85.俺、商売する、罰当たりというなかれ
メッティ先生の忘れていた宿題というのは、「尊敬できる人」というテーマで作文を書くという、苦手な人はとことん苦手なヤツだった。
俺は、比較的苦にならないかな。なんてったって毎年毎年、作文や読書感想文に苦闘して大人になってきたんだから、要領よく書く引き出しは多い。ちょっとずるいけど。
始業式の午後は暇なので、教室で取り組むことにした。クラスメイトは、忘れよブームもあって、国王陛下で書くぞ!と盛り上がっている人が多い。これは、夏休み中、家で一人で書くよりも、「そのフレーズいいね、いただき!」「それな、オレもそう思ってた!」なんて言いあいながら書く方が楽しいな。来年も作文の宿題が出たら提案してみよう。
「みんな~頑張ってくれてありがと~」と泣いているメッティ先生は街でお菓子を買って来て配ってくれた。なぜか、ウーちゃん、エーちゃん、ビーちゃんの分まである。クラスの一員扱いが笑えるな。自腹だろうに、ありがとう。それにしても泣くほどって校長先生のガチ怒り、エグイのかな?
でも、この一件で益々我がクラスの結束は固くなった。これが作戦なら先生は名軍師だろう。
この流れでの、王都建国祭でのクラス別、出店売上競争は盛り上がることまちがいなしだ。少し前までは、単にボランティアで、祭りを盛り上げようと学生有志が参加していたらしい。
今は、学校から予算がついて、その予算内で出店計画をたて、店づくり、運営、接客をこなし、最終的には全学年クラスの中から売り上げナンバーワンを決める熾烈な戦いとなっている。
店の場所取りは一般の人と同じで抽選になるので、そこから勝負は始まっている。場所が、有名スイーツ店の横に決まったら、俺達素人はその横でスイーツを売るのを無謀だと諦めるしかないようだ。もちろん、果敢に攻めてもいいらしいが、過去2回、経験してきたクラスメイトからの言葉は重い。
エマは屋台食べ歩きとかが大好きなので、情報収集は任せて!とシャルやビル兄様を巻き込んで頻繁に地方を含めて出店巡りをしている。スタートダッシュ早すぎないか?シャルは俺よりも沢山あちこち行っている気がするよ。
そして、運命の抽選日、取りまとめをしている商工会で、メッティ先生の引きの強さが試された。
結果、「みんな~ごめんよ~」と出店マップを握りしめて帰って来た先生。
有名スイーツ店、毎年ジュースが人気の果物屋、口コミで人気のアクセサリー屋が、俺達のスペースの左右と前に記されている。
「せんせ~~~~!」と皆で突っ込んだが、どうしようもない。が、下手したら、いずれかの店の行列で、俺達の店は、営業していることさえ気づかれない可能性がある。
「限りなく引きが弱いのぉ」とウーちゃんは笑っている。そうだな、もう笑うしかない。
「隣に行列が出来ることを見越して、その人たちに買ってもらえる商品を売るのはどうかな?」とヤーニーが提案した。
「行列に売るって?どんなものを?」とエーちゃん。出店マイスターと化したエマにもピンとこないようだ。
「例えば、暇つぶしの読み物とかはどうかな」流石ヤーニー、発想が毎度斜め上だ。でも、天才だからきっと当たる、はず。
「読み物か、簡単に読んでもらえそうなのは、おみくじとかかなぁ。商工会が用意してなければ、お店のガイドマップとかもいいかも」と呟くと、
エーちゃんが、おみくじって何?と聞いてくる。皆も知らないようだ。この世界にはないらしい。ごまかしておこう。
「どこか、外国の本で読んだ気がする」と下手な言い訳をして、続ける、
「沢山同じに見える紙を用意して、その中の一枚を引くんだよ。そうすると今日のあなたの運勢はいいとか、悪いとか、普通とか書いてあって、一喜一憂するんだよ。今日じゃなくて、今年の運勢とか、今年の恋愛運とか、種類もあって、
「そんなあなたのラッキーアイテムは黄色い物です」とか書いてあると、なんとなく黄色いものに目がいっちゃうっていう不思議なものだったはずだよ」
女の子は、恋愛運?面白そうね。と乗り気になってきている。
「運がいいって言われても、何かがよくなるわけじゃないから、怒られちゃうんじゃないの?」と冷静な声も。
「元手は紙代くらいしか必要ないから、残りを教会にお布施して紙にちょっとした幸運を祈ってもらうとかもできるよね」
「運が悪いって出たひとも、幸運になるんじゃ?」
「恋愛運が、「いまひとつ」って出ても、「ただし笑顔を忘れなければ上向く」って書いておけばいいし、「良い」って出ても、「ただし、思いやりを忘れてはいけません」とか、書くんだ」と説明する。
「なるほど、プラスとマイナスを書いてゼロにして、責任回避をしておくんですね。そこで幸運があれば儲けもの的な発想ですか」
そうそう、そういうこと。罰当たりというなかれ、神様は横でニヤニヤしているから問題はない!
「じゃあ、今年の運勢良し、って書いて、ただし、地味な努力をおろそかにしてはいけないとかってのは?」
と、皆、それぞれ沢山のアイデアを出している。これだけの人数が居れば色々出し合えるな。これで決まりでいいのかな?
「さっき、ウェルが言っていた、ガイドマップを裏面に印刷するのもいいんじゃない?おみくじを読んだあとは、それを見ながらお店巡りができるし、それを持って歩いてくれると、そのマップどこで手に入るの?ってなって集客に繋がるかもしれない」とヤーニー。流石です。
「いいね!なんなら、ラッキーアイテムでスイーツって書いて、甘味屋に丸を付けておくとかってレアなおみくじとかあったら楽しいかもしれないわ!」と女の子達のアイデアは無限に広がっている。
その後は、学校や教会に許可をもらって、いよいよ本格始動だ。
おみくじの文言を全員で絞りだす。後はおみくじチームが、少しづつ表現を変えて、なるべく同じものを作らない様にして筆記の魔法で清書していく。
ガイドマップは、各店のキャッチコピーを取材チームが収集しに行く。
当日売り出すものが決まっている店はそれを入れたいだろうからね。親切な仕様だ。俺達は同種のライバル店が居ないだろうから、皆さんの営業の手伝いだって広い心で出来るってもんだよ。
おみくじは、結界と風魔法で、くるくる飛び回っているものを掴み取るバージョンにした。ビジュアル重視だね。値段はかなり議論したが、教会が、お布施は気持ちばかりで結構だから、生徒たちがお祈りをしにくるようにと言われたので、本当にお金がかかっていない。そのため、100ダルと決めた。
さあ、ガイドマップ目当ての客を想定すると、勝負は午前中かな。頑張るぞ!