73.俺、討伐合宿に参加します
ヤーニーはガチで怒られて、しおしおになって寮へ帰って来た。
「ワーニーはどうだった?」と聞くと、首を横に振る。どうやら話すことを禁じられたようだ。結構思い切った罰だな。こんなことされると俺が甘やかしちゃうだろ。ダメって分かっているんだけど、見てて可哀相だよ。
今も俺と目が合うと、震えるほど泣いているよ。
「ヤーニー、俺は決めたよ。周りからなんと言われても、俺は一生ヤーニー!って呼び捨てにするからな。公式行事以外はだけど。だから癇癪を起こしちゃダメ。約束できる?」
ヤーニーは俺に抱き着いてきて、更に激しく泣きながら首を縦に振っている。
その日は泣き疲れて寝てしまったヤーニーは、翌日も話せなかった。ジェスチャーで教えてくれるには、週末までの3日間は話せないそうだ。
教室に入るとすかさず、
「ヤーニーは、今日から3日間、話せない罰を受けているから身振り手振りになるけどよろしくね」と俺が代弁しておいた。
この罰は相当子どもたちを怯えさせたようで、王様は怒らせてはいけないと、あっという間に噂になった。結構お茶目な性格なんだけどね。ま、癇癪持ちの王子の噂より、怒らせたら怖い王様のほうが、噂になるなら体裁がいい。尊い犠牲と思うことにしよう。
こんなことがあったせいか、なんとなく団結力すら出てきた気がする1組だった。そして、春の討伐合宿の班決め、俺達は引っ張りだこだった。メッティ先生は一人ずつバラけて班に入って欲しかったようだが、そんなことヤーニーが了承する訳はないと、クラスメイトは既に承知だったようで、二人セットでの勧誘だった。あまりにどこも譲らないので、先生が苦肉の策で俺達を遊軍扱いにした。すべての6人×3班を、時間を決めて回って行くという。なんという適当な。
俺としては班を回るなんて面倒だから、一気に18人、面倒見るほうが楽だと思うんだけどなぁ。
「この際、1組は組単位で動きませんか?」と提案すると、
「ウェル君がいいなら、いいわよ」とあっさり了承された。
森へ行くということで、もちろん学校が護衛を手配して安全に気を付けながら合宿する。魔獣討伐の実戦経験は必要だが、基本は領地で指揮をとる子ども達なので、そこまでガチでの合宿ではない。4年生になったら騎士コースがあるのでそこは厳しい合宿が待っているらしい。
護衛の応援で、リチャードとフランツが来るというので他の護衛は遠慮した。俺とヤーニーを入れたら冒険者ランクSが4人いることになるんだからもう十分だろう。
「ウーちゃん様も戦えるんですか?」と女の子が聞いている。
そう。ウーちゃんは隠れているのに飽きたので、ドーン!と登場してしまったんだ。王宮では、『陛下が魔術を施したら知能を持ってしまった、特別なぬいぐるみ』という設定だったので、ここでもそれで押し通した。俺達の側に居たいと隠し玉のウルウル攻撃までして、猛アピールするうさぎのぬいぐるみを追い出すことは、強面の教師にも出来なかった。
「ワシはのぉ。ちょこっとは戦えるぞぉ」と言って鼻の下を伸ばす残念な神様。きっと外に出てきたのはクラスに可愛い黒髪の女の子が居るせいに違いない。やたらその子の側に行きたがるので耳を掴んで放り投げている。変質者か。
そんなこんなで、過剰戦力気味の1組は、森の奥が担当となった。とはいえ、弱い魔獣しか出てこない初心者向けの森だ。適当な大きさで結界をはって、その中で自由にどうぞということにした。戦いに自信のある人はフランツについて行ってもらってスパルタコース。そこそこくらいかなぁって人はリチャードで、手取り足取りコース。全く自信がない人は俺とヤーニーで、取り敢えず一匹は頑張ってみようコースだ。
フランツが半身結界で空中戦をするのを、スパルタコースのメンバーは目を輝かせて見ている。あれは確かに格好いい。しっかり教えて貰ってね。
リチャードは魔力を素早く練ることを主眼に。魔獣の動線を押えるという知能派の戦術を展開するようだ。物理に自信がないなら是非とも覚えてもらいたい。
俺達のコースはまず、それぞれの力量を確かめるのに模擬戦をしたが、流石に13歳、基礎は完璧だった。剣術の先生も見に来たが、ここのクラスは問題なさそうですなといって帰っていったくらいだ。
魔獣の前に凸凹のトラップを土魔法で作って、強制的にスピードを落としてから討伐だ。一直線に向かって来ない敵ならここに居るメンバーでもなんとかなった。もう少し慣れればそれも必要無くなるだろう。
俺たちのコースが一番先に目標を達成したので、ゆっくり休みながら、バーベキューの準備をした。俺は料理はさっぱりなので、シェフに持たせてもらった特製スパイスを肉に振りかけるだけの簡単な仕事を割り振ってもらった。ダンジョンと違って肉がドロップされるわけではない。捌くということが大変な仕事なんだとクラスメイトが汗だくで、討伐した魔獣にナイフをふるっているのを見て実感した。こんなに頑張っても味はダンジョン肉に負けるなんて、なんとも切ない。
せめてもと思って近くにあった果物を摘んで、結界とかまいたちでスムージーを作ってあげた。氷もいれて程よく冷えているし美味しいよ。
皆、スムージーが気に入ったようで、練習したいと、討伐よりもよほど熱心に取り組んでいた。リチャード、フランツ組も帰ってきたので提供したが、大好評だった。
1組は文化祭でジュース屋さんが開けるね。
事前に結界鍋や魔道コンロはお披露目してあったので、各自部屋で練習したようで、とってもスムーズなバーベキューとなった。
「一度倒すと魔獣ってもう来ないのかな?」とか言っている声を聞いて、
「あ、ゴメン。俺が結界張っているから外からは入れないんだと思う。本当は解体する血に寄ってくるから、バーベキューとかしている場合じゃないかも」と言って謝った。皆が危険は無いと勘違いしたら困るからね。
「ご飯が終わったら結界解くね」と言ったら、
「他の組の人達はどうしているんだろう?」
「同部屋のヤツに聞いたんだけど、保存食を警戒しながら食べるんだって。結界鍋の練習していたら笑われたんだよ」と話している。
なんか、すんません。でも、2組もグレッグとキリアルがいるから結構似たような感じになっている気がする。その友達は3、4、5組の人かな~?
そして後日、快適に戦って、のんびりご飯を食べて、また戦ってという合宿をした俺達の様子を知った他の組から、盛大なブーイングが上がったのだった。メッティ先生あとはよろしく!