表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/171

タルカル編 第七話 野蛮なお嬢様

本日も2本投稿です。1本目!


毎日投稿中!

 杖をしまい乱れた服を整えたエリサが戻ってくる。


「すごいね! 『風操魔法』をあんなに使いこなすなんて」

「大したことないわよ。ほんとうは『飛行魔法』が使えればもっと楽なのに」

「そんなことない! ほんとうにすごい!」


 謙遜するエリサだが口元が緩みきっている。喜んでくれているらしい。


 風を操る魔法。移動に使うには『飛行魔法』、攻撃に使うにはほかの攻撃魔法が完全上位互換として存在しているため、率先して習得する者はいない。戦闘で使ってもせいぜい嫌がらせ程度で決定打にはほど遠い。

 ただし威力と精度を極めることで、空中移動と同時に地を抉るほどの突風を放つことができるともいわれている。まさしくロマン魔法だ。


 浮くだけでも数年はかかるとされる『風操魔法』。ここまでの精度はとてつもない鍛錬を積み重ねてきたに違いない。


 エリサがわずかに俯く。


「わたしの家ね、とくにお父様がとても厳しい人で、小さいころから『冒険者』は野蛮人であると事あるごとに言ってきたの。平和を壊す悪い人たちだって」


 地を見つめながら自嘲気味に続ける。

 

「笑っちゃうよね。平和のために命を懸けている人たちをそんなふうにいっちゃうんだもの。それでもわたしは『冒険者』に憧れた」


 エリサの表情は過去を懐かしむには暗すぎる。


「家の人に見つかってはいけない。だからわたしはこの魔法を極めることを選んだの。これならただの風だと誤魔化せるし消費魔力も少なくてすむ」


 きっと彼女も僕と同じただ冒険者に憧れた子どもだったのだろう。環境に恵まれない中でもこうして自分が冒険者として生きるための武器を作ってきた。さっきの魔法の精度はその努力の成果なのだ。


 僕の唯一の仲間は男の誰よりもかっこよく、女の誰よりも美しかった。


「そんなわけで攻撃魔法はよろしくね!」


 顔をあげて笑顔をつくりなおすエリサ。

 急に他力本願になる彼女だが、この重い雰囲気を気遣ってのことだろう。


 苦笑いで自信のなさをアピールしたあと、僕らは自然とふたたび歩きだした。


「そういえば気になってたんだけどさ、ジードたちとの対決でエナドが短剣を外したじゃん? あのときエリサ何かした?」

「あら、どうしてそんな事聞くの?」


 待ってましたとばかりに目を輝かせるエリサ。ほんとうに表情がころころ変わる。


 これは何かしたのだろう。伝えたがっているし遠慮なく訊くことにしよう。


「エナドほどの実力者が使い慣れた魔法をあんな外し方するなんて思えなくて。それにかすかにエリサがなにか呟いたような気がしたんだ。別に違うならいいんだけど」


 野次馬の妨害や慣れない環境がミスを誘発したとも考えられるが、さっきの『風操魔法』があまりにも妨害むきすぎる。


「ふふーん。 このことに気がつくなんてあなた相当やるわね」


 胸を目一杯張ってエリサが言う。小さい身体をなんとか大きく見せようとしているのがなんとも愛らしい。


「そうよ。わたしが軌道を変えてあげたの。短剣は風じゃ動かせないから木の実のほうだけどね。当たる瞬間風で下に押してあげたわ」


 やはりそうだったか。遠くまで投げられた木の実の落下速度が一瞬はやくなった程度じゃ誰も気がつかない。


 あんな遠くまで魔法を制御するとは。彼女のポテンシャルはまだまだ計り知れないな。


「それでも決めたのはソラでしょ? わたしが相手を失敗させてソラが決める。最高な連携だったわ!」


 「明日はクエストで相性をはかろう」なんて考えていたが、もっと難しい言葉を交わさない連携を決めていたとは。

 得意げにしているエリサの気持ちが分かる。自分の活躍を押しつけることになるから自分では言いだせなかったのだろう。


 恥ずかしいからとても言葉には出せないが、「もしかしたら僕らは最高のパーティーになれるかも」心の中でそう思った。



   *   *   *



 商店街を一通りまわった僕たちは街の中心部にある、大きな噴水がトレードマークの『中央広場』にきていた。目的があってきたわけではないが、タルカルといえばここかなと思った。


 商店街は『獣通り』とは比べものにならないくらい栄えていた。


 甘い匂いに誘われて入ったカフェではショーケースに並んだケーキが僕の胃袋を刺激した。ただ値段が高い。節約中の僕では簡単に買うことはできない。

 そんな僕の葛藤に気がついたエリサが僕の分のケーキを買ってくれた。「ぜんぜん平気よ、安いし」そんなことを言う彼女は店の中で一番値段が高いスイーツを選んでいた。


 うすうす気づいていたがエリサはおそらく裕福な生まれなのだろう。お金を使うことに躊躇がない。それに冒険者差別は上流階級に属する者ほど傾向が強い。


 空が薄暗くなってきた。


 公園のベンチでぼんやりと噴水を眺める僕らだが、ひとつ決めないといけないことが残っている。


 ずばりどこに寝泊まりするかだ。


 エリサは今日この街にきたらしく寝床をもっていない。僕の古宿に案内する手もあるがお嬢様にあんなところで寝泊まりさせることを僕の庶民魂が拒んでいる。


「別にいいわよ、どんな部屋でも」

「たぶん想像する何倍も汚いよ。エリサには想像がつかないぐらい」

「冒険者になるって決めたときから駆け出しのころは野宿だって覚悟してたのよ。わたしそこまで世間知らずではないわ」


 プクッと頬を膨らませるエリサ。


 「お嬢様=世間知らず」という世間の認識は彼女も知っているらしい。たしかに世間知らずではなさそうだ。金銭感覚が少し庶民と違うだけ。


「別に一緒の宿じゃなくてもいいんだよ。西地区にだって普通の宿屋はたくさんあるし」

「嫌。わたしたちは冒険者パーティーなのよ。一緒に過ごして苦楽を共にして、初めてほんとうの仲間としての絆を築いていく。それこそ本物の『冒険者』としての在り方だわ」


 こちらに近づきながら熱弁するエリサ。


「わたしにとってソラは、もう蔑ろにできる存在じゃないの」


 エリサが僕に向かって告げる嘘偽りのない清く真っ直ぐな言葉。彼女は無意識だろうが至近距離で浴びるには僕の免疫が追いついていない。


 僕を仲間としてこんなに思ってくれている。彼女に至近距離で見つめられてこんな宣言をうけて恥ずかしさが最高潮まで達してしまった。


 顔を真っ赤にして視線をそらす。


 「ずるいよ」小声でそう呟く。


「あら? どうして真っ赤になってるの? 不思議、教えてよ!」


 エリサが意地悪くさらに顔を近づけてくる。挙動不審な僕の挙動を楽しんでいるように見えた。

 ここまでくると無意識であるわけがない。分かってやっているだろ。


「あーーもう! 分かった分かった、ありがとう! じゃあはやく宿に向かおう!」

「はーい!」

 

 観念してさっさと歩きだした僕にエリサが駆け足で追いついてくる。やがて横並びになった僕らはともに古宿へ向かう。


 いい雰囲気のせいでクロンと同棲していることをすっかり忘れていた。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

少しでも面白いなと思ったり続きが気になる方は、高評価・ブックマーク・コメントをお願いします。作品制作のモチベーションに繋がります!


本日は残り1話投稿されますので、是非ご覧ください!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