74.俺、うらやましがられています
メッティ先生は方々から突き上げをくらったようで、教室に入るなり、よよよと、泣き崩れたかと思いきや、
「ふっふっふっ、1組は何もしていないのだから、胸を張りましょう!護衛が二人天才だったからって1組が悪い訳はないし、その方々に実践の見本を見せてもらうことが何の違反になるものか!それに、ウェル君とヤーニー君は、まごうことなくクラスメイトです。どんな規格外であろうと、あるものは使う。立ってるものは王子でも使うんです!」と、晴れ晴れと宣言した。強いな。ヤーニーは特別扱いされなくて嬉しそうだ。パチパチと拍手までしている。
その後も、休み時間になるとプチ魔法教室の始まる1組は群を抜いて強く、器用に、そして、メッティ先生の教えにより、図太く、たくましくもなった。
寮に帰ると、その日の報告会が始まるんだけど、1組は別枠扱いで、3年生の間では打倒2組!的なスローガンになっているらしい。もうすぐクラス対抗戦があるからね。
これは最近ワーニーが考案した、剣も魔法も何でもありの旗取りゲームだ。自軍の旗を守り、敵軍の旗を取る。旗を取ったら終了、また10分経過しても終了。その時は生き残った人数の多い方が勝利だ。ちなみに、自前の結界は使用不可。騎士の訓練で評判が良かったらしく学校にも採用された。
当日は全員ワーニーから薄い全身結界を張ってもらえる。貴重な体験だ。そしてその結界が破れたら退場というルール。
トーナメントではなく総当たり戦で、5クラスあるので、各クラスが4試合することになる。3組は既に2勝を目標に練習をしているらしい。
1組は半分に分かれて攻撃リーダーがヤーニーで、守備リーダーが俺に決定したのだが、物言いがワーニーからついた。
あまりに戦力差があるので、俺達は10分の試合のうち、最後の2分しか参加が許可されなかった。2分!ってほぼ出番なくない!?これを聞いた他のクラスは打倒1組にスローガンを書き直した。悪役っぽくなってない?俺達・・・
その代わり、6年生まで終了した最後の最後に、結界も含めて何でもありのエキシビジョンマッチを、俺とリチャード対、ヤーニーとフランツでやっていいと許可が出た。
ヤーニーは俺と同じチームがいいと粘っていたが、フランツが
「その分け方だと、そちらは負ける確率がゼロです。そんな戦いは見世物として成立しません」と説得されていた。正々堂々とやってみよう!初めてだしとっても楽しみだ!
1組は、なんとしても8分死守するぞ!と守りの練習に勤しんでいたので、俺達は最後に舞台が用意されているから、皆は勝ち負けにこだわらず自由にやってね!と応援した。
あぁ楽しい!飛び級して良かったなぁ。
そして、この対抗戦の観覧の案内が保護者の元に届けられると一つ問題が起こった。
エマがご立腹なのだ。ウーちゃんは楽しそうに高等学校に入り浸っているし、自分は超退屈な書き取り練習とか足し算とかをやっているのに、俺とヤーニーは楽しそうに対抗戦だって?と癇癪を起こしているらしい。
ウーちゃん責任もってなんとかしなよ。と送り出したが、収まらないようだ。母様から通信鏡で呼び出された。
「ウェル、来てくれてありがとう。エマちゃんがどうしても学校に行きたくないっていいだして。ちょっと退屈だけど、っていいながらもお友達と会えるからって毎日通っていたんだけど・・・」むくれているエマを見る。
「エマちゃんが行かないなら私が行きたいわ」とシャルまでむくれている。急に俺とウーちゃんは寮生活になって、エマは学校だしで、寂しいんだろうな。
「エマ、お主は自分で初等学校を選んだのじゃろう。わがままを言うでないわ」とウーちゃん。自分のやりたい放題は棚上げのようだ。
う~ん、どうしたものか、高校生が小学生になっちゃう探偵アニメの主人公とか、どうやって授業の時間を潰してたんだだろう。ほぼ放課後の話だもんなぁ。
高等3年になると基礎は無く、授業も応用や専門分野になってて楽しいし、無理にでもこっちに誘えば良かったか。
「じゃあ、エマ。来年の飛び級試験でいきなり高等4年に受かって同級生になれるように、定期的に俺が習った分だけ授業に来るって言うのはどう?」
「今は我慢しなきゃダメなの?」
「そうだね。学年末の進級試験で9割以上とって飛び級の受験資格を貰わないといけない決まりだからね」
うつむくエマは、寂しそうだ。余程俺達が楽しく学校生活を送っているのが羨ましいのだろう。実際楽しいけど。
「兄様の所へ来るかい?」と言いながら突然ビル兄様が現れた。
「ビル兄様の世界は『教えてエマたん』のアニメを見る時だけで大丈夫」とバッサリ斬ったエマ。斬り捨てられたビル兄様のうなだれる背中に哀愁を感じる・・・
「う~ん、じゃあ、こういうのは?」といってビル兄様が指をクルッと回すと、ビル兄様とエマの姿が、ぬいぐるみの犬とひよこになった。
「ほう、これなら、ワーニーの魔術のせいにして、ワシの弟と妹だと言って高等学校に一緒に行けるのぉ」とウーちゃん。よくやったとばかりに犬の頭をなでている。犬がビルなんだな。本体がぬいぐるみに入ったとかではなく、ぬいぐるみに姿を変えたって言うんだから凄い魔法だ。
「エマちゃんの初等学校は休学にしていいのかしら?たまには行く?」と母様は動じていないし、シャルに至っては、かわいい~~~~!とひよこを抱きつぶしている。
「俺の家族は神経が太いな」と遠い目をすると、
「誰かさんのおかげて鍛えられたからよね」と母様に笑われた。俺のせいだったもよう。
結局、エマはなるべく初等学校に通って、たまに高等学校にひよこ姿で現れることにしたようだ。シャルは物足りないかもしれないけど、シャル自身も、もうじき家庭教師がついて忙しくなる年齢だから大丈夫だろう。
そして、学校で、ぬいぐるみ3兄妹のお披露目。皆、特に女の子は目をキラキラさせて抱っこしても大丈夫?と秒で近づいてきた。ウーちゃんのお気に入りの黒髪の子も混ざっている。危ないうさぎには近づかないで、抱っこはひよこだけにしてね!