84.俺、ロマンのために
俺の提案はこう。
地下から建物を伸ばして、隣にもう一つ別棟を作るんだ。シャトーからすればUの字の建物だけど、外から見れば2軒に見えるようにする。冒険者の訓練用にと、広い敷地の物件を探していただけあって、敷地に余裕は十分にある。訓練場所はシャトーが建物内に作ってくれたから土地は遊ばせているだけだしね。
2軒に見せるメリットは、別棟を一般の人向けって強調することが出来ること。折角なら、子どものアトラクションとしてだけでなく、大人がきちんとした魔道や剣術の訓練を出来る場所としても活用して欲しい。冒険者ギルド内ですると、やはり大人はギルド登録をしなくちゃいけないのかと身構えるから、一般向けをつくるのは大事だと思うんだ。
それに、俺の中の一番は、本館の冒険者ギルドの受付前のスペースは、ギルドの依頼ボードの吟味や、寛ぐためや、待ち合わせ、とにかく冒険者の為のものであって欲しいんだ。ロマンだから。
俺の提案はおおむね受け入れてもらえた。ただ、どちらかの利用が減って、もう一方は予約待ちになる不均衡がでた場合、遊んでいる部屋がもったいないのではと言われた。
「まあ、やってみればよかろう。ブライトンのギルドなどを見ると、荒くれが大騒ぎしておるからのう。ウェルからすれば、子どもがウロチョロしておるここが異質なんじゃろうて」
『ウェル様はSランクですが、子どもですけれどね』とシャトーに笑われた。だが、なんと言われようと、キッザ〇アの受付みたいに見えるのは、冒険者ギルドにふさわしくないんだ!
早速深夜俺達は強者を集めてド派手に大騒ぎした。増築用の魔力補充のためだ。
メンバーは、ブライトンからゲオルグ、ハグじい、王都邸からトムじい、リチャード、王宮からはワーニーとオラスル魔道局長、フランツ。もちろんイメルダ、ヤーニーに俺、ウーちゃん、エマ、ビル兄様まで参戦。
今回は神様プラスワーニーチーム対それ以外での旗取り戦。学校の対抗戦と同じルールで、全身結界を張って開始だ!
ウーちゃんが見えないほどの速さで突っ込んでくるので、土の障壁を張る。3枚ほどぶち抜かれたが、勢いが弱まった所でヤーニーが凍らせる。エマとビル兄様は守備でカウンターを狙っているのか動かない。ワーニーは姿が見えない。認識阻害か?
ヤーニーと俺は警戒するも、こちらは数頼みなので、残りの人員は攻撃だ。押していくぜい!恐ろしい数の攻撃が矢継ぎ早に相手陣営に降りかかっているが、守備はそれ以上に固い。ワーニーの姿はまだ見えないのが不気味だ。ヤーニーの俯瞰でも分からないというし、どうなっている?2人で気配を探るがヒットしない。どうやって守ればいいんだ?結界が使えないルールは本当に守りにくい。
ウーちゃんの攻撃が来る。あれ?凍らせてるのに?と思った瞬間、100体ちかいウーちゃんが一斉に攻撃してきた。
「なんだこれ~!!」と言っている間に防御に手が回らなくなって、あっさりウーちゃんに旗を取られてしまった。数の有利をあちらに持っていかれた状況。
ワーニーはニヤリと笑いながら、
「ウーちゃんのダミーを作って、認識阻害をかけて後方からコントロールした俺達の勝利だな」といって神様達とハイタッチをしている。
「こちらの攻撃を受けるだけで受けて排除しなかったのも作戦だったのでしょうね」とイメルダは冷静に分析している。
いろいろなチーム分けで楽しく戦った(遊んだ)俺達は、シャトーに、
『もう十分過ぎるほどです』と言われて、やむなく解散した。
そして、いよいよ別棟づくりだ。ウーちゃんとシャトーとイメルダと俺を中心に、あ~でもない、こ~でもないと増改築していく。就学前の子ども用の受付は低くしたり、魔法レベル3まで上げたい方は是非ご利用くださいって看板を作ったりもした。入り口は、冒険者ギルドと別の方角になっていて、ぱっと見は完全に独立した建物だ。
空が白みはじめた頃、二階建ての建物が漸く完成。まずは2部屋でオープンだ。
『建物の名前、看板はどうしますか?』とシャトーに聞かれた。皆で顔を見合わせた。そう、まさかの、誰も考えていなかったってやつだ。
「どうしましょう!大事なことなのに!肝心なことを忘れていました」とイメルダがワタワタし始める。ずっと内内では別棟って言ってたからね。
「みんなで遊ぼう!レッツプレイ!とかはどう?」とエマ。相変わらずのセンスだ。
「修練所とかですかねぇ」とゲオルグ。その他にも、訓練所、鍛練場所、ストレス解消場所なんてふざけた名前も出たけど、結局、プレイセンターに落ち着いた。ギルドの訓練部屋との差別化を図るためにも、いい名前だと思う。
「プレイセンターにある、プレイルームで魔法の練習する」って感じの会話ができると、なんとなく柔らかい雰囲気がでて、来場のハードルが下がりそうだ。
その日から、早速運営開始。俺とヤーニーは徹夜で眠くってそのまま家で夕飯まで寝てしまった。ウーちゃんによると、朝は流石に空いていたが、噂を聞きつけて凄い人数が押しかけてきて、夕方には満員御礼で、予約に切り替えたそうだ。シャルの分も予約をしてくれたので、明日また行こう。
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そんな、忙しくも充実した夏休みが終わり、新学期が始まった。
久しぶりのクラスメイトは、少年から青年に変わりつつある気がする。
「みんな~久しぶりだね~。先生大ポカやって、校長先生に大目玉くらっちゃって大変だったんだよ~」とメッティ先生が暴露する。
「忘れよ!」と誰かが言う。教室は大爆笑だ。なんでも、今、巷ではワーニーが対抗戦で言った「忘れよ」が大ブームなんだって。
流行語大賞とかあれば、大賞とれたかな。夏休みの間中、流行るってなかなかのもんだよ。ワーニーに教えに行かなきゃ。
そして、なんと、メッティ先生の大ポカは、夏休みの宿題を一部渡し忘れていたことだった。
「提出期限、明日だけど、それは流石に延長してもらったんだけど、来週までによろしくね・・・」先生の声が、教室中の冷たい視線で、だんだん小さくなっていく。
校長先生は「忘れよ」とは言ってくれなかったようだ。