71.俺、無事合格でした
「そうか~。親子面接ってのがあるんだね。面白いね~。父様と母様呼んじゃう?」とビル兄様。創造神の親って?考えたくもないわっ!
「この家の親戚で、不遇なブライト伯爵令嬢という設定で通いますから。保護者はウチの両親なんで、大丈夫です!」とすかさず口を挟んだ。
「そうなの~。でも面白そうだし、僕が兄として参加しようかな~。」
「ビル兄様!よろしいの!?嬉しいわ!」とエマが大はしゃぎだ。止められるか?いや・・・無理だ。
「お主が行くならワシも行こうかのぉ。少しくらいなら幻影で姿を作っても復活に支障はなかろうて」とウーちゃんまでノってきた。やめて。不遇の伯爵令嬢設定どうすんの?超絶男前の苦労知らずですって顔に書いてある兄を連れて行ったら、おかしいでしょ??
ガイルが困り果てた顔をしている、が、諦めたように、こっそりため息をついて話し出した。
「それでは、ウーちゃん様は世界放浪旅から帰ってきたことに、ビル様は神官の修行中だったが妹の不遇を聞いて駆けつけた事にしましょう。いずれも世間に疎くてもごまかせますから」と言ってあとは、俺に任せた、自分は教会と学校に話をつけてくる、と言って立ち去った。
後には目をキラキラさせたエマと、大学生くらいに見える三千歳の神様と、悪い笑顔のウーちゃんが残った。
神様トリオ、厄介すぎるな。かといって面接はもうすぐだ、設定を叩き込もう。振り切った時の俺に容赦という二文字は無い。
ウーちゃんは人型を取ると、ゆったりと流れるプラチナブロンドのロングヘアに紺色の瞳、白い肌に程よい体格の30代の男神様だった。口調が古めかしいのでもっとお爺ちゃんな感じかと思ったけど、超絶モテそうな雰囲気だ。
この見た目で、コンパで必死で口説いているというギャップ。ゆえにモテないという哀れな悪循環が想像できる。
それにしても目立ちすぎるのでもう少し、平凡な感じにしてくれとクレームをいれた。そうすると教会にある創造神の像に似てしまったので、全く違う姿にしてもらった。ワイルド系のイケメンになった。
「イケメンを諦めてくれると目立たないと思うんだけど」
「そこは外せぬ。ワシが人目を引かぬなどあり得ぬことじゃでな」
「・・・」もう諦めよう。口調がワイルド系に似合わなさすぎるので本来の姿でいいことにした。もうやけっぱちだ。
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そして当日、異様な程、人目を引く3人組、ブライト伯爵3兄妹が受験会場に現れた。神様トリオの神々しさが半端ない。その神々しさに負けずに、ご婦人方の目が異様にギラギラするのは見てはいけない。
「ウェルの面接よりも、あちらの面接が心配で落ち着かないわね」
「そうだね」と言いながら母様とガイルは苦笑いしている。注意事項は全て教えたはずだ。あとは知らん。大女優のエマがいるのでなんとかなるだろう。
エマのブローチを通信鏡にしてこっそり通信しながら遠隔で指示を出す案もでたんだけど、ビル兄様が3人だけで大丈夫だって言うのであきらめた。
順番に呼ばれている。俺たちの前がエマ達だ。一番目に呼ばれたヤーニーたちの情報によれば、校長、教頭、学年主任が後方で傍聴するスタイルで、面接自体は若い教員二人が行うようだ。
結局心配するようなことは何も起こらず帰宅した。
後で3人に聞くと、
「終始エマが、兄様が面接の為に私の所へ来たくれたという喜びを表明しててね~、そんな喜びに水を差す猛者はいなかったよ~。僕なんかほとんど話させて貰えなかった~」
「確かに、エマの独壇場であったのぉ」
「だって、「エマさんが学校でトラブルに巻き込まれたらどうしますか?」って聞かれて、ビル兄様、学校ごと吹っ飛ばしますよ~っていうのよ。もう私が頑張らなきゃって思ったの」
「まあ、あれは、ビルが悪かろうのぉ。面接じゃて、冗談はいかんのぉ」
「冗談じゃないからいいんだよ~」
「それで、エマちゃんはどうやってリカバリーを?」と母様は興味津々だ。
「辛い境遇を耐えてきた私の事を過保護に心配してくれる兄様たちには感謝しているけど、忙しい兄様がたの手を煩わせず、自分の問題はなるべく自分で片付けたい。もしダメな時は、まず先生方に相談させて欲しいって言ったのよ」
「エマ、満点だね!」と俺が言うと、
「でしょ!自分が教師だったら、過激で過保護すぎる保護者は、些細な案件の時はご遠慮願いたいと思うもの。もちろん、トラブルの種類によっては、躊躇なく、お出ましいただくわ!」と笑って言った。エマが大人だ。
一週間後、当然二人とも合格通知を貰った。制服の採寸や教科書を買うスケジュールなど、諸々の手続きのお知らせの入った分厚い封筒もついてきた。お~学校っぽい。
ちなみにガイル情報では、面接のときに「若い教師では話にならぬ、面接は校長にさせろ!」とゴネたアホだけが不合格になったらしい。それはオープンスクールで目を付けていた嫌なヤツだったらしい。心配事が一つ減ったな。
ということで、ビル兄様が目的にしていた受験というイベントは終了となった。いつ頃、お帰りの予定ですか?と聞くと、
「そうだね~。そろそろ、帰るよ。また来るね!」といってあっさり帰っていった。
「エマ、寂しくなっちゃわない?」と聞くと、
「ううん。入学式にはまた来てくれるって!」との事。すぐ来るんかい!
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さて、この我が家の受験のドタバタの間に、ヤーニーの弟のラタートの命名式が教会で行われていた。初めてワーニーと今世の俺が会った、あの、ファサ~ってされるイベントだ。
今の赤ちゃんは魔力ありもなしも皆、このタイミングでピアスをする。ラタートは魔力判定はレベル4だった。
その日の夜に、身内だけの簡単なパーティーが開かれた。
ウーちゃんに頼んで見てもらうと、神の子孫としての血も薄く、規格外の力はないだろうとのことだった。伝えられたサテラ様は、覚悟はしていたのか、少し表情をこわばらせただけだった。ラタートを抱きしめて、
「規格外じゃない人生を楽しみましょうね!」と言って抱きしめる。横から、母様も、
「ようこそ、規格外に振り回されるチームへ。人数はこちらに分があるわ。多数決のときはよろしくね!」と言っている。
「子どもの仲間が出来てよかったわ。兄様たちのように私を置いていっちゃダメなのよ!」とシャルは真顔で言い聞かせをしている。なんか、いつもゴメンね。ヤーニーと目を合わせて肩をすくめあった。
この赤ちゃんが、無双の冒険者になる日まで後16年。
その時、シャルは、ひょいッと肩に担がれながら「私は置いて行ってくれていいから~!!」と叫ぶ事になるのだった。