52.俺、レベル4君にもやもや
すぐにガイルを連れて研究室に戻って来た。
「二人ともよくやってくれた。これで多くの者がより魔法に親しみ、そして過ごしやすくなるだろう。感謝する」とガイルがお礼を言った。
「ありがとうございます。でもこの指輪のおかげです。そもそも私の説明では誰も出来るようにならなくって・・・」とアンジェラ。
「私は本当に、何にも・・・」と恐縮するオルトニー。
「二人のおかげだよ!いつも二人で意見を出し合って、一生懸命考えているから閃くんだよ」と俺。
まだまだ、ピアスの大量生産に、封印と解放のレクチャーとやることは沢山ある。グダグダ言ってちゃだめ!
「それより、アンジェラは自分自身にやってみた?今までは万が一失敗した時のことを考えて自分には使わなかったんでしょ?」
「そうなんです、ダメだった時にワーニー様に、解放してくださいってお願いにあがる訳にはいきませんから」
「今は、俺とリチャードがいるよ。二人ともやってみて!」
そして二人して歓喜の声。よかった、よかった。
「シェフも喜びますねぇ」とオルトニーがしみじみと言う。
「そうですね。憧れの『無限とろ火』でしたか。魔力要らず、焦げつき知らず」リチャードも面白がっている。
「早速みんなにやってもらいたいな!」と俺がいうと、アンジェラが、
「ピアスの在庫はありませんけどね。ということで、ガイル様、研究、調査と言う名目で屋敷の使用人と魔道開発局には先行して配ってもよろしいでしょうか?」と聞いてくれる。
「そうだな、構わない。あと、開発局と相談して、どのような順番で、どのくらいの期間に、国民に配れるのかシュミレーションしてまとめてくれ」
「かしこまりました」
*******
木曜日の男子会、ダンジョンなう。
今日はトムじいと、新人姉弟も一緒だ。そして、なんだか、二人は元気がない。どうしたんだ?
前方では、【ドッガ~ン】と勢いよくグレッグがぶっ放しているが、ここは休憩場所の結界内だ。聞いてみよう。
「どうしたの?」
「いえ、あの、す、す、すみません」
「私たちお役に立てなくって・・・」どういうこと?いじめられてるの!?
「先輩方がみなさん魔術に加えて魔法が使えるようになって、私たちは魔法しか使えませんから、お役に立てなくなってしまって・・・」
なんと!最先端の現場には、最先端の悩みが発生するんだな。
「ヤーニーの護衛を見て!彼はね、今、この場所全体に明かりの魔法をかけながら、半身結界で自分を浮かせて、剣に炎をまとわせて戦っているんだ。びっくりするぐらい強いだろ?レベル5って言われても、そうかなって思うぐらい。でも彼は君たちと同じ魔法使いなんだよ」
驚いている。王宮では超有名人な人間辞めた強さの剣豪フランツだが、一般人には知名度が低い。二人もやっぱり知らなかったようだ。
「あれで、レベル3の魔法?威力が・・・」
「そう、威力が違うのは一流の剣士だからなんだ。魔法だ魔術だと考えすぎちゃダメだよ」
「一流の剣士・・・」マイナの目が光った。気がした。
「それに、明かりの魔法だって、簡単な魔法だけど、レベルの高い魔術師に任せていたら、強い敵が出てきた時には、条件反射で体内魔力を解放して、魔術を使ってしまうだろう。そうしたらどうなると思う?明かりの魔法が切れて真っ暗闇だ」
周囲を見回している。巨大な鍾乳洞の闇。怖いね~。
「もちろん、すぐに別の誰かが明かりをつけるだろう。その時に、全員無事とは限らないよ。危険は極力排除しなきゃいけない。魔法使いと一緒に危険地帯に行く時は、そういう心配がないんだよ」
コクコク頷いている。
「それにね。あそこでさっきから容赦なくぶっ放しているグレッグ、プラチナブロンドの髪の子も、魔法使いだ。あの子をみて、魔法しか使えないなら役に立たないっていう人は皆無だと思うけどな」
