95.俺、文化祭を楽しむぞ!
あっという間に年末だ。飛び級試験だが、エマには俺の教科書を読みこんでもらっているし、初等学校の授業が終わったら、ひよこのぬいぐるみエーちゃんとしてクラスにいるので合格どころか、かなりの高得点が期待できる。はず。
そんな中、エントロウ王国から、なんと、レピッド王女と、俺かヤーニーかどちらかとの婚約はどうだろうか、と打診された。
うそ!めっちゃ失礼な打診!友好国だよね。どちらかとか、そんなこと言っていいの?って思わずワーニーに聞いた。だが、意外にあるらしい。
政略結婚って、結びつきだから、結びつく為の人材がいくつかあるなら、その中から選びましょうって感覚なんだって。ビックリした。
ヤーニーは王族だからともかく、俺は侯爵子息って身分だ。他国の王族からの結婚話って断っていいの?エマ作戦、開始前に終了か?
「どちらも、政略結婚をさせる気は無い。と断っておいたぞ」とワーニー。
「政略結婚では無い、恋愛感情だと言い出したら、二人どちらとも好きと言ったことになるから、言えませんし、良い断り文句ではないでしょうか」とガイル。
「逆ハーレム上等!とか言い出さないといいな」と俺は遠い目をしたよ。だってあの甘やかし一家だよ。末っ子の頼みなら逆ハーレムどんとこい!とか言い出しそうじゃない?
「そのあたりは、大神官にも話を通してあります。婚約は断るが、勝手に何か事を起こしそうなら一報を、と依頼しています」
「留学も諦めてくれると一番いいのになぁ」と言って横を見る。
無言のヤーニーが怖い。爆発しそうだから、本当に穏便に諦めて欲しい。
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そんな、憂鬱な話題はさておいて、楽しい文化祭だ。歌以外は。
2日間に渡って行われるのだが、俺達3年1組の合奏コンクールの出番は一日目の三番目だ。とっとと終わってスッキリ出来るからラッキーかな。
教室のスムージー屋は準備だけして、オープンさせずに、『コンクール出番中』の札をかけておく。
そして、本番。最前列にブラス家一同が並んでいた。最前列ブロックは演奏クラスの家族用なので、毎回入れ替わる為、当然と言えば当然なんだが、見られている感が半端ない。
声が震えそうだ。ヤーニーと目があう。ニコッといつものスマイルをくれる。
「きゃーかわいいー!」という声が観客席から聞こえてくる。なんかちょっと笑った。リラックスできたよ。誰か知らないがありがとう。
4か月間の練習の成果が発揮できたかな。なかなか良かったと思う。
皆も、間違えずに弾けた~!とか、高音はずさなかったよ!とか、自画自賛している。ま、いずれにせよ、あとは結果を待つだけだ。
ダッシュで教室に帰って『体験できるスムージー屋』開店だ!
そして、『自分で野菜や果物を選んで、自分で結界グラスを作って、かまいたちを使ってミキサーする』スムージー屋。大好評だ。長い行列だ。
他のクラスを見て回ったり、展示作品を鑑賞したりする時間は最小限まで削って、フル回転で営業する。それでも追いつかない人気だ。
「兄様!ヤーニー様!展示見ました!黒と白のバーッてなった作品、凄かったです!人だかりができていました」とシャルが、スムージー屋にやってきて報告してくれた。
「人だかり?あれに?」
「なんでだろうね?」と俺とヤーニーは首を傾げた。
「保護者に美術評論家の人がいたらしくてね。絶賛したらしいわよ」と、ただのズボラな作品だと知っている母様が、笑いながら説明してくれた。絶賛か。前衛的だからね。刺さると凄いかも。
そして、二日目も大忙し。もうクタクタだ。今日は2時まで営業で、その後は生徒だけで、合奏コンクールの結果発表と閉会式だ。
メッティ先生に売り上げを預けて、皆で講堂に向かおうとすると、
「なにこれ!こんなに儲かったの!!」と大きな声で叫んでいる。
「先生、落ち着いて。打ち上げ豪華にやりましょうね!」
「有名店のスイーツ取り寄せようよ!」と女の子達がはしゃいでいる。頑張ったもんな、美味しい物沢山食べよう!
ウキウキして向かった講堂。そして、なんと我がクラスは合奏コンクールで準優勝だった。マジか。優勝と準優勝のクラスは、今から発表しなきゃいけないんだって。なんの罰ゲームだよ。
クラスメイトは閉会式での発表の事は知っていたけど、例年5年か6年生が選ばれるので、気にしたこともなかったと驚いている。
ドタバタで、バックステージに預けてあった楽器を手に、音合わせをする。
昨日の保護者多めの観客席と違って、全て生徒だ。デイブが手を振っているのが見える。
本当に、ビックリした。演奏が終了したら、ヘナヘナとステージ脇に座り込んじゃったよ。でも、クラス委員長が、何か封筒を賞品として貰っていたので楽しみにしよう。
「中身出すよ~!」と教壇に立った委員長が、大袈裟なポーズで封筒を開ける。中から出てきたのは、スターイベントの観戦チケットだった。
「「きゃーーーーー!!」」と物凄い叫び声が響く。女の子達が、委員長を押し退けてチケットを手にする。
「え!うそ!ほんとに!?来週末の騎士団の紅白戦チケットよ!」
「プラチナチケットって言われてる、あの!?」
「クラスの人数分あるの?」
「先生の分もある?あるって言って!」と大騒ぎだ。先生は落ち着いて。
結局、息をのむ生徒たちの中、震える声で先生が枚数を数える。
「いちま~い、にま~い・・」どこぞから怪談話が聞こえてきそうだわっ!
先生の分もあった。良かった。泣き出しそうだったよ。
後から聞くところによると、優勝クラスはクラスの人数分プラス5枚だったようで、5枚のチケット争奪じゃんけん大会が大いに盛り上がったらしい。