9.俺、知恵熱出そうです
今日この世界は新たな一歩を踏み出します!
俺の前世の知識が火を噴くぜ!キリッ!(決め顔)
魔力なしでも着火、しかも燃料の薪なしでも燃え続ける夢のアイテム『魔道コンロ』のプレゼンいってみよう!
最近よく話をしてくれる、やさしい我が家の家令ジョージをターゲットにやってみよう。とっても優秀で穏やかなので安心して話せるよ。
・・・偉そうに、プレゼンとかいってすみません。俺、うどん屋でしか働いたことないし、何をどうしたら企画が前に進むのか分からないので、そもそもの話の
『アイデアを形にするためには何をするのか』の初歩を教えてもらおうという魂胆。
改めまして、全然プレゼンとかではございません。
千里の道も一歩から、新たな一歩には違いないさ!
コンコンコン。
「ジョージ、ウェルです。今、お話しいいですか?」
ドアを開け、ふうわり微笑んで俺の目線に合わせてくれる、ロマンスグレーのナイスミドル。
「ウェルリーダル様、いかがされましたか?まずはお入りください」家令執務室に招き入れてくれてソファに座らせてくれた。フカフカだ。
我が家の家令には個室の執務室がかなり広めにとられている。学校の校長室みたいな感じ。ここでちょっとした面談、ミーティングなんかも行われるらしい。
横の扉は職員室ならぬ上級使用人執務室に繋がっている。
リタは呼び出しをくらうとビビッているが、俺には優しいので怖くない。それにガイルはワーニーの世話で忙しいので、このジョージが我が家の大黒柱的ポジションですらある。頼もしい。
「ジョージー。お料理できる魔道コンロ作りたいの、どうしたらいい?」
「ウェルリーダル様がお料理・・・魔道コンロ?とはどういったものですか?」だよね。そこから説明だ。
カセットコンロのイメージをがんばって説明。
「魔力なしの人でもカチッて着火ちて、ボーって燃え続けるんだよ」完璧な説明!
「・・・魔力なしの人は着火できませんし、薪が無ければ燃え続けることはできませんが・・・」
「そうだよ。そこは、これから考えるんだよ。でもそんなのを作りたいの。どうしたらいい?」
必殺、ぶん投げ&丸投げ。
しばらくフリーズした後、ジョージは復活した。
「それでしたら、まずは一つずつ課題をクリアしていかれてはどうでしょう?魔力なしの着火は大変夢のある着眼点でございます。この手の研究は魔力なしのかたがする以外ないのですが、全く手つかずでございます。ウェルリーダル様なら先人の出来なかったことが出来るかもしれません。魔力の流れを見る訓練をしている神官をあたってみましょう。しかし残念ながら私では、もう一方の燃え続けるというのは想像が及びません。どのような専門家が必要なのか分かればよいのですが、力及ばず申し訳ございません」
ジョージに悪くもないのに謝らせてしまった。ガックシ。
「ジョージ、ごめんなさい。もうすこし、ひとりで考えるね。神官のひとも、今度、教会に行くからその時に聞いてみるね。ありがと」
俺はアホだな。ジョージに気を使わせて、今更、気づいたけど、カセットコンロもガスという燃料を燃やしているわけで、決して燃料もなく燃え続けている訳ではない。
転生で生まれなおしたからか、全体的に思考やメンタルが幼くなった気がする。大丈夫なのか俺。
ちょっと落ち込みながらお昼寝。
気を取り直して、やってみよう。まずは着火。
なぜ魔力ありは着火できるのか、考えてみよう。
「リタ。ロウソクに火をつけてみて」
指先で芯に触れると火が付く。「どうやってるの?」
「体の中の魔力を指先にギューッと集めるイメージですね。そして着火って頭の中で思ったら火が付きます」
ほへー。なんと便利。俺も使いたかった。
本で勉強したことによれば神官には魔力の流れを見る『魔力可視化の大魔術』という特別な修行があるという。
修行を修めた神官は魔力を『色』で見ることができるらしい。かなり疲れる大魔術だそうだ。
