97.俺、隣国に乗り込む
三月だ、波乱万丈な一年間が終わる。
卒業式の前日には、スターダンジョンで、宝箱贈呈式があった。在校生は観客席で見守る。
会場の卒業生は、空からゆっくりと下りてくる人数分の宝箱を、呆然と見上げている。神秘的な光景だった。小さい宝箱の人は、そのまま手のひらで受け止め、大きな宝箱の人は、地面につくまで待ちきれず手にして、重っ!て呟いている。その数秒の待ちきれなさがワクワクを表している。
宝箱を開けると大小問わず、箱自体は消えてしまった。中身とメッセージカードだけが手元に残っている。
一瞬をおいて、「「うおぉ~!!」」という歓喜の声が響きわたる。
誰がどのような物を貰ったのかは報告の必要はないが、教えてもいいよと言う人は担任に報告することになった。今後の参考までにね。
いずれにせよ、昨年までの卒業生から羨望の声があがるのは間違いないと思われる。校長先生、対応、頑張って。
修了式は、3年1組は永久に不滅です!とか叫びだしそうだった。一年間楽しかった。クラスメイトは皆、良い人ばかり、メッティ先生は面白くって、行事も全て、賞を貰ったり優勝したりと、最高の一年間だった。
「このままのクラスで4年1組になりたいね~!」と女の子達も話している。そうだな。俺も全く同意見。
ウーちゃんはお別れのハグをされて、鼻の下を伸ばしている。危険なぬいぐるみなんでね、あんまり調子に乗らせないように、ハグは最低限でお願いしますよ~。
「みんな~。先生は、このクラスが大好きです。だから悲しい。こんなに悲しい三月が、かつてあったでしょうか、いやない。泣いちゃいそうだよ~。
規格外すぎて不正をしたんじゃないかと疑われた春。
強すぎるとチクチク嫌みをいわれた夏。
圧倒的売り上げで白けさせたと言われた秋。
高学年に勝ちを譲らないのかと言われた冬。
それでも、このクラス最高だったよ~~!!!うぅえぇ~ん」と泣き出した先生。
これは、あれか?職員室でいじめられていたのか!?
「数学の先生は、メッティ先生が好きで、話しかけたいけど、何話していいか分からなくって、ってパターンなんですから、気にしちゃだめですよ!」
「そうですよ。大人のくせに、情けないんだから。無視です!」と数学教師がメタメタに言われている。好きな子に意地悪するなんて、大人でもする人いるんだな。
そして、春休みに突入した。久しぶりに森のツリーハウスにガイルとワーニーを招集した。
学校のクラスがヤーニーと離れることってあり得るのか聞いてみたかったんだ。
「そうだな。俺は特に、校長に何も指示していないぞ」とワーニー。
「そうか、最近っていうか、あの王女の件以来、ヤーニーがずっと沈んでいるからさ。とんでもないクラス分けになったりするのかと心配で」
「あの王女は留学するつもりなんですかね?ウェルにあそこまで言われたんですから諦めて、留学も辞退するのでは?」とガイル。
「辞退って、飛び級は合格してたの?」
「そう聞いています」
「親の出る幕ではないだろうが、規格外ってだけでなく不安定でもあるヤーニーと、爆弾王女がどうクラス分けされるかは、知っておきたいところだな。その二人だけが同じクラスになると危険だしな」
「校長を呼び出しますか?」
という訳で、校長先生と教頭先生においで願った。事情を話すと、二人は、
「実際、今、クラス編成中でして、王女は期限までに回答がなく、どうしたものかと・・」
「外交ルートで確認していただこうと話していたところです」と頭を抱えていた。
どこまでも迷惑なやつだ。折角集まったメンバーだけど、一旦解散だ。
ちょっと隣国に行って聞いてみよう。俺は校長先生と瞬間移動でエントロウの王宮前に飛んだ。
「たのも~う!」ってこれは道場破りっぽいか?
校長先生がやり取りをしている、王室の王女担当者を呼んでもらう。
だが、俺が来たと知った王様と王妃様は、急な訪問に驚きながらも、娘の恩人ということで会ってくれた。
今までの、王女様の失礼の数々を詳細に暴露してやった。話していたらヒートアップして、ちょっと乱暴な言葉づかいになったけど、そっちが悪いから謝らないよ。それでもって、今は校長先生が困っているけど、それはどういうつもりな訳?ってことを丁寧に聞いた。
王様は、そんな失礼なことをしでかしているなんて!と驚いた。
王女と女官を呼び出して、確認をする。
「お父様!お母様!私は、どちらかと婚約出来たらいいな、出来ればウェルリーダル様が良いわって言っただけですわ!」
「それは既に両方に断られただろう」
「政略結婚が嫌だと言われただけで、私が断られた訳ではありませんわ」
「押しかけて行って、当主を無視して、心証を悪くして、それでどうやって嫁に行けると!?」
「・・・」
「側仕えしていたお主は、何をしていたんだ!」と、王様は女官に向かっても怒りの声を上げた。
「王女殿下は私の意見をお聞きにはなりません。前任の者もお諫めしたら配置換えになったと聞いております」
「誰がそのような事を?」
「王子殿下が、末姫の意に添わぬものはいらぬ、とおっしゃったと聞いております」
【バキリッ】と王妃様の扇が音をたてた。激オコだ。
「レピッド、私は体調不良で下がったと聞いておりましたが?」
「お母様それは、お兄様がそう言えとおっしゃったのですわ」
重たい沈黙。幸いなことに、王様と王妃様がまともだと分かった。
「ウェルリーダル殿、お恥ずかしいかぎりです。子ども達を教育しなおすとお約束しますので、今回の一件は、放念いただけるだろうか」と王様。
「かしこまりました」
「校長先生にも、ご迷惑おかけいたしました。今回入学は辞退いたします」と頭を下げた王妃様。
「承りました」
「それでは失礼いたします」
とっとと退散した。
再度ツリーハウスに召集して、報告。
「いやはや、なんとも。でも良かったですよ。あの王女が来たのでは学校がとんでもないことになったかもしれませんからね」とガイル。
「やっとこれでクラス編成が固まります」と校長。
そして、振りだしに戻る。俺とヤーニーは同じクラスなのか?
「学校としては、この一年で学校生活にも慣れたでしょうから、飛び級の生徒をばらけさせたい所なんです」と教頭。うんうん、気持ちは分かるよ。
「今日さ、エントロウの王宮を見てて思ったんだよ、過保護も罪だなって。一度ヤーニーと違うクラスになってみようか?」と俺が言うと、
「危険じゃないか?我が息子ながら、危険物だぞ」
「でもいつまでも危険だっていっていたら、自制を学ばないよ」
「放課後はめっちゃ甘やかすから、それでどうだろう?」
「でしたら、異例の事ですが、クラスが離れることを春休みの間に伝えておいていただけますか?始業式の日に突然というのはリスクでしょう」と校長。
それを了承した俺は、一つあることをお願いした。
快く承諾を貰ったので、ヤーニー説得ミッションの開始だ!
翌日。俺はヤーニーと二人で、ツリーハウスにやって来た。
「なんで!?嫌だ!別のクラスなんて絶対に嫌だ!!」と、この世の終わりのように叫ぶヤーニーを見て、俺はこっそりニヤニヤした。