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81.俺、ネガティブな自己暗示とか嫌いです

 エントロウ王宮に到着した。お通夜のように沈んだ王宮で、王に迎え入れられる。

 すぐに第二王女レピッドの部屋へ案内された。10歳くらいの女の子だ。疲れが隠せない王妃が傍らについている。

 申し訳ないけれど、俺達一行は秘密だらけなので、人払いをお願いした。

 いくら友好国の王といえども意識のない王女の部屋で、人払いなど、と王妃は抵抗したが、大神官との橋渡し役として随行していたハルトマン神官長がとりなしてくれた。


「これは、強力な自己暗示じゃのぉ」とウーちゃん。

「自己暗示?自分で進んで意識不明になっているってこと?」

「そうじゃ」

「なんでそんなことをしてるんだろう。どうやったら目覚めるのかな?話しかけても無駄ってことかな?」

「ウェル、お主は魔法がいつも通り使えておるのか?」

「うん、問題ないよ。カモノハシ号でここまで来たでしょう?」

「そうであったのぅ」と言ってワーニーと頷きあっている。何だ?


「お主が国外に出たことで、血の結晶の力が及ぶ範囲が広まっているようじゃな」

「それを確かめたくて、お前を連れて国外に出た訳だ」

「俺、ついでだったの?」驚きの事実。


「まあでも、結果、お主がおってよかったぞ。お主の髪を握らせて、それに共鳴させるように娘に話しかけてみよ」

 言われた通りにやってみる。少女の心の声が聞こえてきた。


「私みたいな魔力なしが妹だったら、兄様や姉様に迷惑がかかるって言われたわ。ここまま、寝かせておいて!」

 皆にそのまま伝える。ヤマト王国ではピアスのおかげで魔力なしは、魔法使いと呼ばれるようになって活躍しているが、この国ではその恩恵はなく、久しぶりに卑下した響きをもって『魔力なし』という単語を聞いた気がする。


「レピッド王女、こんにちは。私はウェルリーダル。ヤマト王国からきました。目が覚めたら魔法使いになるためのピアスを差し上げますよ。ですから目を覚ましてみませんか」と、いたって簡潔に伝えた。

「何度も言わせないで!何をしたって、兄様や姉様のようにはいかないのよ!」

「ヤマトでは魔力なしも魔法が使えるようになって、皆活躍していますよ」

「今から使えるようになったって、練習しているのを馬鹿にされるだけよ!」

「あ~、じゃあ、興味があれば起きてきてくだい」


「お前は、もう少し優しく誘導できないのか?」とワーニーにクレームを入れられるが、

「俺は、自分が引きこもるのが唯一の解決手段だって信じ込んでいる人間は苦手なんだよなぁ。常識とか理屈とか通じないだろ?それに面と向かってならともかく、意識を繋いだだけの雲のような空間で声だけで話すなんて荷が重いよ」と愚痴った。


 一度部屋から出て、事情聴取だ。王も王妃も、自己暗示で引きこもっているという衝撃の事実に驚愕している。が、陰口はあるとしても、彼女の耳にそのような陰口が届くことがありえるのかと首を傾げた。

 兄姉にも話を聞いたが、末っ子で、皆で可愛がって構い倒して過保護に育てていたようだ。悪意のカケラもない周辺環境だ。箱入り娘の典型だから、ちょっとの刺激で引きこもったのかもしれないな。


 原因の元になったであろう陰口の調査は他国の王宮の事なので当然丸投げ。俺は一日一回意識を繋げて話をすると約束して、それ以外は自由行動となった。


 神官長の引率で、大教会に行った。教会と名前がついているが、もはや町だ。門前町っていうんだろうか?それともローマの中のバチカンって感じかな?

 迎え入れてくれたのは、大神官だ。おじいちゃんって感じの神官長のお父さんだけあって、大おじいちゃんって感じでどことなく人外感が漂っている。この世界では重鎮中の重鎮だ。

「ようこそお越しくださいました。この度は王女殿下の為にありがとうございます」と、その重鎮は丁寧に挨拶をしてくれた。

「ときに、王女殿下は自己暗示で眠っていると報告がきましたが、まことですかな?」とダイレクトに聞いてきた。ワーニーが話し出そうとするのを遮って、ウーちゃんが話し出す。


「ワシが見立てて、ウェルが意識を繋いだのじゃ、間違いはない」

 俺に抱っこされたウサギのぬいぐるみが、急に話し出したのを凝視する大教会のお偉いさん達。

 大神官は、すかさず、ハルトマン神官長を見た。何やら感づいたんだろう。凄いな流石だ。すぐに、俺の前に跪いた。

 ウーちゃん、気まずいから、自分で立つか浮かぶかして欲しかったな。今さら口を挟めない雰囲気だが。

「トゥーラス神様であらせられますね」と言った瞬間、戸惑っていたその他のお偉いさんたちも、ものすごい瞬発力を見せて大神官に並んで伏した。

「この度は拝謁の栄誉にあずかり誠に、」と続けているところを、

「よいよい、堅苦しゅうせずに、まず席につくのじゃ」

 

 あのどうしようもない、間抜けな、ぬいぐるみへの道のエピソードを披露するのかと覚悟したが、サラッと煙に巻いた。

 秘密保持契約もサラッとやって、俺の説明も、ワーニーら子孫の説明も、エマの説明でさえサラッと終わらせた。


 そして、大教会を観光して、とっとと退散した。

「ワシは堅苦しいのは苦手じゃというのに、いつの時代に行っても大教会は融通がきかぬものばかりじゃて」と説明を始めたウーちゃん。

 確かに、ウーちゃんとは合いそうにない真面目な感じの所だったなあ。でも砕けまくった大神官って嫌じゃない?砕けまくった神様にも慣れたから大丈夫なのかもしれないけど。


 その後、置き去りにしてきたハルトマン神官長は、俺達に貸し与えられた離宮に帰ってきて、

「なぜもっと早くトゥーラス神と会う機会が設けられなかったのかと責めに責められました」とげっそりしていた。ウーちゃんを放り投げて渡した。ムギュってして少しでも癒されてね。お疲れ様です。


 *******


「レピッド王女、こんにちは。ちなみにですが、陰口叩いた人をコテンパンにしてあげるって言えば起きてきます?」

「コテンパン?」

「ぼっこぼっこに殴りまくるとかそういう事です」

「いいえ。そんなことをして欲しい訳ではないんです!」

「じゃあなんで、こんなことを?」

「私は兄様や姉様の足を引っ張りたくないんです!」

「魔力なしと意識不明の王女か。どちらかというと、今が一番足を引っ張っていると思いますがね」

「・・・」

「魔力については、魔法を使えるようにしてあげるというのに聞かないんですから、知ったこっちゃないですけどね」


 といった、無意味な会話を散々やっている。丁寧な言葉もほぼ剥がれかけているが、知ったこっちゃない。夏休みの無駄遣いにならないように、せいぜい他の時間は有意義に使おう。

 ワーニーは公務があるから、何かあったら呼び出すようにだってさ。逃げたな。

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