない。もしクロンが『獣通り』を通っていて僕らがチンピラに絡まれたら振り切る自信もない。
どうにも勢いで決まったこの作戦だけど、僕はワクワクが止まらなかった。
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