コクコクが高速になってる。
「どう?魔法使いは役に立てなさそう?」
「いいえ。向き不向きがあって、それにフランツさんのようにいいとこ取りをするには努力が必要というのが分かりました!」とマイナ。
いいとこ取り?すごい解釈だな~。ま、いいか。
「お、おれ、じゃない、私も頑張ります。グレッグ様とかレベル3ってなんなんだろう?っていうくらい強くなっているんですね。まだ小さいのにあれって、恐ろし、じゃない、凄いです」
なんだか、方向が間違ったかもしれないけど、元気にはなってくれたかな。
「二人はどうしてウチで働くことになったの?」
ウチは特殊な家過ぎて、なかなか新人を入れられないって、家令のジョージがいつもボヤいているのを聞いていただけに、ちょっと興味がわいた。
「私たち、教会の孤児院の出身なんですが、サテラ様とシーナ様がよくいらしてくださいます。それが縁で推薦していただいたようなんです。私たちも困惑したんですけど・・・」マイナの説明の隣で、ベスターが神妙に頷いている。
「困惑したってなんで?」
「私たちは一年前まで魔力なしで、みんなからお荷物扱いで、せめて勉強でもと頑張りました。それくらいしか取り柄はなかったんです。でもそのおかげで、成人になった時、教会学校の講師という職をもらえたんです。住まいも孤児院の小屋を改装して住んでいいと言ってもらえて」
「すごいね。先生だったんだね!」
「ありがとうございます。ベスターは講師には向かないので、教会学校の雑務と孤児院の運営の手伝いをしていました。二人とも魔法が使えるようになってからは、欠かさず訓練をして、レベル3の魔法使いを目指しました」
「努力している二人が想像できるよ!」
「はい。頑張りました」と恥ずかしそうに言うベスター。19歳。まだまだ可愛い感じが抜けていない。成人16の世界なのにピュアだ。
「その、私達の頑張りが、もうすぐ成人という年頃の男の子には面白くなかったようで、事あるごとにベスターに、『自分はここで唯一のレベル4だから、こんな教会や孤児院ではなく、いい家で働けるんだ』と、突っかかってくるようになったんです」
「姉さんが、見かねて注意してくれたんだけどダメで、どうしようかと悩んでいた時に、ブラス家の使用人採用面接に挑戦してみないかと、院長先生から話を貰ったんです。ある人から推薦があったって言われて。採用されるかどうかじゃなくて、その推薦が来る時点で、夢のようだったんです」
「頑張りが認められたんだって思いました。でも、孤児院から選ばれるとしたら、レベル4の子だろうと皆思っていたので、困惑が大きかった。という訳です」
「あぁ、その子有名なんだよ。自分はレベル4だから、高位貴族に仕える資格がある!みたいに売り込んでくるって」とグレッグ。
グレッグ?後ろを振り返ると、休憩の結界内が満員御礼だった。
「びっくりした!いつからいたの?」
「結構最初から?私の事を指さして話しているから気になって。何を話しているのかな?って言ったら、ウーちゃん様が、不可視結界を作って聞きに行こうというのでお言葉に甘えてしまいました。すみません」とグレッグ。
「驚いただけだから、謝らないでよ。それにしてもレベル4君、有名なんだね」
「クッセン家の面接では、『人間性が最悪な魔法使いを雇ったブラス家』は人を見る目がどうかしているみたいな事を言ったらしいよ。即不採用にしたらしいけど。ジョージさんに伝えてくれって、今朝、僕の護衛が伝言を頼まれていたよ」とキリアルが教えてくれた。
なんてこった。将来、こんなやつにも俺のピアスが渡されて、魔術師兼魔法使いになるのか?嫌だな。もやもやする。