77.俺、シャトーに通っちゃいそうです
『ようこそ、マスター、私は・・・名前はありません。マスターに付けて貰っていませんから。建物型のダンジョンに成長させようと地上を目指し、やっと小屋を作り上げたものの、入れないと怒られ、壊そうとされる数千年を耐え、少しずつ魔力を蓄え、館と呼ばれるようになりました。でもやはり壊そうとされます。入れないんですのものね。当然です。でも、今、マスターに連なる御方が入り口を作ってくださいました!私はやっと、やっと活動できるのです。温かく人々を迎える憩いの場所となるのです!』と玄関ホールに声が響いた。
名前がないと不服そうな、ここのダンジョンコアさんは、以前メッセージカード付きの武具をくれた鍾乳洞のダンジョンコアさんよりも、数段こじらせている感じだ。
「あ~、すまんかったのぉ。名前じゃな。そうじゃのぉ、立派な建物じゃで、シャトーと言う名はどうじゃ?」
『マスター、ありがとうございます。シャトー、賜りました!』嬉しそうだ。
『攻撃され続けた私は、人がやってきたなら、喜ばれる館となりたいと思って過ごしてまいりました。是非ともそのような使命をお与えください』
「そこのもの、ギルドはここで構わぬのかのぉ」とイメルダに声をかけた。
「はい、業務に支障がないのでしたら構いませんが、ダンジョンなんですよね?」
「喜ばれたいというのじゃ、支障はあるまいて。シャトー、ここは荒くれが集う冒険者ギルドとなる。スタッフを守り、目に余る荒くれを退去させよ。今ここに居る者をワシ同様と認識し、不明があれば即時に相談をするように。さすればそうそう問題も起きまいよ」
『有難き幸せです、マスター』
とは、いうものの、普通の人がきちんと入れるのか気になったので、マイナとベスター兄妹に、一瞬だけ手伝って!と、王都邸から来てもらった。
突然、扉の前に瞬間移動させられ、目の前の建物に入ってみろと進められる。頭にいくつもの??が浮かんでいる顔をしている二人だが、扉に手をかけた。
『ようこそ~。笑顔でお入りください!』と言われて驚いたマイナ。すかさず距離を取ったが、『笑顔じゃないならお帰りくださ~い』と言われて敷地外まで追い出された。ベスターは「こんにちは~」と笑顔で入ったら普通に入れた。癖が凄い。でも面白いな。
俺もやってみよう!「こんにちは~」『ウェル様は変顔でお入りください』と言われた。ビックリ、バリエーションがあるんだね。口をタコみたいにして入った。入れた!楽しいな!
ウーちゃんもウキウキして出て行って、何も言わずに入ろうとして、『挨拶のないものはマスターとて容赦はしません』と風で吹っ飛ばされていった。
「これは王都の名物になるかもね」と言って、扉の形のギルドクッキーの裏にシャトー語録を焼き付けるというお土産のプレゼンをしておいた。イメルダがしっかりメモしていたから本当に出来るかもしれないな。
「このあたりに書類入れが欲しいわね」とイメルダが言うと、すぐにシャトーが作ってくれるので家具もいらない。なんという優秀さだ。壊れてもダンジョンだから自動修復だしね。
皆であちこち見て回る。リチャードは、裏口が開かないと、ガチャガチャやっていた。ヤーニーが開けると開いた。これで、出口が完成か?
ダンジョンは2カ所の出入口上限説が正しければ、窓に見えている部分は実際には窓じゃなく、出入りできないことになるが?
やってみる。窓は開く、景色も見える、でもそこから出入りは出来ない。ヤーニーがやっても同様だ。説は当たっているようだ。不思議がいっぱいのダンジョンにまた更に不思議が加わる。男子会メンバーも連れてこなくっちゃな!
家に帰ると、皆がお誕生日おめでとう!といって出迎えてくれた。そして、飲んで騒いで大盛り上がりだった。大人たちが。俺達の誕生日パーティーだったはずだけどな。ま、これもいつものお約束か。
ウーちゃんとビーちゃんが、エマに手伝わされたという誕生日の準備とは、なんだったのか。ヤーニーと二人で話したが、正解が分からなかった。
こっそりウーちゃんに尋ねると、
「どのドレスを着て、どの髪飾りをつけるか、一緒に考えてくれという、非常に難解なミッションじゃった」なんと、そっちか。この世界には誕生日パーティーはあっても誕生日プレゼントという習慣はない。欲しいものがあれば、その時に渡すというくらいで、お呼ばれしたから何か持っていかなくては、という感じじゃない。でも準備っていうから何かと期待しちゃったよ。
でも、エマからしたら、パーティーに兄様たちのお勧めのドレスで参加って、テンション上がることだっただろうな。学校のことで寂しくさせちゃったから良かったかな。
シャルを見ると、寝かされているラタートに、
「あなたは、シャルを置いて行っちゃダメなのよぉ」と相変わらず言い聞かせをしている。寂しすぎて振り切れているな。たまにはシャルも連れ出してあげよう。シャトーの所はちょうどいいかもしれないな。二人は気が合いそうな気がする。
翌日、シャルとエマを連れてシャトーへ行った。
昨日話をしておいたので自分たちは、どんな声を掛けられるのかと、ドキドキしながら扉を開けている。
『ようこそかわいいお友達!かわいいワンピースがよく見えるように、ふわりと回ってくださいな』と言われて、二人はクスクス笑いながら、回っている。
シャトーには子守りの才能があるかもしれないな。
「昨日の今日で、すっかりギルドっぽくなったね」とイメルダに言うと、
「そうですね。シャトーのおかげです。2階はスタッフの休憩所で、3階は冒険者用の訓練部屋にしてくれたんですが、それがもう凄くって、個人のランクに合わせて手合わせしてくれるんですよ。ぜひ見に行ってください」と言われる。
3階に上がると扉が一つだけある。開けると、『どなたが訓練されますか?』と聞かれる。
「せっかくだからシャルがやってみたら?」と勧める。
「まだ火球がちょっと打てるくらいなのに大丈夫かしら?」と不安そうだ。
『ご安心ください。超イージーモードで開始します』
床からだるま型の土くれが登場する。シャルが「エイっ」と火球を打つと、だるまが半壊する。
「頑張れシャル!もう一発だ!」「エイッ!」だるまが全壊。床に吸収された。
『おめでとうございます!』
「やったー!!倒せたわ!」とピョンピョン飛び跳ねている。可愛いなぁ。
それにしても良く出来ている。
これは、冒険者だけに限らず大人気施設になりそうだ。
「シャトー、この訓練部屋は増やせるの?」と聞くと、
『増築するほどの大きな魔力は昨日で使い切ってしまいました。ですが、皆さんにここで魔力を放出していただければ、成長していけると思います』とのことだった。
俺達は訓練部屋の超絶ハードモードを選択して、暴れまわった。これだけぶっ放せばなんとかなるかな?スッキリした顔で部屋から出ると、既に隣に、新しい扉が二つ出来ていた。早くない?
『またのお越しを心からお待ちしておりま~す』シャトーの声が超絶ご機嫌だった。