55.俺、エマはメルヘンな女神だと感じる
母様が疲れが出たのか、体調を崩して、家の中の空気はますます重い。
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状態異常か。ゲームやアニメだと、麻痺や毒、眠り、とかの事だったはずだ。
「ウーちゃん、あのさあ、あの時ウーちゃんがいても眠ってたと思う?」
「ワシか?眠る訳なかろう。なぜ神が自分の造った世界の草ごときで、眠らせられねばならぬのじゃ?」
「そこは、逆に考えようよ。なぜ自分で造った世界のものでは状態異常をおこさないの?」
「なぜ?そう言われると、そういうものだとしか言えぬのぉ」
「人からの物理攻撃はダメージがあるのですか?」とエマも、興味がわいたようで質問している。
「ぶん殴ってみようか?」
「待て!以前、お主の血の結晶の魔力を使ったワーニーに吹き飛ばされておるからのぅ。お主は危険な気がするぞ」
「いろいろ検証できるではないですか、ウェルやってみましょう!」エマは容赦ないな。
結果、俺とエマのパンチは痛いが、リチャードのパンチは痛くないということが分かった。吹っ飛ぶのは吹っ飛ぶんだよ。ぬいぐるみで軽いし。でも痛くないんだって。不思議だ。
「俺は、転生者で、少し、ウーちゃんの造ったものという範疇から外れているんだな。それにしても、自分の創造したものからは一切の危害を加えられないのか。ウーちゃんを参考に突破口をみつけるのは不可能っぽいな」
「そうですね。創造主にはなれませんから」とリチャードも残念そうだ。
「常時、浄化をかけておくというのはどうかしら?」とエマ。
「毒と麻痺には効きそうかな。眠り草で試してみようか」
実験してみる。リチャードが寝てしまった。無理なようだ。
そして起きた時のリチャードの顔ったら酷いものだった。トラウマ案件がここにも発生してしまった。次の実験は他の人に頼もう。
「状態異常っていうくらいだから、状態普通を維持するのはどうかしら?それ以外は弾いちゃうの」
「状態普通?」
「そんな言葉は無いの?」キョトンとするエマ。
「初めて聞きます」
「弾いちゃうってことは結界か。ずっとシャボン玉カラーの全身タイツは勘弁してほしいなぁ。それに、風が冷たいとか、そよ風が気持ちいいとかも感じられなくなったら、なんか、なんていうんだろう、風情がない?緊急事態は仕方ないけど、常時は展開したくないかな」といいながら、やってみる。
【全身結界】確かに鉄壁。でもこれで学校に行ったら友達が出来ない気がする。
「ブフゥ、だ、ダンジョンで見ると普通ですが、日常生活でみるとインパクト強めですね。全身結界って」とリチャード。明らかに笑った。
「でも、よく考えたら、これでもお香は通すか?少量なら不眠症の人が使うくらいだから、逆にありがたがる人もいる物だしなぁ」
「エマの言うた、状態普通あたりが実用可能やもしれんのぅ」
「私の?でも今、結界ではダメだって」
「うむ。弾く結界ではなく、普通を維持する方に重きをおくのじゃ。例えば自分の一番体調の良い時を記録して、それ以外を異常とするんじゃな」
「疲れてもない、夜でもないのに急激に眠たくなるとかは異常と判別して弾くというわけですか?」リチャードが食いついた。
「それじゃと不死となるのぉ。不死の生き物を作ることは、神とてやってはならぬことじゃ。じゃから、知らせるだけじゃ。異常を知らせる、後は逃げるか戦うか選択すればよかろう。病の時は知らせが届き続けるかのぉ。その時は諦めて魔道を解除することじゃ。」
「すっごくいいよ。それで十分だね。知らずに眠らされたり、毒を少しずつ盛られるのが一番厄介なんだから。攻撃手段は過剰なくらいあるしね」
「過剰か、確かにそうじゃのぉ」
「自分の魔力を、ウェルの場合はイヤーカフがいいわね、通信鏡の着信みたいに震わせるのが分かりやすいわ。それを触りながら、『私よ私、今が普通だよ~。普通じゃない時は教えてね~!』って語りかけるの!どう??」
「うん、なんか、メルヘンだね」それでうまくいったらビックリだよ。
俺とリチャードは顔を見合わせて、とりあえずやってみるかとアイコンタクトを取った。
そして、まずは俺、眠くならない。成功だ!