そういえば転移してた時、ワーニーが街の家から森へ逃げたことがあった。あの時は、神官に認識阻害がバレるかもしれないという理由だったはず。
街の家の三階部分が何色かは分からないが色付きで見えたなら超怪しい家だったろうな。
となると今のリタの着火は、指先から魔力が出て芯にまとわりつく『色』が見えることになるはず。
ジョージは気軽に神官に~とかいうけど、大魔術使わせて疲労しているところで、指先に魔力見えましたか?って聞くのハードル高いな。
「着火してんだから魔力使ってるだろ!それをわざわざ見せてなんなの?」って怒られそうだ。
「ねぇリタ。魔力ありの人は他人のおおよその魔力量が分かるんでしょ。神官の魔力可視化の大魔術みたいに色付きで見えるの?」
「そうですねぇ。大きな石があったら重そうと思う、ぬいぐるみが置いてあったら軽そうって思う。くらいの大まかな感じで認識しているだけで、正確なものではないですよ。もちろん陛下など高魔力保持者の方は、我々とは違って認識しているかもしれませんが」
「ほとんどの人は結構アバウトなんだね。じゃ、魔力なしの俺はどう見えるの?」聞くのが怖い感じもするが、聞いてみた。
「魔力なしの人は・・・」
「ひとおもいに言って、怖いから」
「ほんの少し、光の加減によってですが、瞳孔が薄く見えることがある感じです」
「ドウコウ?」
「目の中心部のことです。通常は黒です」あ、その瞳孔ね。
「一部の心ない者が、それを見て『色付き』などど言うので、お伝えしにくかったのです」
うん。どこにでも、そういう人はいるからな。大丈夫!強く生きるよ。
数日かけて、難解だからと後回しにいていた上級魔法理論の本と神官修練の本を読破。頭がグルグルする。知恵熱出そう。
それで分かったことは、ワーニーに聞いて確かめるのが一番いいということ。むなしいな。
我が家の蔵書では、瞬間移動は不可能だとあるが、ワーニーは好きなところにポンポン移動してるし、結界だって魔術師や神官が一丸となって魔力を練り、そこに神の恩寵が宿った時のみ発動されるとあるが、ワーニーは好きなところに一人で結界を張っている。次元が違ってる。
うん、ワーニーに会いたいって伝えよう。
ここ半年で俺は、陛下と王子の大のお気に入りというポジションを確立しているので、こんなお願いをしても誰もたしなめたりしない。
さあ、ワーニー、我が召喚に応じるがいい! ふっふっふ。とか、思っていたら、瞬間移動してワーニーとヤーニーがやって来た。凄い、たまたまでも凄い。魔王召喚成功だ。なんてな。
あ、ヤーニーが満面の笑みです。ウサギさん退院したんだね!よかったね。
「ウサギさん。げんきよ」誇らしげに差し出されたウサギさんをナデナデ。
「お前、突拍子もないことを思いついて神官を呼び出そうとしたんだって?」おお。伝わってる。
「神官はもういいんだ。ワーニーに来てもらいたかったとこ。ツリーハウスの森へ行こう!」
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そして早速、鼻息を荒くして聞く、
「ワーニーは神官みたいに魔力の色が見える?」
「俺は天才だぞ。修行もしてないのに見えるようになっていた」
流石です!
「じゃ、今も見てて、実験やってみるよ!」
俺は某アニメの元気〇を意識して両手をあげて周りからの元気を集めるポーズ。
おお、気分がアガッってきたぜ!敵をぶっ倒せそうだ!
「うおぉぉぉぉぉ~~~!」とか言ってみた。気分大事。
ノリノリで
「いっけ~!」と手を振り下ろした。
ドガーーーーーーン!メキメキッ。あ、成功しちゃった。
「どういう事か説明しろ。お前から魔力は見えなかった」
「すごい!うぇうすごい!」ヤーニーが褒めてくれた!っていうか
「ぼくの名前言えるようになったんだね。ヤーニーのほうがすごい!」
聞いた?
うぇうだって、めたんこかわいいー!
あ、背後に魔王の気配が。すぐに説明します。はい。