83.俺、ウーちゃんは神様だと久々に感じました
俺の血はウーちゃんによって、綺麗な縦長の六角形の宝石に変えられた。ヤマト王国の地下に安置されている結晶が、原石っぽい直方体に近いものであるのに比べると、洗練されている。巨大な神像の額石なので、サイズは手のひらより大きいサイズだ。俺の血だけでは足りなくてウーちゃんの力で薄めて作っているようで、色が薄い。薄紅色というんだろうか。綺麗だなと思ったけれど、本人には言っていない。癪だからな。
そもそも成人男性でも、子どものこぶし大サイズがマックスだったのに、7歳の体の俺がそれ以上の血を提供できるわけない!失血死って知ってるか!?
だからと言って、小分けに何度もザクッてされるのは御免をこうむるので、薄めて完成させてくれてよかったよ。
「すまなんだのぉ。これしきの血で倒れるとは思わんでのぉ」と謝っていたが、もちろん無視だ。ごめんで済んだら警察はいりません!
「いやなんだ、今回も、前回も、あの時も、すまなかった」と頭を下げるワーニーだが、仏の顔も三度までって言葉があるんでね。君はもうアウトー!だ。
夕飯の時間くらいまでプリプリ怒っていたが、気が済んだ。
次は無いからね!と決め台詞?を言った後は日常に戻った。
大教会からは、新しい額石をいただけるのなら、そのことを一つの特別なセレモニーとして、ウーちゃんの完全体でご登場いただき、大々的に授けていただきたいとリクエストがあった。
いいんじゃないかな。これくらいの特別なことがないと神様は来ないって思ってもらったほうが、ぬいぐるみのウーちゃん的には楽だよね。つくづく思う、ヤーニーは天才だ。
当日は、急遽のセレモニーとは思えないほど華々しいものとなった。
大教会は内も、外も、神が降臨なさるとお告げがあった、として集められた信者で超満員だ。
神像の内から浮かび上がるように出てきてた、ウーちゃんの神様姿は圧巻だった。神秘的な紺色の瞳に薄いブルーの額石、内側から発光しているような存在感、たっぷりしたプラチナブロンドの髪やドレープタップリの衣装が波打っていて、そこだけ空気が違うようだった。
『力を手にして何をなすか、真価が問われようぞ』と一言、その後は全身が強く光る、そして霧散し、しばらくキラキラが辺り一面に舞っていた。
集った一同は、そのあまりの神々しさに声もなくたたずんでいた。気づくと神像の額石は白から薄紅色に変わっていて、何も知らない観衆は驚愕し、どよめいた。
大成功だな。俺に放り投げられているいつもの姿は微塵もないな。
ピアスは取り敢えず30個渡しておいた。
『力を手にして何をなすか』、魔法を手に入れた者より、神官に、より問われる言葉だろう。魔法を授けるという権力はあまりに強い。どうか、今日のこの、神の権威をもって、平和的に利用されますように。
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「レピッド王女、こんにちは。俺、そろそろ夏休みも終わるし国に帰るね。毎日君の家族が回復や浄化をしてくれているから寿命までは死なないと思うけど、ごきげんよう、さよなら」と、言うだけ言って立ち去った。もう、建設的じゃない話し合いに辟易していたので、返事も待たなかった。
翌日、離宮に見送りに来てくれた王族の皆さんと挨拶を交わしていると、
「陛下~~~!!!レピッド王女が~!目を覚まされました~!」と叫びながら走ってきた。
すぐに部屋へ駆けつけると、王女がベッドの上に体を起こしている。これでミッションコンプリートだな。中途半端にならなくてスッキリ帰れるよ。
王族家族の涙の抱擁を見ながら、俺達はお暇のタイミングをはかっていた。
「どうして、レピッドこんなバカなことを」と泣いている母妃。
「だって、兄様姉様のお友達が、魔力なしの家族がいると大変だなって話しているのを聞いて、私足手まといなんだって・・・」
「そんな!僕たちはそんなこと思っていないよ!大変どころか、頼ってもらって幸せだって思っているんだよ!」と兄王子が唾を飛ばして叫んでいる。
「私だって、あなたが、姉様お願いがあるのって言って来てくれなくなったら生きる気力が無くなるわ!」とシスコンを拗らせている発言を堂々としている姉王女。
大教会や他国の王族を巻き込んだ、大騒動の発端があまりに情けない事だったとハッキリと証明されて、父王は頭を抱えている。ご愁傷様。後はワーニーに詫び状でも感謝状でもいいから送っておいてね。
「それでは、我らはお暇いたします。目が覚められてなによりでした」とヤーニーが一行を代表して挨拶をした。
「あ、あの、ウェルリーダル様は?」とレピッド王女が聞いてくる。
「私です。目覚められて良かったです」と短く答える。
「あの、わ、私は、あなたにとても感謝をしております」と恋する乙女の如くもじもじ話し出す。
ヤーニーが、表情を固くしてすかさず俺の前に立ちふさがって、
「これ以上のお礼は結構です。それでは、これにて」と瞬間移動した。
分かりやすい。二人ともとっても分かりやすいよ。10歳と7歳の子どもってこんなだったかな。
ワーニーに今日までの出来事を報告して家に帰った。残りの夏休みはシャルの相手だ。学校が始まるまであとちょっと、頑張ろう。休みの方が疲れるなんて、働く親かっての。
シャルの訓練部屋の予約に付き合ってシャトーに行くと、訓練部屋が一つ増えていた。
「シャトー凄いね。どんどん増えそうだね」と話しかけると、
『ありがとうございます。ですが、冒険者と一般人は、もっとはっきり分けたほうがいいかもしれないと、イメルダと相談している所です』
「何か問題があったの?」
「休日の午前中、訓練部屋は一般専用になっていますが、一階の受付は冒険者も一緒ですから。小さいお子様連れの方には不評でして」とイメルダが説明してくれた。
『入り口を分けようにも、私には出入口を作ることが出来ませんから』とシャトーがしょんぼりした口調で話す。
冒険者ギルドに来て、冒険者と分けて欲しいってのはどうかと思うが、シャルを見てたら分かるけど、子どもにも本当に人気なんだよなぁ。
安心して楽しめる施設になるならその方がいいだろう。
「ウーちゃん。出入口って特例で増やせないの?」
「ふむぅ。魔道を使う度に穴が開いて、そこが出入口になっては困るかと思って制限を設けたはずじゃで、一度全員退去すればできような」
「退去後、制限解除して、入り口増やして、もう一度制限をかけるって感じかな?」
「そうなるのぉ」
「よし!それなら、ちょっといいこと考えたんだけど聞いてくれる?」と俺は張り切って発表するのだった。