93.俺、甘ちゃんでした
大人気の討伐対戦イベントは、イベント自体が《スター》と呼ばれるようになってきた。
「来月の《スター》のチケット入手出来たわ!」なんて会話があちこちで聞かれるほどの人気だ。
そして残念だが、学校の運用は6年生が最優先で、俺達3年生まではなかなか回ってきそうにない。6年生はあと少しで卒業なので、個人個人の宝箱を作るスターの為にもいいんだけどね。待ち遠しいな。
でも、こんなに楽しく、ダンジョンコア達とイベントをやったり冒険者ギルドを作ったりしているが、この先、ダンジョン内で死者がでたら?イベントは死亡回避に設定しているが通常のダンジョンはそうではない。まだ奇跡的に全員生還しているが、その時がきたら、それでも楽しく一緒に活動できるのだろうか?
部屋で、ポツリとそんな思いをこぼすと、
「お主らしいのぉ」と言いながらウーちゃんが現れた。
「じゃがそれは、神の世界の命題じゃ。世界を創り、崇められ、親しまれ、そして憎まれる。知能を持つ者は、今日の糧をありがとうございますと感謝し、その後すぐに、なぜ家族を生かしてくれなかったのだと責めるものじゃ。
この真逆の感情に向き合って、そして疲れ果て、世界を創るのをやめる神もおるでなぁ」
「神様も大変だな」
「大変じゃぞ。崇めるがよいぞ。じゃがな、それでも、今まさにこの世界に死者はでておる。嘆く声も多い。そして、ワシはそれを気にはせぬ。気にしておったら何も生み出せぬからの」
潔く言い切ったウーちゃん。それが神様業ってものなんだろう。
ダンジョンもシャトーのような変わり者がいるから分かりにくいが、基本は、魔獣を作り出し戦う場所という設定があるはずだ。戦う以上仕方のないことなのかもしれない。ヤーニーは俺の肩に手を置いて、
「ウェルは深く考えすぎだよ。学校は楽しいけど、万一階段で足を踏み外して死んじゃう子がいたら?
次の日から学校は楽しいものじゃなくなって、ずっと学校中がお葬式みたいにしてなきゃダメ?数日はそうなったとしても、その後は、安全対策を考え直して、また楽しく学校生活を送るようにした方が、僕はいいと思う」と優しく諭してくれた。
「そこいらの近所の森でさえ、魔獣も獣も普通におって、日々人はやられておる、それでもそれを創り出したワシと楽しく生活しておるお主がウダウダ言うても仕方なかろう」
俺は甘ちゃんなんだな。ヤーニーは優しく言ってくれたけど、ウーちゃんのウダウダ言うなが真実だ。安全な場所に住み、護衛に守られている俺は、好きで入ったダンジョンの危険なんかより、強制的に出会う数倍危険な日常を分かっていないんだ。大いに反省しよう。
「ま、あれじゃ。お主のアイデアで沢山の冒険者が誕生しておるからのぅ。危険な魔獣なぞは討伐依頼が出ておって、少しは安全になっておるで、誇るがよいぞ」とフォローまでしてくれた。
「ありがとう。俺は自分が恵まれているってもっと認識しないとな」
「僕も恵まれているよ。ウェルに会えたからね」にっこり笑うヤーニー、いつも天使だ。ありがとう。
これがフラグだったかと、思うほど、この後すぐに、試練のダンジョンから訃報が届いた。
神官を連れずに聖水をかけた剣だけでアンデッドに挑んでいた人達のうちの一人だった。入口の側で2、3個宝石を取っては帰るという安全を重視した戦い方の人だったという。
「ウェル。残念だけど、仕方がないよ」とヤーニーが慰めてくれた。
「俺は大丈夫。危険を承知のダンジョンだ。この前、勉強したばかりだから」
「すみません」とゲオルグが頭を下げ、
「私の判断で、入口付近だけならと、Bランクの者まで立ち入りを許可したのがいけなかったんです」と言う。
「お主の判断でよかろう。他のBランクの者は生還していると聞いておるで。その者の運が悪かったのか、準備が足らなんだかじゃろう」と、ウーちゃん。ワーニーも、
「これからAやSの者が犠牲になったらダンジョンを封鎖するのか?そうでないなら、今後はこういった形で犠牲が出ているという事実を伝えることを怠るな。それだけでいい」と言った。
そして、サラっと、森の討伐依頼の危険や、護衛依頼の評判などに話題が進んだ。冒険者ギルドのランク分けのおかげで、そのどれでもで負傷者や死亡者が減ったというものだった。
『減った』か・・ゼロではないんだな。つくづく俺は甘ちゃんだった。
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ちょっと落ち込んで周りに心配されていた俺に、リチャードが良い知らせを持ってきた。
ハグじいとコツコツ進めていた温泉が完成したんだ!
ここは、驚かせるべきところが沢山ある!早速皆を招待せねば!
張り切りだした俺を見て、リチャードが、
「やっといつものウェル様になりましたね」と喜んでいる。ご心配おかけしました。
2泊3日の温泉旅にご招待だ。ガイル、母様、シャル、エマ、ワーニー、サテラ様、ラタート、それに加えて、それぞれのお付きの人というメンバー。ビル兄様も飛び入り参加だ。
シャルのお付きはリタだ。ナニーから家庭教師にジョブチェンジしたんだ。リタが伯爵の仕事をする時には母様と一緒にカルマが付くことにしたらしい。一人歩きするようになったら、マイナが専属執事兼護衛かな?脳筋一直線だけど大丈夫か?ヤーニーの護衛がフランツでいいのだから大丈夫か。
皆にチェックシートを配る。今日はお客様というより、モニターさんだよ。
値段に見合ったサービスがされているかもチェックしてもらうため、金額も公表した。一軒目の高級温泉旅館で、
「うわ!この値段なんですか!?怖くてテーブルに指紋もつけられない!」とフランツが値段にビビりまくっているが、放置だ。
館内や、サービスの内容を説明し、温泉を見てもらう。サテラ様と母様には子連れの利用を念頭に厳しく評価をお願いした。
そしてお泊り頂いた、至れり尽くせりの高級温泉旅館。評価は星5つ頂けました!そりゃね、相当力を入れたからね。
ハグじいも、集めたチェックシートを見ながらウムウムと頷いている。うれしいよね。
そして、二泊目。まだまだあるよ!旅館を建てたというより、温泉街を造ったんだもんね~!!