7.俺、がんばって幼児語話してます
とりあえずお腹がすいたので帰宅することに。
驚くことも沢山あって精神力をガリガリ削られて、心底お昼寝したいと思いながら帰ってきた。
ワーニーに抱えられて自分の部屋に瞬間移動。
「お前、『ただいま戻りました』とかでなく『ただいま、かえりまちた』だぞ。バレない様にな。また来る」といってヤーニーとともに【シュン】と消えていった。
あぁ、そうだった。危うく忘れるところだった。俺には非常に厳しいミッションが待ち受けていた。出掛ける前までの俺、どうやってしゃべってた?
恥じらいもなく、普通にしゃべっていた事が、今となっては難しい。でもやらなきゃいけない。部屋のベルを鳴らす。
ワーニーに見られて、笑われないのが幸いだ。
「ウェルリーダル様お帰りなさいませ。陛下はもうお帰りなんですね?楽しい場所へ連れて行っていただけたのですか?」
リタが情報カモンとばかりに目をキラキラさせて聞いてくる。
「かえりまつた」あれ、なんか、やりすぎた。ズーン。これムズイ。
「ツリーハウスいった。もうおねむよ」といってすかさずベッドへダイブ。
今の俺にこれ以上求めないで!キャパオーバーだから。頼む、しばらく寝かせて。
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起きたら夕方、しばらく無になって、改めて覚悟を決める。俺なら出来る!
「リター。ジューチュのみたい」
「かしこまりました夕飯の前なので少しだけご用意しますね」
完璧だな。でも徐々に普通に話していくぞ!
それにしても、聞きたいことの半分も聞けなかったなぁ。
聞きたいことリストとかを作っておきたい。が、字が書けない。そもそも読めもしないが。転移転生チートほんとに働いて欲しい。
ジュースを飲みながら考える。
サクッと王国作った感じだったけど、帝国の最後とかどうなったんだろう。今なお地下に逃げ込んだ帝国派閥が再起をかけてテロを目論んで、みたいな危険はないのかな?
あぁ、俺、魔力なしだ。戦えないな。戦えても怖いだけか。この世界で生きていくの大変そうだ。真剣を振り回すとかやったことないな。前世では銃刀法違反だよ。
ま、そこは今考えても仕方ない。一歳児が危険にさらされたらもう諦めるしかないし。
うどん屋でしか働いたことのない俺は、この世界での実践的なお役立ちスキルなんてものは皆無。
転移から帰った後、ネットで、『異世界飯をリアルで作ってみた』系を視聴して試していた時期はあるが、惨敗の歴史となった。センスがないのかね。
異世界での食事改革、憧れはあるんだけどなぁ。
ま、出来ないことは置いておこう。となると最優先は情報収集と文字の読み書きだ。本が読めるようになったら歴史の勉強も出来るから更に情報が集まるぞ!
よし、本を用意してもらおう。まずは絵本かな?
「リタ!ごほんくらちゃい!いつもの、ねるまえのおはなしのごほんがいい」
いつもリタが寝る前に少しずつ話を聞かせてくれる神様のお話だ。
「ウェルリーダル様には少しお早い気がいたしますが?」
「だいじょぶ。みるだけ」
「それならお持ちしますね」といって持ってこられた本は、重厚なハードカバーだった。
寝る前のお話ってこんな重そうな本の一節だったのか。驚きだ。
「リタおはなし、おぼえてるの?すごいね」
「ありがとうございます。でも読んで、大まかに覚えて、簡単にお話するだけですので、丸暗記している訳ではございませんよ」
本に触ろうとしたら、止められた。
「見るだけですよ。大事なご本は汚せませんからね」
うわ~、本は貴重品っぽいぞ。絵本なんてなさそうだな。でも一応聞いてみよう。
「よごしてもいい、ごほんはないの?」
「そうですねぇ。文字を練習する為の練習帳はございます。ペンが持てるようになる3歳くらいから始めるものでございます」
「いいね!それだ!」と叫ぶと、リタが驚く。
「あ~~それくらちゃい」全力でリカバリーしました。
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それからはもうひたすら文字のお勉強!完璧に話せるんだから、文字を覚えればスラスラ書けます。ま、手が小っちゃくて不器用だから、すんごく汚い字だけどね。
こればっかりは、天才児と褒め称えられても受け入れた。必要だからね。唯一のチートかもしれないし。神様?いるのかな?感謝します。
でも大人たちよ。成長とともに凡人だと分かってがっかりすることになるよ。ゴメンね。
俺は暇を持て余していたので許可をもらって図書室に入り浸った。
天才児扱いの俺は前世では考えられないくらい本を読みまくった。
そして時折、ワーニーとヤーニーがツリーハウスに連れ出してくれる。
ヤーニーは森で、自分の力の制御を学び始めた。早くない?人目がないのでこっそり練習するのにもってこいの場所なんだとか。
サテラ様にも内緒なんじゃないかと思う。バレたら怒られるやつだ。
訓練自体は、魔力をウサギのぬいぐるみにほんの少し移して、それを操作して歩かせるという、見ていて大変ほほえましい特訓だ。
失敗してウサギがこけると、ヤーニーががっがりするの。たまらんキュート!
ワーニーは帝国の話をしてくれた。
血の結晶の力があまりにすごくて、天才ワーニーでもギリギリ制御できているって状態で帝城に乗り込んで行ったんだって。
そんな状態だから繊細な魔力操作とか出来なくって容赦なく結界も、人も、吹っ飛ばしていたら、その中に皇帝もいたんだとか。
「いや、あの時は、本当に、ガイルに恐ろしいくらい怒られた」とワーニー。
「生きたまま捕まえなきゃダメだったの?」と聞くと。
「そうだな。『街の中央処刑場で、民が命を絶たれたのと同じように、皇帝も』というのが皆の思いだったようだ。
特にガイルは両親がやられているからな」悲しそうにそう言った。
今世の俺の祖父と祖母か。幸せそうな今の家庭や国は、頑張ったワーニーやガイルたちが、ほんの十数年前に手に入れたばかりのものなんだな。
俺もお前たちの国を平和で幸せな場所にする力となるよ。
もうすぐ2歳。できることも増えてくるはず。もう少し待ってろよ!