6.俺、隠されていない真実を知りました
さて、ワーニー、気を取り直して。聞きたいこと話したいこと沢山あるんだ。
あ、気になってたことも聞こう。
「なんでもっとはやく、あいにこにゃい?」俺の転生を認識して一年以上。話せないにしても会いに来れたはずだし、王宮にも遊びに行ってたのに。避けられてたの?かなり気になってたんだ。
「ああ、すまない!お前が話せないなら話せる魔術を開発しようと思ってだな、空き時間は開発局に籠っていたんだ。サテラは政務が忙しいと思っていたらしく温かく見守ってくれていたんだが・・・」
なんか残念な大人の告白が続きそうな予感。
「開発が成功して、さて、ヤーニーを連れてお前の所へ行こうと思ったら。ヤーニーが『とうたま?』って話してな。驚いた。『赤ん坊ってもう話すのか?話せる魔術が完成したのに!』と言った俺を見てサテラも驚いていた。『もうすぐ2歳ですよ!』と」
「ああ、しゃいてー」かわいいヤーニーの初めての発語とか聞き逃してきたんだな。
「そして、『最近忙しくしていたのはそんなことを!』って呟かれた」
だろうね。唖然とするよ。子どもの成長は早いんだよ。お前は本当にいろいろ突き抜けてるな。実務を担当してくれるガイルやサテラ様にもっと感謝するんだな。
「まぁ、だが、折角だ。お前の喋り方はたどたどしいし、使ってやろう」
手のひらをこちらに向ける、なんか【フワッ】てした。
「これで喋れるようにな、な、なってる~!俺の滑舌完璧だ~!お前やっぱ天才なのな!」よくやった!ニヤッと笑ってサムズアップしたら、
「いや、なに、赤ん坊が滑らかに話すのは少し違和感があるな。ヤーニーに使うのは止めておこう」とワーニー。
お前に赤ちゃんのなにが分かるって?片腹痛いわ!そもそももう一歳半、赤ちゃんは卒業してるし。ヤーニーには止めとくって俺は実験材料かっ!
ま、そこはいい、ヤーニーは今メチャカワイイからな。
「でもそうだな、急に滑らかに喋れるようになったら気持ち悪いか。俺まだ誰にも大和だって言ってないから」
「そうだな。俺も言わないほうがいいと思ってこうして人目を避けてツリーハウスに連れてきているんだが」
ワーニーに思慮深い一面がありました。感動。
「お前、ウェルとして初めて会った時、指しゃぶりしていてな。あれが衝撃でな。ヤマトとウェル、どちらとして接していいのか迷ったのだ」
生後4か月、指しゃぶりはするよ。でもちょっと恥ずかしい。だがグッジョブ俺!
それがあったから今までワーニーは黙っていてくれた訳だ。
取り敢えず当面は誰にも内緒ということで。可愛くしゃべるぞ!
次の話題、
「苗字ヤマトに変えたの?ガイルもブライトンからブラスに変えたみたいだけど」
「そうだ。建国の立役者のお前に感謝のしるしとして国の名前にした。それに合わせて俺の苗字も改めたのだ。俺だけ変えるのもなと、ガイルも適当に変えさせた。その時思いついたのだ。帝国を完全に解体するのに、貴族名と領地、しがらみが面倒だ、全部一から作り直せばいいと。だから全員、爵位も苗字も領地も変わっているぞ」
「お前がそれを思いついた時に側にいなくて良かったと思うよ、ガイルはがんばったんだな」帰ったらナデナデしてやろう。
「それにしても国の名前もヤマトなのか、なんかムズムズするような」
「ヤーニーの『ヤ』もヤマトのヤだ」
うわぁ。ヤーニー・ヤマト。売れないマジシャン的な名前になったの俺のせいだった。ごめんよ、ヤーニー。一緒にカワイイニックネーム考えようね。
隣を見るとウサギの手をピコピコ動かして嬉しそうにしているヤーニー。眼福。「ここでの話はオフレコでね」
*******
「それでこっぱずかしいヤマト王国ってのが出来たということは俺の血は役にたったんだな」
「それは勿論。この俺でさえ制御に3時間、更に結晶化するのに3時間という時間を要した。その力は、それに触った人間の魔力を一定期間数十倍に底上げするもので、到底人前に出せる代物ではない。城の地下に厳重に結界を施して安置してある」
なんか、最終兵器っぽい扱いなのね。
「気軽に見てみたいとか言えない感じか?俺の血の結晶、興味あるなぁ」
「いつでも連れて行ってやることは出来るぞ。俺の張った結界だからな。俺と一緒なら出入り自由だ。だが、お前には魔力がない。だからあのような超高魔力を内包するものと対面すると失神する可能性が高い」
「えぇ!俺、魔力なしなの?」転生チートなしなの~?
