53.俺、好奇心は猫を殺す、を思い出していた
もやもやは、誰かに聞いてもらってすっきりさせよう。
翌日、久しぶりにツリーハウスに集合をかけた。ガイルとワーニー。
なんでもぶっちゃけられる心の友よ!
俺のもやもやを受け止めてくれ!
「なるほど、昨日ジョージから報告を受けたんですが、困った子がいるものですね」
「そうだな。確かに嫌なやつにピアスを渡したくないのは分かるな。抜け毛とはいえお前の一部だ、嫌なやつの手元には置いておきたくないだろう」
「抜け毛っていうな!」と突っ込む安定の流れ。
落ち着く~。男子会も好きだけど、やっぱり中身の俺は、こっちの方が落ち着くと叫んでいる。
「ワーニー、内務大臣に俺を準備学校のリーダーに推薦しただろう!おかげで俺とヤーニーは女性不審のトラウマだ!」
「ああ、大臣に聞いた、聞きしに勝る伯爵令嬢だったらしいな。ヤーニーの社会見学のレポートも見るか?」といって、神ポケから出してくれた。
「どれどれ・・・」
凄いレポートだ。
社会見学の有用を証明しているな。
百聞は一見に如かず。昔の人はいいことを言うよ。
人間の裏と表、学校教育の難しさ、教師のメンタルケアから、集団生活の同調圧力まで。これを6歳の子どもが書いたのか、にわかには信じがたい。
そして、最後の締めに「女性は怖いのでウェルと二人で強く生きていきます」と書いてある。ヤーニーらしくて笑ってしまった。
俺大好きブーム、いつまで続くんだろう。
女の子が、パパのお嫁さんになるの!から、お父さんの下着と一緒に洗濯しないで!っていうまで、あとどれくらいの猶予があるのかと、怯えるのと似ているな。
「ガイルも読んでみて、最後の一文以外は大人顔負けのレポートだよ」
「なるほど、ヤーニー様はいわゆる天才と言うやつなんでしょうか?」
「確かに、魔道に関しては神様の子孫ということで説明がつくけど、それ以外の事も抜きんでているもんなぁ」
「サテラ様の血ですかねぇ」
「だなぁ」
「それこそが俺の血だ!」
いかん、いかん、この三人でいると様式美が発動して終わらないな。
「母様は何か言ってた?」
「シーナは、とても努力家の姉弟だから、きっと我が家にピッタリよと言っていただけですね。変な子どもにちょっかいを出されている話は聞いていません。ですが、他所に行って、ブラス家の悪評を喧伝するとなると、お仕置きは必要でしょうね」
「お仕置きか、お前の得意分野だな」とワーニーはニヤニヤしている。
「確かに、不得意ではないですね」とガイルもニヤリ。いいコンビだこと。任せてよさそうだ。
「嫌なヤツにピアス渡したくないのは?どうしたらいいの?我慢するべき?」
「魔力なしは命名式の時につけますから、そもそも、善人悪人に関わらず貰える認識でしょう。そこを魔力ありの悪人には渡せませんとなると、悪人とはどれほどの人か、という議論になってくるかと」
「人殺しと、いじめっこの差はあるかないか、か。難しいのかぁ」
「全員に渡しておいて、犯罪を犯せば取り上げるというのが現実的だろう。文句が出る余地がない。ただ、性格が悪いくらいだと放置になるがな」
「そうですね。でも犯罪で分けるのが、いいと思います。魔力なし犯罪者は、ピアス没収。魔力あり犯罪者は、没収の上、更に体内魔力の封印と言うのはどうでしょう。魔法使いが増えてきたので運用できそうだと思いますが」
「それで行こう。まずは周知徹底だな」
流石、王様と宰相、二人揃えば何でも出来るな。嫌なヤツが放置になるが、二人が横暴な独裁者じゃなくてよかったと思うことにしよう。
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今日は母様と、初めての孤児院慰問。
レベル4君を見てみたいという好奇心で来てしまった。下心のある慰問でごめんなさい。
今は小さな子しかいないようだ。俺は赤ちゃんと積み木遊びをしてお昼寝、というまったりコース。
そして目が覚めたら、縛られていて、ガタッガッターン、と揺れに揺れ、猛スピードで走る馬車の中だった。
人生二度目の誘拐!今回は全く穏やかじゃないガチのやつだ。
『好奇心は猫を殺す』だな!
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目が覚めた時、私以外の孤児院全ての人が眠っていた。瞬時に眠り草を思い浮かべた。近くで寝ているカルマを起こす。
「緊急事態だ、眠らされた。奥様の側へ」と言ってから、私は、奥の赤ちゃんルームへ向かった。いない。ウェル様が、いない。私の失態だ。
すぐさま、通信鏡でガイル様とワーニー様に繋ぐ。
「リチャードです。孤児院にて、全員眠らされました。起きた時にはウェル様の行方が不明。それ以外の人は未だ眠っているため確認が取れていません。まずは一報をと連絡いたしました。大変申し訳ございません」
すぐにワーニー様がガイル様と共に駆け付けてくださいました。
「シーナ、起きなさい」とガイル様は奥様を起こしている。
取り敢えず、まずは全員を起こし、話をきく。
来た時にウェル様が張った結界は壊れていない。悪意のないものの仕業だ。誰が一体こんなことを。
子どもたちの要領をえない話を辛抱強く聞く。まとめると、
お香はよく焚くのだが、今日のものは、先日道案内をした子が、親切のお礼だと見知らぬ女に貰ったものだった。高級なものだから、偉い人が来た日にでも焚くといいよ。みんなには内緒にして驚かせちゃうといいよ。と言われたので今日使ったようだ。
なんで、そんな怪しい話を。と思ってはいけない。相手は子どもだ。
そして、眠っているウェル様を運んだ少年は、外で声をかけられて、
「ウチの子が、君の孤児院の手伝いに行って帰ってこないから、寝ててもいいから連れて帰ってくれないか」と頼まれたんだそうだ。
「僕は結界がほんの少しだけ浮かせられるから、重いものを運ぶのはよく頼まれるんだ。だから、任せてっていって、運んだんだ」
「そこに案内してくれ」
もう、みんな寝てて不審に思わなかったのか、とか、子どもを詰めても始まらない。とっとと黒幕の家を押えたい。
ワーニー様と二人で案内の子どもの後を追う。そして、そこは当然のようにもぬけの殻だった。ウーちゃん様ならと提案しましたが、今日は神域の中でどなたかと会う約束があったようで、エマ様と共に連絡が取れないのだとか。
私の失態なのに、とは思うが、なんと間の悪いことだ!と叫びそうだ。
孤児院に引き返すも進展はない。
そんな時にアンジェラから通信鏡に連絡が入った。
「大変です!今、ウェルリーダル様の髪の転送箱に、髪が、根本付近から切られただろう長い髪がひと房、入ってきました」
「シーナ!」ガイル様が支える。
奥様が倒れられた。あぁ、ウェル様。今どこに。
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