リチャードには、無理はしないでと言ったが、ウェル様が出来たのならば私も、と挑戦した。出来た!エマが凄いのか、俺とリチャードが凄いのか・・・
研究所に行って、まずは説明。修正などがあればアドバイスを貰おうかと思ったけれど、大絶賛された。女神の考えた呪文だから、この世界に定着してしまったのか、メルヘンな呪文以外は不成功に終わった。
皆に説明するときは、このメルヘンな呪文は『エマ』が考えたことを強調してもらおう。
問題は、魔術師は体内魔力を消費するので常時発動は出来ないということ。でも、魔力消費は少なくていいようなので、外出警備の時は積極的に使っていこうという話になった。
状態普通じゃ、効果の意図するところが分かりにくいかなと魔道名を付けることに。
「エマが考えたんだし、名前も決める?いいアイデアある?」
「そうねぇ。教えてエマたん、シーズン1っていうのはどうかしら?」
「・・・なぜ、それを考え付いたの?」
「この前会った、2番目の兄の世界で流行っているアニメなの。シーズン4まであってね。貰ってきて、いまシーズン2まで見た所なの。すっごく面白いのよ!」
「そっか、でも技の効果がますます行方不明だね。次、ウーちゃん」
「うむ。異常検知でよかろう。分かりやすさが一番じゃ」
「ウーちゃんが、まともだ。採用決定!」
ガイルに報告して、皆にも伝達。オラスル局長やバイナン団長にも伝えてもらった。
後は、俺なりのお仕置きがしたい。母様を泣かしたこと。俺という『子ども』を連れ去ったこと。ぜんぜんまだ許せない。でも、犯人は捕まっているから怒りの持っていき場所もない。恐らく極刑だし。
国としてお仕置きには俺の出番はないし。ぐぬぬぬぬぬ。それでもやる。俺は出来る子だ!
マイナとベスターの協力が必要だ。一応ガイルにも許可を貰おう。
数週間後、王都にある噂が流れた。
「隣の隣の国はヤマト国の国宝を盗み、その管理者として、子どもを攫って働かせようとしたが、失敗したらしい」
「賠償責任で、国は大きな借金を背負い、破綻を防ぐため増税を予定しているらしい」
「国民は天文学的な税金を課されることになると知って、続々と逃げ出しているらしい」
「隣の隣の国に情報を流した少年は、厳重注意で解放されたが、監視されているらしい」
真実と、真実に近い事、そうなるかもしれないこと、織り交ぜて噂を流す。これで懲らしめたい人たちの不利益になる。
だけど、改心して噂を払拭すれば、問題ない範囲にとどめた。
革命をやり遂げた参謀、こういう事はプロフェッショナルのガイルの太鼓判を貰ったから大丈夫だろう。難民の為の支援体制まで手配してくれた。流石ガイル。
前世では経験しなかった、ダイレクトな他人の悪意と、それにガッツリやり返す自分。許せないという今の感情と、法に従って自分で裁いてはいけないという過去の倫理が、ちぐはぐで混乱する。
そんな悩みを漏らしてしまった。リチャードに変な話を聞かせてゴメンと謝った。リチャードは、
「いいんですよ。いつもの楽しいビックリ箱みたいなウェル様で居られない時は、全て大人が悪いんです。前世で何歳まで生きていたとしても、いまは5歳です。もうすぐ6歳です。誕生日のプレゼントを呑気に考えていて欲しいんです。そのために出来ることは何だってやりますから」
リチャード、素敵なお兄さんだ。本当にいつもありがとう。じゃあ、お言葉に甘えて、早速、リタとシェフの仲が怪しいと思うので、探ってきてね。
「・・・やってみます」