64.俺、ヤーニーの隣へ!
ガイルは一度中継しただけで家に帰れたようだ。満面の笑みだ。
テオドールは好き勝手移動して行かれると護衛できないと注意している。
それもそうだ。移動の際には必ず結界を張るという習慣を付けよう、と決まった。新しいことは、ちょっとずつルールが出来ていくな。
今日は朝から忙しい、我が家のフルメンバーと領主館の主だった者、それに魔道開発局のメンバーを引き連れて地下四階のダンジョンのドアの見学会だ。これをやらないと、どうやっても瞬間移動が使えないんだ。もしかしたらイメージの問題じゃなくて、この階層まで来れたことに対してのダンジョンコアさんからのご褒美だったりして。
ウーちゃんにこの説を聞かせると、
「それもあるやもしれぬぞ、ワシに似てお茶目な性格に仕上がっておるからのぅ」と言った。お茶目・・・そうですね。新ダンジョンに一番乗りじゃ~っと大穴開けて乗り込んで行ったのもお茶目なんでしょうね。
庭で練習と実験。リチャードは自前の魔力で初等学校まで1500メートルほど移動してみたら、魔力が半分減りました、と言って、帰りは迎えに来てくださいとヘルプの通信が入った。そんな無茶な実験をしながら徐々に利用可能の範囲を探っていく。
魔法は、一人だと300メートル、二人連れて合計三人で移動すると100メートル。これが限界だった。
でも、300メートルって隅田川とか超えられる距離だから、すごいと思うけど、結界浮遊で浮いて行くと一分半、大して変わらないか。
意外なことに開発局の王宮組は大絶賛だった。廊下では結界浮遊でスピードを出すのが禁止だったんだって。廊下は走るな!だね。
だから、瞬間移動は大歓迎だったようだ。なるほど。こっちに需要があったか。分かんないもんだな。
そうやって、皆でワイワイやって、ダンジョンの凄さを改めて話していると、ヤーニーが、
「ウェル~。」と話しかけてくる。長い付き合いだ、何か特大のお願い事がある時の声だなと思った。
「どうしたの?」
「あのねぇ。ダンジョンってすごいでしょ?ダンジョンのワープマットも凄いよね」
「そうだね」
「あれを作ってお互いに持っていれば、僕が行ったことの無い所へウェルが出掛けても追いかけて行けるよねぇ」
「そうなるね」
「作ってみる?」うん、これは、作らないうちは知らない所へ行っちゃだめってことだな。
「作るっていってもなぁ」
「僕ね、ウェルの部屋に瞬間移動できるでしょ?ウェルのベットの上にも瞬間移動できると思うんだ」と言って俺の手を握って移動。
「俺のベッドの上だね」
「でしょ!!」???なんだ?
「僕がウェルの何かって認識したものの所へは移動できるってことだよ」 「なるほど、じゃあ、ヤーニーはさっきの所へ戻ってて、5分後にベッドに集合ね」と言って解散した。ベッドを神ポケに収納して、どこへ行こうか、悩む、う~ん地下一階だ。ダンジョンの中でベッドを出す。
5分後、ダンジョンの中のベッドの上にヤーニーは現れた。出来てるね。
二人で、ベッドに腰かけて、どうしようかと相談した。ベッド以外のものを手配してもそれが俺の何かだと認識されるんだろうか?ハンカチとか?
ウーちゃんは大笑いしながら、
「このさいじゃ、ウェルの何かでなくて、ウェルの隣と思うて移動すればアイテムは何もいるまいよ」と言う。
なんと、場所も物も関係なく人物に目がけて移動するのか。大丈夫なのか?
取り合えず見える位置からやってみよう、
「ウェルの隣へ!」来れる。
俺もやってみる、「ヤーニーの隣へ!」、出来る。
「じゃあ俺、遠くに行くね。ウーちゃん念のため一緒に来て」といって庭へ移動。
すぐに隣にやって来た。めっちゃ近い。俺が崖っぷちに立ってたら押し出されて落ちちゃうところだよ。気を付けて。
ついでだから、そこにいる皆に状況説明。やってみてもらった。でも出来なかった。誰でもは使えないみたいだ。ワーニーは、
「よく知っているものなら出来るな。名前くらいしか知らない相手の所へはいけないようだ」と言っている。怖っ、どこに行こうとしたのさ。
名前かあ、防具屋の女将さんはどうだろう?よく知っているって訳でも名前を知っている訳でもない。「女将さんの隣!」出来ないな。
そして、母様に怒られた。
「女性の所へ連絡もなく移動しようとするなんて!絶対にいけません!!」
「「ごめんなさ~い」」怒られちゃった。確かに良くないな。
ヤーニーとも、緊急事態じゃない時は通信鏡で連絡を入れてからにしようねって約束した。トイレとか入っているかもしれないからね。
改めて、領主館のメンバーも一緒にブライトンへ戻る。
俺もヤーニーも瞬間移動できるようになったから、最早ここへは通えばいいだけで、俺の部屋を用意してもらったが、夜は王都に帰ってもよさそうだ。そう言うと、ヤーニーは大反対した。
「せっかくの旅行だよ。そんなこと言っちゃダメだよ!」だって。
旅行って感じもうないよね。しょっちゅう家に帰ってるじゃん。
領主館の家政婦長ケリーに、今日からまたよろしく、とお願いした。
「いつでもお越しくださいませね。パーティー開けって言われるとお時間頂かなくっちゃ困っちゃいますけどね、普通のご滞在なら、急にいらしたって腹ペコの一個小隊分くらいド~ンと来いですよ」と朗らかに請け負ってくれたケリーさん。ゲオルグの妹さんで未亡人なんだ。ここの若い衆を子どものように面倒見てくれるおっ母さん的存在だ。
「パーティーか!パジャマパーティー良いかもね。男子会をここでやるのはどう?」とヤーニーに言うと、
「楽しそう!マースケルのダンジョンに行く?」
「いいね!リタに許可貰おう」と盛り上がって、リチャードを見る。オーケーのサインがでる。やった。手配が必要だね。一度王都に送ろうか?と聞いたら、手紙などの準備をするので、後からお願いしますと言われた。
じゃあ、後はウーちゃんに、ゲオルグとケリーにも通信鏡のおねだりだ。快く引き受けてくれた太っ腹な神様。感謝です。
これで家中二人を探し歩かなくても気軽に連絡が取れるし、瞬間移動も出来る。
「さっき王都で見たから分かると思うけど、隣に移動できるようになったから、困ったら遠慮なく通信鏡を使ってね!」と言って手を振って外へ出た。
「ヤーニー今日はどこに行く?明日は釘屋さんだし、今日は港でも見に行こうか?」
「そうだね。行ってみよう!」
港は、海の向こうのテロルトルポ国との果物の貿易が盛んらしく船が着岸すると荷下ろしの人がせわしなく行き来している。
可愛い絵の描いてあるジュース屋さんの看板に吸い寄せられたエマは、
「これがこの間シャルと飲んでおいしかったのよ。今日はこっちを試したいの」と看板を指さして説明した。
どうやら先日、海でお茶をするといっていたのは、屋台食べ歩きに変わっていたようだ。
でも、本当に美味しそうだ。男子会のおもてなしコースに入れてもいいな。とすっかり浮かれていた俺は、フランツの一言で青くなるのだった。
「マースケルのダンジョンって、男子会の子達では一体も倒せないのでは?」




