68.俺、たまには暴れまわります
俺とヤーニーは朝一で、ダンジョンの事前情報を細かく説明した。
さあ、御祓いの浄化を皆の剣にかけていざ出陣だ!
キリアルも短剣なら持っているということで、まずは全員剣で挑戦だ。
普段は魔道を主に使うグレッグやキリアルは、近接戦、しかもグロい見た目の敵ということで最初こそ苦戦していたが、徐々に慣れてきたようだ。宝石を集めては戦い、集めては戦いを繰り返した。
そしてその後、キリアルは勿論グレッグ、リチャード、フランツやデイブもついでに浄化の訓練をウーちゃんにつけてもらった。
「腹の中心から静かなオーラを引っ張り出して、エイッとする感じじゃ」
偉そうにふんぞり返りながら言う事がこれだ。ウーちゃんもっと具体的にとお願いしても、
「まあ、まずやってみればよい」とキリアル達にやらせていた。俺はこういうことは前世のアニメのイメージでこなせるけど、そうじゃない人には厳しいようだ。
ふんわり過ぎるウーちゃんの説明に四苦八苦している。
「じゃあさ、淀んでいる沼を清流のキラキラ流れる水に変われって思う感じでどうかな」と提案する。
皆やってみているが、成功しない。だめかぁ。何か他のイメージをと考えていると、キリアルが成功した。だが、一度だけ。コツを掴むまでは修行がいるのか。
「これは難しいですね。でも挑戦し甲斐があります!」とグレッグが燃えている。デイブも折角だからと頑張っている。
お昼の休憩に領主館に一度帰る。
皆、午後も浄化の訓練をしたいという熱心さだ。
結局、夕方帰る時間になった時には皆一度ずつは成功させていた。リチャードとキリアルは数回成功。才能ありだ。
王都の家まで皆を送って、俺とヤーニーはまた領主館に帰ってきた。
一日中、俺達は皆の結界を張ってドロップ品を集めるだけだったので正直退屈だった。
という訳で、二人でダンジョン行くことにした。もちろん護衛のリチャードとフランツは一緒なので、正確には四人だが。
思う存分暴れまわって、スッキリしたので帰ろうとすると、狭い階段が見つかった。これは!ランダムに現れる宝箱イベントでは?超凶悪な罠が満載だけどいいものをくれるやつでは!?鍾乳洞ダンジョンではワープマットが貰えたんだ!
ここのマッピングをしていたリチャードも、新しく出来たものだと太鼓判を押してくれる。
急いでワーニーに知らせると、夕食会があるので、その後なら時間が取れるという。
ワーニーを待つ間、目を離したら階段が消えちゃいそうなので、お弁当を用意してもらってそれを取りにいってダンジョン内で済ませた。
ワーニー早く来ないかな?
待ちに待ったワーニーはオラスル魔道開発局長とバイナン騎士団長を連れてきた。夕食会が一緒だったので事情を話して早めに切り上げるのに協力してもらったらしい。とっとと退散する三人を見送る、ガイルのコメカミに青筋が見えるようだ。
局長はキリアルのお父さんだが、まだ息子に会っていないようで、
「ここが息子が楽しみにしていた新ダンジョンなんですね。お役に立てましたか?」と聞いてくる。
「キリアルは数回だけど御祓いの浄化が使えるようになってるよ。いままでは神官が習得するのは最速でも年単位って聞いてるから、凄いよ!」と伝える。
「「御祓いの浄化?」」とキョトンとする二人。
「ここはアンデッドばかりだから普通の攻撃では倒せないんだよ」と言ってヤーニーは二人の後ろを指さした。かなりの見た目のゾンビが歩いてきた。
団長はすかさず切り捨てた。グレッグのお爺ちゃんだから、それなりの年齢だろうが、素晴らしい太刀筋だ。
そして、すぐに立ち上がってくるゾンビに、状況を理解したようだ。
「訓練に良さそうですな」とは団長ならではの視点だ。なるほど、倒れない練習相手というわけか。
「利用方法はリタと相談してね。教会も浄化の練習をしたいようだし、冒険者のロマンも詰まっているから!」と独占しないで欲しい旨を伝えておいた。
団長の剣に浄化をかけてあげた。サクサク倒していく。
局長は、かなり集中に時間がかかるが、御祓いの浄化を直接攻撃として使えている。局長も神官の訓練をさわりだけはやっていたらしい。
団長がうらやましがっていたので、団長も練習すればいいとコツを教えてあげて、孫のグレッグは今日一回だけだけど成功していたよと伝えた。
「グレッグが?相変わらず、なんでも卒なくこしますな。抜きんでたものがあったほうが生き残ると教えたのですが、どうも広く浅くのタイプらしいです」と少し不満そうに言う。とんでもない事だ!あれだけの才能なのに、認めていないのか?
「グレッグは冒険者ギルドのランク試験でCに合格しました。ゲオルグがギルドマスターとして決めたランクで、王宮騎士の新兵試験とDランク合格が同レベルに合わせたと聞いているので、それよりも上なんです。キリアル、デイブはDランク合格です。凄さが分かりますよね。ぜひ褒めてあげて!まだ6歳なんですよ。驚異的だと思います!」唾を飛ばす勢いで力説した。俺やヤーニーのSランクで霞ませてしまっていい才能ではないんだ!
「そ、そうでしたか、新兵よりも上の6歳。そう言われると孫を褒めてやらねばなりませんな」とうなだれた。
「局長もキリアルを褒めてあげてね!ゲオルグは、6歳の子どもが受けるんだからG、よくてもFだろうと木のギルドタグを準備してたって驚いていたんだよ」
「そうですか、息子もギルドに登録できたんですね。どんなものか分からなかったんですが、新兵クラスとは。ウーちゃん様が訓練をしてくださっているからでしょうか?」
「むろん、それもあろう」領主館でまったりしていたはずのウーちゃんが現れた。階段発見の知らせを聞いたかな。
「じゃがのぅ、本人の努力があったからじゃて。しかも、ランク試験は魔眼や、大規模魔法は使って居らぬでのぉ。そこまで試験に取り入れたらBクラスくらいにはなっておったであろうよ。グレッグもそうじゃ、あやつは知力でも戦えるでのぉ、集団戦の指揮でもとればBクラスは楽勝じゃ」と言って満足そうだ。男子会のメンバーはもはや愛弟子扱いだな。
俺とヤーニーもそんな風に評価してもらえるなら試験を受けたかったと言ったが、ワーニーが、「ゲオルグが可哀想だからやめてやれ」ってさ。試験官より明らかに強いだろって。
「じゃ、なんでSなんだろ?SSSが最高ランクなんでしょう?」とヤーニーが聞くと、
「Sより上は実績によって上がるらしいぞ」とワーニー。実績かあ。大型モンスターとか出てこないと無理かな?
「ま、とりあえず、階段下りよう!結界張るよ~!」と凶悪な罠のあるだろう気の抜けないイベントの前に、しんみりしてしまった空気を一掃しようと大きな声を出してみた。