「前回の転移チートは、俺には良い事一つもなかったけど血には価値があったんでしょ?今回は?それもなし?」
「お前は今、確かにヤマトのオーラを発してはいる。だから実験してみる価値はあるかもしれん。だが、魔力を生まれた時点で持っていないものが後天的に持つようになった事例は聞いたことがない」
「ガイルも魔力なしだよな。もしかしたら母様も、それの遺伝とかもあるのか?」
「遺伝とは、魔力の質が遺伝するのであって、魔力量はランダムだ。ガイルもシーナも魔力なしだが、お前は魔力を持っている可能性もあったということだ。質の遺伝はガイルだと火、シーナだと治癒がメインの家系ではある」
「魔力を持っていれば火か治癒の魔術が使えたのか!」
残念過ぎる。転生チートってもしかして前世の記憶を持ってるだけだっりして。
「実験だ!ワーニー実験しよう!今度も何かあるかもしれないだろ!」と勢いよく言ったもののふと我に返った。
「お前王様だった!俺に手取り足取りやってると幼児の啓発セミナーの先生かってつっこまれちゃうよなぁ」
「セミナー?」
かわいい声が割り込んできた。ヤーニーゴメン退屈しちゃうよね。
「ヤーニーは魔力あるの?」ヤーニーはコテンと首を傾げる。
「・・・ないと発表されている」ということはあるんだ。なんで隠すんだろ?
ワーニーは俺の耳元でヤーニーに聞こえないように話し出す。
「血の結晶の力がまだ抜けてない時期にヤーニーができてな、その、あれだ、ヤーニーは生まれながら人に制御出来るのかギリギリの超高魔力を保有している。だから生まれた瞬間に俺が魔力を封印した。産婆や侍女は失神したし、サテラですら辛うじて意識があるという有様だっだ」
なんてこった。
「ヤーニーの体は大丈夫なの?封印は解けちゃったりしないの?」
「ずっと封印はしない。自身で制御を覚えなければな。この天才魔術師の息子だ。そう時間をかけることなく制御出来るようになるだろう。もちろん少しずつ様子をみながら訓練するがな」
「んっ!?んんんっ!?」今、超高魔力保持とかよりも、ビックリな情報ありませんでした?
「誰か嘘だって言って!」
「天才魔術師の息子?」
「そうだ。外見は俺にそっくり、魔力も膨大。息子も天才に違いないぞ」
「いや、そこじゃない。『息子』のとこ」
「『ニー』がつくんだ男だろう」
知らないよ。この世界のそんな常識知らないよ。一歳半だもの。
せめて誰かが『くん』づけで呼んでくれれば分かったよ。でもみんなヤーニー様って呼ぶんだもん。
「俺の初恋ぃ~~~~~~!!!」
「いー?」
俺の大声に不安そうにしているヤーニー。やっぱり癒し。やっぱり天使。
そうだ!男とか女じゃない。そんなものを超越した、俺は天使を推しているんだ。
「ヤーニー!可愛いニックネーム考えよう!エンジェルちゃんとかどう?」
柄でもなく爆笑している王様をジロリと睨んで黙らせた俺、一歳半のかわいい幼児。
まだまだ波乱は続きそうです。