75.俺、普通の仲間入りしました
何やかやのどさくさに紛れて、ビル兄様までこの世界に居ついている不思議。そして、ワーニーは気配を消して、全ての厄介事は俺の所へ回ってきている気がする今日この頃。
今日はぬいぐるみ3兄妹と共に校長室に、秘密保持契約の件で呼び出された。教頭先生と寮監さんとするんだそうだ。
校長室を中心に左が初等学校の職員室、右が高等学校の職員室になっている。校長先生だけは兼任だからこのようになっているようだ。ワーニーとガイルも既に来ていた。
「おお、来たか。ビル様、エマ様もお久しぶりです」とワーニー。
「ワーニー、この姿の時はビーちゃんとエーちゃんと呼んでやるがよいぞ。ワシに合わせた名前じゃて」とウーちゃん。エー、ビーと来たらウーちゃんがシーに改名してくれると面白いのになと思ったのは内緒。
それにしても国王陛下がぬいぐるみにちゃん付けで話しかけるなんて、痛い国だと思われそうだ。ウーちゃんの名前を決めたあの時はイライラしていたからなぁ、ごめんなさい。
「もう、契約、説明は済んでいます。不特定多数の生徒の前で初めましてとするよりかはと思い、校長室をお借りしました。二人ともご挨拶をどうぞ」と言ってガイルは、恐縮している二人を促した。
いつものお約束の挨拶を交わした。今回はビーちゃんがいるのでなんとも間が抜けた挨拶になった気がする。
「こんにちは~。僕のことは気にしないでいいからね~。自分の世界と行ったり来たりしてるから~」って感じだもん。
教頭先生も寮監さんも誇らしげにダリアのバッジを付けているので、気にならなかったかな。それなら良かった。
「ウェルリーダル様は、魔力なしのはずなのにピアスもせず凄い魔法を使う、普通じゃない、と噂になっていたのですが、謎が解けました」と寮監さんに言われてびっくりした。そんな噂があるんだ。そうなると俺もピアスをしたほうがいいのか?イヤーカフをしているからあまり気にしていなかったな。
寮に帰ってきて、ヤーニーもつけていないけど、どうする?って相談した。
「髪入りのピアスは必要ないんだから、そっくりだけど別の何かを入れてお揃いのピアスにしようよ!」とヤーニーはノリノリだ。
「別の何かってなんだ?」
「何か、記念のヤツ!」その何かが知りたいな。個人的な記念品ってへその緒くらいしか思いつかないんだけど。あと星の砂とか?あれはお土産か。
じゃあ、思い出の場所とかがいいかな?ツリーハウス!俺達はツリーハウスに移動して、何かピアスに閉じ込められそうなものを探してみた。テーブルとかちょっと削る?そういうことじゃないか。
次はサテラ様の所だ。本人の記憶になくても、赤ん坊のヤーニーが何か収集しているかもしれない。そして良いものをゲットした。初めて散髪したときの髪の毛だ。2本貰った。俺のと合わせて一本ずつに分けてお揃いにしよう。
母様の所へいって、俺のも貰おうとしたら無かった。ピアス制作用の保管箱に転送されちゃったようだ。研究所に行ってアンジェラに確かめたら、確かに赤の紐で括られたフワフワの毛束が転送されてきているらしい。別にして取ってあるというので、2本貰う。そしてついでに一般の人の仕様と同様にピアスに封入してもらった。
ビビりの俺はピアスをつけるのが怖かったが、心の準備をするからちょっと待ってねって言おうとする前にサクッとヤーニーにつけられてしまった。ヤーニーにもお返しだって、手をワキワキさせて近づいたが、全く怖がってくれなかった。面白くないなぁ。
取り敢えず、これで俺達も普通の仲間入りだ!
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クラス対抗戦がいよいよ始まった。闘技場の指定された席で準備万端で座っている1組は王者の風格さえただよっている?気がする。ひいき目かな。
結界万能説を唱えている俺からすると、結界使用不可はとんでもない足かせに感じるけど、皆はそうでもないようで、無くて当たり前くらいの感覚だから大丈夫だと胸をはっている。そこが頼もしい?気がする。気のせいかな。
ぬいぐるみ3兄妹は今日は保護者席に行くのかと思いきや、3年1組の席の上で浮かんで観戦している。そこだけファンシーだ。
2年生の対抗戦が始まった。先程までの1年生とは随分スピード感が違う。11歳12歳か、これくらいの年の1年って随分成長するもんだな。
3年生の番がきた。そして、驚くほどあっさりと、4試合全て3分かからずに、我らが1組は勝利した。
「自由にやってね」とは言ったけど、もう少し、後ろ!気を付けて!とか、今だ!走れ!とか、7分半もうすぐ俺達の出番だ!とか、ドキドキハラハラの場面があっても良かったと思う。
他のクラスは1組の第一試合を見た瞬間に、打倒2組!にスローガンを再度書き換えたようだ。圧倒的だったもんな。
穴馬もなく予想どおりの勝敗で、1から5組が順に、1位から5位と、分かりやすい順位となった。
「5組では、来年勝つ為にはウェルとヤーニーのクラスに入らなければいけないとか話しておったぞ」とウーちゃんが笑いながら言っている。
「そうねぇ。それが一番近道かもね」
「クラス分けは教師がやるの~?」
「そのようじゃな」
「来年は私も入るのよ!5組だって優勝させられるわ!」とエマの鼻息が荒い。小さい声で話してね。今、君たちぬいぐるみだよ!
そして、いよいよエキシビジョンマッチだ。
通常なら6年生の試合が終わる頃には、下級生の親たちは帰宅してしまっていて、少し寂しい客席になるらしいけど、今年はこれがあるので、立ち見まで出て満員御礼だ。
ワーニーが観客席との仕切りに3枚の結界を張る。
「うわ~。陛下が複数枚の結界を張るなんて、緊張感あるな」と客席からも声が上がる。
「いくよ!」と言ってヤーニーは全身結界でこちらの旗を目指して弾丸のように飛んでくる。俺は守備だ、自分と旗を結界の中に閉じ込めている。お互いの結界がぶつかりあう。ものすごい衝撃音が会場に響き衝撃波が仕切りの結界を震わせる。俺も結界を分厚くする。
フランツが上空から半身結界で小刻みに移動して旗を狙っている。まさかの二人とも攻撃だ。無茶苦茶な戦法だ。リチャードの弓を警戒しているようだが、リチャードは旗を取るため敵陣に駆けている。
だが、無茶な二人組でも、流石に旗にはヤーニーの結界が掛けてある。結局リチャードは戻ってくる羽目になる。
「これは、もはや旗取りではのうて、結界の強度試験のようじゃのぉ」とウーちゃんがあきれ顔で呟いていた。