87.俺、メッティ先生を二度見する
居て当たり前になっていたウーちゃんの不在に、クラスメイトは、
「あら、今日はウーちゃん様はいないの?」と聞いてくる。
まさか、合コンに行きましたと、本当の事は言えないので、
「今日は用事があるみたいだよ」と返事をした。ぬいぐるみになんの用事があるんだよ!と自分で言っておいて、心の中で突っ込んだ。
そして、昼休み、ウーちゃんが暗いオーラ全開で帰ってきた。どうやら合コンは失敗したようだ。
「ワシはもう忘れ去られたも同然じゃ。今の流行りは武神系で筋肉がどうこうと語っておったわ」と、うな垂れている。ウーちゃんって優男だもんな。
仕方ないから、抱っこしてヨシヨシしてあげた。ふり幅の大きいウーちゃんは、尊敬出来るところも沢山あるけど、どうしようもないところも沢山ある。が、憎めないキャラなのは確かだ。ヤーニーは呆れかえった目で見ているが、こういう時は優しくしてあげて。
午後からは初めての社交マナーの授業だ。3年生から始まる特別授業だ。
俺達のクラスは前期が社交ダンスで、後期が社交マナーなので、ドキドキワクワク、メッティ先生の授業を初体験だ。ダンスは、俺とヤーニーだけ小さいので、二人で組んで適当に踊ったらなんとかなった。社交マナーはどうなるかな?
「皆さま、ごきげんよう」ニコッと微笑む、あの人は誰?
「えぇ~~!メッティ先生!?」教室をどよめかせた。別人のオーラを漂わせるメッティ先生。
「皆さまは幼少の頃からご自宅で、社交について十分な教育を受けてきたかと存じます。ですので、ここは、学習の成果を発揮する場所程度になるかと考えております。まずは、最新の貴族年鑑の試験をさせていただきます。大いに実力を発揮なさってくださいませ」と言って、試験問題を配り始めた。
まだ皆が目の前の現実を疑っている間に、「それでは、はじめ!」と号令がかかった。
そして、そんな状態の試験は惨憺たるものだった。
「みんな~。ヤーニー君以外、酷い!担任クラスだから頑張って欲しかったよ~!」いつもの先生だ。ホッとするよ。
それにしても、あんなに嫌だった社交ダンスの授業が懐かしい。社交マナーがガチで、貴族社会を生き抜く為のサバイバル授業だとは思わなかった。
身分の上下だけでなく、繋がり、地方貴族の力関係から、爵位の違う姻族関係の実態まで多岐に渡る授業らしい。自分の家や親戚の話題になると、苦笑いしか出ないだろうな。過酷だ。
晩餐会出席のマナーから食事のマナー、御礼状に招待状、お見舞いや、エスコートなど様々なマナーを5年生までの3年間で半年ずつ学ぶことになる。しょっぱなから躓く俺達に先生は、
「次回の授業までに今日の試験の範囲を復習しておいてくださいませね」と言って去って行った。俺の脳内では、西部劇の回転草が転がりながら、ピュ~という音をたてていた。
部屋に戻ると、5人で、社交マナーの授業の話しで盛り上がった。この部屋は全員後期がマナーの授業だったので、事前情報が無くて衝撃的だったんだ。エマもいたので、来年の飛び級試験はきっとこの辺も範囲に入るから油断しないでと試験のコピーを渡すと、苦い顔をしている。高学年に飛び級で入るのは大変そうだな。
*******
男子会5人組が、なぜか校長室に呼び出された。
「初等学校の生徒が大量に飛び級したいと言っておりまして、心配した保護者の方から、高等学校にはオープンスクールはないのかと問い合わせが多いのです。
飛び級の代表格である5人に実体験などを踏まえて良い点、苦労する点などを紹介していただきたいのです」と切り出された。
「私は向かない、遠慮したい」とヤーニー。そうだよなぁ。イライラしても校庭に火球をぶち込んではいけません。怒られます。とかあり得ない実体験話すことになるよな。
「俺もそうだなぁ。苦労話がないなぁ。皆はどう?」
「私も特に苦労はないです。対抗戦など楽しいことは沢山ありますけど」とキリアル。
「そうですね。私もキリアル様と同じです」とグレッグも。デイブは、
「おれ、いえ、私もです。でもそれは、寮の部屋を、この5人で一部屋使わせてもらっているので楽なのかもしれません。クラスメイトのレナード様は本来1年生ですが、飛び級で3年生になって、寮の部屋も3年生に交じっていて、気を使って大変だって、最初の頃はよく言っていました。今はどうか分からないですが。
彼は去年、初等学校の生徒会長だったし、代表で話すなら彼がいいのではないでしょうか?」とナイスな発言をした。
「なるほど、学校よりも寮生活ですか。そうですね。レナード・マーキュスに打診してみることにしましょう」
校長室から出ると、皆に「デイブ、グッジョブ!」ともみくちゃにされたデイブ、
「ご褒美は、冒険者ギルドの食堂のランチ驕りでいいよ~」と言っている。
そこで俺は重大なことを思い出した。
「あ~!すっかり忘れてた!」
「何?食堂が出来たこと忘れてた?この前みんなで行ったよ?」とヤーニーが不思議そうにする。
「違うよ。貯金だよ。男子会貯金をしてたんだよ。誰にも言ってなかったけ?」
「知らなかったです」とデイブ。皆もうなずいている。
「鍾乳洞ダンジョンで訓練している時に、お肉がドロップされるだろう?それをブラス商会で売って利益が出ているから、バイト代を皆に払うって提案したんだよ。そうしたら、皆の家から、いただけませんって反対されてさ。
仕方がないからガイルと相談して一割を男子会貯金として貯めておいたんだ。学校に入ったら買い食いでもしようと思って、その時までは、ってずっとシェフに任せてたんだよ。いくらになってるかな?」と言って、通信鏡でシェフに繋ぐ。伝えられた金額はなんと25万ダル。マジか、大金だな。
「あ~、凄い貯まってた。25万ダルだって。ランチ何回食べられるかな?」と言って笑ってごまかした。絶対なにか言われる。
「ウェル、いらないって言われたのに貯めてたの?」とグレッグは呆れているし、
「ウェルらしいですよ。金額が大きいのもウェルらしさですよね」とキリアル。ウーちゃんみたいな扱いになっている。やめて。
「でも、肉だけだから。試練のダンジョンの宝石は現金化していないから、そのまま神ポケに入っているよ。必要な時はいつでも言ってね」
「ちなみに、どのくらいあるの?」とヤーニーに聞かれたので、男子会の分だけ出した。ヤーニーと俺が暴れまわった分に比べたら少ないものだ。
「こんなに!!」とデイブが驚いている。どうやらこの量でもインパクトはあったようだ。
「売らないなら、将来、彼女が出来たらこれで髪留めでも作ったらいいよ。綺麗なのが出来るんだよ!」といったら、
「そうでしょうね、そして、100人くらい彼女が必要ですね」とグレッグ。
う~ん。どうすればよかったんだ?
「ま、そういう事だから、取り敢えず!週末はギルドでランチね!」と話をまとめた。
「ウェルにはかないませんね」とキリアルは笑っている。
やっぱり、ちょっとウーちゃんっぽい扱いになっているよね。悩む。