92.俺、順番待ちの楽しみできました
「そうじゃのぅ、学生には卒業に宝箱を渡すというのじゃからトレジャーとかはどうかのぉ。ドロップコインに使ったマークにちなんで、スターも捨て難いのぉ。どうじゃ?」あ、意外と普通の名前だった。
『私は、スターという名が頂戴できれば幸いです』
「決まりじゃのぉ。スターダンジョンのスターでいくかのぅ。寂しい思いはせんでよくなるぞ」
「忙しすぎになるかもしれないけどね。対戦用の難易度の打ち合わせとか、地形を少しいじってくれとか、色々リクエストもされるだろうからね。魔力が足りなくなったら、ブラス家がお肉を取りに通常の鍾乳洞ダンジョンに定期的に入るのは変らないから伝言してね。あ、それよりも専任の窓口スタッフを手配したほうがいいのかな?どう思う?ウーちゃん」
「そうじゃのぅ。一般の教師がどのくらい常識的にスターを運用するかは未知数じゃからのぉ。マイナに頼んでみるのはどうじゃ?」
「何でマイナ?」
「フランツを目指しておるらしゅうてのぅ。今はジョージの所で研修中じゃが、休み時間は訓練に励んでおるぞ。ここの担当になれば、空き時間には、ダンジョン使い放題という特典があるといえば喜んでやってきそうじゃと思うてのぅ。スター、そんな威勢のいいのが担当でも構わぬか?」
『ありがとうございます。楽しみにしております』
そして、話し合って、飛び地として設置するドアは3つになった。ブラス家、高等学校、騎士団に設置したドアには《スターへの扉》というプレートが掛けられている。なんか、アイドルオーディションの会場に繋がっていそうなドアで笑っちゃったな。
そして、スターのヤル気が出なかった地下四階は完全放置で、俺達が楽しみにしていたボス部屋も、完全に忘れ去られることになった。しばらくして落ち着いたらぜひとも思い出してもらいたいもんだ。
結局、スターダンジョンは、マイナとベスターの姉弟に任されることになった。マイナだけでは不安だと、しっかり者の弟が手をあげたからだ。心配性だなぁ、と声を掛けたら、
「最近の姉は、脳筋一直線なんです!教師や騎士の皆さまとの打ち合わせなんて怖くて一人で出せません!」と悲壮感たっぷりに語られた。脳筋一直線。そんな直線やだな。
兎にも角にも最初の討伐競争は、子どもで実験する訳にはいかないので、騎士団の紅白戦に決まった。高等学校の教師や、兵団、衛兵団の団員も打ち合わせから参加して一連の流れを共有していく。
事前の打ち合わせで、既に、あの崖は一年生の時にはもう少し低くできますか?とか、地形は街中での捕り物の応用ができる形になりますか?など、どんどんリクエストが出てきている。これは、スター、やりがいがありそうだ。結構細かいので脳筋一直線マイナだけじゃなくて、実務派ベスターがいてくれて良かったな。
本番は、騎士団が滅茶苦茶ピリピリしていた。バイナン団長が自分も出るから難易度をワンランク上げろといいだしたからだ。紅白それぞれに選抜された10人ずつでコインの数を競うはずが、副団長も仕方なく参加して11人ずつになった。
難易度は、コイン1枚の敵ばかりが出てくるのが、一番易しいステージだ。今回はコイン5枚の敵まで出現させる予定だったが、団長の一声で6枚の敵まで出ることになる。
一人一人に追跡鏡が付けられて、頭上に浮かんでいる。ウーちゃん肝いりの観戦モニター的な通信鏡もばっちり機能していて、観客席からも良く見える。
コインは観客席の前のテーブルに自動で増えていく仕組みで、対戦相手と同時に攻撃が入った場合は致命傷を与えたほうに追加されるという優れもの。ドロップアイテムを拾わなくていいなんて!ウーちゃんがダンジョン慣れしてきてアドバイスが的確なんだな。
ワーニーとガイルも見学に間に合った。いよいよ開始だ!
チームで協力して6の敵を倒したり、もちろんソロで1の敵を一網打尽にしたり、時には敵チームの妨害をしたりもありだ。戦い、戦略、それらがリアルタイムで通信鏡に映し出され、そして、遠くでリアルの音や砂煙が上がるのを体感するという楽しさ。この世界に来て、初めての大興奮する観戦イベントだ。
ガイルは、
「これは、お金が取れそうなくらい楽しいですね。騎士団紅白戦観戦チケット、一枚千ダルくらいでいいでしょうかねぇ。勝利チームの飲み代にするか、騎士団の備品購入代に回すか悩みます」と言っている。ワーニーは、
「ダンジョンを街の設定にして、建物を壊したらコインをマイナスにするとかも盛り上がるだろうな」とニヤリと笑いながら次の催しを提案している。
今日は見学だったフランツは、自分もやってみたいですと次回のメンバーに立候補している。最高のスタートが切れたんじゃないだろうか。
実際にやってみたメンバーに聞き取り調査をして、感想や改善点など必要なメモをとる。大きな問題はないようだし、今後のスケジュールはマイナとベスターに任せよう。
因みに、その後、この討伐対戦イベントは大人気になり、若いお嬢様方がチケット争奪戦をしてまで詰めかけて、団員の結婚率があがったのだという。そうとなれば、良いところを見せようと訓練にも熱が入って、ヤマト王国は安泰だとワーニーが高笑いしているらしい。
俺達学生は授業の一環だから関係ないけどな。早く俺達のクラスの番にならないかなあ。楽しみだ!
***過去エピソードも含め、誤字報告沢山いただきました。読んでくださるだけでなく訂正をいれてくださる親切に、感謝いたします。なるべくお手を煩わせないよう頑張ります!***